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三章.雪豹の青年
70.雪豹の青年と不穏な言葉
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朝食を食べ終えてしまうと、スノウは暇である。これまではお披露目の準備で、なんだかんだと忙しくしていたけれど、これからの予定は空白だった。
アークの執務の手伝いができればいいのだけれど、ロウエンを中心に、部下は十分いるらしい。
スノウができるとしたら、書類を各部署に持っていくことくらい。それも、アークが難色を示すため、実質無理なことだった。
魔王の番なのだから、何かしら務めがあるべきだと思う。でも、基本的に『番は仕舞い込むもの』という認識があるようなので、スノウが暇なのは仕方ないのだ。
部屋の外に出てもいいだけ、スノウは自由が保証されている方だ。……城からは、アークと一緒でないと、出られないけれど。
「むぅ~……お散歩する?」
部屋に籠りきりはつまらないし、城内探索でもしようかと腰を上げた。城を歩けば、優しい人たちが構ってくれるので、アークがいない寂しさを紛らわせることができる。
もちろん、ルイスと二人であっても落ち着くけれど、多少飽きがくるので。
「お散歩ですか……今は招待客の方も歩いてらっしゃるので、陛下と使用人以外は入れない中庭までに留めましょう」
「……そっか、昨日のお客さんたち、暫く滞在してるんだ」
「そのせいで、陛下は謁見でお忙しいわけですし」
昨夜のお披露目の様子を思い出して、スノウは頷いた。
招待客はみな、アークと話す機会を得るために、遠路遥々魔王城までやって来ているのだ。謁見をしたがるのはもちろん、その待ち時間に城を見学するくらいは当然しているだろう。
少し散歩に後ろ向きな気持ちになった。
お披露目で分かったことだが、スノウはあまり不特定多数の人と話すのが得意ではない。城の使用人に対してはそんなことを思わないのに、なぜだろう。
「……裏があるように感じるからかなぁ」
ふと思い当たったことを呟き、スノウは納得した。
招待客はみんな綺麗に着飾っていた。それで、感情まで装われ、笑顔の奥に別の感情があるように感じられてしまったのだ。いつも朗らかな使用人たちとは全く違う雰囲気だった。
「招待客ですか? ……たいていの方は、スノウ様を歓迎されていると思いますけどねぇ」
部屋を出るスノウに続いたルイスが、少し苦い口調で答えた。「たいていの」ということは、そうではない人に心当たりがあるのだろう。
スノウに関心がない人もいると分かっている。でも、ルイスの言葉は、それだけではないように感じられた。
(昨日の、竜族の女の人……。たぶん、僕のことを歓迎してなかった)
ルイスの言葉に、アークに寄り添う美女の姿が浮かんだ。挨拶を受けたかも知れないけれど、名前を覚えていない。それでも、その姿はスノウの記憶に強く刻み込まれていた。
チクリと痛んだ胸を押さえる。お披露目の宴の最中にも感じた痛みだ。怪我はしていないし、何かの病気だろうか。医者に診てもらうべきなのだろうか。
でも、アークやルイスを心配させてしまいそうで、なかなか口に出すことができない。あの美女のことを思い出すのが、この痛みのきっかけな気がする。極力、思い出さないようにすれば大丈夫かな。
「――スノウ様に下卑た視線を向ける者がいたとかで、ロウエン様のお仕事が増えたらしいですし、気をつけましょうね」
自分の考えに没頭していたスノウは、ルイスの言葉を聞き逃した。視線を向けても、ルイスはのほほんと周囲を眺めているので、応えを求めるような言葉ではなかったようだ。
それならば気にしなくてもいいだろうと、スノウは頭を切り替えて、中庭に続く扉を開けた。
アークの執務の手伝いができればいいのだけれど、ロウエンを中心に、部下は十分いるらしい。
スノウができるとしたら、書類を各部署に持っていくことくらい。それも、アークが難色を示すため、実質無理なことだった。
魔王の番なのだから、何かしら務めがあるべきだと思う。でも、基本的に『番は仕舞い込むもの』という認識があるようなので、スノウが暇なのは仕方ないのだ。
部屋の外に出てもいいだけ、スノウは自由が保証されている方だ。……城からは、アークと一緒でないと、出られないけれど。
「むぅ~……お散歩する?」
部屋に籠りきりはつまらないし、城内探索でもしようかと腰を上げた。城を歩けば、優しい人たちが構ってくれるので、アークがいない寂しさを紛らわせることができる。
もちろん、ルイスと二人であっても落ち着くけれど、多少飽きがくるので。
「お散歩ですか……今は招待客の方も歩いてらっしゃるので、陛下と使用人以外は入れない中庭までに留めましょう」
「……そっか、昨日のお客さんたち、暫く滞在してるんだ」
「そのせいで、陛下は謁見でお忙しいわけですし」
昨夜のお披露目の様子を思い出して、スノウは頷いた。
招待客はみな、アークと話す機会を得るために、遠路遥々魔王城までやって来ているのだ。謁見をしたがるのはもちろん、その待ち時間に城を見学するくらいは当然しているだろう。
少し散歩に後ろ向きな気持ちになった。
お披露目で分かったことだが、スノウはあまり不特定多数の人と話すのが得意ではない。城の使用人に対してはそんなことを思わないのに、なぜだろう。
「……裏があるように感じるからかなぁ」
ふと思い当たったことを呟き、スノウは納得した。
招待客はみんな綺麗に着飾っていた。それで、感情まで装われ、笑顔の奥に別の感情があるように感じられてしまったのだ。いつも朗らかな使用人たちとは全く違う雰囲気だった。
「招待客ですか? ……たいていの方は、スノウ様を歓迎されていると思いますけどねぇ」
部屋を出るスノウに続いたルイスが、少し苦い口調で答えた。「たいていの」ということは、そうではない人に心当たりがあるのだろう。
スノウに関心がない人もいると分かっている。でも、ルイスの言葉は、それだけではないように感じられた。
(昨日の、竜族の女の人……。たぶん、僕のことを歓迎してなかった)
ルイスの言葉に、アークに寄り添う美女の姿が浮かんだ。挨拶を受けたかも知れないけれど、名前を覚えていない。それでも、その姿はスノウの記憶に強く刻み込まれていた。
チクリと痛んだ胸を押さえる。お披露目の宴の最中にも感じた痛みだ。怪我はしていないし、何かの病気だろうか。医者に診てもらうべきなのだろうか。
でも、アークやルイスを心配させてしまいそうで、なかなか口に出すことができない。あの美女のことを思い出すのが、この痛みのきっかけな気がする。極力、思い出さないようにすれば大丈夫かな。
「――スノウ様に下卑た視線を向ける者がいたとかで、ロウエン様のお仕事が増えたらしいですし、気をつけましょうね」
自分の考えに没頭していたスノウは、ルイスの言葉を聞き逃した。視線を向けても、ルイスはのほほんと周囲を眺めているので、応えを求めるような言葉ではなかったようだ。
それならば気にしなくてもいいだろうと、スノウは頭を切り替えて、中庭に続く扉を開けた。
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