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三章.雪豹の青年
57.雪豹の青年と狩り
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草原を駆ける鳥。あれがなんなのか分からないけれど、アークが降りてこないところを見るに、それほど強い魔物ではないのだろう。
スノウはゴクッと唾を飲んで、鳥に意識を集中させた。
(大丈夫。練習通りすれば、きっと倒せる……!)
身体に満ちる魔力を操る。さほど意識しなくても、もうこれは簡単にできるようになった。
「――氷弾」
掛け声と共に、魔力で成形した氷が鳥の足下に当たった。冷気が鳥を包み、その足を止めさせる。
魔法を出す際に、掛け声をつけるようアドバイスしてくれたのはロウエンだ。まだ魔法を使うのが拙い者は、掛け声と魔法の効果を結びつけることで、イメージを掴みやすくなるらしい。
「やったー! とどめは、氷柱!」
足止めした鳥に、尖った氷を突き刺す。ピキピキと身体が凍った。……倒せたのだろうか?
近づいて足でつんつんと突く。……動かない。倒せたみたいだ。
「――アーク! 倒したよ~!」
空を飛ぶアークに手を振る。高いところにいたのに、スノウの声に気づいたのか、一瞬で地上に降りてきた。風圧で周囲の草が薙ぎ倒される。
折角捕らえた鳥まで飛ばされそうになっていたので、慌てて確保した。不思議とスノウには風の影響がない。
「上手くいったようだな」
アークは心底安堵した表情だった。スノウは危うく獲物を見失いそうになった文句をつけるつもりだったけれど、その表情を見て口を閉ざす。
心配のあまり、風への配慮ができていなかったのだと分かれば、スノウが何かを言えるわけがなかった。
「……うん。この鳥、何かなぁ?」
「ピジョーだな」
「ピジョー……あ、市で食べたお肉!」
「ああ。夕飯に調理してもらうといい。それは仕舞っておこう」
差し出された手を見つめる。スノウはふと、獲物を収納する袋を用意し忘れていたことに気づいた。アークが持っているのだろうかと思っても、それらしきものはない。
首を傾げつつピジョーを渡すと、一瞬でどこかへ消えた。
「みっ!? なくなったよ! アーク、食べちゃったの?」
「……さすがに、手で食うのは無理だな。ほら、ここにある腕輪。これが収納アイテムになってるんだ」
「収納アイテム……」
アークの腕にはきらりと輝く石がついた腕輪があった。スノウがアークからもらったものとは全く違う。
「そういう魔法が掛かってるんだ」
「へぇ……凄いんだねぇ」
スノウはよく分からないまま頷いた。雪豹族は獣人の中では魔法が得意な一族だけれど、その能力は水と氷に関するものが大部分を占めている。アークがくれた腕輪や、収納アイテムに掛かっている魔法を使うことはおろか、理解するのも難しかった。
というわけで、単純に感嘆したスノウを、アークが可笑しそうに目を細めて見守っている。
「――そんなに小さな腕輪にどれくらい収納できるの?」
「どれくらい? あー……スノウの部屋くらいは入るんじゃないか?」
「え、凄い! じゃあ、たくさん狩っても大丈夫だね!」
思わずスノウの目がきらきらと輝く。アークが目を見開いて固まった。
たくさん獲物があると持って帰るのが大変だと思っていたけれど、アークのおかげでその心配はなくなった。思う存分狩りをしても大丈夫だということだ。
初めての狩りは上手くいったし、自信もついた。次にいつ狩りに連れて来てもらえるか分からないのだから、今日は思う存分狩りを楽しむつもりだ。アークだけでなく、城の皆にもスノウの獲物を食べてもらえるかもしれない。
スノウはアークのことを愛しているけれど、優しい城の皆も大好きなのだ。
「――次の獲物狙うから、アークはまた空で待っててね!」
「え、あ、ちょ――」
伸びてくる手を軽やかに躱して、スノウは草原を駆けた。アークの影響でこの辺一帯に魔物の気配はなくなっている。駆けて探しに行くのだ。
自分の足で地を駆ける感覚が気持ちいい。城を探検するのも好きだけれど、スノウはこうして自然の中にいるのが性に合っている気がした。
「ふっふっふ~ん、次のお肉~!」
意気揚々と駆けるスノウの背後では、アークがしょんぼりと肩を落して寂しげに佇んでいた。それを横目で見て、スノウは苦笑する。申し訳ない気もするけれど、今日ばかりは自由に過ごさせてもらいたい。
スノウはゴクッと唾を飲んで、鳥に意識を集中させた。
(大丈夫。練習通りすれば、きっと倒せる……!)
身体に満ちる魔力を操る。さほど意識しなくても、もうこれは簡単にできるようになった。
「――氷弾」
掛け声と共に、魔力で成形した氷が鳥の足下に当たった。冷気が鳥を包み、その足を止めさせる。
魔法を出す際に、掛け声をつけるようアドバイスしてくれたのはロウエンだ。まだ魔法を使うのが拙い者は、掛け声と魔法の効果を結びつけることで、イメージを掴みやすくなるらしい。
「やったー! とどめは、氷柱!」
足止めした鳥に、尖った氷を突き刺す。ピキピキと身体が凍った。……倒せたのだろうか?
近づいて足でつんつんと突く。……動かない。倒せたみたいだ。
「――アーク! 倒したよ~!」
空を飛ぶアークに手を振る。高いところにいたのに、スノウの声に気づいたのか、一瞬で地上に降りてきた。風圧で周囲の草が薙ぎ倒される。
折角捕らえた鳥まで飛ばされそうになっていたので、慌てて確保した。不思議とスノウには風の影響がない。
「上手くいったようだな」
アークは心底安堵した表情だった。スノウは危うく獲物を見失いそうになった文句をつけるつもりだったけれど、その表情を見て口を閉ざす。
心配のあまり、風への配慮ができていなかったのだと分かれば、スノウが何かを言えるわけがなかった。
「……うん。この鳥、何かなぁ?」
「ピジョーだな」
「ピジョー……あ、市で食べたお肉!」
「ああ。夕飯に調理してもらうといい。それは仕舞っておこう」
差し出された手を見つめる。スノウはふと、獲物を収納する袋を用意し忘れていたことに気づいた。アークが持っているのだろうかと思っても、それらしきものはない。
首を傾げつつピジョーを渡すと、一瞬でどこかへ消えた。
「みっ!? なくなったよ! アーク、食べちゃったの?」
「……さすがに、手で食うのは無理だな。ほら、ここにある腕輪。これが収納アイテムになってるんだ」
「収納アイテム……」
アークの腕にはきらりと輝く石がついた腕輪があった。スノウがアークからもらったものとは全く違う。
「そういう魔法が掛かってるんだ」
「へぇ……凄いんだねぇ」
スノウはよく分からないまま頷いた。雪豹族は獣人の中では魔法が得意な一族だけれど、その能力は水と氷に関するものが大部分を占めている。アークがくれた腕輪や、収納アイテムに掛かっている魔法を使うことはおろか、理解するのも難しかった。
というわけで、単純に感嘆したスノウを、アークが可笑しそうに目を細めて見守っている。
「――そんなに小さな腕輪にどれくらい収納できるの?」
「どれくらい? あー……スノウの部屋くらいは入るんじゃないか?」
「え、凄い! じゃあ、たくさん狩っても大丈夫だね!」
思わずスノウの目がきらきらと輝く。アークが目を見開いて固まった。
たくさん獲物があると持って帰るのが大変だと思っていたけれど、アークのおかげでその心配はなくなった。思う存分狩りをしても大丈夫だということだ。
初めての狩りは上手くいったし、自信もついた。次にいつ狩りに連れて来てもらえるか分からないのだから、今日は思う存分狩りを楽しむつもりだ。アークだけでなく、城の皆にもスノウの獲物を食べてもらえるかもしれない。
スノウはアークのことを愛しているけれど、優しい城の皆も大好きなのだ。
「――次の獲物狙うから、アークはまた空で待っててね!」
「え、あ、ちょ――」
伸びてくる手を軽やかに躱して、スノウは草原を駆けた。アークの影響でこの辺一帯に魔物の気配はなくなっている。駆けて探しに行くのだ。
自分の足で地を駆ける感覚が気持ちいい。城を探検するのも好きだけれど、スノウはこうして自然の中にいるのが性に合っている気がした。
「ふっふっふ~ん、次のお肉~!」
意気揚々と駆けるスノウの背後では、アークがしょんぼりと肩を落して寂しげに佇んでいた。それを横目で見て、スノウは苦笑する。申し訳ない気もするけれど、今日ばかりは自由に過ごさせてもらいたい。
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