雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続.雪豹くんと魔王さま

2-25.白狼の里の光②

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 アークは「ラトが傍についているならば……」と渋々ながら別行動を納得してくれた。
 その後「吸血鬼族どもが戻って来しだい、護衛として向かわせる」と宣言していたけれど。それでアークの心配が和らぐならば、スノウは甘んじてその過保護を受け入れる。

「ねぇ、おばあ様。メアリーのお母さんが言っていたのはどういうこと?」

 スノウは雨を防ぐ魔法を使うため、ラトに連れられて里の中心に向かっていた。その道中で気になっていた疑問を投げかける。
 アークは答えてくれなかったけれど、ラトならば丁寧に教えてくれる気がした。

「言っていたこと? ……あぁ、族長から諾以外の返事を受け取らないという話か」

 ポツリと呟いたラトが、スノウを眺めた後、ルイスの方へと視線を移した。
 スノウもつられてルイスを見つめる。

「え、私、何か聞かれてます? 言っておきますが、私も彼女の発言の真意はよく分かっていませんよ? ほぼ個体主義のスライム族に、白狼族の考えなんて共感できないですから」

 ルイスは戸惑った表情だった。
 それを見て、ラトが苦笑する。そして、しばし何かを考えるように宙を眺めた。

「……まぁ、説明するのはいいんだけど。護衛の白狼が送られてきてからだと、話せなくても、今なら――」

 呟きながらラトが近くの家々を警戒するように見つめる。
 そこから誰も出てくる気配がないことを感じ取ると、心なしかスノウの方へ身を寄せてきた。

「おばあ様? 他の白狼さんたちには聞かれたら駄目なことなの?」
「そうだね。あまり外聞が良い話じゃないから」

 潜めた声に、スノウは耳を澄ませた。ルイスもしっかり聞き取ろうと近づいてくる。

「――……彼女が言っていたのは、族長は代わりがきくっていう話だよ。つまり、今の族長が面子のために陛下の助力を拒む場合、族長自体を交代させて、新たな族長が承諾するということになる」
「そうなんだ。でも、族長の交代って、そんなに簡単にできることなの?」

 スノウは幼い頃に触れた、雪豹の里の秩序を思い起こす。
 幼すぎてきちんと理解できているとは言えないけれど、族長の任命は厳格な規則に則って行われていたはずだ。

 スノウの疑問に、ラトが困った表情で苦笑した。
 近くで「あ……」となにかに気づいたような声が聞こえる。ルイスを振り返ると、「そういうことかー……」と苦々しい表情を浮かべていた。

「ルイスは分かったの?」
「んー……まぁ、スノウ様が知っていても駄目ではないでしょう。陛下は理解されることを避けていたようですが、もう大人ですし」

 そう前置きすると、ルイスは肩をすくめてから、ラトが言葉を濁した部分の説明を始めた。

「――族長の交代は、スノウ様が思っていらっしゃるように、普通は厳格なしきたりにより執り行われます。例外は一つだけ」
「例外……あ、もしかして……?」

 スノウは思い浮かんだ言葉に目を見開いて驚いた。
 言葉を口に出すのが憚られて、思わずルイスとラトを交互に見やる。

「分かったようだね」
「そうですねぇ。スノウ様は賢い方ですから!」

 ルイスがニコニコと笑って絶賛してくれる。でも、スノウが思い浮かんだ言葉が事実なら、そんなに笑っていられる状況ではないと思うのだけれど。

「っ……止めなきゃ……!」

 踵を返そうとするスノウの腕が、強い力で掴まれた。
 思わず立ち止まり振り向くと、ラトの真剣な眼差しと視線がぶつかる。

「駄目だよ。これが白狼族のために最も良い方法であると判断しているから、彼らは決断したんだ」
「で、でも……。族長の交代がすぐに行われるのって……急逝した場合だけでしょ?」

 言葉を選び、スノウはたどり着いた真実を告げる。
 急逝を狙うなんて、そんなのは誰かに害された場合しかない。そして、今の状況でその役割を担うのは、メアリーかその父親だけだ。

 恐ろしい事実にスノウが困惑していると、ラトが小さく肩をすくめた。

「そうだね。でも、それは族長が否と言った場合だけだ。そもそも、陛下の助太刀を断る場合、白狼の里は壊滅的被害を受ける可能性が高い。その被害の中には、もちろん白狼族の命も含まれる。族長一人の命でそれが回避できるなら、安いものだ」
「極論、脅してでもなんでも、族長が首を縦に振る状況をつくればいいんですよ。急逝からの交代は最終手段です」

 ラトとルイスの言葉を受けて、スノウは口を閉ざして考え込んだ。
 二人の言っていることは理解できる。でも納得には至らない。どうしても、スノウの感情がその決断を受け入れられないのだ。

 スノウのそんな思いを感じ取ったのか、ラトとルイスが顔を見合わせた。

「……スノウは里の外での騒動を覚えている?」

 不意に問いかけられて、スノウは頭を悩ませるのを中断し、ラトを見上げた。

「里の外での騒動……あ、なんか、偵察に行くとかなんとか、揉めていた感じだった白狼さんたちのこと?」

 思い当たったのは、ここに着いてすぐに目にした光景だ。
 一部の者が偵察に出て、それに吸血鬼族が着いていったはずだけれど、彼らは無事だろうか。

 思い出した心配にスノウは表情を翳らせた。それを見ながらラトが言葉を続ける。

「あのときも説明したけれど、族長の息子が中心になって、偵察を推し進めていた。それに対して、多くの白狼は賛成していなかったけどね。その思いは族長への信頼も揺らがせているんだ。つまり、現族長をおろし、かつその息子に跡を継がせないことを望んでいる者が多い」
「ということは、族長の急逝による交代は、その背景に気づかれても受け入れられる可能性が高いんですね? 白狼族の総意とは言えなくても、大多数が賛成する」

 すぐに理解を示したルイスに、ラトが頷く。

「その時は、あの息子も排除されるだろうね。でも、それが彼ら白狼が一族を守るために行う手段の一つだ。……メアリーの母親も言っていただろう。白狼は個より集団を重んじるって」

 スノウは返事をできなかった。
 でも、白狼には白狼の生き方があることは理解できる。部外者の自分が物申す資格はない。

 今は族長が快く提案を受け入れてくれることを願いながら、自分にできることをしていくしかないと思った。

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