150 / 251
続々.雪豹くんと新しい家族
3-10.意味深な会話
しおりを挟む
執務室に戻ってきて暫し。
就業時間を過ぎて持ち込まれた書類は、マルモのものだった。運んできたのは別人だけれど。
「あれ? マルモは?」
「マルモ、ですか? 彼はあまり体調が良くなくて、私の書類と一緒に持ってきたのですが、問題がありましたか?」
困惑した表情の狐族の男に慌てて手を振る。
「ううん、問題はないよ。ただ、マルモが来るのだと思っていただけ」
アークがチラリと視線を向けてきた。
「……マルモとは、さっき会ったという男だな」
「うん、綺麗な人だったんだよ。梅の香りのする番を探しているみたい」
マルモと話したことは、帰ってきてすぐにアークに報告している。
ぶつかりそうになったことや、運命の番だと間違われたことなどを聞いて、アークは少し眉を顰めていたけれど、さほど気にしていないはずだ。
「……梅の香り」
ロウエンがポツリと呟いた。アークはその様子を横目で眺め、少し悩ましげな表情を浮かべる。
「……そのマルモという者は、なぜ体調を崩しているんだ?」
「え……っと。確か、フェロモン異常症の治療の副作用だと……」
「なるほどな。常は自身のフェロモンが放たれていないということか」
「そのはずです。微量に放っているらしいですが、私は感じたことがないので」
狐族の男の答えに、アークが嘆息する。そして、再びロウエンにチラリと視線を向けた。
「……そうか。下がっていい」
「はっ……失礼いたします」
三人だけになると、部屋の中が静まる。
なんだか緊張感が漂っている気がして、スノウは戸惑った。
「梅の香りらしいぞ」
「そんな者、この世にたくさんいるでしょうね」
「……そうだな。似た香りは多そうだ」
アークとロウエンの会話がなんとなくおかしい。
スノウは二人を見比べて、ポツリと気づいたことを呟いた。
「もしかして心当たりがあるの?」
途端に会話が止まる。
アークは苦虫を噛んだような顔だ。ロウエンはいつも通りに見えるけれど、少し硬い気がする。
「……いえ。見つかればいいなと思っただけです」
「……そのようだな」
やはり二人の答えは不思議だった。
スノウは頬を膨らませて二人を見つめる。隠し事をされている感じなのが嫌だった。
「僕、マルモの番を探してあげようと思っているんだけど」
「やめておけ。見つかったからといっても、それで幸せになれるとは限らない」
アークの返答は早かった。
スノウは思いがけない言葉に目を丸くする。
「……運命の番が見つかって、幸せにならないことがあるの? 僕、アークと出会って、幸せいっぱいだけど」
納得できない。
どうしてアークは否定的なのだろう。アークもスノウと出会って幸せだと感じているはずなのに。
「……人それぞれ、事情があるということだ」
「むぅ……」
「……まぁ、百歩譲って、騎士団や他の職員の中から探してみるのはいい。スノウが直接探し回るのは駄目だが」
「……駄目なの?」
予想していた言葉だけれど、少しがっかりした。
諦めず、上目遣いにねだってみる。でも、それで揺らぐような思いではないと察していた。
「駄目だ。俺の番を有象無象に近づかせるつもりはない」
「……そう言うと思っていたけどねぇ」
苦笑して受け入れた。
アークはスノウに甘いけれど、こういう話で甘やかしてくることはない。アークの独占欲が勝るのだ。
「――騎士団で探してもらうのは頼んだし、後はルイスを通してお願いしてみようかなぁ」
ぽつりと呟きつつ仕事を再開した。
今日は仕分けする書類が多い。まだ帰れないようだ。アークと一緒に過ごせるからいいけれど。
「……見つかるといいな。――ロウエンも、そう思うだろう?」
「……ええ、そうですね。心からそう願っていますよ」
ロウエンの声は、言葉とは裏腹に少し苦しそうだった。
就業時間を過ぎて持ち込まれた書類は、マルモのものだった。運んできたのは別人だけれど。
「あれ? マルモは?」
「マルモ、ですか? 彼はあまり体調が良くなくて、私の書類と一緒に持ってきたのですが、問題がありましたか?」
困惑した表情の狐族の男に慌てて手を振る。
「ううん、問題はないよ。ただ、マルモが来るのだと思っていただけ」
アークがチラリと視線を向けてきた。
「……マルモとは、さっき会ったという男だな」
「うん、綺麗な人だったんだよ。梅の香りのする番を探しているみたい」
マルモと話したことは、帰ってきてすぐにアークに報告している。
ぶつかりそうになったことや、運命の番だと間違われたことなどを聞いて、アークは少し眉を顰めていたけれど、さほど気にしていないはずだ。
「……梅の香り」
ロウエンがポツリと呟いた。アークはその様子を横目で眺め、少し悩ましげな表情を浮かべる。
「……そのマルモという者は、なぜ体調を崩しているんだ?」
「え……っと。確か、フェロモン異常症の治療の副作用だと……」
「なるほどな。常は自身のフェロモンが放たれていないということか」
「そのはずです。微量に放っているらしいですが、私は感じたことがないので」
狐族の男の答えに、アークが嘆息する。そして、再びロウエンにチラリと視線を向けた。
「……そうか。下がっていい」
「はっ……失礼いたします」
三人だけになると、部屋の中が静まる。
なんだか緊張感が漂っている気がして、スノウは戸惑った。
「梅の香りらしいぞ」
「そんな者、この世にたくさんいるでしょうね」
「……そうだな。似た香りは多そうだ」
アークとロウエンの会話がなんとなくおかしい。
スノウは二人を見比べて、ポツリと気づいたことを呟いた。
「もしかして心当たりがあるの?」
途端に会話が止まる。
アークは苦虫を噛んだような顔だ。ロウエンはいつも通りに見えるけれど、少し硬い気がする。
「……いえ。見つかればいいなと思っただけです」
「……そのようだな」
やはり二人の答えは不思議だった。
スノウは頬を膨らませて二人を見つめる。隠し事をされている感じなのが嫌だった。
「僕、マルモの番を探してあげようと思っているんだけど」
「やめておけ。見つかったからといっても、それで幸せになれるとは限らない」
アークの返答は早かった。
スノウは思いがけない言葉に目を丸くする。
「……運命の番が見つかって、幸せにならないことがあるの? 僕、アークと出会って、幸せいっぱいだけど」
納得できない。
どうしてアークは否定的なのだろう。アークもスノウと出会って幸せだと感じているはずなのに。
「……人それぞれ、事情があるということだ」
「むぅ……」
「……まぁ、百歩譲って、騎士団や他の職員の中から探してみるのはいい。スノウが直接探し回るのは駄目だが」
「……駄目なの?」
予想していた言葉だけれど、少しがっかりした。
諦めず、上目遣いにねだってみる。でも、それで揺らぐような思いではないと察していた。
「駄目だ。俺の番を有象無象に近づかせるつもりはない」
「……そう言うと思っていたけどねぇ」
苦笑して受け入れた。
アークはスノウに甘いけれど、こういう話で甘やかしてくることはない。アークの独占欲が勝るのだ。
「――騎士団で探してもらうのは頼んだし、後はルイスを通してお願いしてみようかなぁ」
ぽつりと呟きつつ仕事を再開した。
今日は仕分けする書類が多い。まだ帰れないようだ。アークと一緒に過ごせるからいいけれど。
「……見つかるといいな。――ロウエンも、そう思うだろう?」
「……ええ、そうですね。心からそう願っていますよ」
ロウエンの声は、言葉とは裏腹に少し苦しそうだった。
52
お気に入りに追加
3,183
あなたにおすすめの小説
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる