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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族
4-1.悩むのは幸せの証
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時が過ぎるのは早いもので。
卵たちはスノウが二つを一度に抱えられないほど大きくなってきた。
「むぅ……そろそろ抱くのはやめて、って言われてるのかな」
カゴの中で寝ている卵たちを見下ろして、スノウは拗ねた口調で呟く。お茶の準備をしながら聞き逃さなかったルイスがクスクスと笑った。
「そんな、思春期の子どもみたいなこと、卵のうちは考えられませんよ」
「そうかなぁ。少なくとも、竜族の子の方は『もういいよ』って言ってる気がする」
二つの卵は見るからにその種族を示すような大きさの違いが生まれていた。
片方よりも二周り以上大きな卵を指先でつつくと、やはり『やめて』と言われている気分になる。卵を触ったって、中まで伝わるものはほとんどないはずなのに。
「ああ……竜族ですからね。そういうものなんでしょうか?」
「やっぱりそう思う?」
これは、孵った後に、ベタベタ甘やかすのは駄目かもしれない。『嫌い』なんて言われたら、スノウは泣いてしまう。そして、そんなスノウを見たアークが怒り狂う様が容易に想像できる。
そんなのは絶対だめだ、と思いながら、スノウは膝の上に開いていた本に視線を戻した。
題は『育児入門』で、今スノウが一番必要としている解説書だ。現在目を通している章は『反抗期』。スノウには馴染みのない話である。
「——僕、反抗期があったかな?」
「私が知る限り、ありませんね」
「だよねぇ。みんなのこと、ずっと大好きだもん」
「っ、私も大好きです!」
ルイスが「スノウ様は世界一の尊さ! 至上の可愛らしさ!」と喜びの表情で荒ぶっているのを、スノウは聞き流しながら読書に勤しんだ。
ルイスのこんな様子には、もう慣れきっている。これが常態とさえ思うのは、さすがにアークたちに渋い表情をされそうなので、言ったことはないけれど。
「雪豹の子は、のんびり屋さんなのかなぁって思うんだよね」
雪が好きなのに、結局春まで出てくるのを忘れてしまった子。そんな印象がスノウの頭から離れない。たぶん外れていないと思う。
「それはのんびりというか……だいぶおっちょこちょいな気が……?」
スノウが抱いている印象を聞いたルイスは、言葉を選びながらも苦笑していた。
随分と目が離せない子か、あるいは放っておいてもすくすくと育ちそうな子か、両極端な雰囲気がするのは間違いない。
対して竜族の子はというと。あらかじめアークやドリーに聞いていた通り、気位の高そうな性格になりそうだ。どう育てていくべきか、真剣に悩んでしまう。
スノウの周囲にはそのような性格の者はいない。
「……いや、気位が高い感じって、ロウエンさんが近いのかな? でも、僕に対しては、だいぶ甘いからなぁ」
吸血鬼族としてプライドが高いと言われるロウエンだけれど、スノウには甘い顔を見せるばかりだ。マルモとの色々で、新たな顔を見られはしたものの、それも最近は落ち着いて、年長者らしい鷹揚さを感じることの方が多い。
「普通なら陛下が該当するんでしょうけど……。スノウ様に甘い筆頭ですからね。気位が高い態度なんて、見せるつもりないでしょうね」
「んん……魔王としての威厳は見たことあるんだよ? でも、それって、実力に見合った当然の態度でしょ? 子どもには該当しないよね?」
腕を組んで悩むスノウに、ルイスも確かにと頷く。二人とも子育てなんてしたことがないのだから、話したところで答えなんて見つからない。
「——どう接するのが、この子にとっていいのかなぁ」
そっと撫でた卵は『……まぁ、いいか』と諦めた雰囲気だった。もはや卵の方がスノウより大人じみている。
それがなんだか面白くなってきて、スノウはふふっと笑った。
こんな風に悩むことだって、スノウにとっては幸せな時間なのだ。きっと卵が孵ってからの日々も、悩み苦しみながら楽しく過ごせるだろう。
卵たちはスノウが二つを一度に抱えられないほど大きくなってきた。
「むぅ……そろそろ抱くのはやめて、って言われてるのかな」
カゴの中で寝ている卵たちを見下ろして、スノウは拗ねた口調で呟く。お茶の準備をしながら聞き逃さなかったルイスがクスクスと笑った。
「そんな、思春期の子どもみたいなこと、卵のうちは考えられませんよ」
「そうかなぁ。少なくとも、竜族の子の方は『もういいよ』って言ってる気がする」
二つの卵は見るからにその種族を示すような大きさの違いが生まれていた。
片方よりも二周り以上大きな卵を指先でつつくと、やはり『やめて』と言われている気分になる。卵を触ったって、中まで伝わるものはほとんどないはずなのに。
「ああ……竜族ですからね。そういうものなんでしょうか?」
「やっぱりそう思う?」
これは、孵った後に、ベタベタ甘やかすのは駄目かもしれない。『嫌い』なんて言われたら、スノウは泣いてしまう。そして、そんなスノウを見たアークが怒り狂う様が容易に想像できる。
そんなのは絶対だめだ、と思いながら、スノウは膝の上に開いていた本に視線を戻した。
題は『育児入門』で、今スノウが一番必要としている解説書だ。現在目を通している章は『反抗期』。スノウには馴染みのない話である。
「——僕、反抗期があったかな?」
「私が知る限り、ありませんね」
「だよねぇ。みんなのこと、ずっと大好きだもん」
「っ、私も大好きです!」
ルイスが「スノウ様は世界一の尊さ! 至上の可愛らしさ!」と喜びの表情で荒ぶっているのを、スノウは聞き流しながら読書に勤しんだ。
ルイスのこんな様子には、もう慣れきっている。これが常態とさえ思うのは、さすがにアークたちに渋い表情をされそうなので、言ったことはないけれど。
「雪豹の子は、のんびり屋さんなのかなぁって思うんだよね」
雪が好きなのに、結局春まで出てくるのを忘れてしまった子。そんな印象がスノウの頭から離れない。たぶん外れていないと思う。
「それはのんびりというか……だいぶおっちょこちょいな気が……?」
スノウが抱いている印象を聞いたルイスは、言葉を選びながらも苦笑していた。
随分と目が離せない子か、あるいは放っておいてもすくすくと育ちそうな子か、両極端な雰囲気がするのは間違いない。
対して竜族の子はというと。あらかじめアークやドリーに聞いていた通り、気位の高そうな性格になりそうだ。どう育てていくべきか、真剣に悩んでしまう。
スノウの周囲にはそのような性格の者はいない。
「……いや、気位が高い感じって、ロウエンさんが近いのかな? でも、僕に対しては、だいぶ甘いからなぁ」
吸血鬼族としてプライドが高いと言われるロウエンだけれど、スノウには甘い顔を見せるばかりだ。マルモとの色々で、新たな顔を見られはしたものの、それも最近は落ち着いて、年長者らしい鷹揚さを感じることの方が多い。
「普通なら陛下が該当するんでしょうけど……。スノウ様に甘い筆頭ですからね。気位が高い態度なんて、見せるつもりないでしょうね」
「んん……魔王としての威厳は見たことあるんだよ? でも、それって、実力に見合った当然の態度でしょ? 子どもには該当しないよね?」
腕を組んで悩むスノウに、ルイスも確かにと頷く。二人とも子育てなんてしたことがないのだから、話したところで答えなんて見つからない。
「——どう接するのが、この子にとっていいのかなぁ」
そっと撫でた卵は『……まぁ、いいか』と諦めた雰囲気だった。もはや卵の方がスノウより大人じみている。
それがなんだか面白くなってきて、スノウはふふっと笑った。
こんな風に悩むことだって、スノウにとっては幸せな時間なのだ。きっと卵が孵ってからの日々も、悩み苦しみながら楽しく過ごせるだろう。
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