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続々.雪豹くんと新しい家族
3-52.待ちに待った再会
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冬が終わりに近づき、日差しが柔らかく感じられるようになってきた頃。
スノウはベランダに続く窓際でソファに寝転がっていた。
最近、ひどく眠気が襲ってくる。
精神状態が安定してきたと思った矢先のスノウの変化に、ルイスは「卵が完全に安定してきた症状ですよ」と嬉しそうに言っていた。
もうじき卵が生まれるらしい。
「んん……にぇむい……」
目をくしくしとこすっても、目蓋が重くて開かない。たぶん、日差しが気持ちよすぎるのもいけないと思う。
頭がぼんやりして、舌っ足らずな声になってしまうのを、少しだけ愉快に感じた。
今日は久しぶりにアークの執務に付き合おうと思っていたのに、と怠惰な体勢のまま悔しく歯噛みする。
でもドリーに「今は卵が最優先」と制されて、不満そうな顔をしているアークの顔が思い浮かぶと、自然と口元が綻んだ。
アークは卵にまで、未だに嫉妬を発揮するようだ。大人として、頼れる番として自制しようとはしているみたいだけれど。
そういう少しわがままなところも、可愛いし魅力的だと思うから、スノウは咎めるつもりはない。なにより愛されている実感が湧く、というのも理由だ。
「にー……」
「あ、鳴いてますね。起きました?」
顔に影がかかる。甘い香りがした。
「——お茶の用意ができましたよ。ラト様もいらっしゃっていますが」
ピクッと耳が反応した。全力でルイスの言葉を理解しようと、急激に頭が動き始める。
「っ、おばあ様!?」
「うわっ、急に起きたら危ないですって……!」
ワタワタと手を伸ばしてくるルイスに抱きついて、顔を見上げる。
「おばあ様来たの?」
「はい、いらっしゃいましたよ。今は近くの客室で休憩していただいておりますが。一緒にお茶にしますか?」
「する!」
むしろ、しないわけがないよね? と食い気味に答えたら、ルイスがふふっと微笑ましげに口元を綻ばせた。
「そうおっしゃると思いまして、すでに準備を整えていますよ」
「さすがルイス。行こう!」
足をのそりと床に下ろそうとしたら、ルイスに抱き上げられた。まるで子どもの頃みたいで、なんだか胸がくすぐったい。でも、もう大人なのにいいのかな。
「——僕、歩けるよ」
「私が抱きしめたいんです。ダメですか……?」
「ダメじゃないけど」
気遣ってくれていることなんて十分わかってる。ルイスがしたいことなのだ、と受け入れやすい言い方にしてくれるのは、さすが頼れるお世話係だ。
ゆらゆらと揺られながら近くの客室に行くと、最近別れたばかりなのに、ひどく懐かしく感じる姿が見えた。
「おばあ様! 久しぶり!」
「私は想像以上に早い再会だったけどね」
クスクスと微笑んだラトが、スノウが伸ばした手にこたえるように抱き上げてくれる。
ルイスは少しばかり名残惜しげだったので、抱きしめたいと言っていたのは気遣いではなく本心だったのかもしれない。
「どうして来てくれたの?」
「スノウの出産の手伝いをすると約束してただろう?」
額をすり合わせて挨拶した後、椅子に下ろされた。隣に座るラトを見上げて、思わずニコニコと微笑む。
「もう来てくれたんだね」
「そうだね。卵の出産はもうすぐだろう? 一応仕方は教えたけど、ちゃんと傍で支えてあげたくて」
「ありがとう!」
ふと、ラトの傍にナイトがいないことに気づいた。
「——おじい様は?」
「ナイトは内宮に入る許可が出てないから。もっと外側の客室にいるよ」
内宮とは、魔王城の中でも魔王の特別な許可がないと入れない場所だ。そこにスノウの祖父であるナイトが入れないとはどういうことなのか。
思わずスノウが首を傾げると、ラトに苦笑されてしまった。
「お腹に子を抱えた番のいる男は、そうは見えなくてもだいぶ気が立っているものだ。運命の番ならばなおさら、ね」
「血縁がある相手でも、近づけさせないの?」
「そうだよ。ナイトとスノウは種族も違うから」
なるほど。スノウはまだ番の心理についてよく分かっていなかったらしい。
「……ロウエンさんにはたまに会うけど」
「宰相殿のことは、陛下自身がよくよく信頼しているんだろう」
再び納得。
スノウとの関係性というより、アークの中で折り合いがつくかどうかが重要らしい。そして、ナイトは無理だった、と。
「おじい様、会いたいなぁ」
「卵が生まれた後なら、大丈夫なんじゃないかな。スノウの体調にもよるだろうけど」
「そっか……。じゃあ、もう少し我慢しよう」
アークにもいろいろ我慢させている。たまにはスノウの方がアークの心に寄り添うべきだ。
微笑んで頷いたスノウを、ラトが微笑ましげに目を細めながら眺めた。
スノウはベランダに続く窓際でソファに寝転がっていた。
最近、ひどく眠気が襲ってくる。
精神状態が安定してきたと思った矢先のスノウの変化に、ルイスは「卵が完全に安定してきた症状ですよ」と嬉しそうに言っていた。
もうじき卵が生まれるらしい。
「んん……にぇむい……」
目をくしくしとこすっても、目蓋が重くて開かない。たぶん、日差しが気持ちよすぎるのもいけないと思う。
頭がぼんやりして、舌っ足らずな声になってしまうのを、少しだけ愉快に感じた。
今日は久しぶりにアークの執務に付き合おうと思っていたのに、と怠惰な体勢のまま悔しく歯噛みする。
でもドリーに「今は卵が最優先」と制されて、不満そうな顔をしているアークの顔が思い浮かぶと、自然と口元が綻んだ。
アークは卵にまで、未だに嫉妬を発揮するようだ。大人として、頼れる番として自制しようとはしているみたいだけれど。
そういう少しわがままなところも、可愛いし魅力的だと思うから、スノウは咎めるつもりはない。なにより愛されている実感が湧く、というのも理由だ。
「にー……」
「あ、鳴いてますね。起きました?」
顔に影がかかる。甘い香りがした。
「——お茶の用意ができましたよ。ラト様もいらっしゃっていますが」
ピクッと耳が反応した。全力でルイスの言葉を理解しようと、急激に頭が動き始める。
「っ、おばあ様!?」
「うわっ、急に起きたら危ないですって……!」
ワタワタと手を伸ばしてくるルイスに抱きついて、顔を見上げる。
「おばあ様来たの?」
「はい、いらっしゃいましたよ。今は近くの客室で休憩していただいておりますが。一緒にお茶にしますか?」
「する!」
むしろ、しないわけがないよね? と食い気味に答えたら、ルイスがふふっと微笑ましげに口元を綻ばせた。
「そうおっしゃると思いまして、すでに準備を整えていますよ」
「さすがルイス。行こう!」
足をのそりと床に下ろそうとしたら、ルイスに抱き上げられた。まるで子どもの頃みたいで、なんだか胸がくすぐったい。でも、もう大人なのにいいのかな。
「——僕、歩けるよ」
「私が抱きしめたいんです。ダメですか……?」
「ダメじゃないけど」
気遣ってくれていることなんて十分わかってる。ルイスがしたいことなのだ、と受け入れやすい言い方にしてくれるのは、さすが頼れるお世話係だ。
ゆらゆらと揺られながら近くの客室に行くと、最近別れたばかりなのに、ひどく懐かしく感じる姿が見えた。
「おばあ様! 久しぶり!」
「私は想像以上に早い再会だったけどね」
クスクスと微笑んだラトが、スノウが伸ばした手にこたえるように抱き上げてくれる。
ルイスは少しばかり名残惜しげだったので、抱きしめたいと言っていたのは気遣いではなく本心だったのかもしれない。
「どうして来てくれたの?」
「スノウの出産の手伝いをすると約束してただろう?」
額をすり合わせて挨拶した後、椅子に下ろされた。隣に座るラトを見上げて、思わずニコニコと微笑む。
「もう来てくれたんだね」
「そうだね。卵の出産はもうすぐだろう? 一応仕方は教えたけど、ちゃんと傍で支えてあげたくて」
「ありがとう!」
ふと、ラトの傍にナイトがいないことに気づいた。
「——おじい様は?」
「ナイトは内宮に入る許可が出てないから。もっと外側の客室にいるよ」
内宮とは、魔王城の中でも魔王の特別な許可がないと入れない場所だ。そこにスノウの祖父であるナイトが入れないとはどういうことなのか。
思わずスノウが首を傾げると、ラトに苦笑されてしまった。
「お腹に子を抱えた番のいる男は、そうは見えなくてもだいぶ気が立っているものだ。運命の番ならばなおさら、ね」
「血縁がある相手でも、近づけさせないの?」
「そうだよ。ナイトとスノウは種族も違うから」
なるほど。スノウはまだ番の心理についてよく分かっていなかったらしい。
「……ロウエンさんにはたまに会うけど」
「宰相殿のことは、陛下自身がよくよく信頼しているんだろう」
再び納得。
スノウとの関係性というより、アークの中で折り合いがつくかどうかが重要らしい。そして、ナイトは無理だった、と。
「おじい様、会いたいなぁ」
「卵が生まれた後なら、大丈夫なんじゃないかな。スノウの体調にもよるだろうけど」
「そっか……。じゃあ、もう少し我慢しよう」
アークにもいろいろ我慢させている。たまにはスノウの方がアークの心に寄り添うべきだ。
微笑んで頷いたスノウを、ラトが微笑ましげに目を細めながら眺めた。
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