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三章.雪豹の青年
74.雪豹の青年と暴走
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「黙って聞いていれば、どこまでも無礼な子どもねっ……!」
「……僕、もう成人しました」
聞き捨てならない言葉に、スノウは小さく反論する。でも、リリアンの耳には一切届かなかったらしい。
昨日の宴はスノウの成人祝いも兼ねていたのだから、リリアンもそのことは承知しているはずなのだけれど。
不満を抱えて、スノウは唇を尖らせた。
アークに抱きしめられて、頭をポンポン撫でてもらいたい。そうしたら、この不満だって、きっとすぐに消えてしまうはずだ。
「躾がなっていない獣には、こうしましょう――」
不意にリリアンの雰囲気ががらりと変わった。スノウを蔑み、憐れむように見下したかと思うと、スッと片手を挙げる。
そこに何か恐ろしいものが収束していくように感じられた。
「っ……!」
スノウの前にルイスが飛び出そうとするので、慌てて腰に抱きついて止める。
リリアンが何をしようとしているか分からないのは怖かったけれど、スノウはアークがくれた守護の腕輪に守られている。危ないのは、巻き添えになりかねないルイスの方だ。
「ルイス、っ――!?」
ルイスへかけようとした言葉は、途切れることになった。
リリアンの手が振り下ろされたのだ。それと同時に、光の塊が押し寄せてくるように感じる。
スノウは震えて強張る手でルイスを抱きしめた。縋りついていると言ってもいい有り様だったけれど、ルイスもぎゅっと抱きしめ返してくれる。
不意にアークの腕輪から広がる光が、スノウとルイスを囲むように、球状に展開された。それによって、リリアンから放たれたものは、スノウたちに少しも害を及ぼさないようだ。
(アークのおかげだ……。でも、部屋も建物も……もしかしたら、近くで巻き込まれた人がいるかも……)
思い当たったことに、スノウは眉尻を下げた。でも、今は自分に何もできることはないと悟って、じっと光の嵐が過ぎ去るのを待つ。
――光の嵐は、訪れるのも突然だったけれど、去るのも急だった。
どれほどの間、光が放たれていたかは分からない。それでも、光の変化を感じて、スノウが細めていた目を開いた時には、部屋は最後に見た時と変わらない状態でそこにあった。
変わったものといえば、愕然とした様子で目を見開いたリリアンと――。
「――アーク!」
見慣れた後ろ姿。
自分たちを背後に庇うように立つ存在に、スノウは安堵して抱きついた。
リリアンが放ったものは、おそらく破壊の光だったのだろう。それなのに部屋が無事な理由は、正確には分からない。
でも、アークがここにいるなら、それが理由なのだろう。それだけアークは凄い人なのだと、スノウは心から信じていた。
「スノウ、遅くなってすまなかったな。もう大丈夫だ」
背中から胴体に抱きついたスノウの腕を、アークの手が宥めるように撫でた。
ふわりと花の香りが漂う。スノウを落ち着かせるために放たれた、アークの香りだ。
それを胸いっぱいに吸い込んで、スノウは徐々に身体の力を抜く。アークの背中に額を当て、擦りつけた。
今はアークにいっぱい甘えたい気分だ。
「――リリアン。ここは俺が許可した者しか立ち入れない場所だ。無断で立ち入ったことも、そこで攻撃用の魔法を放ったことも、どう釈明するつもりか?」
アークの冷たい声。その向かいから、怯えるように息を飲む気配が伝わってきた。
「……僕、もう成人しました」
聞き捨てならない言葉に、スノウは小さく反論する。でも、リリアンの耳には一切届かなかったらしい。
昨日の宴はスノウの成人祝いも兼ねていたのだから、リリアンもそのことは承知しているはずなのだけれど。
不満を抱えて、スノウは唇を尖らせた。
アークに抱きしめられて、頭をポンポン撫でてもらいたい。そうしたら、この不満だって、きっとすぐに消えてしまうはずだ。
「躾がなっていない獣には、こうしましょう――」
不意にリリアンの雰囲気ががらりと変わった。スノウを蔑み、憐れむように見下したかと思うと、スッと片手を挙げる。
そこに何か恐ろしいものが収束していくように感じられた。
「っ……!」
スノウの前にルイスが飛び出そうとするので、慌てて腰に抱きついて止める。
リリアンが何をしようとしているか分からないのは怖かったけれど、スノウはアークがくれた守護の腕輪に守られている。危ないのは、巻き添えになりかねないルイスの方だ。
「ルイス、っ――!?」
ルイスへかけようとした言葉は、途切れることになった。
リリアンの手が振り下ろされたのだ。それと同時に、光の塊が押し寄せてくるように感じる。
スノウは震えて強張る手でルイスを抱きしめた。縋りついていると言ってもいい有り様だったけれど、ルイスもぎゅっと抱きしめ返してくれる。
不意にアークの腕輪から広がる光が、スノウとルイスを囲むように、球状に展開された。それによって、リリアンから放たれたものは、スノウたちに少しも害を及ぼさないようだ。
(アークのおかげだ……。でも、部屋も建物も……もしかしたら、近くで巻き込まれた人がいるかも……)
思い当たったことに、スノウは眉尻を下げた。でも、今は自分に何もできることはないと悟って、じっと光の嵐が過ぎ去るのを待つ。
――光の嵐は、訪れるのも突然だったけれど、去るのも急だった。
どれほどの間、光が放たれていたかは分からない。それでも、光の変化を感じて、スノウが細めていた目を開いた時には、部屋は最後に見た時と変わらない状態でそこにあった。
変わったものといえば、愕然とした様子で目を見開いたリリアンと――。
「――アーク!」
見慣れた後ろ姿。
自分たちを背後に庇うように立つ存在に、スノウは安堵して抱きついた。
リリアンが放ったものは、おそらく破壊の光だったのだろう。それなのに部屋が無事な理由は、正確には分からない。
でも、アークがここにいるなら、それが理由なのだろう。それだけアークは凄い人なのだと、スノウは心から信じていた。
「スノウ、遅くなってすまなかったな。もう大丈夫だ」
背中から胴体に抱きついたスノウの腕を、アークの手が宥めるように撫でた。
ふわりと花の香りが漂う。スノウを落ち着かせるために放たれた、アークの香りだ。
それを胸いっぱいに吸い込んで、スノウは徐々に身体の力を抜く。アークの背中に額を当て、擦りつけた。
今はアークにいっぱい甘えたい気分だ。
「――リリアン。ここは俺が許可した者しか立ち入れない場所だ。無断で立ち入ったことも、そこで攻撃用の魔法を放ったことも、どう釈明するつもりか?」
アークの冷たい声。その向かいから、怯えるように息を飲む気配が伝わってきた。
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