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三章.雪豹の青年
76.雪豹の青年と変化
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アークに付き添われて部屋に戻ってきた。でも、アークが立ち去った途端、スノウはムズムズと落ち着かない気分でソファに寝転ぶ。
腕に抱えた柔らかなクッションが、無残なほどに潰れている。でも、そんなことも気にかけられないほどに、違和感が強かった。
(アークに悪戯されてる時みたいに、お腹がじわじわ熱くて、ムズムズする……)
部屋中を駆け回って、暴れたいような。じっと蹲って叫びたいような。
よく分からない感覚が、スノウを苛んでいる。それは時間が経つごとに強さを増しているようで、スノウはどうしたらいいか分からなかった。
「スノウ様、お気分が悪いのですか?」
「……うーん」
心配そうに問いかけてくるルイスには悪いけれど、スノウは自分の今の状態を説明できる気がしなかった。
曖昧に首を振ると、ルイスが水を持ってきてくれたり、身体を擦ってくれたりする。優しい。
スノウは目を伏せて、ルイスの労わりを感じながら、揺らぐ心に喝を入れた。
よく分からない状態に、いつまでもウジウジしているのは良くない。解消できないか、試みてみるべきだろう。
身体を巡る魔力を意識して、ふわりと人の姿を解く。久しぶりに獣型になり、解放感を覚えた。
人型が嫌いなわけではないけれど、たまにはこの姿も落ち着く。何より、服を着ていなくていいのが最高だ。
もぞもぞと服から脱出しようとするスノウを、ルイスが慌てて手伝ってくれた。
「急に、どうしました?」
「なんか落ち着かなかったから。……少しは良くなったかなぁ」
グッと伸びをして、ソファから跳び下りながら返事をする。長くスノウを苛んでいた違和感が、少し薄れたような気がした。
「むむっ……でも、噛み噛みしたい……」
ふわりとした尻尾が視界に入り、口が開く。雪豹族の習性だけれど、大人になっても尻尾を噛みたくなる衝動は少しも減らないようだ。
子どもっぽいように思えて、普段は我慢しているけれど、今日ぐらいはいいだろうか。
躊躇いながらも、ハムッと尻尾の先を甘噛みすると、ストンと心が落ち着いた。まだ奥底に違和感があるけれど、無視できないほどではない。
「ん~……久しぶり……」
「か、かわっ……!」
「川? 皮?」
ルイスが「はわわっ!」と手で口元を隠しながら、興奮している。スノウの獣型を久しぶりに見たからだろうか。スノウとしても、この姿は自慢だけれど。
日頃のルイスの熱心な手入れが獣型にも反映されているのか、毛並みはつやつやでふわっふわだし、全く乱れていない。触り心地もいいはずだ。
(アークも、久しぶりに見たら喜ぶかな?)
いつもはアークに抱きつく時の楽さを優先して人型だ。でも、たまにはこの姿で懐くのも良いかもしれない。
子どもの頃のように、アークに全身を包まれて微睡むのは難しいだろう。でも、きっとアークは愛でてくれる。
アークの温もりを思い出すと、落ち着いていたはずのムズムズが蘇ってくる気がした。
スノウはブンブンと頭を振って、アークの姿を思考から追い出そうとする。そうすれば、少し落ち着いたような気もするけれど――。
(もしかして、アークのことを考えるのが、ムズムズの原因? だからって、どうすることもできないよ……)
アークのことを考えないなんて、ましてやアークから離れることなんて、スノウにはできはしない。
ならば、この感覚と付き合っていく方法を、考えなければいけないのだろう。
「――アーク……早く、帰ってきて……」
一人で乗り越えるのは難しそうで、スノウはくるりと丸まって、尻尾を噛んで気を紛らわせながら、アークの帰りを待つことにした。
腕に抱えた柔らかなクッションが、無残なほどに潰れている。でも、そんなことも気にかけられないほどに、違和感が強かった。
(アークに悪戯されてる時みたいに、お腹がじわじわ熱くて、ムズムズする……)
部屋中を駆け回って、暴れたいような。じっと蹲って叫びたいような。
よく分からない感覚が、スノウを苛んでいる。それは時間が経つごとに強さを増しているようで、スノウはどうしたらいいか分からなかった。
「スノウ様、お気分が悪いのですか?」
「……うーん」
心配そうに問いかけてくるルイスには悪いけれど、スノウは自分の今の状態を説明できる気がしなかった。
曖昧に首を振ると、ルイスが水を持ってきてくれたり、身体を擦ってくれたりする。優しい。
スノウは目を伏せて、ルイスの労わりを感じながら、揺らぐ心に喝を入れた。
よく分からない状態に、いつまでもウジウジしているのは良くない。解消できないか、試みてみるべきだろう。
身体を巡る魔力を意識して、ふわりと人の姿を解く。久しぶりに獣型になり、解放感を覚えた。
人型が嫌いなわけではないけれど、たまにはこの姿も落ち着く。何より、服を着ていなくていいのが最高だ。
もぞもぞと服から脱出しようとするスノウを、ルイスが慌てて手伝ってくれた。
「急に、どうしました?」
「なんか落ち着かなかったから。……少しは良くなったかなぁ」
グッと伸びをして、ソファから跳び下りながら返事をする。長くスノウを苛んでいた違和感が、少し薄れたような気がした。
「むむっ……でも、噛み噛みしたい……」
ふわりとした尻尾が視界に入り、口が開く。雪豹族の習性だけれど、大人になっても尻尾を噛みたくなる衝動は少しも減らないようだ。
子どもっぽいように思えて、普段は我慢しているけれど、今日ぐらいはいいだろうか。
躊躇いながらも、ハムッと尻尾の先を甘噛みすると、ストンと心が落ち着いた。まだ奥底に違和感があるけれど、無視できないほどではない。
「ん~……久しぶり……」
「か、かわっ……!」
「川? 皮?」
ルイスが「はわわっ!」と手で口元を隠しながら、興奮している。スノウの獣型を久しぶりに見たからだろうか。スノウとしても、この姿は自慢だけれど。
日頃のルイスの熱心な手入れが獣型にも反映されているのか、毛並みはつやつやでふわっふわだし、全く乱れていない。触り心地もいいはずだ。
(アークも、久しぶりに見たら喜ぶかな?)
いつもはアークに抱きつく時の楽さを優先して人型だ。でも、たまにはこの姿で懐くのも良いかもしれない。
子どもの頃のように、アークに全身を包まれて微睡むのは難しいだろう。でも、きっとアークは愛でてくれる。
アークの温もりを思い出すと、落ち着いていたはずのムズムズが蘇ってくる気がした。
スノウはブンブンと頭を振って、アークの姿を思考から追い出そうとする。そうすれば、少し落ち着いたような気もするけれど――。
(もしかして、アークのことを考えるのが、ムズムズの原因? だからって、どうすることもできないよ……)
アークのことを考えないなんて、ましてやアークから離れることなんて、スノウにはできはしない。
ならば、この感覚と付き合っていく方法を、考えなければいけないのだろう。
「――アーク……早く、帰ってきて……」
一人で乗り越えるのは難しそうで、スノウはくるりと丸まって、尻尾を噛んで気を紛らわせながら、アークの帰りを待つことにした。
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