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三章.雪豹の青年
68.雪豹の青年と朝の戯れ(☆)
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温かいものが離れていく感覚。手を伸ばして追うと、ぎゅっと握りしめられた。
「う……ん……?」
指先を撫でられ、指の間を擦られる。誰かがスノウの手に悪戯をしている。誰かと考えたら一人しかいないけれど。
「……アーク」
まだ重たい目蓋をこじ開け、見上げた先には楽しそうに笑んだアークがいた。朝から機嫌がいい。
「おはよう、スノウ」
額に落ちてくるキスを受け入れ、アークが離れる前に首に腕を回す。少し頭を起こしてアークの頬にキスを返した。
「……おはよう、アーク。今日は早いね?」
ベッドに手をついて体勢を保つアークから目を逸らし、窓に掛かるカーテンを見る。その隙間から窺える外の光は、まだ弱々しい。明け方と言ってもいいくらいだ。
アークは毎日執務で忙しいけれど、ここまで早く起きているのは珍しい。ベッドの中でスノウが起きるのを待っているのが常なのだ。
「ああ、昨日はスノウのお披露目で後回しにした執務があったからな。早い内に片付けておくつもりだ。午後からは謁見の予定が詰まっているしな」
「……大変そう」
スノウはアークの執務に関してはあまり知らないけれど、それが重大な責任を伴うものだと分かっている。謁見も、昨日のお披露目でのことを考えると、酷く疲れるものだと予想できた。
「慣れたことだ。……だが、まあ、応援してくれる気があるなら、受け入れるぞ?」
「応援……?」
覆い被さっているアークを、スノウはきょとんと見つめる。アークはなんだかとても楽しそうだ。昨夜見せた表情と少し似ている気がする。
「ん」
スノウの口の端にキスされた。離れたアークが愉快げに口角を上げている。……スノウにも唇へのキスをねだっているのだと、なんとなく分かった。
昨夜のドキドキを思い出すと躊躇ってしまうけれど、アークを応援したい気持ちはある。
「アーク……」
おずおずと腕に力を籠めたら、ゆっくりとアークの顔が近づいてきた。唇に狙いを定めて、ちゅ、と吸い付く。
上手くできた気がする。伏せていた目蓋を開けると、うっとりと細められた夕陽色の瞳が視界に飛び込んできた。
間近で見るその美しさと慈しみの感情に、スノウの心が震える。なんとも甘美な感覚だった。
思わずアークの肩に縋るように、指先に力が入る。
唇を震わせるスノウに、アークの方が動き出した。柔らかく唇を食まれ、緊張を和らげるように優しい交接が続く。
ただ唇を重ねるだけのキスが心地よくて、ずっとこの感覚を追っていたくなる。離れようとする唇を、スノウの方から追ってしまうくらい、状況を忘れて熱中していた。
「ん……アーク、もっと……」
「っ、あぁ、そうだな……」
キスの合間に囁くと、アークの目がギラリと光った気がした。それでも、囁く声は優しくて甘くて、スノウを蕩けさせていくようだ。
いっそう強く唇が重なるのと同時に、熱い舌に舐められて、スノウはおずおずと口を開けた。この後どうなるかは昨夜の経験から分かっていたけれど、怯えよりも今はもっとアークを近くで感じたいという気持ちが強かった。
「んぁ……ふ、ぁ……」
熱く長い舌が口内を埋める。口蓋を擽られ、スノウが身体を震わせると、アークの手が宥めるようにスノウに触れた。
二の腕から肩、胸、脇腹を優しく撫でる手は、いつもならスノウを落ち着かせるものなのに、今日はなんだかおかしい。触られたところから、じわじわと熱が身体中に広がっていく気がした。
「ゃ、あ……アーク……さわら、ないで……」
「ん? 撫でられるの、スノウは好きだろう?」
キスの合間に制止しても、アークは楽しそうに笑って、スノウを撫でるのをやめない。
スノウは身体が震えるのを止められなくて、アークの手首を掴んで止めようとした。アークはそんなスノウの抵抗を全く気に止めていないようだけれど。
「キス……だけがいぃ……」
「……わがままだな」
優しいキスだけがほしいのだ。その望みを、アークは苦笑と共に受け止めて……さらりと流したような気がする。スノウはムッとして、口に入り込もうとする舌先に歯を立てた。
「いじわる、や……」
「……噛むなんてひどいな。いじわるじゃないぞ? 可愛がってるだけだ」
「今は嫌なの……」
ちゅ、ちゅ、と唇に吸い付いてくるアークをじとりと睨む。アークに反省する様子はなかった。
「う……ん……?」
指先を撫でられ、指の間を擦られる。誰かがスノウの手に悪戯をしている。誰かと考えたら一人しかいないけれど。
「……アーク」
まだ重たい目蓋をこじ開け、見上げた先には楽しそうに笑んだアークがいた。朝から機嫌がいい。
「おはよう、スノウ」
額に落ちてくるキスを受け入れ、アークが離れる前に首に腕を回す。少し頭を起こしてアークの頬にキスを返した。
「……おはよう、アーク。今日は早いね?」
ベッドに手をついて体勢を保つアークから目を逸らし、窓に掛かるカーテンを見る。その隙間から窺える外の光は、まだ弱々しい。明け方と言ってもいいくらいだ。
アークは毎日執務で忙しいけれど、ここまで早く起きているのは珍しい。ベッドの中でスノウが起きるのを待っているのが常なのだ。
「ああ、昨日はスノウのお披露目で後回しにした執務があったからな。早い内に片付けておくつもりだ。午後からは謁見の予定が詰まっているしな」
「……大変そう」
スノウはアークの執務に関してはあまり知らないけれど、それが重大な責任を伴うものだと分かっている。謁見も、昨日のお披露目でのことを考えると、酷く疲れるものだと予想できた。
「慣れたことだ。……だが、まあ、応援してくれる気があるなら、受け入れるぞ?」
「応援……?」
覆い被さっているアークを、スノウはきょとんと見つめる。アークはなんだかとても楽しそうだ。昨夜見せた表情と少し似ている気がする。
「ん」
スノウの口の端にキスされた。離れたアークが愉快げに口角を上げている。……スノウにも唇へのキスをねだっているのだと、なんとなく分かった。
昨夜のドキドキを思い出すと躊躇ってしまうけれど、アークを応援したい気持ちはある。
「アーク……」
おずおずと腕に力を籠めたら、ゆっくりとアークの顔が近づいてきた。唇に狙いを定めて、ちゅ、と吸い付く。
上手くできた気がする。伏せていた目蓋を開けると、うっとりと細められた夕陽色の瞳が視界に飛び込んできた。
間近で見るその美しさと慈しみの感情に、スノウの心が震える。なんとも甘美な感覚だった。
思わずアークの肩に縋るように、指先に力が入る。
唇を震わせるスノウに、アークの方が動き出した。柔らかく唇を食まれ、緊張を和らげるように優しい交接が続く。
ただ唇を重ねるだけのキスが心地よくて、ずっとこの感覚を追っていたくなる。離れようとする唇を、スノウの方から追ってしまうくらい、状況を忘れて熱中していた。
「ん……アーク、もっと……」
「っ、あぁ、そうだな……」
キスの合間に囁くと、アークの目がギラリと光った気がした。それでも、囁く声は優しくて甘くて、スノウを蕩けさせていくようだ。
いっそう強く唇が重なるのと同時に、熱い舌に舐められて、スノウはおずおずと口を開けた。この後どうなるかは昨夜の経験から分かっていたけれど、怯えよりも今はもっとアークを近くで感じたいという気持ちが強かった。
「んぁ……ふ、ぁ……」
熱く長い舌が口内を埋める。口蓋を擽られ、スノウが身体を震わせると、アークの手が宥めるようにスノウに触れた。
二の腕から肩、胸、脇腹を優しく撫でる手は、いつもならスノウを落ち着かせるものなのに、今日はなんだかおかしい。触られたところから、じわじわと熱が身体中に広がっていく気がした。
「ゃ、あ……アーク……さわら、ないで……」
「ん? 撫でられるの、スノウは好きだろう?」
キスの合間に制止しても、アークは楽しそうに笑って、スノウを撫でるのをやめない。
スノウは身体が震えるのを止められなくて、アークの手首を掴んで止めようとした。アークはそんなスノウの抵抗を全く気に止めていないようだけれど。
「キス……だけがいぃ……」
「……わがままだな」
優しいキスだけがほしいのだ。その望みを、アークは苦笑と共に受け止めて……さらりと流したような気がする。スノウはムッとして、口に入り込もうとする舌先に歯を立てた。
「いじわる、や……」
「……噛むなんてひどいな。いじわるじゃないぞ? 可愛がってるだけだ」
「今は嫌なの……」
ちゅ、ちゅ、と唇に吸い付いてくるアークをじとりと睨む。アークに反省する様子はなかった。
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