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二章.雪豹の少年

40.雪豹の少年と晩餐

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 スノウの人型変化成功記念の晩餐には、アークはもちろんのこと、ロウエンやラト、ナイトも揃った。普段は給仕に専念するルイスも、今晩は同席している。
 賑やかで嬉しいけど、スノウには少し困ったことがあった。

「……うぅ……フォークもナイフも難しい……」

 カトラリーを扱うことがこんなに難しいとは思わなかった。アークたちは簡単に扱っていたから。二本足で歩くのは苦労しなかったのに、なんで指先は自在に動いてくれないのか。
 スノウは泣きそうになりながら、フォークの柄をぎゅっと握る。目の前に美味しそうな料理が並んでいるのに、お預けをされている気分。

「まだ慣れてないんだから仕方ない。ほら、スノウ、口を開けて」
「……うん」

 隣の席のアークがフォークで差し出してきたお肉。食欲に負けて口をぱかりと開ける。……お肉美味しい。自分で食べられたら、より良かったんだけど。
 何故か嬉しそうなアークをじとりと見つめながら、スノウはもぐもぐと口を動かし続けた。フォークをぎゅうぎゅう握るのはやめない。少しでも早く慣れるように訓練しているのだ。

「スノウ様の分はスプーンで食べられるようにしておけば良かったですねぇ。もしくは手掴みできるもの。普通に歩けるようでしたので、その辺の配慮が必要だとは思いませんでした」
「……ルイスは悪くないよ。僕も、こんなに下手だとは思わなかった。明日から練習付き合って」
「もちろんです。ゆっくり練習しましょう」

 穏やかな笑みを見せるルイスに微笑んで頷き、ナイフの横に置かれているスプーンを手に取る。これですくえるものは食べられるはず。ミニトマトとか。
 アークたちみたいに優雅な感じではなく、柄を握り締める感じになってしまうのは悔しいけど。

「……とれた!」
「上手だね。フォークとかにもすぐ慣れるさ」

 ラトが褒めてくれる。それが嬉しくて、満面の笑みを浮かべて、ミニトマトを口に放り込んだ。
 アークが寂しそうな顔でフォークを構えているけど、そのお肉は自分の口に入れたらいいと思う。アークもちゃんと食べないと。スノウよりも身体が大きいんだから。

「ロンドの子どもの頃はどうだったか?」
「んー……結局、皿に顔突っ込んで食べてた気がするね」
「あぁ、あの子はその辺、雑だったからな」
「その辺は白狼族の性質を継いでたんじゃない?」
「おい、白狼族について誤解が生まれるだろう。俺たちは雑なんじゃない。鷹揚なんだ」
「どうだか」

 ラトが呆れたように肩をすくめる。ナイトの言葉も冗談めかした感じがあって、白狼族があまり作法を気にしない性格なのは間違いないようだ。
 それにしても、父の話は少し気になる。スノウが生まれた時にはもういなかったから、どういう人なのか知らないのだ。

「僕の父様は雑な人だったの?」
「ほら、見ろ。ラトのせいでロンドが誤解されてしまったじゃないか」
「私のせいか? 間違ってはないだろう。雪豹にしては大雑把な性格だった。社交的なところもあって……里に引きこもる性質が多い雪豹の里で、早々に番を作るとは思わなかったな」

 ラトが過去を思い出すように目を細める。ナイトも同様だ。

「父様のお話聞かせて!」

 食事も忘れてねだると、ラトが微笑んで頷いた。
 すぐさまアークにお肉を差し出されて、食事を続けることになったけど。食べるよ。食べるから、もう少しお話に集中させて!
 スノウが食べると、アークが満足そうにする理由がよく分からない。アークは人に食べさせるのが好きすぎる。

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