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三章.雪豹の青年
49.雪豹の青年と準備
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ずらりと服が並ぶクローゼット。華やかな色合いの物からシックな物まで。全てはアークが選んでスノウに贈った服だ。
こんなにたくさんあっても、着るのはスノウ一人だから、全然使いきれないけれど。
「ルイス。街にはどんな服を着ていくのがいいかな?」
たくさんありすぎて迷う。腕を組んで悩むスノウに、ルイスは楽しそうに笑ってクローゼットを探った。
「街歩きなら、あまり装飾はない方が楽でしょうね。でも、魔王城と同様にたくさんの種族の者がいますから、これといった決まりはありませんよ。スノウ様の好きな服を選べばいいのでは?」
そう言いながら取り出したのは、スノウが好きなオフホワイトのセーター。これは肌触りが柔らかくて気持ちいいのだ。
「……アークが黒いのばっかり着るから、僕は対比したコーデにする」
二人で街を歩いた時に、お似合いと言われたい。黒で揃えたらなんだか暗くなるし、他の色合いで釣り合いがとれるのは何かと考えてもよく分からない。ならば、単純に白系で揃えてしまおう。
「良いですね。スノウ様は白がお似合いになりますから。差し色に、瞳の色を取り入れたらいかがですか?」
「金色ってこと? 黄色でもいいけど……金の装飾が好き!」
スノウは子どもの頃から変わらず、キラキラしたものが好きだ。それは宝石だけでなく、金や銀などの装飾品も含む。
アークもそれをよく知っているので、服の数以上に装飾品もたくさん贈られていた。
「金の装飾と言いますと――こちらのコートは金の飾りボタンがあってよろしいのでは?」
「あっ、それ好き!」
ルイスの提案に思わずニコニコしてしまう。
黄色みのあるオフホワイトの生地に、飾りボタンが六つ。金の刺繍もされていて、華やかな雰囲気だ。
生地は軽くて、街歩きで着ていても疲れなそう。
「――ボトムスはベージュにしようかな。靴はこの金装飾のあるブーツ!」
トータルで見ると白系で統一されて良い感じ。満足したスノウは、そのコーデを横に置いおく。これで、いつ街に誘われても準備万端だ。
(……? 何か、忘れているような……?)
ソファに腰掛けて首を傾げる。頭に引っ掛かったものが何か分からない。
「んー……?」
「スノウ様、どうかなさいました?」
休憩をとることを察したルイスが、お茶を淹れながら尋ねてくる。その近くに用意されているクッキーをじぃっと見ながら、さらに引っ掛かりを探った。
(街歩き。服も装飾品も、アークが贈ってくれたのがあるから、全部揃えられたし、問題はないはず? ……アークが贈ってくれた……?)
そこまで考えて、スノウはあることにハッと気づいた。そのあまりの衝撃に、勢いよく顔を上げてルイスを見つめる。
ルイスが反射的に身を仰け反らせた。
「ルイス! 僕、お金持ってない! 僕が持ってるもの全部、アークがくれたものだよ。街に行っても何も買えない……! 街ってたくさんのお店があるけど、お金ないと物を買えないんでしょ……?」
「お金、ですか……? そういえば、スノウ様にそのお話したことありませんでしたね」
落ち込んでいた気分のスノウに、ルイスが軽く頷いた。
「どういうこと?」
「スノウ様は、既に陛下の番になることを了承しておられますよね? それで、準番手当てがスノウ様に割り振られているんですよ」
「準、番手当て……」
きょとんと目を瞬いた。初耳だ。
「将来魔王陛下の番になられる方の生活費――給金のようなものですよ。スノウ様はほとんどお使いになってないので、現在の残高は……二千万イェンほどですね」
「にせんまんいぇん……」
ルイスが見せてくれたのは、たくさんの数字が書かれた冊子だった。必要に応じて申請すると、お金を引き出せるらしい。魔王城に商人を呼んで買い物をしたら、自動的に精算されるようだ。
「――二千万イェンでそのクッキーは買える?」
まだ手元に届かないクッキーを見つめて尋ねる。食べたい。
スノウの思いを察したルイスが、さっと渡してくれた。
「クッキーの値段はピンきりですが、二千万イェンあれば山ほど買えるでしょうね」
「山ほど!? 凄いね、二千万イェン!」
よく分からないけど、結構な金額らしい。
お金を持っていることに安心して、クッキーを食べ始める。その横にお茶が置かれて、更にルイスがどこかから取り出した本も並べられた。
「休憩の後はお勉強の時間ですね。――お金の価値について、早急にお教えします」
「ひえっ……わ、分かったよ……」
強い眼差しで主張するルイスに、戸惑いがちに頷く。勉強を拒否したことはないのに、何故か叱られている気分だ。
こんなにたくさんあっても、着るのはスノウ一人だから、全然使いきれないけれど。
「ルイス。街にはどんな服を着ていくのがいいかな?」
たくさんありすぎて迷う。腕を組んで悩むスノウに、ルイスは楽しそうに笑ってクローゼットを探った。
「街歩きなら、あまり装飾はない方が楽でしょうね。でも、魔王城と同様にたくさんの種族の者がいますから、これといった決まりはありませんよ。スノウ様の好きな服を選べばいいのでは?」
そう言いながら取り出したのは、スノウが好きなオフホワイトのセーター。これは肌触りが柔らかくて気持ちいいのだ。
「……アークが黒いのばっかり着るから、僕は対比したコーデにする」
二人で街を歩いた時に、お似合いと言われたい。黒で揃えたらなんだか暗くなるし、他の色合いで釣り合いがとれるのは何かと考えてもよく分からない。ならば、単純に白系で揃えてしまおう。
「良いですね。スノウ様は白がお似合いになりますから。差し色に、瞳の色を取り入れたらいかがですか?」
「金色ってこと? 黄色でもいいけど……金の装飾が好き!」
スノウは子どもの頃から変わらず、キラキラしたものが好きだ。それは宝石だけでなく、金や銀などの装飾品も含む。
アークもそれをよく知っているので、服の数以上に装飾品もたくさん贈られていた。
「金の装飾と言いますと――こちらのコートは金の飾りボタンがあってよろしいのでは?」
「あっ、それ好き!」
ルイスの提案に思わずニコニコしてしまう。
黄色みのあるオフホワイトの生地に、飾りボタンが六つ。金の刺繍もされていて、華やかな雰囲気だ。
生地は軽くて、街歩きで着ていても疲れなそう。
「――ボトムスはベージュにしようかな。靴はこの金装飾のあるブーツ!」
トータルで見ると白系で統一されて良い感じ。満足したスノウは、そのコーデを横に置いおく。これで、いつ街に誘われても準備万端だ。
(……? 何か、忘れているような……?)
ソファに腰掛けて首を傾げる。頭に引っ掛かったものが何か分からない。
「んー……?」
「スノウ様、どうかなさいました?」
休憩をとることを察したルイスが、お茶を淹れながら尋ねてくる。その近くに用意されているクッキーをじぃっと見ながら、さらに引っ掛かりを探った。
(街歩き。服も装飾品も、アークが贈ってくれたのがあるから、全部揃えられたし、問題はないはず? ……アークが贈ってくれた……?)
そこまで考えて、スノウはあることにハッと気づいた。そのあまりの衝撃に、勢いよく顔を上げてルイスを見つめる。
ルイスが反射的に身を仰け反らせた。
「ルイス! 僕、お金持ってない! 僕が持ってるもの全部、アークがくれたものだよ。街に行っても何も買えない……! 街ってたくさんのお店があるけど、お金ないと物を買えないんでしょ……?」
「お金、ですか……? そういえば、スノウ様にそのお話したことありませんでしたね」
落ち込んでいた気分のスノウに、ルイスが軽く頷いた。
「どういうこと?」
「スノウ様は、既に陛下の番になることを了承しておられますよね? それで、準番手当てがスノウ様に割り振られているんですよ」
「準、番手当て……」
きょとんと目を瞬いた。初耳だ。
「将来魔王陛下の番になられる方の生活費――給金のようなものですよ。スノウ様はほとんどお使いになってないので、現在の残高は……二千万イェンほどですね」
「にせんまんいぇん……」
ルイスが見せてくれたのは、たくさんの数字が書かれた冊子だった。必要に応じて申請すると、お金を引き出せるらしい。魔王城に商人を呼んで買い物をしたら、自動的に精算されるようだ。
「――二千万イェンでそのクッキーは買える?」
まだ手元に届かないクッキーを見つめて尋ねる。食べたい。
スノウの思いを察したルイスが、さっと渡してくれた。
「クッキーの値段はピンきりですが、二千万イェンあれば山ほど買えるでしょうね」
「山ほど!? 凄いね、二千万イェン!」
よく分からないけど、結構な金額らしい。
お金を持っていることに安心して、クッキーを食べ始める。その横にお茶が置かれて、更にルイスがどこかから取り出した本も並べられた。
「休憩の後はお勉強の時間ですね。――お金の価値について、早急にお教えします」
「ひえっ……わ、分かったよ……」
強い眼差しで主張するルイスに、戸惑いがちに頷く。勉強を拒否したことはないのに、何故か叱られている気分だ。
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