雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続.雪豹くんと魔王さま

2-43.旅立ちへ③

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 急遽増えた同行人。
 どうやって行くのかな? と思っていたら、アークの傍に大きな箱のようなものが現れた。縮小玉から取り出したらしい。

「それなぁに?」

 族長たちとの話を終えて出発の準備を整えているアークの傍に駆け寄る。
 まじまじと箱を見つめてみるけれど、中にベンチのようなものがあることしか分からなかった。小さな家みたい。ガゼボかな。

「あー、これ使うんですねー。それなら私もこの状態でついていけます! ありがとうございますー」

 椅子から人型に変化したルイスが、嬉しそうに顔を綻ばせる。
 いそいそと箱の中を確認して、荷物から取り出したクッションを詰め始めた。どんどん居心地が良くなっているみたいだけれど、結局これはなんだろう。

「別にお前のためじゃない。――スノウ。これは籠車かごしゃだ」

 首を傾げるスノウを後ろから抱きしめ、アークが耳を食む。そこで喋られるとくすぐったくて、スノウは首をすくめた。

「籠車って……もしかして、僕たちがこの中に入って運ばれるの?」

 スノウの脳裏に浮かんだのは、鳥系の獣人が荷物を運ぶ姿だ。
 彼らは荷運びとして重宝されていて、街に行くと荷物を抱えて飛んでいるところをよく目にする。そして、たくさんの小さな荷物を運ぶ際は、大きな木箱に詰めてまとめているのだ。
 ちょうど、今スノウが目にしている箱のように――。

(僕たち、荷物じゃないんだけど……)

 なんとも複雑な思いがこみ上げてくるのは仕方ない。だって、スノウはアークに抱かれて飛ぶのを結構気に入っていたのだ。
 それが急になしだと言われて、荷物のように運ばれるなんて、ちょっと嫌だ。

 一方で、ラトたちと共に行くとなったら、これが一番良い方法だということは納得している。そのような方法があったのかと、感心してもいた。

「そうだ。――俺はスノウを抱きしめて飛びたいんだが」

 アークの頬がすりすりと寄せられる。甘えられている感じで悪い気はしない。むしろ嬉しい。

 スノウはゴロゴロと喉を鳴らしてアークの胸元にすり寄る。
 ラトやナイトだけでなく、白狼族から生暖かい目を向けられていても気にしない。番なんだから、これくらいじゃれるのは普通だもの。……たぶん。

「僕もアークから離れてるのは寂しいけど、我慢だね。これ、アークが運んでくれるの?」

 普段鳥系の獣人が運んでいる箱より大きい。そして、このサイズの箱を運べそうなのはここにアークしかいない。吸血鬼族は人型にコウモリのような羽を生やすくらいの変化しかできないし、あまり大きな荷物は運べないから。

「ああ。俺も使うのは初めてだが」
「……魔王を荷運びに使う人なんていないものね」

 深く納得する。ロウエンならばあるいはそんな要求をすることもあるかもしれない。でも、そもそもそのような機会がないだろう。
 魔族世界を守る魔王であるアークは、基本的に魔王城を離れることがないのだから。

「陛下、準備できました」
「よし。では、出発しようか」

 ルイスの報告を受けて、アークが名残惜しそうに腕を離した。これから暫くは、少し離れての旅路だ。

「……快適そうだ」
「これで空を行くって考えると、ちょっと心臓がすくみそうだが」
「白狼は肝っ玉が小さいね」
「おい、喧嘩売ってるのか? 鳥系以外の住人はだいたい同意見だと思うが」

 ラトとナイトが箱に入り、言い合っている。ちょっとした緊張を会話でほぐそうとしているみたいだ。
 スノウは首を傾げてしまった。

「何が怖いんだろう?」
「ひとたび空に上がれば、自分の意思で下りられないからじゃないですかねー。万が一があったら、墜落するだけですし」
「……アークは絶対そんなことにはならないし、もしあったとしても、魔法を使えばなんとかなるような」
「だから、ラト様は結構平気そうで、ナイト様は微妙な感じなんでしょう」

 ルイスがあっけらかんと言う。その言葉にスノウは納得した。
 自分の能力を知っているからこその危機感の差ということか。スノウはそれにプラスして、アークへの信頼があるから平気なのだ。

「じゃあ、僕がおばあ様たちを和ませてあげようっと」

 竜型に変化するために離れたアークを見送り、スノウも箱の中へ入る。
 ベンチにはクッションが敷き詰められているから、座っていてもあまり疲れなそう。窓もあるから、狭いところに押し込められているような圧迫感もない。

「――あ、ここでも射映画撮ろうよ!」

 きょろきょろと見渡してから、スノウは不意に思いついた提案をした。
 スノウが魔王城で用意した射映画は、問題が落ち着いたところでラトたちに渡し、無事気に入ってもらえた。それから何度か白狼の里でも射映画を撮ったのだ。この旅での射映画も思い出として残したい。

「お、いいな。それ、俺たちにもくれるんだよな」
「もちろん。大丈夫だよね、ルイス」
「ええ。紙はたくさん用意していますからね!」

 ルイスが胸を張って「へへん」と得意げに言う。そして取り出されたのは、言葉通り大量の紙。全部射映画用の紙だそう。どれだけ用意したのか。

 スノウは少し呆れてルイスを見つめてしまった。
 ありがたいけれど、限度があると思う。

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