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続々.雪豹くんと新しい家族
3-54.お寝坊さん
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今日明日に出産があるかも、なんて言われていても、全てが予定通りにいくわけでもなく。
卵たちは思いの外、スノウのお腹の中が居心地が良かったらしい。全然出てくる気配を見せない。ドリーに言われた日から、もう四日も過ぎていた。
(僕の子たち、もしかしてお寝坊さんなのかな?)
そう思うと、予定が伸びたところで可愛らしく思える。スノウは子どもに甘い親になるだろうという自覚があった。
「無理やり魔力で押し出せばいいのではないか?」
「卵は弱いんだってば」
とんでもないことを言うアークの手をぱちりと叩く。
アークがスノウの体調を心配していることは分かるけれど、卵に敵意を向けられたらたまったものじゃない。困ったことだ。
「まぁ、そういう手もなくはないけどね。そもそも卵を産む補助に魔力は使うし」
ラトがスノウを眺め、「うーん」と唸りながら呟く。
「確かにおばあ様もそう言ってたけど。まだ出てくる気配がないのにそんなことしてもいいの?」
「医者が十分に育ってるって断言しているんだから、問題はないだろうね。ただ、繊細な魔力操作が必要なだけで。間違っても、陛下が言っていたような強引さは駄目だよ」
「それは分かってる」
スノウはラトと目を合わせて頷きあった。
卵を番から守らなきゃいけないなんて、世の中の番関係は大変なんだなぁと思う。アークが竜族だからなのかもしれないけれど。
「——……あ」
お腹の中が、少し動いた気がする。これは卵たちが危機感を覚えたのかもしれない。このまま生まれるのだろうか。
「おや。卵たちが起きた?」
「そうみたい。出てくるかなぁ?」
「どうだろうね」
スノウとラトの、のほほんとしたやり取りを、アークが焦れったそうに眺めていた。
卵を抱えた経験があるかないかで、現時点で危険があるかどうかを正確に理解できるのだろう。アークの優れた魔法力を持ってしても、心配を解消できないようだから間違いない。
「アーク、大丈夫だよ。僕も卵も、無事だよ。明日も、ずっとずっと先もそう」
「……分かってる。スノウは強い子だからな」
こめかみにキスを落とされて、目を伏せる。番であるアークが落ち着くと、スノウもより安心できるのだ。
「それにしても、のんびりな子たちだ。……一方は竜族の可能性が高いんでしょう?」
「スノウが言うには、そうなんだろうな」
「竜族らしくないタイプかもしれないですね」
「……スノウは嬉しそうだから、それでもいいが」
微笑むスノウに対し、アークは渋い表情だ。
同じ竜族がのんびりな子と評されることに、少し不満があるらしい。魔族一強い種族というのは、生まれた時から気概が強いのが当たり前で、そうであるべきだとアークは思っているのだろう。
(のんびりした竜族も可愛いと思うんだけど。すぐに強くならなくたって、僕もアークも、みんなも一緒に守れるもんね?)
卵にこっそり語りかける。
早く生まれておいで、と思う一方で、もう少し中にいてほしいな、と思ってしまう。
親とは難しいものだ。
「雪豹の方は、どういう子でもいいの?」
「スノウに似てほしい」
返答が早かった。思わずふふっと笑ってしまう。
「どういうところが?」
「愛嬌、かな」
「うーん……分からない。けど、雪豹の子はもふもふで可愛いよ」
「知ってる。スノウは子どもの頃からすごく可愛かった」
記憶を辿っているのか、アークの口元が緩んだ。
スノウも、可愛かったと言われて嬉しくないわけがない。カッコいいと言われた方が嬉しいけれど、その機会がなかなかないのは残念だ。
「……実は、陛下、ものすごく雪豹の子を溺愛するんじゃないですか?」
「どうだろう。見た目はスノウに似て可愛らしくても、スノウではないからな」
ラトに対して答えるアークは、真剣な表情だった。
アークにとって、番であるかどうかは大きすぎる影響力を持っているのだ。自分の子だからと言って、簡単に愛せると断言できない程度に、竜族としての性質を理解しているのだろう。
「……大丈夫。アークの分まで、僕が愛すもん」
「俺を愛するのを忘れないでくれ」
「陛下……子に嫉妬するのが早すぎますよ……」
アークの独占欲と嫉妬深さには、ラトも呆れたため息をつくしかないようだった。
スノウはクスクスと笑って聞き流す。アークのこんな感じには、もう慣れたものだ。
卵たちは思いの外、スノウのお腹の中が居心地が良かったらしい。全然出てくる気配を見せない。ドリーに言われた日から、もう四日も過ぎていた。
(僕の子たち、もしかしてお寝坊さんなのかな?)
そう思うと、予定が伸びたところで可愛らしく思える。スノウは子どもに甘い親になるだろうという自覚があった。
「無理やり魔力で押し出せばいいのではないか?」
「卵は弱いんだってば」
とんでもないことを言うアークの手をぱちりと叩く。
アークがスノウの体調を心配していることは分かるけれど、卵に敵意を向けられたらたまったものじゃない。困ったことだ。
「まぁ、そういう手もなくはないけどね。そもそも卵を産む補助に魔力は使うし」
ラトがスノウを眺め、「うーん」と唸りながら呟く。
「確かにおばあ様もそう言ってたけど。まだ出てくる気配がないのにそんなことしてもいいの?」
「医者が十分に育ってるって断言しているんだから、問題はないだろうね。ただ、繊細な魔力操作が必要なだけで。間違っても、陛下が言っていたような強引さは駄目だよ」
「それは分かってる」
スノウはラトと目を合わせて頷きあった。
卵を番から守らなきゃいけないなんて、世の中の番関係は大変なんだなぁと思う。アークが竜族だからなのかもしれないけれど。
「——……あ」
お腹の中が、少し動いた気がする。これは卵たちが危機感を覚えたのかもしれない。このまま生まれるのだろうか。
「おや。卵たちが起きた?」
「そうみたい。出てくるかなぁ?」
「どうだろうね」
スノウとラトの、のほほんとしたやり取りを、アークが焦れったそうに眺めていた。
卵を抱えた経験があるかないかで、現時点で危険があるかどうかを正確に理解できるのだろう。アークの優れた魔法力を持ってしても、心配を解消できないようだから間違いない。
「アーク、大丈夫だよ。僕も卵も、無事だよ。明日も、ずっとずっと先もそう」
「……分かってる。スノウは強い子だからな」
こめかみにキスを落とされて、目を伏せる。番であるアークが落ち着くと、スノウもより安心できるのだ。
「それにしても、のんびりな子たちだ。……一方は竜族の可能性が高いんでしょう?」
「スノウが言うには、そうなんだろうな」
「竜族らしくないタイプかもしれないですね」
「……スノウは嬉しそうだから、それでもいいが」
微笑むスノウに対し、アークは渋い表情だ。
同じ竜族がのんびりな子と評されることに、少し不満があるらしい。魔族一強い種族というのは、生まれた時から気概が強いのが当たり前で、そうであるべきだとアークは思っているのだろう。
(のんびりした竜族も可愛いと思うんだけど。すぐに強くならなくたって、僕もアークも、みんなも一緒に守れるもんね?)
卵にこっそり語りかける。
早く生まれておいで、と思う一方で、もう少し中にいてほしいな、と思ってしまう。
親とは難しいものだ。
「雪豹の方は、どういう子でもいいの?」
「スノウに似てほしい」
返答が早かった。思わずふふっと笑ってしまう。
「どういうところが?」
「愛嬌、かな」
「うーん……分からない。けど、雪豹の子はもふもふで可愛いよ」
「知ってる。スノウは子どもの頃からすごく可愛かった」
記憶を辿っているのか、アークの口元が緩んだ。
スノウも、可愛かったと言われて嬉しくないわけがない。カッコいいと言われた方が嬉しいけれど、その機会がなかなかないのは残念だ。
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アークにとって、番であるかどうかは大きすぎる影響力を持っているのだ。自分の子だからと言って、簡単に愛せると断言できない程度に、竜族としての性質を理解しているのだろう。
「……大丈夫。アークの分まで、僕が愛すもん」
「俺を愛するのを忘れないでくれ」
「陛下……子に嫉妬するのが早すぎますよ……」
アークの独占欲と嫉妬深さには、ラトも呆れたため息をつくしかないようだった。
スノウはクスクスと笑って聞き流す。アークのこんな感じには、もう慣れたものだ。
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