130 / 224
続々.雪豹くんと新しい家族
3-17.察する
しおりを挟む
会話が止まっていたことにふと気づいた。
思考に沈んでいたスノウや、クッキーをそれぞれに配っていたルイスはともかく、アークとロウエンはどうしたのだろう。
ちらりと視線を向けると、ロウエンは会話を拒むように書類をさばいていた。
ただ単に、早々に休憩を終えて仕事を片付けようとしているだけなのかもしれない。でも、なんとなく拒絶されているような雰囲気を感じる。
アークはスノウと目が合った途端、何も言わずに首を横に振った。
口にクッキーを放り込まれて、スノウはもぐもぐと食べる。鼻先を香茶の芳香がくすぐった。
(これって、やっぱり――)
ここまで隠そうとする態度を見れば、スノウだって察するというものだ。
いくら人間関係が狭く、他の番などに対する知識が乏しくても、ロウエンの態度があまりに不自然すぎる。
そのことに違和感を覚える程度には、スノウはロウエンと親しくしている自負があった。
(ロウエンさんは、もしかして梅の香りがするの……?)
思い返してみると、なんとなく納得できる。
昨日から続く不審な様子は、ロウエンがマルモの番かもしれないと気づいていたからだったのだろう。
ロウエンは現在番がいない。遥か昔に亡くしているから。
運命の番を亡くせば、狂って後追いすると聞いたことがあるので、ロウエンの番は運命ではなかったのだろう。
つまり、今運命に出会ってもまったくおかしくないのだ。
しかし、それを受け入れられるとは限らない。
ロウエンは番や息子を亡くしたことを、今でも精神的に引きずっていると思われる。その状態で新たな番を迎えられるだろうか。
(……う~ん……これは、難問だぞ……)
なんとなくマルモを応援してあげたいという気持ちだったけれど、スノウは躊躇いが大きくなってしまった。
だって、幸せになる道筋が見えない。
「騎士団とかに、梅の香りの人がいればいいなぁ……」
ぽつりと呟く。
わずかにロウエンの気配が揺れたのを感じて、スノウはそっと目を伏せた。
ロウエンが今どんな気持ちなのか分からない。
自分がマルモの番ではないことを祈っているのか。それとも、実は無意識に番の存在に惹かれているのか。
「スノウ。あまり他の男にかまけるな。俺のことだけ考えてくれ」
「アーク……」
パチリと目が合う。
アークはいつものように独占欲を発揮しているように見えて、実はスノウを窘めているのだと分かった。
ロウエンの事情は複雑で重い。
それに対してスノウが下手な干渉をすれば、悪い方へと事態が動きかねないのだ。お節介なんてお呼びじゃない。
「――うん、分かった。僕、大人しくしてる」
騎士団や使用人たちから番候補者が挙がればマルモに紹介する。それ以外なら何もしない。
そう心に決めた。
「ああ、良い子だ」
アークの夕陽色の瞳が細められる。
愛しげな眼差しで褒められて、額に優しくキスされて、スノウはふわりと尻尾を揺らした。
ちらりと視線を向けた先で、ロウエンがホッと息をついているのが見えた。
その顔には日に日に疲労感が滲んできているように思える。
(もし、マルモがロウエンさんの運命の番だったなら……。ロウエンは過去を乗り越えて、もう苦しまなくなれるのかなぁ。もっと幸せになれるのかなぁ)
未来なんて分からない。スノウに何ができるとも思えない。
でも、スノウは心からロウエンに幸せになってほしいと思っているのだ。
幼い頃から傍にいて、ロウエンはアークと一緒にスノウを慈しんでくれた。
ロウエンがスノウを可愛がってくれるのと同じくらい、スノウもロウエンが大好きだ。
大好きな人が苦しんでいたらつらいし、幸せだったら嬉しい。
(見守るしかないのかな……)
ロウエンのために何もできない自分がちょっぴり悲しくて、スノウはしょんぼりと耳を伏せた。
アークのお腹に顔をこすりつけたら、落ち着く香りがする。
スノウにとっては番の香りが一番の精神安定剤だ。ロウエンにとってもそうなればいいのに、と願ってやまない。
思考に沈んでいたスノウや、クッキーをそれぞれに配っていたルイスはともかく、アークとロウエンはどうしたのだろう。
ちらりと視線を向けると、ロウエンは会話を拒むように書類をさばいていた。
ただ単に、早々に休憩を終えて仕事を片付けようとしているだけなのかもしれない。でも、なんとなく拒絶されているような雰囲気を感じる。
アークはスノウと目が合った途端、何も言わずに首を横に振った。
口にクッキーを放り込まれて、スノウはもぐもぐと食べる。鼻先を香茶の芳香がくすぐった。
(これって、やっぱり――)
ここまで隠そうとする態度を見れば、スノウだって察するというものだ。
いくら人間関係が狭く、他の番などに対する知識が乏しくても、ロウエンの態度があまりに不自然すぎる。
そのことに違和感を覚える程度には、スノウはロウエンと親しくしている自負があった。
(ロウエンさんは、もしかして梅の香りがするの……?)
思い返してみると、なんとなく納得できる。
昨日から続く不審な様子は、ロウエンがマルモの番かもしれないと気づいていたからだったのだろう。
ロウエンは現在番がいない。遥か昔に亡くしているから。
運命の番を亡くせば、狂って後追いすると聞いたことがあるので、ロウエンの番は運命ではなかったのだろう。
つまり、今運命に出会ってもまったくおかしくないのだ。
しかし、それを受け入れられるとは限らない。
ロウエンは番や息子を亡くしたことを、今でも精神的に引きずっていると思われる。その状態で新たな番を迎えられるだろうか。
(……う~ん……これは、難問だぞ……)
なんとなくマルモを応援してあげたいという気持ちだったけれど、スノウは躊躇いが大きくなってしまった。
だって、幸せになる道筋が見えない。
「騎士団とかに、梅の香りの人がいればいいなぁ……」
ぽつりと呟く。
わずかにロウエンの気配が揺れたのを感じて、スノウはそっと目を伏せた。
ロウエンが今どんな気持ちなのか分からない。
自分がマルモの番ではないことを祈っているのか。それとも、実は無意識に番の存在に惹かれているのか。
「スノウ。あまり他の男にかまけるな。俺のことだけ考えてくれ」
「アーク……」
パチリと目が合う。
アークはいつものように独占欲を発揮しているように見えて、実はスノウを窘めているのだと分かった。
ロウエンの事情は複雑で重い。
それに対してスノウが下手な干渉をすれば、悪い方へと事態が動きかねないのだ。お節介なんてお呼びじゃない。
「――うん、分かった。僕、大人しくしてる」
騎士団や使用人たちから番候補者が挙がればマルモに紹介する。それ以外なら何もしない。
そう心に決めた。
「ああ、良い子だ」
アークの夕陽色の瞳が細められる。
愛しげな眼差しで褒められて、額に優しくキスされて、スノウはふわりと尻尾を揺らした。
ちらりと視線を向けた先で、ロウエンがホッと息をついているのが見えた。
その顔には日に日に疲労感が滲んできているように思える。
(もし、マルモがロウエンさんの運命の番だったなら……。ロウエンは過去を乗り越えて、もう苦しまなくなれるのかなぁ。もっと幸せになれるのかなぁ)
未来なんて分からない。スノウに何ができるとも思えない。
でも、スノウは心からロウエンに幸せになってほしいと思っているのだ。
幼い頃から傍にいて、ロウエンはアークと一緒にスノウを慈しんでくれた。
ロウエンがスノウを可愛がってくれるのと同じくらい、スノウもロウエンが大好きだ。
大好きな人が苦しんでいたらつらいし、幸せだったら嬉しい。
(見守るしかないのかな……)
ロウエンのために何もできない自分がちょっぴり悲しくて、スノウはしょんぼりと耳を伏せた。
アークのお腹に顔をこすりつけたら、落ち着く香りがする。
スノウにとっては番の香りが一番の精神安定剤だ。ロウエンにとってもそうなればいいのに、と願ってやまない。
106
お気に入りに追加
3,339
あなたにおすすめの小説
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!
華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。