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続々.雪豹くんと新しい家族
3-21.惹きつける
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焼き立てのクッキーを籠に入れ、執務室に戻る。
マルモは職場に行くから別れた。さすがにこれ以上時間をもらうのは無理だし、ロウエンに会わせるつもりは今のところないから。
でも、マルモがお菓子作りが得意な人でラッキー。いい具合いにおやつを作れた。
(まぁ、マルモが作ったなんて気づかれないだろうけど)
ちょっとした刺激になればいいと思いながらも、さほど期待はしていない。スノウはのんびりとロウエンたちを見守ることにしたのだ。
マルモ自身を気に入っているから、これからもちょこちょこと関わるつもりではあるけれど。
「ただーいまー」
「スノウ、遅かったな」
執務室に入った途端、少し不満そうな声が放たれる。
アークが「おいでおいで」と手招きしていた。不承不承ながら散歩を許可してくれたのに、不機嫌さは変わらなかったらしい。そんなところも可愛いからいいけれど。
スノウはルイスに籠を預けてお茶を頼み、アークの元へと歩み寄る。
でもその途中、なぜだかロウエンに手首を掴まれた。
「っ、ロウエンさん? どうしたの?」
「ロウエン、俺のスノウに何をしている」
珍しいくらい冷たいアークの声がロウエンに向けられる。
いつもならそれを揶揄うか簡単に躱すロウエンが、今は目を見開いて固まっていた。
いったいどうしたのだろう。心配になる。
「……っ、いえ。なんでもありません……」
なんでもなくないだろう、と思わず追及しようとした言葉を止めた。
珍しく動揺しているロウエンが、なんだか可哀想だったので。
離された手首をさすりながら、アークにすり寄る。
アークは瞬間的にロウエンに怒りを向けていたようだけれど、今は推し量るような目を向けていた。
「……痛むのか?」
「ううん、そんな強い力で掴まれてないよ」
そう答えながら、ふと思い出したことがあった。
ロウエンがスノウに向けた目に浮かんだ感情に似たものを、つい最近別の人から感じたのだ。
(出会った時のマルモと一緒……)
運命の番だと勘違いしたマルモと同じとは、どういうことだろう。
アークに抱きしめられて、頬にキスされながら、スノウは小さく首を傾げた。
「……俺と一緒にいる時に、別の男のことを考えては駄目だろう」
「え、ちが――」
咄嗟に否定しようとした言葉が、アークの口に飲み込まれる。
熱い舌が唇を割り、口内を舐め回してきた。
「んっ……んぅ……」
アークの首に縋りつく。
昨夜の行為で身体の奥に残っていた熾火が燃え上がるような感じがして、すぐに立っていられなくなってしまった。
ぷるぷると身体を震わせながら、必死に口づけにこたえる。
「……ふ、良い子だ、スノウ」
「アークは、悪い子だよ……」
ようやく口が離されて、荒くなった息を必死に整える。
アークの胸元に額を擦りつけ、背中に回した手で引っ掻いてやった。ちょっとは反省するといい。
「ふ、ふ……俺の可愛い子猫」
「猫じゃないもん」
引っ掻く力を強くしても、アークの身体は笑いで震えている。全然反省してくれない。
むぅ、と唇を尖らせてアークを睨むと、あやすように額にキスされた。それで機嫌が直ると思われるのは、なんとなく気に食わない。
「……にゃー」
あえて猫のように鳴いて、アークが驚いた隙に首筋に噛みついた。
血が出るほどではないけれど、ビクッと身体を震わせて、笑いがおさまったようだからよしとする。
「……俺を煽って、どうするんだ? 寝室に行くか」
「行かないよ!? お仕事ちゃんとして!」
思いもよらない提案をアークが真顔で呟くから、スノウの方が驚かされてしまった。
何をどうして煽られたのかなんて、聞くつもりはない。余計にスノウが翻弄されてしまいそうだから。
ぺしぺしとアークを叩きながら、執務に戻らせる。「そんなに可愛く怒るな」なんて甘い声で囁かれても、絆されない。
途中、ロウエンの方へとアークの視線が流れたのに気づき、ちょっと動きを止めてしまったけれど。
「文句を言わないなんて珍しいな」
「……執務をしてください」
「今更言われても。……残り香に反応してスノウの腕を掴んだこと、俺は許していないからな。覚悟しておけ」
残り香。
スノウは頭の中でその言葉を反芻して、「あぁ……」と声を漏らした。ロウエンが何に反応したのか分かってしまったのだ。
ふん、と鼻で笑ったアークを、ロウエンは忌々しそうに睨んでいたけれど、抗議や揶揄の言葉がその口から放たれることはなかった。
マルモは職場に行くから別れた。さすがにこれ以上時間をもらうのは無理だし、ロウエンに会わせるつもりは今のところないから。
でも、マルモがお菓子作りが得意な人でラッキー。いい具合いにおやつを作れた。
(まぁ、マルモが作ったなんて気づかれないだろうけど)
ちょっとした刺激になればいいと思いながらも、さほど期待はしていない。スノウはのんびりとロウエンたちを見守ることにしたのだ。
マルモ自身を気に入っているから、これからもちょこちょこと関わるつもりではあるけれど。
「ただーいまー」
「スノウ、遅かったな」
執務室に入った途端、少し不満そうな声が放たれる。
アークが「おいでおいで」と手招きしていた。不承不承ながら散歩を許可してくれたのに、不機嫌さは変わらなかったらしい。そんなところも可愛いからいいけれど。
スノウはルイスに籠を預けてお茶を頼み、アークの元へと歩み寄る。
でもその途中、なぜだかロウエンに手首を掴まれた。
「っ、ロウエンさん? どうしたの?」
「ロウエン、俺のスノウに何をしている」
珍しいくらい冷たいアークの声がロウエンに向けられる。
いつもならそれを揶揄うか簡単に躱すロウエンが、今は目を見開いて固まっていた。
いったいどうしたのだろう。心配になる。
「……っ、いえ。なんでもありません……」
なんでもなくないだろう、と思わず追及しようとした言葉を止めた。
珍しく動揺しているロウエンが、なんだか可哀想だったので。
離された手首をさすりながら、アークにすり寄る。
アークは瞬間的にロウエンに怒りを向けていたようだけれど、今は推し量るような目を向けていた。
「……痛むのか?」
「ううん、そんな強い力で掴まれてないよ」
そう答えながら、ふと思い出したことがあった。
ロウエンがスノウに向けた目に浮かんだ感情に似たものを、つい最近別の人から感じたのだ。
(出会った時のマルモと一緒……)
運命の番だと勘違いしたマルモと同じとは、どういうことだろう。
アークに抱きしめられて、頬にキスされながら、スノウは小さく首を傾げた。
「……俺と一緒にいる時に、別の男のことを考えては駄目だろう」
「え、ちが――」
咄嗟に否定しようとした言葉が、アークの口に飲み込まれる。
熱い舌が唇を割り、口内を舐め回してきた。
「んっ……んぅ……」
アークの首に縋りつく。
昨夜の行為で身体の奥に残っていた熾火が燃え上がるような感じがして、すぐに立っていられなくなってしまった。
ぷるぷると身体を震わせながら、必死に口づけにこたえる。
「……ふ、良い子だ、スノウ」
「アークは、悪い子だよ……」
ようやく口が離されて、荒くなった息を必死に整える。
アークの胸元に額を擦りつけ、背中に回した手で引っ掻いてやった。ちょっとは反省するといい。
「ふ、ふ……俺の可愛い子猫」
「猫じゃないもん」
引っ掻く力を強くしても、アークの身体は笑いで震えている。全然反省してくれない。
むぅ、と唇を尖らせてアークを睨むと、あやすように額にキスされた。それで機嫌が直ると思われるのは、なんとなく気に食わない。
「……にゃー」
あえて猫のように鳴いて、アークが驚いた隙に首筋に噛みついた。
血が出るほどではないけれど、ビクッと身体を震わせて、笑いがおさまったようだからよしとする。
「……俺を煽って、どうするんだ? 寝室に行くか」
「行かないよ!? お仕事ちゃんとして!」
思いもよらない提案をアークが真顔で呟くから、スノウの方が驚かされてしまった。
何をどうして煽られたのかなんて、聞くつもりはない。余計にスノウが翻弄されてしまいそうだから。
ぺしぺしとアークを叩きながら、執務に戻らせる。「そんなに可愛く怒るな」なんて甘い声で囁かれても、絆されない。
途中、ロウエンの方へとアークの視線が流れたのに気づき、ちょっと動きを止めてしまったけれど。
「文句を言わないなんて珍しいな」
「……執務をしてください」
「今更言われても。……残り香に反応してスノウの腕を掴んだこと、俺は許していないからな。覚悟しておけ」
残り香。
スノウは頭の中でその言葉を反芻して、「あぁ……」と声を漏らした。ロウエンが何に反応したのか分かってしまったのだ。
ふん、と鼻で笑ったアークを、ロウエンは忌々しそうに睨んでいたけれど、抗議や揶揄の言葉がその口から放たれることはなかった。
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