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続々.雪豹くんと新しい家族
3-48.意外な姿
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久しぶりに感じる執務室。
拗ねたアークにねだられて、スノウは傍に侍ることにした。今日は体調が良かったので、出歩いた方が気分転換にいい。
そして、ロウエンに挨拶も兼ねて、ドリーに言われたことを語ったところ、たいそう笑われてしまった。
「ふぉっふぉっふぉっ! なんと無様。魔族の王ともあろうお方が!」
「ものすごく楽しんでるな。そんなに俺の悲しみが面白いか」
「ええ、とても。久しぶりに胸がすく思いです」
鬱憤を晴らすように、輝かしい笑みである。
スノウが執務室に来ていない間、いったいなにがあったのだろうか。
「……ロウエンさんも、ドリーのことよく知っているの?」
「ええ。口が悪い男でしょう?」
「それは、今日知ったけど……」
荒々しい口調はドリーの見た目に合わないようで、実際はさほど違和感がなかった。
スノウが悪い状態でなければ、元気だなぁとほのぼのと受け入れられてしまいそうなくらいには。
なにせ、ドリーは言葉こそ悪かったけれど、一心にアークやスノウの体調を心配してくれている気持ちが伝わってくる態度だったから。
さすがお医者さんである。
「——ロウエン。久しぶりにスノウが来たのだから、マルモのことを話しておいたらどうだ」
「マルモのこと?」
きょとんと瞬きをするスノウの前で、ロウエンの顔から一気に笑顔が失われていくのを目撃してしまった。
なんだか気まずい。
頬を掻いて目を逸らすスノウとは対照的に、やり込めたアークは涼しい表情で書類に手を伸ばす。
「……そうですね。スノウ様にご協力をいただく以上、私自身の言葉でお願いする必要があるでしょう」
「なんでも言って。僕がんばるよ!」
少しでもロウエンの心が軽くなるようにと、スノウは殊更明るい声で宣言する。
ロウエンは一瞬目を丸くしたかと思うと、くすりと仕方なさそうに微笑んだ。
「スノウ様にそう言われては、陛下に苛立つ己が情けなく思えますね」
「ロウエンさんは情けなくないよ! アークが煽るのがいけないと思う!」
咄嗟にアークを悪者にしてしまったけれど、たぶん間違っていないと思う。
アークはスノウ以外に対しても多少は感情を注ぐようになった。でも、そのやり方は結構強引で、反感を煽っているのかと思わずにはいられないことも多い。
「……ですってよ、陛下。改めるおつもりは?」
「スノウが傷つくわけではないから、必要ないだろう」
「こういうところですよね」
半目になったロウエンに同意を求められて、曖昧に頷き返した。そういうところがアークらしさであるとも思うから、安易に改善しろなんてスノウの口から言うことはできない。
「……それで、僕が協力することってなぁに?」
話を逸らすというより本題に戻して、スノウは首を傾げた。
ロウエンのためになんでもしてあげたい、という思いは嘘ではない。それがマルモに関わることであるならば、是非とも協力したいところだ。
「あー……それは、ですね……」
珍しく躊躇いがちに言葉を濁すロウエンを、アークが不気味そうに眺めていた。
スノウは思わずその目を手のひらで塞ぐ。ロウエンが気づいたら、また怒って話が逸れてしまいそうだったから。
「——明々後日、マルモと会う予定になっているんです」
「あ、そっか。また会う約束をしていたもんね」
以前のお茶会の別れ際を思い出して、スノウはニコリと微笑む。
また、二人が話す場に立ち会えばいいのだろうか。今度はどれくらい、二人が近づくのだろう。——なんて思いを巡らせていたら、ロウエンと目が合った。
「それで、立ち会っていただくのをお願いしたい、というのはもちろんなのですが。……どういう場をセッティングするか、ご意見をいただければ」
「えっ、そこから!?」
思わず目を丸くする。
ロウエンから、そんな依頼をされるとは思ってもいなかった。
最初のお茶会は、あまり気乗りしていないロウエンの背中を押すために、スノウとルイスで考えた。
でも、今はロウエンだって、前向きにマルモのことを認めようとしているはず。それならば、口説く場くらい自分で考えたっていいと思うのだ。むしろ、自分で考えてしかるべきである。
「スノウ」
目を塞いでいた手を握られて外される。ついでのように指先にキスされながら、スノウはアークの呆れが籠った声を静かに聞いた。
「——こいつはな。誰かを口説いたことなんて、一度もないんだ」
「え、番さんは?」
今でも忘れられないでいるはずのロウエンの番。その女性と結ばれるに至った過程で、一度も口説かないなんてことがあるだろうか。
ぽかんとしながら問い返すと、視界の端でロウエンが気まずそうに目を逸らすのが見えた。
「ロウエンと以前の番は、幼馴染だった。生まれた頃から許嫁で、ただ順当に番になっただけ。おそらく亡くすまで、想いに気づくことも、口にすることもなかっただろう」
「え……えー、それは、どうなの……」
思いがけないロウエンの恋愛談に、スノウは少し引いてしまった。
亡くなってから想いに気づくなんて、どうしようもなくて憐れである。そしてそんな鈍感さが、ロウエンらしくないとシンプルに思った。
「……どうせ、私は、恋愛音痴ですよ」
「自覚ができたようでなにより」
不貞腐れたようなロウエンの言葉を、アークが涼しい顔で聞き流す。
つまり、ロウエンも認める事実だということだ。あまりに意外すぎて、開いた口が塞がらない。
「……フハッ! 鈍感男×繊細青年、萌えますね!」
「ルイスはちょっと、黙ってようか」
スノウは頭が痛くなるような気分で、とりあえずルイスのよく分からないテンションを咎めておいた。
拗ねたアークにねだられて、スノウは傍に侍ることにした。今日は体調が良かったので、出歩いた方が気分転換にいい。
そして、ロウエンに挨拶も兼ねて、ドリーに言われたことを語ったところ、たいそう笑われてしまった。
「ふぉっふぉっふぉっ! なんと無様。魔族の王ともあろうお方が!」
「ものすごく楽しんでるな。そんなに俺の悲しみが面白いか」
「ええ、とても。久しぶりに胸がすく思いです」
鬱憤を晴らすように、輝かしい笑みである。
スノウが執務室に来ていない間、いったいなにがあったのだろうか。
「……ロウエンさんも、ドリーのことよく知っているの?」
「ええ。口が悪い男でしょう?」
「それは、今日知ったけど……」
荒々しい口調はドリーの見た目に合わないようで、実際はさほど違和感がなかった。
スノウが悪い状態でなければ、元気だなぁとほのぼのと受け入れられてしまいそうなくらいには。
なにせ、ドリーは言葉こそ悪かったけれど、一心にアークやスノウの体調を心配してくれている気持ちが伝わってくる態度だったから。
さすがお医者さんである。
「——ロウエン。久しぶりにスノウが来たのだから、マルモのことを話しておいたらどうだ」
「マルモのこと?」
きょとんと瞬きをするスノウの前で、ロウエンの顔から一気に笑顔が失われていくのを目撃してしまった。
なんだか気まずい。
頬を掻いて目を逸らすスノウとは対照的に、やり込めたアークは涼しい表情で書類に手を伸ばす。
「……そうですね。スノウ様にご協力をいただく以上、私自身の言葉でお願いする必要があるでしょう」
「なんでも言って。僕がんばるよ!」
少しでもロウエンの心が軽くなるようにと、スノウは殊更明るい声で宣言する。
ロウエンは一瞬目を丸くしたかと思うと、くすりと仕方なさそうに微笑んだ。
「スノウ様にそう言われては、陛下に苛立つ己が情けなく思えますね」
「ロウエンさんは情けなくないよ! アークが煽るのがいけないと思う!」
咄嗟にアークを悪者にしてしまったけれど、たぶん間違っていないと思う。
アークはスノウ以外に対しても多少は感情を注ぐようになった。でも、そのやり方は結構強引で、反感を煽っているのかと思わずにはいられないことも多い。
「……ですってよ、陛下。改めるおつもりは?」
「スノウが傷つくわけではないから、必要ないだろう」
「こういうところですよね」
半目になったロウエンに同意を求められて、曖昧に頷き返した。そういうところがアークらしさであるとも思うから、安易に改善しろなんてスノウの口から言うことはできない。
「……それで、僕が協力することってなぁに?」
話を逸らすというより本題に戻して、スノウは首を傾げた。
ロウエンのためになんでもしてあげたい、という思いは嘘ではない。それがマルモに関わることであるならば、是非とも協力したいところだ。
「あー……それは、ですね……」
珍しく躊躇いがちに言葉を濁すロウエンを、アークが不気味そうに眺めていた。
スノウは思わずその目を手のひらで塞ぐ。ロウエンが気づいたら、また怒って話が逸れてしまいそうだったから。
「——明々後日、マルモと会う予定になっているんです」
「あ、そっか。また会う約束をしていたもんね」
以前のお茶会の別れ際を思い出して、スノウはニコリと微笑む。
また、二人が話す場に立ち会えばいいのだろうか。今度はどれくらい、二人が近づくのだろう。——なんて思いを巡らせていたら、ロウエンと目が合った。
「それで、立ち会っていただくのをお願いしたい、というのはもちろんなのですが。……どういう場をセッティングするか、ご意見をいただければ」
「えっ、そこから!?」
思わず目を丸くする。
ロウエンから、そんな依頼をされるとは思ってもいなかった。
最初のお茶会は、あまり気乗りしていないロウエンの背中を押すために、スノウとルイスで考えた。
でも、今はロウエンだって、前向きにマルモのことを認めようとしているはず。それならば、口説く場くらい自分で考えたっていいと思うのだ。むしろ、自分で考えてしかるべきである。
「スノウ」
目を塞いでいた手を握られて外される。ついでのように指先にキスされながら、スノウはアークの呆れが籠った声を静かに聞いた。
「——こいつはな。誰かを口説いたことなんて、一度もないんだ」
「え、番さんは?」
今でも忘れられないでいるはずのロウエンの番。その女性と結ばれるに至った過程で、一度も口説かないなんてことがあるだろうか。
ぽかんとしながら問い返すと、視界の端でロウエンが気まずそうに目を逸らすのが見えた。
「ロウエンと以前の番は、幼馴染だった。生まれた頃から許嫁で、ただ順当に番になっただけ。おそらく亡くすまで、想いに気づくことも、口にすることもなかっただろう」
「え……えー、それは、どうなの……」
思いがけないロウエンの恋愛談に、スノウは少し引いてしまった。
亡くなってから想いに気づくなんて、どうしようもなくて憐れである。そしてそんな鈍感さが、ロウエンらしくないとシンプルに思った。
「……どうせ、私は、恋愛音痴ですよ」
「自覚ができたようでなにより」
不貞腐れたようなロウエンの言葉を、アークが涼しい顔で聞き流す。
つまり、ロウエンも認める事実だということだ。あまりに意外すぎて、開いた口が塞がらない。
「……フハッ! 鈍感男×繊細青年、萌えますね!」
「ルイスはちょっと、黙ってようか」
スノウは頭が痛くなるような気分で、とりあえずルイスのよく分からないテンションを咎めておいた。
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