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三章.雪豹の青年
54.雪豹の青年と纏う色
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市を満喫し終えて、静かな道を進んだ先に、たくさんの服や布が置かれた店があった。
扉を押し開けると、カランと軽やかな音がする。
「いらっしゃいませ――おや、これは、陛下とスノウ様。まさか店の方に足を運んでいただけるとは」
「こんにちは、仕立て屋さん」
城に来てくれる、顔馴染みの仕立て屋だ。スノウの挨拶に、穏やかに微笑みながら礼を返してくれる。
「本日の御用はなんでしょうか?」
「アークの服を選ぶんだよ!」
「陛下の、でございますか」
仕立て屋の目がアークを捉える。その不思議そうな感じを見るに、よほど普段のアークは自分の身なりに関心がないらしい。スノウの服については、アークはこれでもかと要望を出すのに。
「アークの黒一色の服を変えさせるの」
「それは新鮮でいいですね。仕立てますか? 既製服もいくらかはこちらにありますが」
楽しそうに笑った仕立て屋に、アークが憮然としたように顔を顰める。二人が何故そんな顔をするか分からない。
スノウは首を傾げながらも、仕立て屋が示す既製服に目を向ける。あまり数は多くないけれど、これを参考にして布から仕立ててもらうのもありかもしれない。
「既製服から見ておくね。布のカタログも欲しい」
「もちろん御用意いたしますよ」
スノウは飾られている服に目を向ける。様々な形があるけれど、アークに似合うのはどんなものだろうか。
アークはハイネックのものを着ていることが多い。でも、Vネックの服も似合うと思う。
「……アーク、こんな感じはどう?」
淡いオレンジのVネック。ハンガーに掛けられたそれをアークにあててみる。
瞳の色と似た色合いだけれど、普段の黒服とのギャップのせいか、少し違和感がある。でも、慣れれば大丈夫なはず。
「派手だな……」
「そう? 元気な色だよ? ……あ、僕の色もあるよ!」
淡い黄色の服。スノウの目の色は金だけれど、黄色は同系色として好んでいる。オレンジの代わりにあててみると、胸が温かくなった。
アークがスノウの色を身に纏うと考えると、なんだか嬉しくなる。それに、こうしてアークの服を選ぶのは、思っていた以上に楽しい。
「……スノウの色か。それはいいが……やはり派手じゃないか?」
「えー?」
あまり乗り気ではない様子のアークに頬を膨らます。似合っているのに。
「スノウ様のお色を取り入れたいのでしたら、こういった布もございますよ」
仕立て屋が示したのは濃灰色の布だ。アークが少しホッとした顔をする。
でも、スノウは納得できなかった。これまでとは違う風にアークの服をコーディネートしたいのに、これでは黒との違いがあまりない。確かにスノウの髪色と似ているけれど。
「これにこういった刺繍や装飾品を合わせるのはいかがでしょう」
「刺繍!」
仕立て屋が一枚のシャツを示す。その首元から胸元に掛けて、金の刺繍がしてあった。美しくて、うっとりする。
「――刺繍にする! でも形はこっちのVネックがいいな。この縁に刺繍をしてもらえる?」
「もちろん可能ですよ。刺繍の柄はどういたしますか?」
今度は刺繍の見本を見せてくれる。花や鳥、草、幾何学模様など、様々な刺繍があった。
「うーん、アークに似合うのはどれだろう……?」
「俺はどれでもいいが」
「ダメダメ。ちゃんとこだわりたいの!」
アークがスノウの服選びにかける情熱の意味が、スノウにも分かってきた。
番に服を贈るとは、なんと楽しくて幸せに満ちているのだろうか。特に自分の色を纏わせるとなると、気合いが入る。
「――この花と葉っぱが絡んだ刺繍がいいかな」
「薔薇とアイビーの葉。どちらも愛を意味する花言葉を持ちますし、よろしいですね」
スノウはきょとんと目を瞬く。
「愛……」
「ええ、愛。もうすぐ正式に番になられると伺っておりますよ。愛の刺繍は最適でしょう」
愛か。よくアークに「愛してる」と言われるけれど、そういえばスノウは「大好き」としか返したことがなかったかもしれない。
「……うふふ、愛かぁ。そうだね、僕、アークを愛してるもの!」
「っ……」
アークが息を飲んだ気配がしたので見上げる。顔を手で隠していたから、どんな表情かは分からない。でも――。
「アーク、耳が赤いよ」
「……言うな」
何故か恥ずかしがっている。大好きと愛してるはそんなに違うのだろうか。……違うかもしれない。なんというか、熱量が? 喜んでくれるなら、これからもっと言おう。
「アーク、愛してる!」
「……俺も、愛してるぞ」
心がふわふわと温かい。
仕立て屋が目を逸らして遠い目をしてるのは気づいたけれど、笑みが零れるのを抑えられなかった。
扉を押し開けると、カランと軽やかな音がする。
「いらっしゃいませ――おや、これは、陛下とスノウ様。まさか店の方に足を運んでいただけるとは」
「こんにちは、仕立て屋さん」
城に来てくれる、顔馴染みの仕立て屋だ。スノウの挨拶に、穏やかに微笑みながら礼を返してくれる。
「本日の御用はなんでしょうか?」
「アークの服を選ぶんだよ!」
「陛下の、でございますか」
仕立て屋の目がアークを捉える。その不思議そうな感じを見るに、よほど普段のアークは自分の身なりに関心がないらしい。スノウの服については、アークはこれでもかと要望を出すのに。
「アークの黒一色の服を変えさせるの」
「それは新鮮でいいですね。仕立てますか? 既製服もいくらかはこちらにありますが」
楽しそうに笑った仕立て屋に、アークが憮然としたように顔を顰める。二人が何故そんな顔をするか分からない。
スノウは首を傾げながらも、仕立て屋が示す既製服に目を向ける。あまり数は多くないけれど、これを参考にして布から仕立ててもらうのもありかもしれない。
「既製服から見ておくね。布のカタログも欲しい」
「もちろん御用意いたしますよ」
スノウは飾られている服に目を向ける。様々な形があるけれど、アークに似合うのはどんなものだろうか。
アークはハイネックのものを着ていることが多い。でも、Vネックの服も似合うと思う。
「……アーク、こんな感じはどう?」
淡いオレンジのVネック。ハンガーに掛けられたそれをアークにあててみる。
瞳の色と似た色合いだけれど、普段の黒服とのギャップのせいか、少し違和感がある。でも、慣れれば大丈夫なはず。
「派手だな……」
「そう? 元気な色だよ? ……あ、僕の色もあるよ!」
淡い黄色の服。スノウの目の色は金だけれど、黄色は同系色として好んでいる。オレンジの代わりにあててみると、胸が温かくなった。
アークがスノウの色を身に纏うと考えると、なんだか嬉しくなる。それに、こうしてアークの服を選ぶのは、思っていた以上に楽しい。
「……スノウの色か。それはいいが……やはり派手じゃないか?」
「えー?」
あまり乗り気ではない様子のアークに頬を膨らます。似合っているのに。
「スノウ様のお色を取り入れたいのでしたら、こういった布もございますよ」
仕立て屋が示したのは濃灰色の布だ。アークが少しホッとした顔をする。
でも、スノウは納得できなかった。これまでとは違う風にアークの服をコーディネートしたいのに、これでは黒との違いがあまりない。確かにスノウの髪色と似ているけれど。
「これにこういった刺繍や装飾品を合わせるのはいかがでしょう」
「刺繍!」
仕立て屋が一枚のシャツを示す。その首元から胸元に掛けて、金の刺繍がしてあった。美しくて、うっとりする。
「――刺繍にする! でも形はこっちのVネックがいいな。この縁に刺繍をしてもらえる?」
「もちろん可能ですよ。刺繍の柄はどういたしますか?」
今度は刺繍の見本を見せてくれる。花や鳥、草、幾何学模様など、様々な刺繍があった。
「うーん、アークに似合うのはどれだろう……?」
「俺はどれでもいいが」
「ダメダメ。ちゃんとこだわりたいの!」
アークがスノウの服選びにかける情熱の意味が、スノウにも分かってきた。
番に服を贈るとは、なんと楽しくて幸せに満ちているのだろうか。特に自分の色を纏わせるとなると、気合いが入る。
「――この花と葉っぱが絡んだ刺繍がいいかな」
「薔薇とアイビーの葉。どちらも愛を意味する花言葉を持ちますし、よろしいですね」
スノウはきょとんと目を瞬く。
「愛……」
「ええ、愛。もうすぐ正式に番になられると伺っておりますよ。愛の刺繍は最適でしょう」
愛か。よくアークに「愛してる」と言われるけれど、そういえばスノウは「大好き」としか返したことがなかったかもしれない。
「……うふふ、愛かぁ。そうだね、僕、アークを愛してるもの!」
「っ……」
アークが息を飲んだ気配がしたので見上げる。顔を手で隠していたから、どんな表情かは分からない。でも――。
「アーク、耳が赤いよ」
「……言うな」
何故か恥ずかしがっている。大好きと愛してるはそんなに違うのだろうか。……違うかもしれない。なんというか、熱量が? 喜んでくれるなら、これからもっと言おう。
「アーク、愛してる!」
「……俺も、愛してるぞ」
心がふわふわと温かい。
仕立て屋が目を逸らして遠い目をしてるのは気づいたけれど、笑みが零れるのを抑えられなかった。
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