雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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三章.雪豹の青年

87.雪豹の青年と決意

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 発情期を終えて丸一日、スノウはベッドの住人だった。どう考えてもアークがやり過ぎたのだ。
 アークはルイスやロウエンの冷たい視線にさらされても、にこにことご機嫌だったけれど。

 そして、ようやく疲労が回復してきた日の夜、スノウの『初発情期祝い』が開催された。

「スノウ様! おめでとうございまーす!」
「恥ずかしいよ……。そんなにお祝いしなくていいよ……」

 スノウはみんなに事情が知られているということに、羞恥のあまり穴を掘って埋まりたい気分だった。

 たくさんのご馳走が並ぶ祝いの席には、スノウとアークの他に、ルイスとロウエンしかいないけれど、親しい使用人みんなもこのことを知っている。部屋を整えたり、ご馳走の準備をしたりするのは使用人なのだから当然だろう。

 つまりはスノウがアークと一週間近くベッドで過ごしていたことは、周知の事実になっているということで。みんな家族みたいだと思っていても、スノウは恥ずかしくてたまらないのだ。

「いやいや、発情期は明確な大人の証! お祝いせずにはいられませんよ~!」

 嬉々とした様子でグラスを掲げるルイスは、既にお酒を飲んでほろ酔い状態だった。
 アークに対しては「私のスノウ様が汚されたぁ!」なんて叫んでいたけれど、スノウを祝う気持ちに嘘はないらしい。

「発情期を祝うのはよくあることですよ。恥ずかしがる必要はありません」
「むぅ……分かってるけど……」

 ロウエンに穏やかな口調で言われ頷く。それはアークにも説明されていたことだった。納得できているかはともかくとして。

「スノウ、俺と発情期を過ごせたことが喜ばしくないのか……?」
「そんなわけないでしょ!」

 アークがしょんぼりと肩を落として尋ねてくるので、スノウは慌てて抱きついて頬にキスを送る。アークの表情は、わざとらしく繕っているようにも見えたけれど、万が一にでも誤解されるのは嫌だった。

 途切れがちな記憶ではあったけれど、発情期の間、スノウが幸せでいっぱいだったのは確かだ。思い出すだけで、頬が緩んでしまう。

「――アークと過ごせて幸せだよ。これからもずっとずっと一緒にいようね」
「ああ……俺もスノウと過ごせるのは幸せだ。こうしてずっと傍にいられたらいいのになぁ……」

 スノウの身体をぎゅっと抱き締めて、アークが視線を送った先にいたのはロウエンだ。

「何かご不満でも? 言っておきますが、陛下が発情期休暇の間、人間や竜族のことを対処したのは私ですからね? 休暇分、これからたくさん働いてもらいますよ」
「……分かってる」

 スノウは二人の顔を窺って、小さくため息をついた。
 発情期前にあったトラブルについて、スノウは簡単な説明しか受けていない。説明されたのは、リリアンが竜族の里で蟄居になったことと、トラブルを起こすよう仕掛けたのが人間だったことくらいだ。

 特に人間への対処は手間だっただろうに、それをロウエンが一手に引き受けてくれたというのだから、アークはしばらくロウエンに頭が上がらない状態なのかもしれない。そうすると、執務にアークをとられて、スノウは共に過ごす時間が減るということで――。

「……決めた。僕、お仕事覚える!」
「は?」
「え?」
「……なるほど。陛下のさぼりをなくすためには、良い手かもしれませんなぁ」

 ポカンと口を開けて呆けるアークとルイスをよそに、真っ先にスノウの言葉の意図を察してくれたのはロウエンだった。
 スノウはアークに反対される前に、ロウエンと話をつけることにする。

「でしょ? アークの秘書さんになって、お仕事手伝うよ。ロウエン、僕にお仕事教えてくれる?」
「フォッフォッフォ……もちろんお教えしますとも」

 ロウエンが快く受け入れてくれて、スノウは満足感いっぱいで微笑んだ。
 発情期をずっと一緒に過ごしたからなのか、執務の間をアークと離れて過ごすということが、苦痛に感じられて仕方なかったのだ。公私混同かもしれないけれど、秘書としてでもアークの傍にいたかった。

「ダメだ、ダメだ! スノウを人目にさらすなんて……!」
「でも、これまでよりたくさん一緒に過ごせるよ?」
「グッ……」

 番相手を閉じ込めておきたいという欲があることは知っている。だから、スノウが執務の場に行くことを、アークは望んでいないのだ。
 でも、その欲はスノウにだって少しある。アークが自分の知らないところで、知らない人たちと、一日の大半を過ごしていることに、もやもやしたものを感じるのだ。

 それならば、共に過ごせばいい。楽しいことも、苦しいことも、悲しいことも、喜ばしいことも、一緒に味わうのだ。それが番というものではないかとも思う。

「僕はアークと共に生きていきたいの。守られるだけなのはイヤだよ。たくさんのことを、アークと一緒に体験するの」

 まっすぐにアークを見つめる。
 スノウの真剣な思いが伝わったのか、アークは苦々しい表情から少しずつ真摯な表情に変わっていった。

「……はぁ……分かった。でも、働くのは執務室だけでだ。他の場所には出さない!」
「それでいいよ! アーク、ありがとう!」

 ため息をついて、渋々な様子ではあったけれど、受け入れてもらえて嬉しい。
 満面の笑みを浮かべて抱きつくと、ぎゅっと抱き締め返された。

「ロウエン、分かっているな?」
「ええ、承知しておりますとも。元々、書類運びなどをさせるつもりはありませんし」

 念を押すアークに、ロウエンがおかしそうに笑っていた。


――――――

次回エピローグです……(*´ω`*)
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