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三章.雪豹の青年

60.雪豹の青年と魔王の愉悦

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「――なるほど……」

 ルイスから話を聞いて、アークが深いため息をついた。スノウは服を着せられながら、その様子を見守る。アークはなんだか頭が痛そうだ。

「陛下、どうなさるんです? 本当に私が教えちゃいますか? スライム流の――」
「お前たちみたいな下品な話をスノウに聞かせるな」
「ひどい、傷つきました。下品なのはスライムを使う方々であって、私たちが望んでしているわけではないんですよ?」
「そうであっても、スノウに聞かせる話ではないのは分かるよな?」
「……はい、それは重々承知しておりますとも」

 アークは笑っていたけれど、目が冷たい光を放っていた。軽快な口調だったルイスが、一瞬で身をすくめるくらいには圧力を感じる。

 スノウは仕上げに上着を羽織って、ボタンを留めた。
 身体に添うように仕立てられた服は、柔らかな布で作られていて動きを邪魔しない。刺繍や宝石で飾られて、布地自体は黒に近いけれど、華やかな印象だった。アークがこだわった一品で、スノウも気に入っている。
 後は装飾品をつけるだけのはず。でも、披露目まではまだ時間があるから、もう少し後でもいいのかな。生花も届いていないし。

「……綺麗」

 スノウの前には宝石が連なるティアラがあった。披露目ではこれに生花を合わせてつけるのだ。
 アークからたくさんの宝石を贈られているけれど、その中でもとびきり美しい装飾品であるのは間違いない。魔王の番がティアラをつけて披露目をするのは慣習のようなので、アークが張り切って作らせたのだ。

「スノウ様~、問題の張本人なんですから、話に集中してくださいよ~」
「だって、二人とも僕にちゃんと説明する気がないでしょ?」

 ルイスがジト目で見つめてくるので、スノウも頬を膨らませながら返した。スノウをのけ者にして話しているのは二人の方なのだ。
 アークとルイスが気まずそうに視線を交わす。説明を押し付け合っている雰囲気があった。

「あー……スノウ、閨教育についてだが」
「うん」

 押し負けたのはアークらしい。咳払いの後に姿勢を正したのを見て、スノウも隣に座って真剣な表情になる。アークの番として必要なことならば、どんなに難しいことだってちゃんと学ぶ気合いはあるのだ。

「――いや、詳しい話は披露目が終わってからにしよう」
「なんで?」

 せっかく静聴する姿勢を見せたのに、アークの方が口籠もってしまった。話を先延ばしにすることに意味があるのだろうか。今だって十分時間はあるはずだけれど。

 不満さを籠めて唇を尖らすスノウを、アークが不思議な熱を感じる眼差しで見下ろした。
 お腹の奥の方がむずむずしてくる気がして、スノウはそういう視線がちょっと苦手だ。思わず目を逸らしてしまう。

「……ふっ……その方が、二度手間にならないからだな。机上で学ぶよりも、実地の方がよく分かるだろう?」
「それはそうなんだろうけど……アーク、なんか変……」

 含みのある言葉に感じて、ちらりとアークの顔を窺う。喜色の浮かんだ目に首を傾げてしまったけれど。ねや教育というものを、アークが楽しみにしているのはよく分かった。

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