60 / 251
三章.雪豹の青年
60.雪豹の青年と魔王の愉悦
しおりを挟む
「――なるほど……」
ルイスから話を聞いて、アークが深いため息をついた。スノウは服を着せられながら、その様子を見守る。アークはなんだか頭が痛そうだ。
「陛下、どうなさるんです? 本当に私が教えちゃいますか? スライム流の――」
「お前たちみたいな下品な話をスノウに聞かせるな」
「ひどい、傷つきました。下品なのはスライムを使う方々であって、私たちが望んでしているわけではないんですよ?」
「そうであっても、スノウに聞かせる話ではないのは分かるよな?」
「……はい、それは重々承知しておりますとも」
アークは笑っていたけれど、目が冷たい光を放っていた。軽快な口調だったルイスが、一瞬で身をすくめるくらいには圧力を感じる。
スノウは仕上げに上着を羽織って、ボタンを留めた。
身体に添うように仕立てられた服は、柔らかな布で作られていて動きを邪魔しない。刺繍や宝石で飾られて、布地自体は黒に近いけれど、華やかな印象だった。アークがこだわった一品で、スノウも気に入っている。
後は装飾品をつけるだけのはず。でも、披露目まではまだ時間があるから、もう少し後でもいいのかな。生花も届いていないし。
「……綺麗」
スノウの前には宝石が連なるティアラがあった。披露目ではこれに生花を合わせてつけるのだ。
アークからたくさんの宝石を贈られているけれど、その中でもとびきり美しい装飾品であるのは間違いない。魔王の番がティアラをつけて披露目をするのは慣習のようなので、アークが張り切って作らせたのだ。
「スノウ様~、問題の張本人なんですから、話に集中してくださいよ~」
「だって、二人とも僕にちゃんと説明する気がないでしょ?」
ルイスがジト目で見つめてくるので、スノウも頬を膨らませながら返した。スノウをのけ者にして話しているのは二人の方なのだ。
アークとルイスが気まずそうに視線を交わす。説明を押し付け合っている雰囲気があった。
「あー……スノウ、閨教育についてだが」
「うん」
押し負けたのはアークらしい。咳払いの後に姿勢を正したのを見て、スノウも隣に座って真剣な表情になる。アークの番として必要なことならば、どんなに難しいことだってちゃんと学ぶ気合いはあるのだ。
「――いや、詳しい話は披露目が終わってからにしよう」
「なんで?」
せっかく静聴する姿勢を見せたのに、アークの方が口籠もってしまった。話を先延ばしにすることに意味があるのだろうか。今だって十分時間はあるはずだけれど。
不満さを籠めて唇を尖らすスノウを、アークが不思議な熱を感じる眼差しで見下ろした。
お腹の奥の方がむずむずしてくる気がして、スノウはそういう視線がちょっと苦手だ。思わず目を逸らしてしまう。
「……ふっ……その方が、二度手間にならないからだな。机上で学ぶよりも、実地の方がよく分かるだろう?」
「それはそうなんだろうけど……アーク、なんか変……」
含みのある言葉に感じて、ちらりとアークの顔を窺う。喜色の浮かんだ目に首を傾げてしまったけれど。ねや教育というものを、アークが楽しみにしているのはよく分かった。
ルイスから話を聞いて、アークが深いため息をついた。スノウは服を着せられながら、その様子を見守る。アークはなんだか頭が痛そうだ。
「陛下、どうなさるんです? 本当に私が教えちゃいますか? スライム流の――」
「お前たちみたいな下品な話をスノウに聞かせるな」
「ひどい、傷つきました。下品なのはスライムを使う方々であって、私たちが望んでしているわけではないんですよ?」
「そうであっても、スノウに聞かせる話ではないのは分かるよな?」
「……はい、それは重々承知しておりますとも」
アークは笑っていたけれど、目が冷たい光を放っていた。軽快な口調だったルイスが、一瞬で身をすくめるくらいには圧力を感じる。
スノウは仕上げに上着を羽織って、ボタンを留めた。
身体に添うように仕立てられた服は、柔らかな布で作られていて動きを邪魔しない。刺繍や宝石で飾られて、布地自体は黒に近いけれど、華やかな印象だった。アークがこだわった一品で、スノウも気に入っている。
後は装飾品をつけるだけのはず。でも、披露目まではまだ時間があるから、もう少し後でもいいのかな。生花も届いていないし。
「……綺麗」
スノウの前には宝石が連なるティアラがあった。披露目ではこれに生花を合わせてつけるのだ。
アークからたくさんの宝石を贈られているけれど、その中でもとびきり美しい装飾品であるのは間違いない。魔王の番がティアラをつけて披露目をするのは慣習のようなので、アークが張り切って作らせたのだ。
「スノウ様~、問題の張本人なんですから、話に集中してくださいよ~」
「だって、二人とも僕にちゃんと説明する気がないでしょ?」
ルイスがジト目で見つめてくるので、スノウも頬を膨らませながら返した。スノウをのけ者にして話しているのは二人の方なのだ。
アークとルイスが気まずそうに視線を交わす。説明を押し付け合っている雰囲気があった。
「あー……スノウ、閨教育についてだが」
「うん」
押し負けたのはアークらしい。咳払いの後に姿勢を正したのを見て、スノウも隣に座って真剣な表情になる。アークの番として必要なことならば、どんなに難しいことだってちゃんと学ぶ気合いはあるのだ。
「――いや、詳しい話は披露目が終わってからにしよう」
「なんで?」
せっかく静聴する姿勢を見せたのに、アークの方が口籠もってしまった。話を先延ばしにすることに意味があるのだろうか。今だって十分時間はあるはずだけれど。
不満さを籠めて唇を尖らすスノウを、アークが不思議な熱を感じる眼差しで見下ろした。
お腹の奥の方がむずむずしてくる気がして、スノウはそういう視線がちょっと苦手だ。思わず目を逸らしてしまう。
「……ふっ……その方が、二度手間にならないからだな。机上で学ぶよりも、実地の方がよく分かるだろう?」
「それはそうなんだろうけど……アーク、なんか変……」
含みのある言葉に感じて、ちらりとアークの顔を窺う。喜色の浮かんだ目に首を傾げてしまったけれど。ねや教育というものを、アークが楽しみにしているのはよく分かった。
70
お気に入りに追加
3,180
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい
白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。
村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。
攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
巻き込まれ異世界転移者(俺)は、村人Aなので探さないで下さい。
はちのす
BL
異世界転移に巻き込まれた憐れな俺。
騎士団や勇者に見つからないよう、村人Aとしてスローライフを謳歌してやるんだからな!!
***********
異世界からの転移者を血眼になって探す人達と、ヒラリヒラリと躱す村人A(俺)の日常。
イケメン(複数)×平凡?
全年齢対象、すごく健全
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる