127 / 251
続.雪豹くんと魔王さま
2-39.襲い来るもの⑨
しおりを挟む
遅れてアークがやって来た。良い情報と共に。
「――吸血鬼族が雨を降らせる装置を壊したようだ」
「本当に!? じゃあ、これで白狼さんたちも里の外を歩き回れるね!」
アークに抱きつきながら、スノウは顔を輝かせる。でも、アークの表情はいまいち優れない。
そのことに真っ先に気づいたのはラトだった。
「何か問題がありましたか?」
「いや……雨を降らせる装置は、正しく言うと、雨雲をつくる装置だった。そして、すでに作られている雨雲はまだ空に存在している。それがなくなるには、まだ時間が必要だろう」
「つまり、まだ雨への警戒が必要だということですね」
ラトが厳しい表情で頷く。
スノウはアークとラトの顔を見比べて、しょんぼりと耳を伏せた。
「……まだ、自由に行動できないんだ」
「そうだね。まぁ、狩りができないことへの鬱憤はあるだろうけど、それは戦闘訓練でもして発散してもらえばいい。問題は――」
ラトが呟きながら部屋を横切る。
ガンガンと寝室の戸を叩くと、ナイトが何ごとかと言いたげな表情で出てきた。
「ナイト。すぐに里の倉庫に行って、食料の在庫を確かめてきて。一週間は保つはずだけど、調整して配給が必要かもしれない」
「……雨の影響は長引く、ということか」
アークの肯定を確認し、ナイトが表情を引き締めて外に向かう。早速行動を始めたようだ。
「僕、狩りに行ってくる?」
ちょっと尻尾がピンと立った。
大変な状況だと分かっているけれど、それはそれとして、スノウも狩りが好きだ。普段はなかなかアークの休みが取れないから、狩りをする機会が少ない。これは狩りをする絶好の機会ではないだろうか。
「スノウ……雨の影響は少ないとはいえ、完全に安全というわけではないんだぞ?」
「アークと一緒でも?」
苦い表情のアークを見つめる。
どうしてそんなことを言うのか不思議だった。スノウはアークがいれば、何があっても大丈夫だと思っているのに。
スノウの信頼が伝わったのか、アークは少し目を丸くした後、仕方なさそうに微笑む。
「……無茶はしないと約束するなら、狩りをしても構わない」
「うん! 美味しいお肉を狩ってこようね。おばあ様とおじい様にお腹いっぱい食べてもらわないと」
「ははっ、スノウはやっぱり白狼の血を引いているね」
ラトが楽しそうに笑った。そして「ありがとう」と呟く。ラトも食料の在庫には不安があったらしい。おそらく、ラトも自分で狩りに出るつもりだったはずだ。
食料集めには吸血鬼族も協力してもらうことにして、後の懸念は人間のことだろうか。
「まだ、襲撃を企てている人間は捕まっていないの?」
「その報告はないな。だが、捕まえたら早急に処罰させる。……いや、罰を下すのは、白狼に任せた方がいいか?」
ラトの顔を見て、アークが首を傾げる。ラトは神妙な面持ちで頷いた。
「そうしてくださると、ありがたいです。みんな、鬱憤をぶつける相手が必要でしょうからね」
「では、背後にいる者たちは、俺の方で請け負おう」
ラトとアークの間で取り決められる内容に、スノウは頷いていたけれど、アークの言葉が頭に引っかかった。
「背後ってなぁに?」
「実行犯ではなく、首謀者だ。今回の場合は、どこかの人間の国だろうな。しかも国の中枢にある者。在野の者で計画実行できる襲撃ではないから」
スノウは「そっか……」と呟く。
襲撃を実行した人間を罰するだけでは問題は解決しないのだ。根本を叩かなければ、同じような襲撃が頻発しかねないという懸念もある。
雪豹の里を襲った国も、アーク達によってほぼ滅ぼされたのだと聞いている。今回もそうなるのだろう。
「……あんまり、ひどいことしないでね?」
こんなことを言っていいのか分からないけれど、スノウは苦しい胸の内を吐き出すように願った。
人間は嫌いだけれど、憎しみが憎しみを呼び、再び世界が荒れるようなことが起きてほしくない。かつての魔族と人間の争いは、小さな争いが次第に拡大していって起きたのだから。
「分かっている。罰は過不足なく。だが、暫くはおかしなことを考えないよう、念を押さなければならないな」
当然のように受け入れてもらえてホッとする。念を押すという言葉が少々不穏だけれど、魔王として当然の考えだろう。
ラトは「陛下のお考えに従います」と頭を下げた。
今回被害を受けたのは白狼の里だ。彼らも、アークが決定を告げたら内心はともかく従ってくれることだろう。それだけの恩恵をアークから受けているのだから。
スノウはようやく騒動が終結するのだと感じて、そっと息をついた。
「――吸血鬼族が雨を降らせる装置を壊したようだ」
「本当に!? じゃあ、これで白狼さんたちも里の外を歩き回れるね!」
アークに抱きつきながら、スノウは顔を輝かせる。でも、アークの表情はいまいち優れない。
そのことに真っ先に気づいたのはラトだった。
「何か問題がありましたか?」
「いや……雨を降らせる装置は、正しく言うと、雨雲をつくる装置だった。そして、すでに作られている雨雲はまだ空に存在している。それがなくなるには、まだ時間が必要だろう」
「つまり、まだ雨への警戒が必要だということですね」
ラトが厳しい表情で頷く。
スノウはアークとラトの顔を見比べて、しょんぼりと耳を伏せた。
「……まだ、自由に行動できないんだ」
「そうだね。まぁ、狩りができないことへの鬱憤はあるだろうけど、それは戦闘訓練でもして発散してもらえばいい。問題は――」
ラトが呟きながら部屋を横切る。
ガンガンと寝室の戸を叩くと、ナイトが何ごとかと言いたげな表情で出てきた。
「ナイト。すぐに里の倉庫に行って、食料の在庫を確かめてきて。一週間は保つはずだけど、調整して配給が必要かもしれない」
「……雨の影響は長引く、ということか」
アークの肯定を確認し、ナイトが表情を引き締めて外に向かう。早速行動を始めたようだ。
「僕、狩りに行ってくる?」
ちょっと尻尾がピンと立った。
大変な状況だと分かっているけれど、それはそれとして、スノウも狩りが好きだ。普段はなかなかアークの休みが取れないから、狩りをする機会が少ない。これは狩りをする絶好の機会ではないだろうか。
「スノウ……雨の影響は少ないとはいえ、完全に安全というわけではないんだぞ?」
「アークと一緒でも?」
苦い表情のアークを見つめる。
どうしてそんなことを言うのか不思議だった。スノウはアークがいれば、何があっても大丈夫だと思っているのに。
スノウの信頼が伝わったのか、アークは少し目を丸くした後、仕方なさそうに微笑む。
「……無茶はしないと約束するなら、狩りをしても構わない」
「うん! 美味しいお肉を狩ってこようね。おばあ様とおじい様にお腹いっぱい食べてもらわないと」
「ははっ、スノウはやっぱり白狼の血を引いているね」
ラトが楽しそうに笑った。そして「ありがとう」と呟く。ラトも食料の在庫には不安があったらしい。おそらく、ラトも自分で狩りに出るつもりだったはずだ。
食料集めには吸血鬼族も協力してもらうことにして、後の懸念は人間のことだろうか。
「まだ、襲撃を企てている人間は捕まっていないの?」
「その報告はないな。だが、捕まえたら早急に処罰させる。……いや、罰を下すのは、白狼に任せた方がいいか?」
ラトの顔を見て、アークが首を傾げる。ラトは神妙な面持ちで頷いた。
「そうしてくださると、ありがたいです。みんな、鬱憤をぶつける相手が必要でしょうからね」
「では、背後にいる者たちは、俺の方で請け負おう」
ラトとアークの間で取り決められる内容に、スノウは頷いていたけれど、アークの言葉が頭に引っかかった。
「背後ってなぁに?」
「実行犯ではなく、首謀者だ。今回の場合は、どこかの人間の国だろうな。しかも国の中枢にある者。在野の者で計画実行できる襲撃ではないから」
スノウは「そっか……」と呟く。
襲撃を実行した人間を罰するだけでは問題は解決しないのだ。根本を叩かなければ、同じような襲撃が頻発しかねないという懸念もある。
雪豹の里を襲った国も、アーク達によってほぼ滅ぼされたのだと聞いている。今回もそうなるのだろう。
「……あんまり、ひどいことしないでね?」
こんなことを言っていいのか分からないけれど、スノウは苦しい胸の内を吐き出すように願った。
人間は嫌いだけれど、憎しみが憎しみを呼び、再び世界が荒れるようなことが起きてほしくない。かつての魔族と人間の争いは、小さな争いが次第に拡大していって起きたのだから。
「分かっている。罰は過不足なく。だが、暫くはおかしなことを考えないよう、念を押さなければならないな」
当然のように受け入れてもらえてホッとする。念を押すという言葉が少々不穏だけれど、魔王として当然の考えだろう。
ラトは「陛下のお考えに従います」と頭を下げた。
今回被害を受けたのは白狼の里だ。彼らも、アークが決定を告げたら内心はともかく従ってくれることだろう。それだけの恩恵をアークから受けているのだから。
スノウはようやく騒動が終結するのだと感じて、そっと息をついた。
41
お気に入りに追加
3,179
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
俺の伴侶はどこにいる〜ゼロから始める領地改革 家臣なしとか意味分からん〜
琴音
BL
俺はなんでも適当にこなせる器用貧乏なために、逆に何にも打ち込めず二十歳になった。成人後五年、その間に番も見つけられずとうとう父上静かにぶちギレ。ならばと城にいても楽しくないし?番はほっとくと適当にの未来しかない。そんな時に勝手に見合いをぶち込まれ、逃げた。が、間抜けな俺は騎獣から落ちたようで自分から城に帰還状態。
ならば兄弟は優秀、俺次男!未開の地と化した領地を復活させてみようじゃないか!やる気になったはいいが………
ゆるゆる〜の未来の大陸南の猫族の小国のお話です。全く別の話でエリオスが領地開発に奮闘します。世界も先に進み状況の変化も。番も探しつつ……
世界はドナシアン王国建国より百年以上過ぎ、大陸はイアサント王国がまったりと支配する世界になっている。どの国もこの大陸の気質に合った獣人らしい生き方が出来る優しい世界で北から南の行き来も楽に出来る。農民すら才覚さえあれば商人にもなれるのだ。
気候は温暖で最南以外は砂漠もなく、過ごしやすく農家には適している。そして、この百年で獣人でも魅力を持つようになる。エリオス世代は魔力があるのが当たり前に過ごしている。
そんな世界に住むエリオスはどうやって領地を自分好みに開拓出来るのか。
※この物語だけで楽しめるようになっています。よろしくお願いします。
嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい
りまり
BL
僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。
この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。
僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。
本当に僕にはもったいない人なんだ。
どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。
彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。
答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。
後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる