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続.雪豹くんと魔王さま
2-38.襲い来るもの⑧
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「……アークは、子どもを作ったら、僕が死んじゃうかもしれないって思っているの?」
「そうだろうね。もちろん、子どもに嫉妬しているってのはあるんだろうけど。一番はそこだろう。――運命の番は、どうしようもなく相手に依存する。亡くせば生きていけないほどに狂うんだ。苦しむ姿さえ見たくはない。子どもより、番を優先しようとするのは、当然の在り方だよ」
ラトに言われたことをアークに当てはめてみる。
いつも「まだ二人の時間を楽しみたい」と言って、スノウの望みを躱すアーク。その目に怯えはなかっただろうか。
(……僕、そこまでアークのこと見ていなかったかも。どうして同じように望んでくれないの、って思ってばかりで……)
知らなかったからとはいえ、アークの感情を無視していた気がして申し訳なくなる。
しょんぼりと耳を伏せるスノウに、ラトが微笑みかけた。
「だけど、そういう思いは、二人で乗り越えるものだ。番なんだから、共に悩んで心を一つにしないと。その上で、子どもを作る気持ちが高まれば、頑張ればいい」
「……どうしたら、できるかな」
「たくさん話をするんだ。触れ合って愛情を確かめることはできるけれど、信頼を強めるのは対話だよ」
ラトに言われて、スノウは「対話……」と言葉を繰り返した。
たくさん話をしているつもりだったけれど、まだまだ足りなかったのかもしれない。
「……分かった。僕、がんばる!」
「うん、その意気だ」
スノウが小さく拳を握って宣言すると、ラトは微笑ましげな眼差しで頷いた。
「あの……アークが子どもを作ろうってなったら、僕、早くほしいんだけど、そのためにどうしたらいいかな? 体を鍛えておく?」
先ほど、ラトが「雪豹族は華奢だから負担が大きい」というようなことを言っていた。それを念頭において、スノウは真剣な表情で尋ねる。どこをどう鍛えればいいか、ぜひ聞いておきたいのだ。
ラトは一瞬固まり、そして吹き出すように笑った。
「ははっ! まぁ、体を鍛えるに越したことはないけどね。生まれながらの体格はいかんともしがたいから、別の対策が必要かな」
「雪豹族の秘伝みたいなものがあるの?」
思わずキラキラと目を輝かせて尋ねた。こういうことが聞きたくて、スノウはラトに会いに来たのだ。
ラトは「秘伝ねぇ」と面白そうに笑って肩をすくめる。
「そう言うほどのものじゃないけど。卵を産み落とす際に、魔力を上手く使えると少し楽になるから、教えておこうか」
「うん! ぜひ」
「あ、それと……もし、本当に子どもができたときには、私が助産に行くよ。外からも補助があると楽だからね。もちろん、私が生きているときなら、という話だけれど」
思いがけない提案に、スノウは目を丸くした。
でも、深く考えなくても、ありがたい話だと分かる。経験者が傍にいて教えてくれるなら、スノウも安心してお産に臨めるだろう。
「……いいの? おじい様、あんまりおばあ様を外に出したくないみたいだったけど」
子どもの頃に会った時、それが理由で、ラトは早々に城を立ち去ったのだ。
遠慮がちに尋ねると、ラトがにこりと笑う。
「否やは言わせないよ。孫の一大事なんだから。それに、今回のことで白狼族は陛下に頭が上がらない状態だ。陛下のお子のこととなれば、恩返しのためにと、里の者たちが一丸となって私を送り出そうとするはずだよ」
ナイトの意思は無視されるらしい。そして、今回の騒動がひょんなことでスノウの将来にも影響することになったようだ。
「おばあ様が傍にいてくれたら嬉しいから、僕はありがたく受け取るけど。おじい様とちゃんとお話してね?」
「大丈夫。ナイトも可愛い孫のことなんだから、文句は言わないはずだよ」
配慮は必要なかったらしい。断言するラトの表情には、ナイトへの信頼が滲んでいた。
それを見て、スノウは羨ましいなぁと思うのだ。アークと何十年も共に過ごした先で、スノウも同じような関係を築いていたい。
「――大変なことは卵を産むことだけじゃない。その後、大人になるまで育てることも、大切で難しいことだ。……スノウは、もうなんとなく分かっているようだけれどね」
ラトはスノウの顔を見て微笑む。
子どもを育てること、しかも別の種族の子どもなら特にそれが難しいことを、スノウは白狼の里に来てよく理解した。
スノウ自身、まだ感覚的には子どもの部分があると思っている。大人として子どもをどう導いていくか、きちんと考えておかないといけない。
(考えることがいっぱいだなぁ……)
少し頭が痛くなってしまう。でも、こうして悩むことさえも、アークとともに生きる上での幸せなのだろうと思うと、自然と微笑んでいた。
(僕、がんばるよ、アーク)
「そうだろうね。もちろん、子どもに嫉妬しているってのはあるんだろうけど。一番はそこだろう。――運命の番は、どうしようもなく相手に依存する。亡くせば生きていけないほどに狂うんだ。苦しむ姿さえ見たくはない。子どもより、番を優先しようとするのは、当然の在り方だよ」
ラトに言われたことをアークに当てはめてみる。
いつも「まだ二人の時間を楽しみたい」と言って、スノウの望みを躱すアーク。その目に怯えはなかっただろうか。
(……僕、そこまでアークのこと見ていなかったかも。どうして同じように望んでくれないの、って思ってばかりで……)
知らなかったからとはいえ、アークの感情を無視していた気がして申し訳なくなる。
しょんぼりと耳を伏せるスノウに、ラトが微笑みかけた。
「だけど、そういう思いは、二人で乗り越えるものだ。番なんだから、共に悩んで心を一つにしないと。その上で、子どもを作る気持ちが高まれば、頑張ればいい」
「……どうしたら、できるかな」
「たくさん話をするんだ。触れ合って愛情を確かめることはできるけれど、信頼を強めるのは対話だよ」
ラトに言われて、スノウは「対話……」と言葉を繰り返した。
たくさん話をしているつもりだったけれど、まだまだ足りなかったのかもしれない。
「……分かった。僕、がんばる!」
「うん、その意気だ」
スノウが小さく拳を握って宣言すると、ラトは微笑ましげな眼差しで頷いた。
「あの……アークが子どもを作ろうってなったら、僕、早くほしいんだけど、そのためにどうしたらいいかな? 体を鍛えておく?」
先ほど、ラトが「雪豹族は華奢だから負担が大きい」というようなことを言っていた。それを念頭において、スノウは真剣な表情で尋ねる。どこをどう鍛えればいいか、ぜひ聞いておきたいのだ。
ラトは一瞬固まり、そして吹き出すように笑った。
「ははっ! まぁ、体を鍛えるに越したことはないけどね。生まれながらの体格はいかんともしがたいから、別の対策が必要かな」
「雪豹族の秘伝みたいなものがあるの?」
思わずキラキラと目を輝かせて尋ねた。こういうことが聞きたくて、スノウはラトに会いに来たのだ。
ラトは「秘伝ねぇ」と面白そうに笑って肩をすくめる。
「そう言うほどのものじゃないけど。卵を産み落とす際に、魔力を上手く使えると少し楽になるから、教えておこうか」
「うん! ぜひ」
「あ、それと……もし、本当に子どもができたときには、私が助産に行くよ。外からも補助があると楽だからね。もちろん、私が生きているときなら、という話だけれど」
思いがけない提案に、スノウは目を丸くした。
でも、深く考えなくても、ありがたい話だと分かる。経験者が傍にいて教えてくれるなら、スノウも安心してお産に臨めるだろう。
「……いいの? おじい様、あんまりおばあ様を外に出したくないみたいだったけど」
子どもの頃に会った時、それが理由で、ラトは早々に城を立ち去ったのだ。
遠慮がちに尋ねると、ラトがにこりと笑う。
「否やは言わせないよ。孫の一大事なんだから。それに、今回のことで白狼族は陛下に頭が上がらない状態だ。陛下のお子のこととなれば、恩返しのためにと、里の者たちが一丸となって私を送り出そうとするはずだよ」
ナイトの意思は無視されるらしい。そして、今回の騒動がひょんなことでスノウの将来にも影響することになったようだ。
「おばあ様が傍にいてくれたら嬉しいから、僕はありがたく受け取るけど。おじい様とちゃんとお話してね?」
「大丈夫。ナイトも可愛い孫のことなんだから、文句は言わないはずだよ」
配慮は必要なかったらしい。断言するラトの表情には、ナイトへの信頼が滲んでいた。
それを見て、スノウは羨ましいなぁと思うのだ。アークと何十年も共に過ごした先で、スノウも同じような関係を築いていたい。
「――大変なことは卵を産むことだけじゃない。その後、大人になるまで育てることも、大切で難しいことだ。……スノウは、もうなんとなく分かっているようだけれどね」
ラトはスノウの顔を見て微笑む。
子どもを育てること、しかも別の種族の子どもなら特にそれが難しいことを、スノウは白狼の里に来てよく理解した。
スノウ自身、まだ感覚的には子どもの部分があると思っている。大人として子どもをどう導いていくか、きちんと考えておかないといけない。
(考えることがいっぱいだなぁ……)
少し頭が痛くなってしまう。でも、こうして悩むことさえも、アークとともに生きる上での幸せなのだろうと思うと、自然と微笑んでいた。
(僕、がんばるよ、アーク)
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