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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-3.愛を示す名

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 今日は執務の補佐を休むことにして、卵から孵るのを見守ろうと思う。万が一、命が危うくなることがあってはいけないし。

 アークに連絡したら、『今日はまだ執務を抜けられない。何かあったら呼び出してくれ』という返事だった。

 スノウに何かあれば飛んでくるだろうけれど、子どもたちに対しては相変わらずあまり気が向かない様子だ。今朝に急用ができたことも関係しているのかもしれない。
 ドリーに声を掛けて寄越してくれたので、多少は心配しているのだろう。

「パパ、お仕事忙しいって」

 ちょいちょい、と卵を撫でながら微笑む。卵からは『それ、どうでもいい』と言われている気がした。
 親が親なら、子も子である。竜族らしいと言えるのかもしれない。

 ちなみに、親としての呼び方は『パパ』『ママ』にすることにした。『父様』や『母様』でもいいのだけれど、少し距離を感じる気がしたのだ。
 ただでさえ、アークは魔王で、スノウはその番だ。魔族世界では最も貴い身分である。そのことを、子どもたちにはあまり感じさせたくなかった。

「——あ、でも、君はパパとかママとかの呼び方、嫌がるのかな?」

 母君ははぎみとか呼ばれたらどうしよう、と思って、ふふっと笑ってしまった。

 スノウは自分がそのように呼ばれるようないかめしいタイプではない自覚がある。アークが父君ちちぎみと呼ばれるのは、さほど違和感がないけれど。

「ご本人が呼びたいように呼ぶのでしょう。ですが、スノウ様を貶すような呼び方をされるようでしたら、私が誠心誠意叱ります」

 キラン、とやる気のみなぎる表情で、ルイスが重々しく言う。ルイスと竜族の子が睨み合っている光景が容易に想像できる。
 種族で考えるならルイスの方が圧倒的に弱いのだけれど、口の達者さなら負けないだろう。

「ルイスは頼もしいなぁ」

 にこにこ笑っていたら、カリカリという音の間隔が長くなった気がした。叱られるのを嫌がっているのかもしれない。子どもらしい可愛げだ。

「それはそうと、お子様のお名前はどうなさるんですか?」
「……ん? あ、そうだった」
「え……」

 正直まだ決めかねていた。いつ孵るかも定かではなく、アークがあまり乗り気ではなかったので、つい後回しになってしまっていたのだ。

「案はたくさんあるんだよ」

 名前案を書き溜めたノートを取り出して開く。
 ページ全体に様々な名前を書いてあるけれど、それが何ページも続けば、見せられたアークが「……後で決めよう」と言うのも仕方ないかもしれない。

「……うわぁ、本当にたくさんありますね」

 珍しくルイスが少し引いた様子だった。
 それを見て、スノウはムッと口を尖らせて、ペシペシとノートを叩く。

「僕の大事な子たちの名前だよ? とびきり素敵な名前にしたいでしょ」
「それは確かに。スノウ様のお子様なら、可愛い名前でも格好いい名前でも、なんでも素敵ですけど」
「意味もしっかり込めた名前にしたいの」

 ほらこれとか、と指さしたのは『ギフト』という名前。意味はそのまま贈り物だ。愛しい子たちは、スノウにとって大切な贈り物であり、またたくさんの愛を贈り、贈られるようになってほしいという意味もある。

「いいじゃないですか。ギフト。響きも格好いいですし」
「でも、こっちもいいよね」

 次に指したのは『ブレス』という名前。祝福という意味がある。たくさんの祝福を受けて育ってほしいという願いを込めた。

「なるほど。竜族が使う竜の息吹ブレスにも通じますね」
「あ、本当だ。そっか、それならよりピッタリかも」

 ルイスに言われて初めて気づいた。というのも、スノウは竜族が使う竜の息吹ブレスを見たことがないのだ。凄い威力で範囲攻撃をできるらしい。竜族が恐れられる一因になるほど強力な攻撃だそう。

「ブレス……ブレスかぁ。でも、名前にしちゃうと、攻撃の話をするときにわけが分からなくなっちゃう?」
「……多少、混乱が起きるかもしれませんね?」

 顔を見合わせて、首を傾げる。子どもの名前を考えるのは、想像していたより難しい。一番素敵で相応しい名前にしてあげたいから。一生を共に過ごすのだから、呼ばれて愛情を感じられるようにしたい。

 スノウがアークに名前を呼ばれて、涙が出るほど嬉しかったのと同じように、子どもたちにも喜んでもらいたいのだ。

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