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続.雪豹くんと魔王さま

2-39.襲い来るもの⑨

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 遅れてアークがやって来た。良い情報と共に。

「――吸血鬼族が雨を降らせる装置を壊したようだ」
「本当に!? じゃあ、これで白狼さんたちも里の外を歩き回れるね!」

 アークに抱きつきながら、スノウは顔を輝かせる。でも、アークの表情はいまいち優れない。
 そのことに真っ先に気づいたのはラトだった。

「何か問題がありましたか?」
「いや……雨を降らせる装置は、正しく言うと、雨雲をつくる装置だった。そして、すでに作られている雨雲はまだ空に存在している。それがなくなるには、まだ時間が必要だろう」
「つまり、まだ雨への警戒が必要だということですね」

 ラトが厳しい表情で頷く。
 スノウはアークとラトの顔を見比べて、しょんぼりと耳を伏せた。

「……まだ、自由に行動できないんだ」
「そうだね。まぁ、狩りができないことへの鬱憤はあるだろうけど、それは戦闘訓練でもして発散してもらえばいい。問題は――」

 ラトが呟きながら部屋を横切る。
 ガンガンと寝室の戸を叩くと、ナイトが何ごとかと言いたげな表情で出てきた。

「ナイト。すぐに里の倉庫に行って、食料の在庫を確かめてきて。一週間は保つはずだけど、調整して配給が必要かもしれない」
「……雨の影響は長引く、ということか」

 アークの肯定を確認し、ナイトが表情を引き締めて外に向かう。早速行動を始めたようだ。

「僕、狩りに行ってくる?」

 ちょっと尻尾がピンと立った。
 大変な状況だと分かっているけれど、それはそれとして、スノウも狩りが好きだ。普段はなかなかアークの休みが取れないから、狩りをする機会が少ない。これは狩りをする絶好の機会ではないだろうか。

「スノウ……雨の影響は少ないとはいえ、完全に安全というわけではないんだぞ?」
「アークと一緒でも?」

 苦い表情のアークを見つめる。
 どうしてそんなことを言うのか不思議だった。スノウはアークがいれば、何があっても大丈夫だと思っているのに。

 スノウの信頼が伝わったのか、アークは少し目を丸くした後、仕方なさそうに微笑む。

「……無茶はしないと約束するなら、狩りをしても構わない」
「うん! 美味しいお肉を狩ってこようね。おばあ様とおじい様にお腹いっぱい食べてもらわないと」
「ははっ、スノウはやっぱり白狼の血を引いているね」

 ラトが楽しそうに笑った。そして「ありがとう」と呟く。ラトも食料の在庫には不安があったらしい。おそらく、ラトも自分で狩りに出るつもりだったはずだ。

 食料集めには吸血鬼族も協力してもらうことにして、後の懸念は人間のことだろうか。

「まだ、襲撃を企てている人間は捕まっていないの?」
「その報告はないな。だが、捕まえたら早急に処罰させる。……いや、罰を下すのは、白狼に任せた方がいいか?」

 ラトの顔を見て、アークが首を傾げる。ラトは神妙な面持ちで頷いた。

「そうしてくださると、ありがたいです。みんな、鬱憤をぶつける相手が必要でしょうからね」
「では、背後にいる者たちは、俺の方で請け負おう」

 ラトとアークの間で取り決められる内容に、スノウは頷いていたけれど、アークの言葉が頭に引っかかった。

「背後ってなぁに?」
「実行犯ではなく、首謀者だ。今回の場合は、どこかの人間の国だろうな。しかも国の中枢にある者。在野の者で計画実行できる襲撃ではないから」

 スノウは「そっか……」と呟く。
 襲撃を実行した人間を罰するだけでは問題は解決しないのだ。根本を叩かなければ、同じような襲撃が頻発しかねないという懸念もある。

 雪豹の里を襲った国も、アーク達によってほぼ滅ぼされたのだと聞いている。今回もそうなるのだろう。

「……あんまり、ひどいことしないでね?」

 こんなことを言っていいのか分からないけれど、スノウは苦しい胸の内を吐き出すように願った。
 人間は嫌いだけれど、憎しみが憎しみを呼び、再び世界が荒れるようなことが起きてほしくない。かつての魔族と人間の争いは、小さな争いが次第に拡大していって起きたのだから。

「分かっている。罰は過不足なく。だが、暫くはおかしなことを考えないよう、念を押さなければならないな」

 当然のように受け入れてもらえてホッとする。念を押すという言葉が少々不穏だけれど、魔王として当然の考えだろう。

 ラトは「陛下のお考えに従います」と頭を下げた。
 今回被害を受けたのは白狼の里だ。彼らも、アークが決定を告げたら内心はともかく従ってくれることだろう。それだけの恩恵をアークから受けているのだから。

 スノウはようやく騒動が終結するのだと感じて、そっと息をついた。

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