33 / 224
三章.雪豹の青年
60.雪豹の青年と魔王の愉悦
しおりを挟む
「――なるほど……」
ルイスから話を聞いて、アークが深いため息をついた。スノウは服を着せられながら、その様子を見守る。アークはなんだか頭が痛そうだ。
「陛下、どうなさるんです? 本当に私が教えちゃいますか? スライム流の――」
「お前たちみたいな下品な話をスノウに聞かせるな」
「ひどい、傷つきました。下品なのはスライムを使う方々であって、私たちが望んでしているわけではないんですよ?」
「そうであっても、スノウに聞かせる話ではないのは分かるよな?」
「……はい、それは重々承知しておりますとも」
アークは笑っていたけれど、目が冷たい光を放っていた。軽快な口調だったルイスが、一瞬で身をすくめるくらいには圧力を感じる。
スノウは仕上げに上着を羽織って、ボタンを留めた。
身体に添うように仕立てられた服は、柔らかな布で作られていて動きを邪魔しない。刺繍や宝石で飾られて、布地自体は黒に近いけれど、華やかな印象だった。アークがこだわった一品で、スノウも気に入っている。
後は装飾品をつけるだけのはず。でも、披露目まではまだ時間があるから、もう少し後でもいいのかな。生花も届いていないし。
「……綺麗」
スノウの前には宝石が連なるティアラがあった。披露目ではこれに生花を合わせてつけるのだ。
アークからたくさんの宝石を贈られているけれど、その中でもとびきり美しい装飾品であるのは間違いない。魔王の番がティアラをつけて披露目をするのは慣習のようなので、アークが張り切って作らせたのだ。
「スノウ様~、問題の張本人なんですから、話に集中してくださいよ~」
「だって、二人とも僕にちゃんと説明する気がないでしょ?」
ルイスがジト目で見つめてくるので、スノウも頬を膨らませながら返した。スノウをのけ者にして話しているのは二人の方なのだ。
アークとルイスが気まずそうに視線を交わす。説明を押し付け合っている雰囲気があった。
「あー……スノウ、閨教育についてだが」
「うん」
押し負けたのはアークらしい。咳払いの後に姿勢を正したのを見て、スノウも隣に座って真剣な表情になる。アークの番として必要なことならば、どんなに難しいことだってちゃんと学ぶ気合いはあるのだ。
「――いや、詳しい話は披露目が終わってからにしよう」
「なんで?」
せっかく静聴する姿勢を見せたのに、アークの方が口籠もってしまった。話を先延ばしにすることに意味があるのだろうか。今だって十分時間はあるはずだけれど。
不満さを籠めて唇を尖らすスノウを、アークが不思議な熱を感じる眼差しで見下ろした。
お腹の奥の方がむずむずしてくる気がして、スノウはそういう視線がちょっと苦手だ。思わず目を逸らしてしまう。
「……ふっ……その方が、二度手間にならないからだな。机上で学ぶよりも、実地の方がよく分かるだろう?」
「それはそうなんだろうけど……アーク、なんか変……」
含みのある言葉に感じて、ちらりとアークの顔を窺う。喜色の浮かんだ目に首を傾げてしまったけれど。ねや教育というものを、アークが楽しみにしているのはよく分かった。
ルイスから話を聞いて、アークが深いため息をついた。スノウは服を着せられながら、その様子を見守る。アークはなんだか頭が痛そうだ。
「陛下、どうなさるんです? 本当に私が教えちゃいますか? スライム流の――」
「お前たちみたいな下品な話をスノウに聞かせるな」
「ひどい、傷つきました。下品なのはスライムを使う方々であって、私たちが望んでしているわけではないんですよ?」
「そうであっても、スノウに聞かせる話ではないのは分かるよな?」
「……はい、それは重々承知しておりますとも」
アークは笑っていたけれど、目が冷たい光を放っていた。軽快な口調だったルイスが、一瞬で身をすくめるくらいには圧力を感じる。
スノウは仕上げに上着を羽織って、ボタンを留めた。
身体に添うように仕立てられた服は、柔らかな布で作られていて動きを邪魔しない。刺繍や宝石で飾られて、布地自体は黒に近いけれど、華やかな印象だった。アークがこだわった一品で、スノウも気に入っている。
後は装飾品をつけるだけのはず。でも、披露目まではまだ時間があるから、もう少し後でもいいのかな。生花も届いていないし。
「……綺麗」
スノウの前には宝石が連なるティアラがあった。披露目ではこれに生花を合わせてつけるのだ。
アークからたくさんの宝石を贈られているけれど、その中でもとびきり美しい装飾品であるのは間違いない。魔王の番がティアラをつけて披露目をするのは慣習のようなので、アークが張り切って作らせたのだ。
「スノウ様~、問題の張本人なんですから、話に集中してくださいよ~」
「だって、二人とも僕にちゃんと説明する気がないでしょ?」
ルイスがジト目で見つめてくるので、スノウも頬を膨らませながら返した。スノウをのけ者にして話しているのは二人の方なのだ。
アークとルイスが気まずそうに視線を交わす。説明を押し付け合っている雰囲気があった。
「あー……スノウ、閨教育についてだが」
「うん」
押し負けたのはアークらしい。咳払いの後に姿勢を正したのを見て、スノウも隣に座って真剣な表情になる。アークの番として必要なことならば、どんなに難しいことだってちゃんと学ぶ気合いはあるのだ。
「――いや、詳しい話は披露目が終わってからにしよう」
「なんで?」
せっかく静聴する姿勢を見せたのに、アークの方が口籠もってしまった。話を先延ばしにすることに意味があるのだろうか。今だって十分時間はあるはずだけれど。
不満さを籠めて唇を尖らすスノウを、アークが不思議な熱を感じる眼差しで見下ろした。
お腹の奥の方がむずむずしてくる気がして、スノウはそういう視線がちょっと苦手だ。思わず目を逸らしてしまう。
「……ふっ……その方が、二度手間にならないからだな。机上で学ぶよりも、実地の方がよく分かるだろう?」
「それはそうなんだろうけど……アーク、なんか変……」
含みのある言葉に感じて、ちらりとアークの顔を窺う。喜色の浮かんだ目に首を傾げてしまったけれど。ねや教育というものを、アークが楽しみにしているのはよく分かった。
183
お気に入りに追加
3,341
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑)
本編完結しました!
舞踏会編はじめましたー!
舞踏会編からお読みいただけるよう、本編のあらすじをご用意しました!
おまけのお話の下、舞踏会編のうえに、登場人物一覧と一緒にあります。
ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話を連載中です。もしよかったらどうぞです!
第12回BL大賞10位で奨励賞をいただきました。選んでくださった編集部の方、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。
心から、ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。