雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続々.雪豹くんと新しい家族

3-17.察する

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 会話が止まっていたことにふと気づいた。
 思考に沈んでいたスノウや、クッキーをそれぞれに配っていたルイスはともかく、アークとロウエンはどうしたのだろう。

 ちらりと視線を向けると、ロウエンは会話を拒むように書類をさばいていた。
 ただ単に、早々に休憩を終えて仕事を片付けようとしているだけなのかもしれない。でも、なんとなく拒絶されているような雰囲気を感じる。

 アークはスノウと目が合った途端、何も言わずに首を横に振った。
 口にクッキーを放り込まれて、スノウはもぐもぐと食べる。鼻先を香茶の芳香がくすぐった。

(これって、やっぱり――)

 ここまで隠そうとする態度を見れば、スノウだって察するというものだ。
 いくら人間関係が狭く、他の番などに対する知識が乏しくても、ロウエンの態度があまりに不自然すぎる。
 そのことに違和感を覚える程度には、スノウはロウエンと親しくしている自負があった。

(ロウエンさんは、もしかして梅の香りがするの……?)

 思い返してみると、なんとなく納得できる。
 昨日から続く不審な様子は、ロウエンがマルモの番かもしれないと気づいていたからだったのだろう。

 ロウエンは現在番がいない。遥か昔に亡くしているから。
 運命の番を亡くせば、狂って後追いすると聞いたことがあるので、ロウエンの番は運命ではなかったのだろう。
 つまり、今運命に出会ってもまったくおかしくないのだ。

 しかし、それを受け入れられるとは限らない。
 ロウエンは番や息子を亡くしたことを、今でも精神的に引きずっていると思われる。その状態で新たな番を迎えられるだろうか。

(……う~ん……これは、難問だぞ……)

 なんとなくマルモを応援してあげたいという気持ちだったけれど、スノウは躊躇いが大きくなってしまった。
 だって、幸せになる道筋が見えない。

「騎士団とかに、梅の香りの人がいればいいなぁ……」

 ぽつりと呟く。
 わずかにロウエンの気配が揺れたのを感じて、スノウはそっと目を伏せた。

 ロウエンが今どんな気持ちなのか分からない。
 自分がマルモの番ではないことを祈っているのか。それとも、実は無意識に番の存在に惹かれているのか。

「スノウ。あまり他の男にかまけるな。俺のことだけ考えてくれ」
「アーク……」

 パチリと目が合う。
 アークはいつものように独占欲を発揮しているように見えて、実はスノウを窘めているのだと分かった。

 ロウエンの事情は複雑で重い。
 それに対してスノウが下手な干渉をすれば、悪い方へと事態が動きかねないのだ。お節介なんてお呼びじゃない。

「――うん、分かった。僕、大人しくしてる」

 騎士団や使用人たちから番候補者が挙がればマルモに紹介する。それ以外なら何もしない。
 そう心に決めた。

「ああ、良い子だ」

 アークの夕陽色の瞳が細められる。
 愛しげな眼差しで褒められて、額に優しくキスされて、スノウはふわりと尻尾を揺らした。

 ちらりと視線を向けた先で、ロウエンがホッと息をついているのが見えた。
 その顔には日に日に疲労感が滲んできているように思える。

(もし、マルモがロウエンさんの運命の番だったなら……。ロウエンは過去を乗り越えて、もう苦しまなくなれるのかなぁ。もっと幸せになれるのかなぁ)

 未来なんて分からない。スノウに何ができるとも思えない。
 でも、スノウは心からロウエンに幸せになってほしいと思っているのだ。

 幼い頃から傍にいて、ロウエンはアークと一緒にスノウを慈しんでくれた。
 ロウエンがスノウを可愛がってくれるのと同じくらい、スノウもロウエンが大好きだ。

 大好きな人が苦しんでいたらつらいし、幸せだったら嬉しい。

(見守るしかないのかな……)

 ロウエンのために何もできない自分がちょっぴり悲しくて、スノウはしょんぼりと耳を伏せた。
 アークのお腹に顔をこすりつけたら、落ち着く香りがする。

 スノウにとっては番の香りが一番の精神安定剤だ。ロウエンにとってもそうなればいいのに、と願ってやまない。

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