雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-8.その誕生に祝福を

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 名前が決まったことだし、後は誕生を待つだけ。
 そう思って卵を見たら、なんとルミシャンスの方もひびが入り始めていた。

「えっ!? 起きたばっかりで、がんばってるね! よっぽど名前で呼ばれたの、嬉しかった?」

 にこにこと語りかけたら、ふわふわと幸せそうな気分が伝わってくる気がした。明確な言葉はないけれど、早く会いたいと思っているのはスノウだけではないようだ。

「結局、二人ともほぼ同じ頃に生まれるのか」

 アークは大きくひび割れた方の卵を、つんと突いている。嫌がったのか、卵はカリカリと音を大きくして、大きく揺れた。

「アーク、ブレスラウをいじめないで」
「……いじめてはいない。この程度も駄目なのか?」

 過保護だ、と言わんばかりの表情を見せるアークに、スノウは首を傾げる。

「アークは、もし卵の中に入っていたのが僕だったとして、そんな感じでつっつくの?」
「絶対にしない。……なるほど、スノウだと思って扱えということか。難しいし、少なくともこいつはそんな風に甘やかされたくないだろうが」
「あ、やっぱりそうなの……」

 竜族的には、スノウの考え方はあり得ないようだ。ブレスラウにはあまり甘く優しい感じで接しない方がいいのだろう。それはそれで、スノウの方が対応に悩む気がする。

「ママ、パパみたいに頑張るね」

 語りかけたら、『……いや、そうなるひつようはないけど』みたいな複雑な感情が伝わってきた。

 つまりどういうことなのだろう、と思って首を傾げてしまう。アークほど冷淡ではなく、スノウらしい過保護でもない、間の対応を望まれているのだろうか。
 それならやはり頑張らないといけないと思う。

「ルミシャンスはどっちがいいかなぁ。……たぶん、ママだね」

 雪豹の子は、尋ねてみても卵を割るのに夢中のようだった。おそらくスノウの言葉なんて聞こえていない。
 のんびり屋でマイペース。どう考えてもアークのような対応では持て余してしまうだろう。スノウのように過保護くらいがちょうどいい。



 時々お茶を飲みつつ、アークやルイスと話して、子どもたちの誕生を待つ。
 ルミシャンスが目覚め、卵を割り始めた頃から、ブレスラウのやる気が増してきたようで、もうすぐ卵から出てきてもおかしくなさそうだ。

「ブレスラウ、あとちょっとだよ。頑張って」
「……もう、爪が見えてる」

 アークに言われて気づいた。大きくなったひびから、時折小さな尖った爪が覗く。
 大きさは全く違うけれど、アークの竜体にある爪とそっくりだった。

「可愛い!」
「その感想はどうなんだ?」

 アークが苦笑する。竜族としては、竜体を『可愛い』と表現されるのは違うらしい。強さが一番重要とされる種族なのだから当然だろう。

 スノウは可愛いものは可愛いと言いたい。でも、自分が『カッコイイ』と言われて嬉しいことを思うと、表現を変える必要があるかもしれないと思い直した。

「えっと……鋭く尖ってて、カッコイイね」
「すごく無理をして言っているように聞こえる」

 アークがフッと笑って、スノウの頬を撫でた。ぎりぎり許容範囲らしい。ブレスラウ自身がどう思うかは分からないけれど。

 ——ガリッ!

 一際大きな音が聞こえた。
 ハッと息を呑んで卵を見下ろすと、卵が大きく割れて、白色の竜族の子が顔を覗かせ、金色の瞳を瞬かせている。

「ぐるる」
「っ……ブレスラウ、誕生おめでとう!」

 考える前に手が伸びていた。
 ブレスラウを抱き上げて腕で包み込むと、少しジタバタとされる。でも、頬ずりしていたら諦めたように固まった。

「……ぐる」
「可愛い声! お腹にいる時から、よく鳴いていたもんね」
「ぐるる?」

 少し不思議そうに鳴いているので、スノウの中にいる時の記憶はないようだ。スノウ自身も母のお腹にいる記憶はないのだから仕方ないのだろう。

「これからたくさん声を聞かせてね」
「……ぐるる」

 これは諦めつつ受け入れた声だ。
 まだ実際に聞いてほんの少ししか経っていないけれど、卵の時から意思を感じていたスノウにとっては、すぐ分かること。

「ブレスラウ。その誕生に祝福を贈ろう」

 しばらくスノウとブレスラウを眺めていたアークは、ゆっくりと手を伸ばす。ブレスラウの頭に翳されたその手から、ふわりと光が溢れた。

「……魔法?」

 魔力の気配を感じ取り、スノウはぱちぱちと目を瞬かせた。とても温かい魔力だ。

「ああ。竜族での習慣だ。子に対して放任気味な種族だが、同時に種族の繁栄のために、祝福を贈って強くなれと願う。詳しい効果を言うなら、竜体が育ちきるまでの間、俺の魔力でブレスラウが守護される、という感じだろうな」
「それは、この守護の腕輪みたいなもの?」

 幼い頃から変わらずスノウの腕にあるアークからの贈り物を示すと、短く「いや、そこまでじゃない」と返事があった。
 アークはいったいどれほどの力を守護の腕輪に籠めたのかと、少し呆れてしまう。ありがたいことではあるのだけれど。

「とにかく、怪我や病に強くなる」
「それはいいね。ブレスラウ、良かったね!」

 腕の中の可愛い子に微笑みかけたら、「ぐるる」とどうでもよさそうな返事がある。
 それがブレスラウらしく思えて、スノウはくすくすと笑ってしまった。

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