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続々.雪豹くんと新しい家族
3-35.無意識に惹かれる
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お花見のお茶会は、たどたどしい会話と共に続いた。
「マルモはどのような仕事を?」
「ひっ……あ、あの、環境、整備、とか……計画を……」
「なるほど。そういえば、最近街道に関する計画書があがっていたが」
「わ、私が、担当して、おります……」
「ああ、そうだったか。次の奏上を楽しみにしている」
「さ、宰相様に、ご期待、していただける、ほどの、ことでは……っ」
たどたどしいのはマルモだけだった。
顔を赤くしたり、青くしたり、忙しないマルモの様子をスノウは微笑みながら見守る。
今のところ、スノウが干渉する必要はなさそうだ。ロウエンは思いの外落ち着いて、マルモと話をしているようだし。
「私のことは、ロウエンと呼んでほしい」
「はっ!? そ、そんな、恐れ多い……!」
マルモの身体がぴゃっと跳ねた。上目遣いにロウエンを窺いながら、なんとか逃げようとしているように見える。
そんなにロウエンは怖いのだろうか。幼い頃に出会った時から、スノウにとってロウエンは優しい人なのだけれど。
少しアークにあたりがきつい時もあるが、それは親しさの裏返しだと分かっている。マルモをからかうのも、好意があるから。
(ロウエンさんって、だいぶ天邪鬼な人……)
思わず苦笑する。ここ最近、知らなかった部分をよく目にするようになった気がする。
それが、親しくなった証のように思えて、スノウは少し嬉しい。どうしてもロウエンとは距離を感じることもあったから。
「あんまり、僕の友達をいじめないでね」
「そのつもりはありませんが……気をつけましょう」
「す、スノウ様ぁ……!」
狼狽えているマルモを庇うと、ヒシッと抱きつかれた。スノウに対する遠慮さえ忘れてしまうくらい、ロウエンを相手にパニック状態になっているようだ。
「マルモ、可愛い。僕が守ってあげるからね。安心してロウエンさんとお話して」
「……守ってくださるなら、このお茶会から解放してください……!」
「それはだーめ。マルモの時間は僕がもらってるんだから、もうちょっとお茶会続けようね」
涙を滲ませた目で恨めしげに見つめられたところで、可愛いだけだ。
アークが普段スノウのことを「可愛い、愛しい」とよく言う感覚が理解できた気がする。アークにもスノウはこんな風に見えているのだろう。
「マルモ、お茶会の場でマナー違反ですよ」
「ひぅ……し、失礼、いたしました……」
ロウエンに咎められて、マルモが身を縮めて席に座り直す。
急にロウエンの声音が冷たくなったような気がして、スノウは首を傾げた。耳元でルイスが囁きかけてくる。
「たぶん、番認定している相手が、スノウ様に抱きついたことに嫉妬したんですよ」
「あぁ、そういう……」
納得した。
ロウエンの様子から察していたけれど、マルモと運命の番であることは間違いないらしい。出会ってばかりで嫉妬心を抱くほど、既に運命の番に惹かれている。
それに対し、マルモはロウエンに緊張してばかりで、一向に運命の番に気づかない。
この認識の違いが、今後どう影響してくるか心配だ。
それに――。
(ロウエンさんが、昔の番さんのことを忘れていないのは変わっていないからね。今は本能が勝って、マルモさんに意識が囚われているんだろうけど、離れた後どうなるか……)
スノウはロウエンを窺い見て、「う~ん」と小さく唸る。
普段通りに見えるロウエン。でも、その態度はスノウが知る姿と少し違う。それは、本能がマルモ一人に集中しているから。最低限の取り繕いしかできていない。
マルモから離れ、理性が本能に勝った時、ロウエンがどう思うのか。
本能に流されたことを悔いる気がしてならない。
(ここは、ちょっと距離を保たせるのがいいのかな。急がば回れってよく言うしね)
うん、と頷き、スノウはロウエンを見つめた。
「ロウエンさん、まだ休憩していて大丈夫そう?」
「……ええ、問題ありませんよ。陛下が代わりに頑張っていらっしゃるでしょう」
一瞬の間で、ロウエンの瞳が冷静さをたたえた。そして、これまでの自分を思い出した様子で、少し表情を固くする。
仕事やアークの話題は、ロウエンに理性を取り戻させるのに、効果的だったようだ。
「陛下に……。ろ、ロウエン様は、それでいいのですか?」
「つい最近、陛下は発情期休暇でたっぷり休んだから。その間の執務は私が担っていたんだ。代わりにこれくらいの休憩時間をとったところで、咎められるいわれはないよ」
「そ、そう、なんで、すね……?」
マルモが少し違和感を覚えたようだ。ロウエンから少し距離をとられたことを察したのだろう。首を傾げながら、ロウエンをこっそりと眺めている。
(あ、ちょっと落ち着いてロウエンを見られるようになったみたい。さっきまで、押せ押せの雰囲気で、圧倒されていたもんね……)
スノウはちょっと同情した。
運命の番ならば、出会った時から想いを通わせ、愛を確かめ合ってもおかしくない。そう考えると、ロウエンの態度は控えめだったともいえる。
でも、運命の番だと気づいていないマルモにとっては、アピールだと気づく余裕もない状態だったのだ。混乱をしばらく放ってしまったのは申し訳ない。
「マルモって、どういう人が好みなの?」
ふと湧いた疑問を、口に出す。
でも、ピシッと固まったマルモを見て、『あ、失敗した』と思った。折角緊張が和らいできていたのに。
「どういう、人……」
マルモがちらっと視線を流した。その先にはお茶を飲むロウエンの姿。
(なぁんだ。運命の番だと気づいてなくても、やっぱり惹かれてるんだ)
そのことに気づいて、スノウはホッとして微笑んだ。
それにしても、意地悪でちょっぴり圧のあるロウエンに惹きつけられるとは、元々のマルモの嗜好なのか、それとも運命の力によるのか。少し気になった。
「マルモはどのような仕事を?」
「ひっ……あ、あの、環境、整備、とか……計画を……」
「なるほど。そういえば、最近街道に関する計画書があがっていたが」
「わ、私が、担当して、おります……」
「ああ、そうだったか。次の奏上を楽しみにしている」
「さ、宰相様に、ご期待、していただける、ほどの、ことでは……っ」
たどたどしいのはマルモだけだった。
顔を赤くしたり、青くしたり、忙しないマルモの様子をスノウは微笑みながら見守る。
今のところ、スノウが干渉する必要はなさそうだ。ロウエンは思いの外落ち着いて、マルモと話をしているようだし。
「私のことは、ロウエンと呼んでほしい」
「はっ!? そ、そんな、恐れ多い……!」
マルモの身体がぴゃっと跳ねた。上目遣いにロウエンを窺いながら、なんとか逃げようとしているように見える。
そんなにロウエンは怖いのだろうか。幼い頃に出会った時から、スノウにとってロウエンは優しい人なのだけれど。
少しアークにあたりがきつい時もあるが、それは親しさの裏返しだと分かっている。マルモをからかうのも、好意があるから。
(ロウエンさんって、だいぶ天邪鬼な人……)
思わず苦笑する。ここ最近、知らなかった部分をよく目にするようになった気がする。
それが、親しくなった証のように思えて、スノウは少し嬉しい。どうしてもロウエンとは距離を感じることもあったから。
「あんまり、僕の友達をいじめないでね」
「そのつもりはありませんが……気をつけましょう」
「す、スノウ様ぁ……!」
狼狽えているマルモを庇うと、ヒシッと抱きつかれた。スノウに対する遠慮さえ忘れてしまうくらい、ロウエンを相手にパニック状態になっているようだ。
「マルモ、可愛い。僕が守ってあげるからね。安心してロウエンさんとお話して」
「……守ってくださるなら、このお茶会から解放してください……!」
「それはだーめ。マルモの時間は僕がもらってるんだから、もうちょっとお茶会続けようね」
涙を滲ませた目で恨めしげに見つめられたところで、可愛いだけだ。
アークが普段スノウのことを「可愛い、愛しい」とよく言う感覚が理解できた気がする。アークにもスノウはこんな風に見えているのだろう。
「マルモ、お茶会の場でマナー違反ですよ」
「ひぅ……し、失礼、いたしました……」
ロウエンに咎められて、マルモが身を縮めて席に座り直す。
急にロウエンの声音が冷たくなったような気がして、スノウは首を傾げた。耳元でルイスが囁きかけてくる。
「たぶん、番認定している相手が、スノウ様に抱きついたことに嫉妬したんですよ」
「あぁ、そういう……」
納得した。
ロウエンの様子から察していたけれど、マルモと運命の番であることは間違いないらしい。出会ってばかりで嫉妬心を抱くほど、既に運命の番に惹かれている。
それに対し、マルモはロウエンに緊張してばかりで、一向に運命の番に気づかない。
この認識の違いが、今後どう影響してくるか心配だ。
それに――。
(ロウエンさんが、昔の番さんのことを忘れていないのは変わっていないからね。今は本能が勝って、マルモさんに意識が囚われているんだろうけど、離れた後どうなるか……)
スノウはロウエンを窺い見て、「う~ん」と小さく唸る。
普段通りに見えるロウエン。でも、その態度はスノウが知る姿と少し違う。それは、本能がマルモ一人に集中しているから。最低限の取り繕いしかできていない。
マルモから離れ、理性が本能に勝った時、ロウエンがどう思うのか。
本能に流されたことを悔いる気がしてならない。
(ここは、ちょっと距離を保たせるのがいいのかな。急がば回れってよく言うしね)
うん、と頷き、スノウはロウエンを見つめた。
「ロウエンさん、まだ休憩していて大丈夫そう?」
「……ええ、問題ありませんよ。陛下が代わりに頑張っていらっしゃるでしょう」
一瞬の間で、ロウエンの瞳が冷静さをたたえた。そして、これまでの自分を思い出した様子で、少し表情を固くする。
仕事やアークの話題は、ロウエンに理性を取り戻させるのに、効果的だったようだ。
「陛下に……。ろ、ロウエン様は、それでいいのですか?」
「つい最近、陛下は発情期休暇でたっぷり休んだから。その間の執務は私が担っていたんだ。代わりにこれくらいの休憩時間をとったところで、咎められるいわれはないよ」
「そ、そう、なんで、すね……?」
マルモが少し違和感を覚えたようだ。ロウエンから少し距離をとられたことを察したのだろう。首を傾げながら、ロウエンをこっそりと眺めている。
(あ、ちょっと落ち着いてロウエンを見られるようになったみたい。さっきまで、押せ押せの雰囲気で、圧倒されていたもんね……)
スノウはちょっと同情した。
運命の番ならば、出会った時から想いを通わせ、愛を確かめ合ってもおかしくない。そう考えると、ロウエンの態度は控えめだったともいえる。
でも、運命の番だと気づいていないマルモにとっては、アピールだと気づく余裕もない状態だったのだ。混乱をしばらく放ってしまったのは申し訳ない。
「マルモって、どういう人が好みなの?」
ふと湧いた疑問を、口に出す。
でも、ピシッと固まったマルモを見て、『あ、失敗した』と思った。折角緊張が和らいできていたのに。
「どういう、人……」
マルモがちらっと視線を流した。その先にはお茶を飲むロウエンの姿。
(なぁんだ。運命の番だと気づいてなくても、やっぱり惹かれてるんだ)
そのことに気づいて、スノウはホッとして微笑んだ。
それにしても、意地悪でちょっぴり圧のあるロウエンに惹きつけられるとは、元々のマルモの嗜好なのか、それとも運命の力によるのか。少し気になった。
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