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続.雪豹くんと魔王さま
2-49.雪豹の里⑤
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「雪豹族は死ぬ前に祈りの魔法をかけた。もうすぐ失われる命なんだ。代償の大きな魔法を使うのに躊躇はなかっただろう」
「……うん、みんな、思い切りが良かったから」
繊細な見かけに反する意志の強さは雪豹の特徴だ。
大切なものを守るためなら、我が身を挺する。母がスノウをそうやって守ったように。
「そうらしいな。――祈りの魔法は確かに発動した。だが、残念なことに、周囲から魔力が消失していた状態の雪豹の里では、ただちに効果を発現することができなかった」
少し微笑んでからアークが説明を続ける。
その言葉はスノウにたくさんの光景を想像させた。
倒れた雪豹たち。
彼らは最期の力を振り絞り、祈りの魔法を使う。
『同族が幸せに生きられるように。愛しい者たちが無惨に命を奪われることがないように』
その想いは彼らの命が対価として取られても、効果を発揮できなかった。人間の卑しい企みのせいで。
祈る想いはこの地に眠った。
そして、十分な魔力がこの地に満ちてからは、時折魔法の対象になる者を探すように具現化していた。
「遺された同族を探すため、祈りの籠められた魔力は雪豹の形をとって彷徨っていた。吸血鬼族たちは、その姿をしっかりと認めることはできなかったようだが。そのせいで、不審なものとして報告された。攻撃を加えることもできず、攻撃されることもなかったからな。純粋なる想いは、雪豹族を探していただけだった」
「……それは、幽霊とは違うの? みんなが、苦しんで彷徨っていたわけじゃない?」
もし彼らの魂が彷徨っていたのなら、そんな悲しいことはない。
スノウは彼らに安らかな眠りがあることを願っていた。悲しいことも、苦しいこともない、安らぎを得てほしかった。
「雪豹自身が彷徨っていたわけではないだろう。彼らの遺した想いが、祈りが、魔力を纏って現れただけだ」
「……そっか。それなら、良かった」
つまり、スノウが今夜出会った母たちも、実際にはいなくて、想いを載せた魔力だったということか。
そのことに安堵するべきなのに、どうしてか、少しだけ寂しかった。
「……スノウは、いい子だな」
「子どもじゃないもん。……それに、いい子はこんなこと考えない」
母の温もりに包まれたかった。たくさん話をしたかった。
安らかに眠っていてほしいと思うのに、傍にいてほしいとも願ってしまう。
そんな自分が嫌だ。
スノウは頭を撫でてくる手を避けるように、アークにぎゅっと抱きついた。
「……雪豹たちも、スノウに会いたかっただろう。傍にいたかっただろう」
「そうかな……」
「ああ。――だから、スノウを連れて行った」
その言葉の意味が分からなくて、スノウはパチリと目を瞬かせる。
アークが苦い表情をしていた。
「僕を連れて行ったのは、幸せになってね、って言葉を伝えるためじゃないの?」
「そう言うためだけだったら、俺の腕から連れ去る必要はないだろう」
「そうかな……?」
どういうことだろう。
頭を悩ませたところで、答えは見つからない。
潔く降参してアークに首を傾げる。
「――雪豹たちは死の間際、確かに同族の幸せを望んでいた。だが同時に、一人で死ぬ寂しさも感じていた。祈りの魔法は、そんな想いも汲み取ったんだろう」
「……だから、僕を、連れて行った? 守りたいけど、一緒にいたいと思って?」
予想もしない言葉だった。でも、どこか腑に落ちた気がする。
純粋な正しさだけで生きられる者がどれほどいるだろう。どれほど強かったとしても、死の直前に少し弱くなっても仕方ない。
「――みんな、僕と一緒にいたかったんだ」
「ああ。だが、スノウを――遺された唯一の同族を守りたいという想いのほうが強かった。だから、俺はスノウを見つけられた」
「アークは、僕を守る人だって、みんなが認めてくれたんだね」
微笑んでアークに抱きつく。
雪豹たちの想いを知ったところで、それに怯えることはない。だって、スノウは彼らの優しさを知っている。
彼らが一時的にスノウとアークを引き離したところで、永遠の別離をもたらすはずがないのだ。
スノウにとって、アークと共に生きられる未来が、幸せなのだから。
「……祈りの魔法はもう消えたの?」
スノウに一時の優しい夢をもたらした魔法。
慕わしい母やみんなに会えて、スノウは幸せだった。みんながずっとスノウを慈しんでいてくれたことが分かったから。
「いや。……祈りの魔法は、守護の魔法だと言っただろう?」
アークの手がスノウの背を優しく叩く。
途端に胸にフワッと温もりが満ちるような心地がした。
「――祈りの魔法は、雪豹たちの想いを乗せて、スノウに辿り着いた。これからも、スノウを守るためにその身と共にあり続ける」
この温もりはみんなの想いなのか。
スノウは頬を濡らして、震える唇に笑みをのせた。
「……僕、世界で一番の幸せ者になれるね」
「俺もいるんだから、当然だろう」
アークは雪豹たちに少しだけ対抗意識を燃やしているみたい。
そんな姿がなんだか可愛く思えて、スノウはふふっと笑った。
「……うん、みんな、思い切りが良かったから」
繊細な見かけに反する意志の強さは雪豹の特徴だ。
大切なものを守るためなら、我が身を挺する。母がスノウをそうやって守ったように。
「そうらしいな。――祈りの魔法は確かに発動した。だが、残念なことに、周囲から魔力が消失していた状態の雪豹の里では、ただちに効果を発現することができなかった」
少し微笑んでからアークが説明を続ける。
その言葉はスノウにたくさんの光景を想像させた。
倒れた雪豹たち。
彼らは最期の力を振り絞り、祈りの魔法を使う。
『同族が幸せに生きられるように。愛しい者たちが無惨に命を奪われることがないように』
その想いは彼らの命が対価として取られても、効果を発揮できなかった。人間の卑しい企みのせいで。
祈る想いはこの地に眠った。
そして、十分な魔力がこの地に満ちてからは、時折魔法の対象になる者を探すように具現化していた。
「遺された同族を探すため、祈りの籠められた魔力は雪豹の形をとって彷徨っていた。吸血鬼族たちは、その姿をしっかりと認めることはできなかったようだが。そのせいで、不審なものとして報告された。攻撃を加えることもできず、攻撃されることもなかったからな。純粋なる想いは、雪豹族を探していただけだった」
「……それは、幽霊とは違うの? みんなが、苦しんで彷徨っていたわけじゃない?」
もし彼らの魂が彷徨っていたのなら、そんな悲しいことはない。
スノウは彼らに安らかな眠りがあることを願っていた。悲しいことも、苦しいこともない、安らぎを得てほしかった。
「雪豹自身が彷徨っていたわけではないだろう。彼らの遺した想いが、祈りが、魔力を纏って現れただけだ」
「……そっか。それなら、良かった」
つまり、スノウが今夜出会った母たちも、実際にはいなくて、想いを載せた魔力だったということか。
そのことに安堵するべきなのに、どうしてか、少しだけ寂しかった。
「……スノウは、いい子だな」
「子どもじゃないもん。……それに、いい子はこんなこと考えない」
母の温もりに包まれたかった。たくさん話をしたかった。
安らかに眠っていてほしいと思うのに、傍にいてほしいとも願ってしまう。
そんな自分が嫌だ。
スノウは頭を撫でてくる手を避けるように、アークにぎゅっと抱きついた。
「……雪豹たちも、スノウに会いたかっただろう。傍にいたかっただろう」
「そうかな……」
「ああ。――だから、スノウを連れて行った」
その言葉の意味が分からなくて、スノウはパチリと目を瞬かせる。
アークが苦い表情をしていた。
「僕を連れて行ったのは、幸せになってね、って言葉を伝えるためじゃないの?」
「そう言うためだけだったら、俺の腕から連れ去る必要はないだろう」
「そうかな……?」
どういうことだろう。
頭を悩ませたところで、答えは見つからない。
潔く降参してアークに首を傾げる。
「――雪豹たちは死の間際、確かに同族の幸せを望んでいた。だが同時に、一人で死ぬ寂しさも感じていた。祈りの魔法は、そんな想いも汲み取ったんだろう」
「……だから、僕を、連れて行った? 守りたいけど、一緒にいたいと思って?」
予想もしない言葉だった。でも、どこか腑に落ちた気がする。
純粋な正しさだけで生きられる者がどれほどいるだろう。どれほど強かったとしても、死の直前に少し弱くなっても仕方ない。
「――みんな、僕と一緒にいたかったんだ」
「ああ。だが、スノウを――遺された唯一の同族を守りたいという想いのほうが強かった。だから、俺はスノウを見つけられた」
「アークは、僕を守る人だって、みんなが認めてくれたんだね」
微笑んでアークに抱きつく。
雪豹たちの想いを知ったところで、それに怯えることはない。だって、スノウは彼らの優しさを知っている。
彼らが一時的にスノウとアークを引き離したところで、永遠の別離をもたらすはずがないのだ。
スノウにとって、アークと共に生きられる未来が、幸せなのだから。
「……祈りの魔法はもう消えたの?」
スノウに一時の優しい夢をもたらした魔法。
慕わしい母やみんなに会えて、スノウは幸せだった。みんながずっとスノウを慈しんでいてくれたことが分かったから。
「いや。……祈りの魔法は、守護の魔法だと言っただろう?」
アークの手がスノウの背を優しく叩く。
途端に胸にフワッと温もりが満ちるような心地がした。
「――祈りの魔法は、雪豹たちの想いを乗せて、スノウに辿り着いた。これからも、スノウを守るためにその身と共にあり続ける」
この温もりはみんなの想いなのか。
スノウは頬を濡らして、震える唇に笑みをのせた。
「……僕、世界で一番の幸せ者になれるね」
「俺もいるんだから、当然だろう」
アークは雪豹たちに少しだけ対抗意識を燃やしているみたい。
そんな姿がなんだか可愛く思えて、スノウはふふっと笑った。
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