雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

文字の大きさ
上 下
30 / 224
三章.雪豹の青年

57.雪豹の青年と狩り

しおりを挟む
 草原を駆ける鳥。あれがなんなのか分からないけれど、アークが降りてこないところを見るに、それほど強い魔物ではないのだろう。
 スノウはゴクッと唾を飲んで、鳥に意識を集中させた。

(大丈夫。練習通りすれば、きっと倒せる……!)

 身体に満ちる魔力を操る。さほど意識しなくても、もうこれは簡単にできるようになった。

「――氷弾アイスバレット

 掛け声と共に、魔力で成形した氷が鳥の足下に当たった。冷気が鳥を包み、その足を止めさせる。
 魔法を出す際に、掛け声をつけるようアドバイスしてくれたのはロウエンだ。まだ魔法を使うのが拙い者は、掛け声と魔法の効果を結びつけることで、イメージを掴みやすくなるらしい。

「やったー! とどめは、氷柱アイシクル!」

 足止めした鳥に、尖った氷を突き刺す。ピキピキと身体が凍った。……倒せたのだろうか?
 近づいて足でつんつんと突く。……動かない。倒せたみたいだ。

「――アーク! 倒したよ~!」

 空を飛ぶアークに手を振る。高いところにいたのに、スノウの声に気づいたのか、一瞬で地上に降りてきた。風圧で周囲の草が薙ぎ倒される。
 折角捕らえた鳥まで飛ばされそうになっていたので、慌てて確保した。不思議とスノウには風の影響がない。

「上手くいったようだな」

 アークは心底安堵した表情だった。スノウは危うく獲物を見失いそうになった文句をつけるつもりだったけれど、その表情を見て口を閉ざす。
 心配のあまり、風への配慮ができていなかったのだと分かれば、スノウが何かを言えるわけがなかった。

「……うん。この鳥、何かなぁ?」
「ピジョーだな」
「ピジョー……あ、市で食べたお肉!」
「ああ。夕飯に調理してもらうといい。それは仕舞っておこう」

 差し出された手を見つめる。スノウはふと、獲物を収納する袋を用意し忘れていたことに気づいた。アークが持っているのだろうかと思っても、それらしきものはない。
 首を傾げつつピジョーを渡すと、一瞬でどこかへ消えた。

「みっ!? なくなったよ! アーク、食べちゃったの?」
「……さすがに、手で食うのは無理だな。ほら、ここにある腕輪。これが収納アイテムになってるんだ」
「収納アイテム……」

 アークの腕にはきらりと輝く石がついた腕輪があった。スノウがアークからもらったものとは全く違う。

「そういう魔法が掛かってるんだ」
「へぇ……凄いんだねぇ」

 スノウはよく分からないまま頷いた。雪豹族は獣人の中では魔法が得意な一族だけれど、その能力は水と氷に関するものが大部分を占めている。アークがくれた腕輪や、収納アイテムに掛かっている魔法を使うことはおろか、理解するのも難しかった。
 というわけで、単純に感嘆したスノウを、アークが可笑しそうに目を細めて見守っている。

「――そんなに小さな腕輪にどれくらい収納できるの?」
「どれくらい? あー……スノウの部屋くらいは入るんじゃないか?」
「え、凄い! じゃあ、たくさん狩っても大丈夫だね!」

 思わずスノウの目がきらきらと輝く。アークが目を見開いて固まった。
 たくさん獲物があると持って帰るのが大変だと思っていたけれど、アークのおかげでその心配はなくなった。思う存分狩りをしても大丈夫だということだ。

 初めての狩りは上手くいったし、自信もついた。次にいつ狩りに連れて来てもらえるか分からないのだから、今日は思う存分狩りを楽しむつもりだ。アークだけでなく、城の皆にもスノウの獲物を食べてもらえるかもしれない。
 スノウはアークのことを愛しているけれど、優しい城の皆も大好きなのだ。

「――次の獲物狙うから、アークはまた空で待っててね!」
「え、あ、ちょ――」

 伸びてくる手を軽やかに躱して、スノウは草原を駆けた。アークの影響でこの辺一帯に魔物の気配はなくなっている。駆けて探しに行くのだ。
 自分の足で地を駆ける感覚が気持ちいい。城を探検するのも好きだけれど、スノウはこうして自然の中にいるのが性に合っている気がした。

「ふっふっふ~ん、次のお肉~!」

 意気揚々と駆けるスノウの背後では、アークがしょんぼりと肩を落して寂しげに佇んでいた。それを横目で見て、スノウは苦笑する。申し訳ない気もするけれど、今日ばかりは自由に過ごさせてもらいたい。

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。