雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続々.雪豹くんと新しい家族

3-30.出会いの演出

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 スノウの発情期を終え、身体の疲労感もなくなった頃。
 ロウエンとマルモを会わせる手筈が整った、とルイスが報告してきた。

「――運命的な邂逅……?」
「そうです! 運命の番がお見合いみたいに出会うなんてもってのほか。私の演出により、バッチリな状況を考えました!」

 ニコニコと笑うルイスの肩越しに、苦々しい表情のロウエンが見える。今にも「馬鹿らしい」と吐き捨てそうだ。

 アークはというと、一人我関せずと主張するような態度で、バッサバッサと書類の山を片付けている。発情期休暇で溜まった仕事はまだまだ残っていた。

「私は忙しいのだが……」
「でも、もうお逃げにならないんですよね?」
「……誰が、逃げていた、と?」

 振り返るルイスをロウエンがギロッと睨む。正直怖い。スノウはこんなに余裕のない様子のロウエンを初めて見た。
 対するルイスは飄々とした態度を崩さない。

「ロウエン様です」
「っ、私を侮辱するとは――!」
「いいですか、ロウエン様。私は、陛下からの指示を受けて行動しているのですよ?」

 瞬間的に激昂したロウエンの口を塞いだのは、ルイスの朗らかな口調で放たれた言葉だった。
 スノウは密かに眉を顰める。

 ロウエンが現在心乱れた状態であることはアークから聞いていた。でも、日頃の穏やかで理性的な態度を知るスノウは、これまでそれをあまり理解できていなかったのだ。

 だから、ルイスに見せた傲慢で直情的な様子に驚かされた。それと同時に、アークが多少強引なやり方であっても、ロウエンとマルモを引き合わせると決めた理由を理解できた。

 スノウが思っていたよりも、ロウエンは崖っぷちな精神状態なのだろう。

「――ロウエン、今さら足掻くのは見苦しいぞ」

 アークが書類からちらりと視線を上げて呟く。それを苦い表情で見据えたロウエンは、不意に窓へと視線を逸らした。
 つられて視線の先を追うと、庭を歩くマルモの姿がある。

(匂いも何も届かないのに、つい視線が向いちゃうって、もう意思でどうにかできる状態じゃないよね……)

 少し表情を和らがせながらも、葛藤を滲ませたロウエンの目を見つめ、スノウはそっと息を吐いた。
 なんとなく困難も障害も予想できる。それをクリアさせるのはスノウの役目であり、頑張りどころだ。
 気合いを入れ直し、スノウはルイスの袖を引いた。

「それで、ルイスが考えた運命的な邂逅を演出した状況ってなに?」
「ようやく聞いてくださいましたか!」

 ぱぁーっと表情を輝かせたルイスは、嬉々とした態度のまま説明を始める。
 結構切羽詰まった深刻な状況であることを理解しているのかと、スノウは少々疑問に思ってしまう。ルイスらしい、といえばそうなのだけれど。

「――恋愛指南書に曰く」
「れんあいしなんしょ……」
「運命的な出会いにはいくつかパターンがあるのです」

 目を点にするスノウに気づかないのか、ルイスはニコニコと微笑み説明を続ける。

「まず一つ。『いけなーい、遅刻遅刻ー』と言って走り、曲がり角でごっつんこ!」
「遅刻……? 時間にルーズな人はあまり印象が良くない気がするけど」
「……それは、そうですね? まぁ、ちょっと抜けてるくらいが可愛いってことなのでは。ギャップ萌えってやつですよ! ……たぶん」

 真面目に返答するスノウに、ルイスも少し冷静になった様子で首を傾げる。

「普段はしっかりしてる人って分かっていたら、そうなのかな? でも、それ、もう顔見知りである前提だよね」
「いや、冷静沈着で定評のあるロウエン様が、『遅刻遅刻ー』って言いながら走ってきてぶつかったら、かなりのギャップを感じると思います」
「あ、ロウエンさんがそっちなのか……」

 スノウは頭の中で思い浮かべていた光景を修正した。
 ちょっと焦った感じで走るロウエン。――確かにギャップがある。ただ、大変なことが起こったのでは、と危機感を覚えそうだ。
 そして、想像の中のロウエンが曲がり角でマルモとぶつかり――弾き飛ばした。体格差怖い。ロウエンの負けないイメージが強すぎる。

「――だめ! マルモが怪我しちゃう」
「へっ!? ……あー、確かに?」

 ルイスと顔を見合わせ頷く。

「パターン一、ボツで」
「そうしましょう」

 真剣に話し合うスノウたちを、ロウエンが白けた目で見ていた。アークが微笑ましげな眼差しで見守ってくれているから、スノウの心は挫けない。

「――気を取り直して、パターン二!」

 ルイスもまた、強い心で運命的出会いの追求を諦めなかった。
 果たしてロウエンとマルモは、どのような出会いとなるのか――。

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