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三章.雪豹の青年
79.魔王と後始末(アーク視点)
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アークはリリアンに掛けた自白用の魔法を解き、催眠魔法を掛けた。くたりとテーブルに突っ伏す姿からすぐに目を逸らし立ち上がる。
聞くべきことはもう聞いた。全ては明らかになり、後は対処するだけ。
「リリアンは竜族の地での幽閉とする。暫く目覚めん。今のうちに運んでおけ」
「承知いたしました」
控えていた尋問官に指示を出し、アークは執務室に戻った。
早いところ、リリアンへの処罰を公表し、人間への対処をしなければならない。だが、それもすぐに済ませられるだろう。
執務室に入った途端、ロウエンが顔を上げて口を開く。アークの分の仕事を、ちゃんと片づけてくれていたらしい。
「――おや、お帰りなさいませ、陛下。随分と早いお戻りで」
皮肉っぽい口調ながら、目にはアークを探るような感情が浮かんでいる。リリアンを尋問していたにしては早すぎる帰りだから、何か不都合なことが起きたのかと警戒しているのだろう。
「リリアンは反省するまで幽閉処分にした。人間に魅了魔法をかけられ、罪の意識が薄れていたことで、今回の騒ぎを引き起こしたらしい」
「……なるほど、妥当な処罰ですな。潜在意識が行動に現れたというなら、魅了魔法による行動であっても、無罪とはなりませんし。本人の油断が招いた事態ならば、それでいいかと。人間についてはどうなさいますか?」
椅子に深く腰掛けながら、アークはロウエンへの返事を考えた。何をどこまで対処するか――。
「……リリアンの侍女が人間と繋がっている疑いがある。まずはそちらを拘束し、尋問を。人間は、魔王の弱点への攻撃法を探りたかったのだろう。今すぐ侵攻してくる意思はないはずだ。……だが、番を虚仮にされて、黙っているつもりはない」
机を叩いていた指を止め、アークはロウエンに視線を向ける。ロウエンは目に期待の色を浮かべていた。
人間との無為な戦いを禁じているアークの支配下において、人間を攻撃できる機会はあまりない。人間への恨みが強いロウエンが、仕返しに意欲的なのは当然だった。
「――探りに来ていた魅了魔法の行使者は消せ。おそらく、人間の中でも特別に、魅了魔法の能力が高い者だろう。すぐに探せるはずだ。これ以上、魔族の国の内部を乱されてはたまらん」
「承知いたしました」
頷きながらも、目で更なる指示を促してくるロウエンに、アークは苦笑した。
あまりに人間に対して攻撃的すぎる。それに許可を出そうとしているアークも大概だが。
「……指示を出した国は、以前と同様に。小国ならば滅ぼせ。大国ならば脅しに留めろ。影響が大きすぎる」
「大国であっても、滅ぼしてしまえばいいのでは?」
ロウエンが不満そうに視線を尖らせた。アークはそれを睥睨し、しっかりと首を横に振る。
「そんなことをすれば、再び魔族と人間の間での戦争が起きる。……同胞が命を散らし、憎しみが生まれるだけだ。俺の治世で、戦争を起こすことはない。人間との共存を掲げるつもりはないが、魔族の命が最優先だ」
「……仕方ありませんね。私も血族を亡くす悲しみは分かっていますし」
ため息をつきながらも受け入れたロウエンに、アークは肩をすくめた。
アークが魔王の地位に就く際に決めたのは、魔族世界の安定維持を何よりも優先することだ。
番のことでいくら怒りが湧いていようと、仕返しには限度がある。世界に害を与えてはならないのだ。
ロウエンはそんなアークの決意をよく知っている。だから、この後の処理をロウエンに一任したとしても、アークの意思から逸れたことはしないだろう。
そう根拠もなく信じられるくらい、アークはロウエンのことをよく知っていた。
「では、私は早速人間への対処をしてきます。陛下はそろそろ謁見のお時間です。書類はその後できっちりと片づけてくださいませ」
にこやかな笑みで逃亡の禁止を告げられ、アークはげんなりとしながら頷いた。
早くスノウに会いたい。癒されたい。そんな望みが叶うには、まだ時間がかかりそうだ。
聞くべきことはもう聞いた。全ては明らかになり、後は対処するだけ。
「リリアンは竜族の地での幽閉とする。暫く目覚めん。今のうちに運んでおけ」
「承知いたしました」
控えていた尋問官に指示を出し、アークは執務室に戻った。
早いところ、リリアンへの処罰を公表し、人間への対処をしなければならない。だが、それもすぐに済ませられるだろう。
執務室に入った途端、ロウエンが顔を上げて口を開く。アークの分の仕事を、ちゃんと片づけてくれていたらしい。
「――おや、お帰りなさいませ、陛下。随分と早いお戻りで」
皮肉っぽい口調ながら、目にはアークを探るような感情が浮かんでいる。リリアンを尋問していたにしては早すぎる帰りだから、何か不都合なことが起きたのかと警戒しているのだろう。
「リリアンは反省するまで幽閉処分にした。人間に魅了魔法をかけられ、罪の意識が薄れていたことで、今回の騒ぎを引き起こしたらしい」
「……なるほど、妥当な処罰ですな。潜在意識が行動に現れたというなら、魅了魔法による行動であっても、無罪とはなりませんし。本人の油断が招いた事態ならば、それでいいかと。人間についてはどうなさいますか?」
椅子に深く腰掛けながら、アークはロウエンへの返事を考えた。何をどこまで対処するか――。
「……リリアンの侍女が人間と繋がっている疑いがある。まずはそちらを拘束し、尋問を。人間は、魔王の弱点への攻撃法を探りたかったのだろう。今すぐ侵攻してくる意思はないはずだ。……だが、番を虚仮にされて、黙っているつもりはない」
机を叩いていた指を止め、アークはロウエンに視線を向ける。ロウエンは目に期待の色を浮かべていた。
人間との無為な戦いを禁じているアークの支配下において、人間を攻撃できる機会はあまりない。人間への恨みが強いロウエンが、仕返しに意欲的なのは当然だった。
「――探りに来ていた魅了魔法の行使者は消せ。おそらく、人間の中でも特別に、魅了魔法の能力が高い者だろう。すぐに探せるはずだ。これ以上、魔族の国の内部を乱されてはたまらん」
「承知いたしました」
頷きながらも、目で更なる指示を促してくるロウエンに、アークは苦笑した。
あまりに人間に対して攻撃的すぎる。それに許可を出そうとしているアークも大概だが。
「……指示を出した国は、以前と同様に。小国ならば滅ぼせ。大国ならば脅しに留めろ。影響が大きすぎる」
「大国であっても、滅ぼしてしまえばいいのでは?」
ロウエンが不満そうに視線を尖らせた。アークはそれを睥睨し、しっかりと首を横に振る。
「そんなことをすれば、再び魔族と人間の間での戦争が起きる。……同胞が命を散らし、憎しみが生まれるだけだ。俺の治世で、戦争を起こすことはない。人間との共存を掲げるつもりはないが、魔族の命が最優先だ」
「……仕方ありませんね。私も血族を亡くす悲しみは分かっていますし」
ため息をつきながらも受け入れたロウエンに、アークは肩をすくめた。
アークが魔王の地位に就く際に決めたのは、魔族世界の安定維持を何よりも優先することだ。
番のことでいくら怒りが湧いていようと、仕返しには限度がある。世界に害を与えてはならないのだ。
ロウエンはそんなアークの決意をよく知っている。だから、この後の処理をロウエンに一任したとしても、アークの意思から逸れたことはしないだろう。
そう根拠もなく信じられるくらい、アークはロウエンのことをよく知っていた。
「では、私は早速人間への対処をしてきます。陛下はそろそろ謁見のお時間です。書類はその後できっちりと片づけてくださいませ」
にこやかな笑みで逃亡の禁止を告げられ、アークはげんなりとしながら頷いた。
早くスノウに会いたい。癒されたい。そんな望みが叶うには、まだ時間がかかりそうだ。
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