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続.雪豹くんと魔王さま
2-24.白狼の里の光①
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メアリーは早速族長の元へ向かうことになった。
アークたちと共に異常な雨に対応することを、白狼族の総意にするためだ。また、その背後にいる可能性が高い人間への警戒を強めるよう告げるのも目的である。
その際に、メアリーの父親――つまり寝込んていた白狼もついていった。
族長補佐である彼がスノウたちの計画に賛成してくれたのは朗報だろう。でも、体調がまだ万全に整わない中、無理をしていないか少し心配だ。
「……大丈夫かなぁ」
雨が上がった外を窓から眺め、スノウはポツリと呟いた。
その肩にアークの手が触れる。抱き寄せられて見上げると、アークの目が柔らかく細められていることに気づいた。
「彼らにとって今回のことは、俺たちが思う以上に一大事なんだ。多少無理を押してでも、成し遂げなければならないことがある」
「……僕も、一大事だと思っているよ?」
「それでも、所詮他人事だ。この里で暮らす者ほどの危機感があるわけではない」
アークの言葉は少し厳しく感じる。でも、スノウは否定できなかった。
スノウにはもう帰る場所がある。身を置く場所がある。
白狼の里は祖父母が暮らす里だけれど、スノウにとっては今日初めて訪れた場所にすぎないのだ。
「……そうだね。でも、僕はよそ者として、この里のために何かしたいと思ったから。頑張るよ」
「そうか。俺もよそ者だが、魔王としてできる限りのことをしよう」
スノウの決意には微笑みが返ってきた。
アークがスノウの思いの全てを受け止めて認めてくれるから、これでいいんだと自信が湧いてくる。
「さて、まずは、寝込んでいる者たちを見舞わなければならないな」
「では、次の家に案内を――」
アークの提案に、ラトがすぐに動き始める。
治療をするのを優先するのは、白狼の里の戦力を回復するためだろう。
スノウはその後についていくべきか、それとも雨対策を独自に講じるべきか迷った。
まだ魔法の扱いは慣れていないけれど、子どもの頃よりは多少使える。それならば、治療を行うアークと別れて、雨対策を始めた方が効率がいいかもしれない。
悩んでいたスノウが動かないでいると、家から出ようとしたラトが振り返る。
「スノウ? 陛下と一緒に――」
「僕、先に雨対策をしておこうかと思う」
宣言すると、ラトだけでなくアークも驚愕の表情で振り返った。
「スノウ、まさか俺と別行動をするつもりか? いつ人間が襲ってくるかも分からない中で? それは許可できないぞ」
アークが怖い表情で言い募ってくる。
でも、スノウの心は一切恐れを抱かなかった。アークの表情の理由が、スノウへの心配と愛情ゆえだと分かっていたからだ。
「心配してくれてありがとう。でも、僕にはこれがあるよ」
スノウは片手を掲げる。
手首に着けているのは、幼い頃にアークにもらった腕輪だ。アークがこれでもかと魔法を掛けたこれは、スノウを守護するもの。
たとえアークから遠く離れようと、これがある限りスノウが何者かに害されることはない。
「それは、そうだが……」
自分が贈ったものだからこそ、アークはその腕輪の効果を熟知している。それなのに心配を消しされないのは、運命の番だからだろうか。
運命の番は、一生を共にし、どちらかが不慮の事態で命を落とせば残された方は狂ってしまいかねない、強い繋がりを持っている。
スノウは『どうやって説得するべきかなぁ』と悩んだ。
アークの心配する気持ちが分かるからこそ、おざなりな対応で自分の意思を通すのは気が咎める。
「……では、白狼からの護衛を送りましょう。ラトも陛下の番様に付き添ったらいい。あなたも雪豹なのだから、私たちよりもよほどお力になれるでしょう。私が陛下をご案内すればいいのです」
口を挟んだのはメアリーの母親だった。
夫と娘を見送ってから、考え深げな表情をしていたけれど、今は決意に満ちた眼差しである。
「それでいいのか? あなたが陛下をご案内するということは、それが白狼族としての総意であると受け取られかねないよ? まだ、族長の意見を受け取ってはいないのに」
ラトが躊躇いがちに伺う。
メアリーの母親は族長補佐の妻。治療を一族の方針と受け取られる可能性は十分にあった。それが偽りになった場合、彼女は咎められることになるだろう。
スノウも心配になって、彼女をジッとみつめた。
「何を言うの。私の夫と娘が決意を固めて族長に会いに行ったのよ。諾、以外の返事を持ち帰ってくるわけがないでしょう」
カラリとした笑みで言う。その表情と言葉に、家族への愛情と信頼が溢れていた。
「……もし、族長が否と言うようだったら?」
問いを重ねるラト。スノウは目をパチクリとさせながら、その会話の行く末を見守った。
「族長は必ず諾と言います。ラト、私たち白狼は同族を重んじているけれど、個より集団を守ることが重要なの。……分かるでしょう?」
「……なるほど。あなたがたの決意を見誤っていたようだ」
ラトが重々しい響きの声を発した。その表情は僅かに強ばっているように思える。
スノウはメアリーの母親が何を言わんとしているのかよく分からない。承諾を得られるまで粘る、という意味ではないようだけれど。
アークに答えを求めて視線を向けると、軽く肩をすくめて受け流された。
ちょっともやもやする。
アークたちと共に異常な雨に対応することを、白狼族の総意にするためだ。また、その背後にいる可能性が高い人間への警戒を強めるよう告げるのも目的である。
その際に、メアリーの父親――つまり寝込んていた白狼もついていった。
族長補佐である彼がスノウたちの計画に賛成してくれたのは朗報だろう。でも、体調がまだ万全に整わない中、無理をしていないか少し心配だ。
「……大丈夫かなぁ」
雨が上がった外を窓から眺め、スノウはポツリと呟いた。
その肩にアークの手が触れる。抱き寄せられて見上げると、アークの目が柔らかく細められていることに気づいた。
「彼らにとって今回のことは、俺たちが思う以上に一大事なんだ。多少無理を押してでも、成し遂げなければならないことがある」
「……僕も、一大事だと思っているよ?」
「それでも、所詮他人事だ。この里で暮らす者ほどの危機感があるわけではない」
アークの言葉は少し厳しく感じる。でも、スノウは否定できなかった。
スノウにはもう帰る場所がある。身を置く場所がある。
白狼の里は祖父母が暮らす里だけれど、スノウにとっては今日初めて訪れた場所にすぎないのだ。
「……そうだね。でも、僕はよそ者として、この里のために何かしたいと思ったから。頑張るよ」
「そうか。俺もよそ者だが、魔王としてできる限りのことをしよう」
スノウの決意には微笑みが返ってきた。
アークがスノウの思いの全てを受け止めて認めてくれるから、これでいいんだと自信が湧いてくる。
「さて、まずは、寝込んでいる者たちを見舞わなければならないな」
「では、次の家に案内を――」
アークの提案に、ラトがすぐに動き始める。
治療をするのを優先するのは、白狼の里の戦力を回復するためだろう。
スノウはその後についていくべきか、それとも雨対策を独自に講じるべきか迷った。
まだ魔法の扱いは慣れていないけれど、子どもの頃よりは多少使える。それならば、治療を行うアークと別れて、雨対策を始めた方が効率がいいかもしれない。
悩んでいたスノウが動かないでいると、家から出ようとしたラトが振り返る。
「スノウ? 陛下と一緒に――」
「僕、先に雨対策をしておこうかと思う」
宣言すると、ラトだけでなくアークも驚愕の表情で振り返った。
「スノウ、まさか俺と別行動をするつもりか? いつ人間が襲ってくるかも分からない中で? それは許可できないぞ」
アークが怖い表情で言い募ってくる。
でも、スノウの心は一切恐れを抱かなかった。アークの表情の理由が、スノウへの心配と愛情ゆえだと分かっていたからだ。
「心配してくれてありがとう。でも、僕にはこれがあるよ」
スノウは片手を掲げる。
手首に着けているのは、幼い頃にアークにもらった腕輪だ。アークがこれでもかと魔法を掛けたこれは、スノウを守護するもの。
たとえアークから遠く離れようと、これがある限りスノウが何者かに害されることはない。
「それは、そうだが……」
自分が贈ったものだからこそ、アークはその腕輪の効果を熟知している。それなのに心配を消しされないのは、運命の番だからだろうか。
運命の番は、一生を共にし、どちらかが不慮の事態で命を落とせば残された方は狂ってしまいかねない、強い繋がりを持っている。
スノウは『どうやって説得するべきかなぁ』と悩んだ。
アークの心配する気持ちが分かるからこそ、おざなりな対応で自分の意思を通すのは気が咎める。
「……では、白狼からの護衛を送りましょう。ラトも陛下の番様に付き添ったらいい。あなたも雪豹なのだから、私たちよりもよほどお力になれるでしょう。私が陛下をご案内すればいいのです」
口を挟んだのはメアリーの母親だった。
夫と娘を見送ってから、考え深げな表情をしていたけれど、今は決意に満ちた眼差しである。
「それでいいのか? あなたが陛下をご案内するということは、それが白狼族としての総意であると受け取られかねないよ? まだ、族長の意見を受け取ってはいないのに」
ラトが躊躇いがちに伺う。
メアリーの母親は族長補佐の妻。治療を一族の方針と受け取られる可能性は十分にあった。それが偽りになった場合、彼女は咎められることになるだろう。
スノウも心配になって、彼女をジッとみつめた。
「何を言うの。私の夫と娘が決意を固めて族長に会いに行ったのよ。諾、以外の返事を持ち帰ってくるわけがないでしょう」
カラリとした笑みで言う。その表情と言葉に、家族への愛情と信頼が溢れていた。
「……もし、族長が否と言うようだったら?」
問いを重ねるラト。スノウは目をパチクリとさせながら、その会話の行く末を見守った。
「族長は必ず諾と言います。ラト、私たち白狼は同族を重んじているけれど、個より集団を守ることが重要なの。……分かるでしょう?」
「……なるほど。あなたがたの決意を見誤っていたようだ」
ラトが重々しい響きの声を発した。その表情は僅かに強ばっているように思える。
スノウはメアリーの母親が何を言わんとしているのかよく分からない。承諾を得られるまで粘る、という意味ではないようだけれど。
アークに答えを求めて視線を向けると、軽く肩をすくめて受け流された。
ちょっともやもやする。
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