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続々.雪豹くんと新しい家族
3-10.意味深な会話
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執務室に戻ってきて暫し。
就業時間を過ぎて持ち込まれた書類は、マルモのものだった。運んできたのは別人だけれど。
「あれ? マルモは?」
「マルモ、ですか? 彼はあまり体調が良くなくて、私の書類と一緒に持ってきたのですが、問題がありましたか?」
困惑した表情の狐族の男に慌てて手を振る。
「ううん、問題はないよ。ただ、マルモが来るのだと思っていただけ」
アークがチラリと視線を向けてきた。
「……マルモとは、さっき会ったという男だな」
「うん、綺麗な人だったんだよ。梅の香りのする番を探しているみたい」
マルモと話したことは、帰ってきてすぐにアークに報告している。
ぶつかりそうになったことや、運命の番だと間違われたことなどを聞いて、アークは少し眉を顰めていたけれど、さほど気にしていないはずだ。
「……梅の香り」
ロウエンがポツリと呟いた。アークはその様子を横目で眺め、少し悩ましげな表情を浮かべる。
「……そのマルモという者は、なぜ体調を崩しているんだ?」
「え……っと。確か、フェロモン異常症の治療の副作用だと……」
「なるほどな。常は自身のフェロモンが放たれていないということか」
「そのはずです。微量に放っているらしいですが、私は感じたことがないので」
狐族の男の答えに、アークが嘆息する。そして、再びロウエンにチラリと視線を向けた。
「……そうか。下がっていい」
「はっ……失礼いたします」
三人だけになると、部屋の中が静まる。
なんだか緊張感が漂っている気がして、スノウは戸惑った。
「梅の香りらしいぞ」
「そんな者、この世にたくさんいるでしょうね」
「……そうだな。似た香りは多そうだ」
アークとロウエンの会話がなんとなくおかしい。
スノウは二人を見比べて、ポツリと気づいたことを呟いた。
「もしかして心当たりがあるの?」
途端に会話が止まる。
アークは苦虫を噛んだような顔だ。ロウエンはいつも通りに見えるけれど、少し硬い気がする。
「……いえ。見つかればいいなと思っただけです」
「……そのようだな」
やはり二人の答えは不思議だった。
スノウは頬を膨らませて二人を見つめる。隠し事をされている感じなのが嫌だった。
「僕、マルモの番を探してあげようと思っているんだけど」
「やめておけ。見つかったからといっても、それで幸せになれるとは限らない」
アークの返答は早かった。
スノウは思いがけない言葉に目を丸くする。
「……運命の番が見つかって、幸せにならないことがあるの? 僕、アークと出会って、幸せいっぱいだけど」
納得できない。
どうしてアークは否定的なのだろう。アークもスノウと出会って幸せだと感じているはずなのに。
「……人それぞれ、事情があるということだ」
「むぅ……」
「……まぁ、百歩譲って、騎士団や他の職員の中から探してみるのはいい。スノウが直接探し回るのは駄目だが」
「……駄目なの?」
予想していた言葉だけれど、少しがっかりした。
諦めず、上目遣いにねだってみる。でも、それで揺らぐような思いではないと察していた。
「駄目だ。俺の番を有象無象に近づかせるつもりはない」
「……そう言うと思っていたけどねぇ」
苦笑して受け入れた。
アークはスノウに甘いけれど、こういう話で甘やかしてくることはない。アークの独占欲が勝るのだ。
「――騎士団で探してもらうのは頼んだし、後はルイスを通してお願いしてみようかなぁ」
ぽつりと呟きつつ仕事を再開した。
今日は仕分けする書類が多い。まだ帰れないようだ。アークと一緒に過ごせるからいいけれど。
「……見つかるといいな。――ロウエンも、そう思うだろう?」
「……ええ、そうですね。心からそう願っていますよ」
ロウエンの声は、言葉とは裏腹に少し苦しそうだった。
就業時間を過ぎて持ち込まれた書類は、マルモのものだった。運んできたのは別人だけれど。
「あれ? マルモは?」
「マルモ、ですか? 彼はあまり体調が良くなくて、私の書類と一緒に持ってきたのですが、問題がありましたか?」
困惑した表情の狐族の男に慌てて手を振る。
「ううん、問題はないよ。ただ、マルモが来るのだと思っていただけ」
アークがチラリと視線を向けてきた。
「……マルモとは、さっき会ったという男だな」
「うん、綺麗な人だったんだよ。梅の香りのする番を探しているみたい」
マルモと話したことは、帰ってきてすぐにアークに報告している。
ぶつかりそうになったことや、運命の番だと間違われたことなどを聞いて、アークは少し眉を顰めていたけれど、さほど気にしていないはずだ。
「……梅の香り」
ロウエンがポツリと呟いた。アークはその様子を横目で眺め、少し悩ましげな表情を浮かべる。
「……そのマルモという者は、なぜ体調を崩しているんだ?」
「え……っと。確か、フェロモン異常症の治療の副作用だと……」
「なるほどな。常は自身のフェロモンが放たれていないということか」
「そのはずです。微量に放っているらしいですが、私は感じたことがないので」
狐族の男の答えに、アークが嘆息する。そして、再びロウエンにチラリと視線を向けた。
「……そうか。下がっていい」
「はっ……失礼いたします」
三人だけになると、部屋の中が静まる。
なんだか緊張感が漂っている気がして、スノウは戸惑った。
「梅の香りらしいぞ」
「そんな者、この世にたくさんいるでしょうね」
「……そうだな。似た香りは多そうだ」
アークとロウエンの会話がなんとなくおかしい。
スノウは二人を見比べて、ポツリと気づいたことを呟いた。
「もしかして心当たりがあるの?」
途端に会話が止まる。
アークは苦虫を噛んだような顔だ。ロウエンはいつも通りに見えるけれど、少し硬い気がする。
「……いえ。見つかればいいなと思っただけです」
「……そのようだな」
やはり二人の答えは不思議だった。
スノウは頬を膨らませて二人を見つめる。隠し事をされている感じなのが嫌だった。
「僕、マルモの番を探してあげようと思っているんだけど」
「やめておけ。見つかったからといっても、それで幸せになれるとは限らない」
アークの返答は早かった。
スノウは思いがけない言葉に目を丸くする。
「……運命の番が見つかって、幸せにならないことがあるの? 僕、アークと出会って、幸せいっぱいだけど」
納得できない。
どうしてアークは否定的なのだろう。アークもスノウと出会って幸せだと感じているはずなのに。
「……人それぞれ、事情があるということだ」
「むぅ……」
「……まぁ、百歩譲って、騎士団や他の職員の中から探してみるのはいい。スノウが直接探し回るのは駄目だが」
「……駄目なの?」
予想していた言葉だけれど、少しがっかりした。
諦めず、上目遣いにねだってみる。でも、それで揺らぐような思いではないと察していた。
「駄目だ。俺の番を有象無象に近づかせるつもりはない」
「……そう言うと思っていたけどねぇ」
苦笑して受け入れた。
アークはスノウに甘いけれど、こういう話で甘やかしてくることはない。アークの独占欲が勝るのだ。
「――騎士団で探してもらうのは頼んだし、後はルイスを通してお願いしてみようかなぁ」
ぽつりと呟きつつ仕事を再開した。
今日は仕分けする書類が多い。まだ帰れないようだ。アークと一緒に過ごせるからいいけれど。
「……見つかるといいな。――ロウエンも、そう思うだろう?」
「……ええ、そうですね。心からそう願っていますよ」
ロウエンの声は、言葉とは裏腹に少し苦しそうだった。
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