雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続々.雪豹くんと新しい家族

3-19.運命の番の効果

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 スライム族がぴょんぴょん、もちょもちょと動き回っている。
 医務室は思っていた以上にスライム族だらけだった。

「ふわぁ……見て、いっぱいいる……!」
「え、そんな興奮することですか? なんか悔しいっ。……私、元の姿に戻りましょうか」

 スライム族に嫉妬しているルイスの言葉を聞き流して、スノウは医務室内の椅子に座った。

 今日は患者がほとんどいなかったようで、遊びに来たと告げたら歓迎されたのだ。昨夜会った医師ドリーがにこにことお茶を出してくれる。

「いやぁ、まさか番様が遊びに来てくださるとは。面白いものはあまりありませんが、どうぞお寛ぎください」
「ありがとう。僕のことは気にせず、お仕事していいよ」

 にこりと微笑みを返す。
 あまり患者はいないとはいえ、今はマルモが診察に訪れていた。その様子が気にかかり、そわそわと視線を向けてしまう。

「お気遣いありがとうございます。――彼が、気にかかりますか?」

 問いかけられて、ドリーに視線を戻す。
 ドリーは痛ましげな目でマルモを見ていた。

「……うん。会ったのは昨日が初めてで、さっき医務室の前でばったり再会しただけなんだけど。なんか放っておけない感じの人だよね」

 スノウも、離れたところで診察を受けているマルモを眺めた。
 薄幸の佳人という雰囲気が、どうにも人目を惹きつける。独特な魅力がある人だと思った。

「そうですねぇ。見た目相応に、苦労を負ってきた子です。早く番が見つかるといいのですが……」
「なんの病気かって、聞いてもいいのかな」

 躊躇いがちに問いかけると、ドリーの目が僅かに細められた。
 少し身体を寄せられたのに気づいて、スノウも近づく。

「……フェロモン異常症の一種ですよ。上手くフェロモンが放出できなくて、身体に不調が生じているのです」
「お薬で治るの?」

 マルモが粉薬を飲んでいた。あれで少しは体調が良くなるのならいいのだけれど。

「焼け石に水程度には」
「……それ、ほとんど効果ないって言ってない?」

 じとりと見据える。ドリーは悲しそうな目で苦笑していた。

「病の根本を治すことはできません。症状を和らげる程度です」
「他に治療法はないの? 治癒魔法とか」

 アークの魔法を思い出して、スノウは少し身を乗り出す。
 スノウがお願いしたら、アークはすぐにマルモに治癒魔法を使ってくれるだろう。

 でも、スノウの期待はすぐに裏切られた。
 ドリーが残念そうに首を振る。

「無理ですね。治癒魔法は身体を元の状態に戻す魔法です。一方で、彼のフェロモン異常症は、生まれ持ってのもの。その症状があることが、彼にとっての正常なのです」
「……治癒魔法って万能じゃないんだね」
「昨夜の番様の症状にも対応できなかったでしょう?」

 指摘されて、スノウは静かに頷いた。
 スノウが思う以上に、魔法とは複雑で難しいようだ。

「――唯一の治療法は、彼のフェロモンに適合する番を見つけることです」
「フェロモンに適合……?」
「運命の番のことですよ」

 ドリーが僅かに目を伏せる。

「――運命の番は不思議な力を持っています。番えば寿命が同じになり、病さえも退ける」
「病を退けるなんて、初めて聞いたよ」

 スノウは目を丸くした。
 そんな話を聞いた覚えはない。でも、思い返してみると、スノウがこれまで医務室の世話になることが少なかったのは、そのおかげだったのかもしれない。

「詳しい原理は分かっていません。ですが、運命の番がいることで、身も心も安定し、病を得ることが少ないことは統計的に確かです。フェロモン異常症に対する唯一の特効薬であることも明らかになっています」
「そうなんだ……」

 ドリーの説明に納得する。運命の番が傍にいることで得られる安心感は、スノウの方が身を持って理解していたから。
 運命の番に、ドリーが言うような効果があっても不思議ではない。

 そうなると、マルモが病から回復するには運命の番が特効薬だという言葉も理解できるわけで――。

「マルモの運命の番かぁ」

 脳裏に浮かんだロウエンの姿。
 スノウが下手に干渉しない方がいいと分かっていたけれど、マルモがつらそうにしている姿を見ると、どうしても何かしてあげたくなってしまった。

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