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続々.雪豹くんと新しい家族
3-42.過ちと許容
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ふわふわと意識が浮遊する。なぜだか周囲は真っ暗で何も見えない。
身体の末端は冷えているのに、お腹がぽかぽかと温かかった。
『にーにー』
『クルルッ』
甘えるような声が聞こえて、スノウは自然と頬を緩めた。
お腹を抱くように丸くなると、さらに愛しさが押し寄せてくる。
「早く大きくなってね……」
擦り寄ってくる気配に、庇護欲が掻き立てられた。
スノウの魔力がどんどんとお腹に流れ込んでいくのを感じる。これ以上は命に障りがあるかもしれないと分かっても、愛しい子たちが望むだけ与えてあげたいのだ。
「もっと、もっと、いっぱい——」
『スノウ。大切なものはこの子たちだけじゃないでしょう』
ふ、と魔力の流れが止まった。
懐かしい声の主に気づいて、スノウは呆然と潤んだ視界を瞬かせる。
「母様……?」
『そんなに与えなくても大丈夫。この子たちを守るのは、あなただけじゃないわ』
その言葉が終わるかどうかのところで、優しい温もりに包まれる感覚がスノウを満たした。
母だけでなく、多くの雪豹の気配を感じる。里で与えられた贈り物が開かれていく。
空っぽになりかけていた魔力の器に、ふつふつと新たな魔力が湧き上がった。
「あったかい……」
『あなた自身を守ることが、子や愛しい番を守るということ。それを忘れてはいけないのよ』
「僕自身を、守ること——」
言われてみれば当然のことだ。
スノウは卵をきちんと世界に産み落とさなければならない。孵った子たちに愛情を注ぐ役割がある。
ここで全てを投げ出すようなことは、信頼してくれた番をも裏切ることだ。
「僕、間違ってた」
『そうね。でも、ちゃんと気づけたわ』
しゅん、と目を伏せる。
愛しい子たちが慰めるように鳴いていた。それだけで心が温まるのだから、もう少し反省した方がいい気がする。
「……ん? 今、違う魔力が——」
器に大量の魔力が流れ込んできた。
それは常にスノウの傍にあり、支えて、慈しんでくれる番のもの。
冷えていた手足が温まり、血が通い始める。なんだか身体が新しくなっていくような、不思議な爽快感があった。
『スノウ。起きてくれ。俺の傍からいなくなるな。俺を、置いていくなっ』
「あっ……アーク、泣かないで、悲しまないで……!」
悲痛な番の嘆きに、スノウの心も引きずられる。
どうしてそんなに悲しむのか。スノウがアークを置いていくなんてありえないのに。
『ほら、呼び声にこたえるのよ。あなたがいるべき場所を忘れてはダメ』
ふわりと包まれていた腕から解き放たれた。
それが少し寂しいけれど、スノウはもう母に縋るだけの子どもではないのだ。
「うん、僕行くね。助けてくれて、ありがとう」
——母様、と告げるより先に、力強い腕に抱き込まれる感覚に、意識が一気に持って行かれた。
「スノウ! 起きたか」
「ん……アーク」
思い瞼を開くと、見慣れた天蓋を背景にしたアークの白い顔が見えた。
夢の中で感じたような泣いた様子はないけれど、焦りと安堵が入り混じった表情だ。
「帰ってきたら、手足が冷たくなっていたんだ」
「アークが魔力を注いでくれたんでしょう? 僕、ちゃんと分かっていたよ」
「それなら自分の魔力を馬鹿みたいに卵に注ぐのはやめてくれ」
スノウに対して放つには、珍しいくらいに強く苛立ちの籠った声だった。
そのせいで、アークの悲痛な思いが心に刺さるように感じられる。スノウは心底反省することになった。
「ごめんなさい。二度としないよ」
「……約束だぞ」
その一言で許してくれるのだから、アークはスノウに甘すぎる。
未だにじわじわと注がれ続ける魔力を甘受しながら、スノウは目を細めてアークに抱きついた。
サラサラの髪を梳かし、頭を撫でる。
「うん、絶対。だから、そんな顔をしないで」
眉間に寄ったままの皺に唇を押し当てると、アークの張り詰めた心がようやく少し緩んだ気がした。
身体の末端は冷えているのに、お腹がぽかぽかと温かかった。
『にーにー』
『クルルッ』
甘えるような声が聞こえて、スノウは自然と頬を緩めた。
お腹を抱くように丸くなると、さらに愛しさが押し寄せてくる。
「早く大きくなってね……」
擦り寄ってくる気配に、庇護欲が掻き立てられた。
スノウの魔力がどんどんとお腹に流れ込んでいくのを感じる。これ以上は命に障りがあるかもしれないと分かっても、愛しい子たちが望むだけ与えてあげたいのだ。
「もっと、もっと、いっぱい——」
『スノウ。大切なものはこの子たちだけじゃないでしょう』
ふ、と魔力の流れが止まった。
懐かしい声の主に気づいて、スノウは呆然と潤んだ視界を瞬かせる。
「母様……?」
『そんなに与えなくても大丈夫。この子たちを守るのは、あなただけじゃないわ』
その言葉が終わるかどうかのところで、優しい温もりに包まれる感覚がスノウを満たした。
母だけでなく、多くの雪豹の気配を感じる。里で与えられた贈り物が開かれていく。
空っぽになりかけていた魔力の器に、ふつふつと新たな魔力が湧き上がった。
「あったかい……」
『あなた自身を守ることが、子や愛しい番を守るということ。それを忘れてはいけないのよ』
「僕自身を、守ること——」
言われてみれば当然のことだ。
スノウは卵をきちんと世界に産み落とさなければならない。孵った子たちに愛情を注ぐ役割がある。
ここで全てを投げ出すようなことは、信頼してくれた番をも裏切ることだ。
「僕、間違ってた」
『そうね。でも、ちゃんと気づけたわ』
しゅん、と目を伏せる。
愛しい子たちが慰めるように鳴いていた。それだけで心が温まるのだから、もう少し反省した方がいい気がする。
「……ん? 今、違う魔力が——」
器に大量の魔力が流れ込んできた。
それは常にスノウの傍にあり、支えて、慈しんでくれる番のもの。
冷えていた手足が温まり、血が通い始める。なんだか身体が新しくなっていくような、不思議な爽快感があった。
『スノウ。起きてくれ。俺の傍からいなくなるな。俺を、置いていくなっ』
「あっ……アーク、泣かないで、悲しまないで……!」
悲痛な番の嘆きに、スノウの心も引きずられる。
どうしてそんなに悲しむのか。スノウがアークを置いていくなんてありえないのに。
『ほら、呼び声にこたえるのよ。あなたがいるべき場所を忘れてはダメ』
ふわりと包まれていた腕から解き放たれた。
それが少し寂しいけれど、スノウはもう母に縋るだけの子どもではないのだ。
「うん、僕行くね。助けてくれて、ありがとう」
——母様、と告げるより先に、力強い腕に抱き込まれる感覚に、意識が一気に持って行かれた。
「スノウ! 起きたか」
「ん……アーク」
思い瞼を開くと、見慣れた天蓋を背景にしたアークの白い顔が見えた。
夢の中で感じたような泣いた様子はないけれど、焦りと安堵が入り混じった表情だ。
「帰ってきたら、手足が冷たくなっていたんだ」
「アークが魔力を注いでくれたんでしょう? 僕、ちゃんと分かっていたよ」
「それなら自分の魔力を馬鹿みたいに卵に注ぐのはやめてくれ」
スノウに対して放つには、珍しいくらいに強く苛立ちの籠った声だった。
そのせいで、アークの悲痛な思いが心に刺さるように感じられる。スノウは心底反省することになった。
「ごめんなさい。二度としないよ」
「……約束だぞ」
その一言で許してくれるのだから、アークはスノウに甘すぎる。
未だにじわじわと注がれ続ける魔力を甘受しながら、スノウは目を細めてアークに抱きついた。
サラサラの髪を梳かし、頭を撫でる。
「うん、絶対。だから、そんな顔をしないで」
眉間に寄ったままの皺に唇を押し当てると、アークの張り詰めた心がようやく少し緩んだ気がした。
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