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続.雪豹くんと魔王さま
2-51.帰路
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雪豹の里には三日間滞在した。
母や里のみんなに会えたのは初日だけ。それが少し寂しい。
でも、自分の中で過去へ一区切りついた気がして、晴れやかな気分でもあった。
(過去はどうやったって変わらない。でも、これからどう生きるかは、僕が決めていけるんだ……)
籠車の窓から外を見る。
威容のある黒い城があった。スノウが暮らす場所だ。
長いようで短かった旅路。
スノウはたくさんのことを学べた。愛する人たちと再び思いを交わすことができた。
「僕、成長できたかな……」
「スノウは日増しに成長していると思うよ。本当に頑張っているからね」
ラトが眩しそうに目を細めて言った。
認めてもらえて、嬉しいような、くすぐったいような、落ち着かない心地がする。
「……調子に乗っちゃうから、あんまり褒め過ぎちゃダメなんだよ」
「良い子なスノウをいくら褒めたって、悪いことにはならないと思うけど」
クスッと笑うと、ラトは外に目を向けた。
「――魔王城、か。……スノウはあそこで幸せ?」
「うん、もちろん。みんな優しくて、お仕事も楽しいんだよ。おばあ様がまた来てくれて嬉しい」
ラトとナイトは帰路までスノウたちと共にすることになった。スノウに子どもができた場合の前準備を魔王城でしてくれるらしい。
その後白狼の里に帰るのを、スノウは見送ることになる。
(きっと、昔みたいにすっごく寂しくなるんだろうなぁ……)
スノウに子どもができた時に手助けしに来てくれると分かっている。でも、別れはいつだって悲しいものだ。
「陛下がいるから心配はしていないけどね」
ラトがスノウの頬を撫でる。
その目に滲むのは慈しみと愁い。ラトにとっての息子ランドのことを思い出しているのかもしれない。
スノウのように里のみんなの思いに触れられなかったからか、ラトは悲しみを引きずっているようだ。
「……うん。僕にはアークがいて、ルイスがいて――城にたくさんの仲間がいるの。だから、心配しなくて大丈夫だよ。僕はずっと元気だからね。それより、おばあ樣の方が
、健康に気をつけてほしいな!」
にこりと笑って伝える。
過去を悲しむよりも、未来を楽しみにして生きる方が絶対楽しい。ラトにもそう思ってほしかった。
「――僕、雪豹の子生むから。おばあ様にはその子たちにもいろんなことを教えてもらわないといけないんだよ。だから長生きしてね」
ラトは意表を突かれたように目をパチパチとさせていた。
でも、スノウが伝えたい思いはしっかり伝わったのか、ラトの目からは愁いが消え、顔に笑みが広がる。
「……ああ、そうだったね。……楽しみだ」
「ふふ、きっと可愛いだろうなぁ」
「そうだね。スノウの子だから。……でも、子育てはスノウも頑張らないと」
鼻頭をツンとつつかれる。
厳しい顔を装って注意されても、スノウは全然悲しくならない。むしろ少し嬉しくて「はーい」と応える声が弾んでいた。
「……まだまだ子どもにしか見えないんだがなぁ」
「おじい様、それ結構傷つくんだけど」
黙っていたナイトが不意に放った言葉に反応して、軽く睨む。
子どもと言われる年は過ぎている。ラトは成長を認めてくれたというのに、ナイトはまだスノウを子ども扱いしたいようだ。
「このじいさんの言葉は聞き流しな。ただ孫を早々に男にとられて拗ねているだけだから」
「……おじい様に初めて会った時から、僕はアークのだったよ。まだ番っていはいなかったけど」
小さく首を傾げる。
ラトが「確かに! 押しかけじいさんでしかないね」と楽しそうに笑った。ナイトは憮然とした表情だ。
「……ひと目見た時から、俺の孫だと感じたんだ。できれば里に連れ帰りたかった」
ぼそりとした呟き。
思いもしなかった言葉に、スノウは目を丸くした。
「雪豹なのに?」
「ああ。ランドもそうだったが……二人は俺の家族だよ」
白狼のナイトは雪豹として生まれたランドやスノウをきちんと家族として認めていた。それは節々で伝わってきていたけれど、こうして言葉にしてもらえるとより嬉しい。
白狼の里では部外者を拒む雰囲気があるのを実際に感じた。ナイトもまた、番であるラト以外の雪豹は家族ではないと拒んでも、本来は仕方ないことなのだ。
それなのに、こうして愛情を傾けてもらえることは、本当に奇跡的なことだ。
「……おじい様は、僕のおじい様だよ。僕はアークと番になったけど、おじい様と家族なのはずっと変わらないと思ってる」
「そうだな」
「僕の子どももおじい様の家族かな?」
尋ねると、ナイトは「そんなことは考えたことがなかった……」と言って目を丸くした。
「――雪豹の子なら、そう思うかもしれない」
「竜族は無理?」
「……難しい気がするな。会ってみなければ分からないが」
やはりそうか、とスノウは小さくため息をついた。
スノウを家族として認めてくれているだけでもありがたいので、多くは望まないことにする。
「未来のことは分からないだろうよ。スノウは元気な子を生めるかどうかだけ、気にしておけばいい」
ラトが仕方なさそうに笑いながら励ましてくれる。
スノウは笑みを浮かべて、「うん」と答えた。
母や里のみんなに会えたのは初日だけ。それが少し寂しい。
でも、自分の中で過去へ一区切りついた気がして、晴れやかな気分でもあった。
(過去はどうやったって変わらない。でも、これからどう生きるかは、僕が決めていけるんだ……)
籠車の窓から外を見る。
威容のある黒い城があった。スノウが暮らす場所だ。
長いようで短かった旅路。
スノウはたくさんのことを学べた。愛する人たちと再び思いを交わすことができた。
「僕、成長できたかな……」
「スノウは日増しに成長していると思うよ。本当に頑張っているからね」
ラトが眩しそうに目を細めて言った。
認めてもらえて、嬉しいような、くすぐったいような、落ち着かない心地がする。
「……調子に乗っちゃうから、あんまり褒め過ぎちゃダメなんだよ」
「良い子なスノウをいくら褒めたって、悪いことにはならないと思うけど」
クスッと笑うと、ラトは外に目を向けた。
「――魔王城、か。……スノウはあそこで幸せ?」
「うん、もちろん。みんな優しくて、お仕事も楽しいんだよ。おばあ様がまた来てくれて嬉しい」
ラトとナイトは帰路までスノウたちと共にすることになった。スノウに子どもができた場合の前準備を魔王城でしてくれるらしい。
その後白狼の里に帰るのを、スノウは見送ることになる。
(きっと、昔みたいにすっごく寂しくなるんだろうなぁ……)
スノウに子どもができた時に手助けしに来てくれると分かっている。でも、別れはいつだって悲しいものだ。
「陛下がいるから心配はしていないけどね」
ラトがスノウの頬を撫でる。
その目に滲むのは慈しみと愁い。ラトにとっての息子ランドのことを思い出しているのかもしれない。
スノウのように里のみんなの思いに触れられなかったからか、ラトは悲しみを引きずっているようだ。
「……うん。僕にはアークがいて、ルイスがいて――城にたくさんの仲間がいるの。だから、心配しなくて大丈夫だよ。僕はずっと元気だからね。それより、おばあ樣の方が
、健康に気をつけてほしいな!」
にこりと笑って伝える。
過去を悲しむよりも、未来を楽しみにして生きる方が絶対楽しい。ラトにもそう思ってほしかった。
「――僕、雪豹の子生むから。おばあ様にはその子たちにもいろんなことを教えてもらわないといけないんだよ。だから長生きしてね」
ラトは意表を突かれたように目をパチパチとさせていた。
でも、スノウが伝えたい思いはしっかり伝わったのか、ラトの目からは愁いが消え、顔に笑みが広がる。
「……ああ、そうだったね。……楽しみだ」
「ふふ、きっと可愛いだろうなぁ」
「そうだね。スノウの子だから。……でも、子育てはスノウも頑張らないと」
鼻頭をツンとつつかれる。
厳しい顔を装って注意されても、スノウは全然悲しくならない。むしろ少し嬉しくて「はーい」と応える声が弾んでいた。
「……まだまだ子どもにしか見えないんだがなぁ」
「おじい様、それ結構傷つくんだけど」
黙っていたナイトが不意に放った言葉に反応して、軽く睨む。
子どもと言われる年は過ぎている。ラトは成長を認めてくれたというのに、ナイトはまだスノウを子ども扱いしたいようだ。
「このじいさんの言葉は聞き流しな。ただ孫を早々に男にとられて拗ねているだけだから」
「……おじい様に初めて会った時から、僕はアークのだったよ。まだ番っていはいなかったけど」
小さく首を傾げる。
ラトが「確かに! 押しかけじいさんでしかないね」と楽しそうに笑った。ナイトは憮然とした表情だ。
「……ひと目見た時から、俺の孫だと感じたんだ。できれば里に連れ帰りたかった」
ぼそりとした呟き。
思いもしなかった言葉に、スノウは目を丸くした。
「雪豹なのに?」
「ああ。ランドもそうだったが……二人は俺の家族だよ」
白狼のナイトは雪豹として生まれたランドやスノウをきちんと家族として認めていた。それは節々で伝わってきていたけれど、こうして言葉にしてもらえるとより嬉しい。
白狼の里では部外者を拒む雰囲気があるのを実際に感じた。ナイトもまた、番であるラト以外の雪豹は家族ではないと拒んでも、本来は仕方ないことなのだ。
それなのに、こうして愛情を傾けてもらえることは、本当に奇跡的なことだ。
「……おじい様は、僕のおじい様だよ。僕はアークと番になったけど、おじい様と家族なのはずっと変わらないと思ってる」
「そうだな」
「僕の子どももおじい様の家族かな?」
尋ねると、ナイトは「そんなことは考えたことがなかった……」と言って目を丸くした。
「――雪豹の子なら、そう思うかもしれない」
「竜族は無理?」
「……難しい気がするな。会ってみなければ分からないが」
やはりそうか、とスノウは小さくため息をついた。
スノウを家族として認めてくれているだけでもありがたいので、多くは望まないことにする。
「未来のことは分からないだろうよ。スノウは元気な子を生めるかどうかだけ、気にしておけばいい」
ラトが仕方なさそうに笑いながら励ましてくれる。
スノウは笑みを浮かべて、「うん」と答えた。
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