104 / 224
続.雪豹くんと魔王さま
2-43.旅立ちへ③
しおりを挟む
急遽増えた同行人。
どうやって行くのかな? と思っていたら、アークの傍に大きな箱のようなものが現れた。縮小玉から取り出したらしい。
「それなぁに?」
族長たちとの話を終えて出発の準備を整えているアークの傍に駆け寄る。
まじまじと箱を見つめてみるけれど、中にベンチのようなものがあることしか分からなかった。小さな家みたい。ガゼボかな。
「あー、これ使うんですねー。それなら私もこの状態でついていけます! ありがとうございますー」
椅子から人型に変化したルイスが、嬉しそうに顔を綻ばせる。
いそいそと箱の中を確認して、荷物から取り出したクッションを詰め始めた。どんどん居心地が良くなっているみたいだけれど、結局これはなんだろう。
「別にお前のためじゃない。――スノウ。これは籠車だ」
首を傾げるスノウを後ろから抱きしめ、アークが耳を食む。そこで喋られるとくすぐったくて、スノウは首をすくめた。
「籠車って……もしかして、僕たちがこの中に入って運ばれるの?」
スノウの脳裏に浮かんだのは、鳥系の獣人が荷物を運ぶ姿だ。
彼らは荷運びとして重宝されていて、街に行くと荷物を抱えて飛んでいるところをよく目にする。そして、たくさんの小さな荷物を運ぶ際は、大きな木箱に詰めてまとめているのだ。
ちょうど、今スノウが目にしている箱のように――。
(僕たち、荷物じゃないんだけど……)
なんとも複雑な思いがこみ上げてくるのは仕方ない。だって、スノウはアークに抱かれて飛ぶのを結構気に入っていたのだ。
それが急になしだと言われて、荷物のように運ばれるなんて、ちょっと嫌だ。
一方で、ラトたちと共に行くとなったら、これが一番良い方法だということは納得している。そのような方法があったのかと、感心してもいた。
「そうだ。――俺はスノウを抱きしめて飛びたいんだが」
アークの頬がすりすりと寄せられる。甘えられている感じで悪い気はしない。むしろ嬉しい。
スノウはゴロゴロと喉を鳴らしてアークの胸元にすり寄る。
ラトやナイトだけでなく、白狼族から生暖かい目を向けられていても気にしない。番なんだから、これくらいじゃれるのは普通だもの。……たぶん。
「僕もアークから離れてるのは寂しいけど、我慢だね。これ、アークが運んでくれるの?」
普段鳥系の獣人が運んでいる箱より大きい。そして、このサイズの箱を運べそうなのはここにアークしかいない。吸血鬼族は人型にコウモリのような羽を生やすくらいの変化しかできないし、あまり大きな荷物は運べないから。
「ああ。俺も使うのは初めてだが」
「……魔王を荷運びに使う人なんていないものね」
深く納得する。ロウエンならばあるいはそんな要求をすることもあるかもしれない。でも、そもそもそのような機会がないだろう。
魔族世界を守る魔王であるアークは、基本的に魔王城を離れることがないのだから。
「陛下、準備できました」
「よし。では、出発しようか」
ルイスの報告を受けて、アークが名残惜しそうに腕を離した。これから暫くは、少し離れての旅路だ。
「……快適そうだ」
「これで空を行くって考えると、ちょっと心臓がすくみそうだが」
「白狼は肝っ玉が小さいね」
「おい、喧嘩売ってるのか? 鳥系以外の住人はだいたい同意見だと思うが」
ラトとナイトが箱に入り、言い合っている。ちょっとした緊張を会話でほぐそうとしているみたいだ。
スノウは首を傾げてしまった。
「何が怖いんだろう?」
「ひとたび空に上がれば、自分の意思で下りられないからじゃないですかねー。万が一があったら、墜落するだけですし」
「……アークは絶対そんなことにはならないし、もしあったとしても、魔法を使えばなんとかなるような」
「だから、ラト様は結構平気そうで、ナイト様は微妙な感じなんでしょう」
ルイスがあっけらかんと言う。その言葉にスノウは納得した。
自分の能力を知っているからこその危機感の差ということか。スノウはそれにプラスして、アークへの信頼があるから平気なのだ。
「じゃあ、僕がおばあ様たちを和ませてあげようっと」
竜型に変化するために離れたアークを見送り、スノウも箱の中へ入る。
ベンチにはクッションが敷き詰められているから、座っていてもあまり疲れなそう。窓もあるから、狭いところに押し込められているような圧迫感もない。
「――あ、ここでも射映画撮ろうよ!」
きょろきょろと見渡してから、スノウは不意に思いついた提案をした。
スノウが魔王城で用意した射映画は、問題が落ち着いたところでラトたちに渡し、無事気に入ってもらえた。それから何度か白狼の里でも射映画を撮ったのだ。この旅での射映画も思い出として残したい。
「お、いいな。それ、俺たちにもくれるんだよな」
「もちろん。大丈夫だよね、ルイス」
「ええ。紙はたくさん用意していますからね!」
ルイスが胸を張って「へへん」と得意げに言う。そして取り出されたのは、言葉通り大量の紙。全部射映画用の紙だそう。どれだけ用意したのか。
スノウは少し呆れてルイスを見つめてしまった。
ありがたいけれど、限度があると思う。
どうやって行くのかな? と思っていたら、アークの傍に大きな箱のようなものが現れた。縮小玉から取り出したらしい。
「それなぁに?」
族長たちとの話を終えて出発の準備を整えているアークの傍に駆け寄る。
まじまじと箱を見つめてみるけれど、中にベンチのようなものがあることしか分からなかった。小さな家みたい。ガゼボかな。
「あー、これ使うんですねー。それなら私もこの状態でついていけます! ありがとうございますー」
椅子から人型に変化したルイスが、嬉しそうに顔を綻ばせる。
いそいそと箱の中を確認して、荷物から取り出したクッションを詰め始めた。どんどん居心地が良くなっているみたいだけれど、結局これはなんだろう。
「別にお前のためじゃない。――スノウ。これは籠車だ」
首を傾げるスノウを後ろから抱きしめ、アークが耳を食む。そこで喋られるとくすぐったくて、スノウは首をすくめた。
「籠車って……もしかして、僕たちがこの中に入って運ばれるの?」
スノウの脳裏に浮かんだのは、鳥系の獣人が荷物を運ぶ姿だ。
彼らは荷運びとして重宝されていて、街に行くと荷物を抱えて飛んでいるところをよく目にする。そして、たくさんの小さな荷物を運ぶ際は、大きな木箱に詰めてまとめているのだ。
ちょうど、今スノウが目にしている箱のように――。
(僕たち、荷物じゃないんだけど……)
なんとも複雑な思いがこみ上げてくるのは仕方ない。だって、スノウはアークに抱かれて飛ぶのを結構気に入っていたのだ。
それが急になしだと言われて、荷物のように運ばれるなんて、ちょっと嫌だ。
一方で、ラトたちと共に行くとなったら、これが一番良い方法だということは納得している。そのような方法があったのかと、感心してもいた。
「そうだ。――俺はスノウを抱きしめて飛びたいんだが」
アークの頬がすりすりと寄せられる。甘えられている感じで悪い気はしない。むしろ嬉しい。
スノウはゴロゴロと喉を鳴らしてアークの胸元にすり寄る。
ラトやナイトだけでなく、白狼族から生暖かい目を向けられていても気にしない。番なんだから、これくらいじゃれるのは普通だもの。……たぶん。
「僕もアークから離れてるのは寂しいけど、我慢だね。これ、アークが運んでくれるの?」
普段鳥系の獣人が運んでいる箱より大きい。そして、このサイズの箱を運べそうなのはここにアークしかいない。吸血鬼族は人型にコウモリのような羽を生やすくらいの変化しかできないし、あまり大きな荷物は運べないから。
「ああ。俺も使うのは初めてだが」
「……魔王を荷運びに使う人なんていないものね」
深く納得する。ロウエンならばあるいはそんな要求をすることもあるかもしれない。でも、そもそもそのような機会がないだろう。
魔族世界を守る魔王であるアークは、基本的に魔王城を離れることがないのだから。
「陛下、準備できました」
「よし。では、出発しようか」
ルイスの報告を受けて、アークが名残惜しそうに腕を離した。これから暫くは、少し離れての旅路だ。
「……快適そうだ」
「これで空を行くって考えると、ちょっと心臓がすくみそうだが」
「白狼は肝っ玉が小さいね」
「おい、喧嘩売ってるのか? 鳥系以外の住人はだいたい同意見だと思うが」
ラトとナイトが箱に入り、言い合っている。ちょっとした緊張を会話でほぐそうとしているみたいだ。
スノウは首を傾げてしまった。
「何が怖いんだろう?」
「ひとたび空に上がれば、自分の意思で下りられないからじゃないですかねー。万が一があったら、墜落するだけですし」
「……アークは絶対そんなことにはならないし、もしあったとしても、魔法を使えばなんとかなるような」
「だから、ラト様は結構平気そうで、ナイト様は微妙な感じなんでしょう」
ルイスがあっけらかんと言う。その言葉にスノウは納得した。
自分の能力を知っているからこその危機感の差ということか。スノウはそれにプラスして、アークへの信頼があるから平気なのだ。
「じゃあ、僕がおばあ様たちを和ませてあげようっと」
竜型に変化するために離れたアークを見送り、スノウも箱の中へ入る。
ベンチにはクッションが敷き詰められているから、座っていてもあまり疲れなそう。窓もあるから、狭いところに押し込められているような圧迫感もない。
「――あ、ここでも射映画撮ろうよ!」
きょろきょろと見渡してから、スノウは不意に思いついた提案をした。
スノウが魔王城で用意した射映画は、問題が落ち着いたところでラトたちに渡し、無事気に入ってもらえた。それから何度か白狼の里でも射映画を撮ったのだ。この旅での射映画も思い出として残したい。
「お、いいな。それ、俺たちにもくれるんだよな」
「もちろん。大丈夫だよね、ルイス」
「ええ。紙はたくさん用意していますからね!」
ルイスが胸を張って「へへん」と得意げに言う。そして取り出されたのは、言葉通り大量の紙。全部射映画用の紙だそう。どれだけ用意したのか。
スノウは少し呆れてルイスを見つめてしまった。
ありがたいけれど、限度があると思う。
93
お気に入りに追加
3,342
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
出来損ないのオメガは貴公子アルファに愛され尽くす エデンの王子様
冬之ゆたんぽ
BL
旧題:エデンの王子様~ぼろぼろアルファを救ったら、貴公子に成長して求愛してくる~
二次性徴が始まり、オメガと判定されたら収容される、全寮制学園型施設『エデン』。そこで全校のオメガたちを虜にした〝王子様〟キャラクターであるレオンは、卒業後のダンスパーティーで至上のアルファに見初められる。「踊ってください、私の王子様」と言って跪くアルファに、レオンは全てを悟る。〝この美丈夫は立派な見た目と違い、王子様を求めるお姫様志望なのだ〟と。それが、初恋の女の子――誤認識であり実際は少年――の成長した姿だと知らずに。
■受けが誤解したまま進んでいきますが、攻めの中身は普通にアルファです。
■表情の薄い黒騎士アルファ(攻め)×ハンサム王子様オメガ(受け)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。