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二章.雪豹の少年

39.雪豹の少年と幸せ

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 寿命を共にする。長い方に合わせる。
 アークが語ったことは、スノウの知識にはない言葉だ。でも、スノウはそもそも番の関係性について詳しくないのだから、知らなくても不思議はないだろう。

「……僕も、千年生きるの……?」
「俺が今二百歳くらいだから、八百年くらいだな」
「大して変わらないよ……」

 訂正されたところで、スノウにとってはどちらも長いとしか思えない。理解が難しくて顔を顰めると、アークの指が優しく頬を撫でた。それが気持ちよくて目を細めて手を重ねる。もっと撫でてほしい。
 僅かに息を飲んだ気配の後、ぎこちなく指先が動いた。

「――あんまり想像できないけど、アークとずっといられるのは嬉しいかも」
「ああ、俺も嬉しい。……ずっと独りで生きるもんだと思っていたから尚更な」
「独り? どうして? 運命じゃなくても、番を探したりしなかったの?」

 過去を思い出すように、僅かに瞳を翳らせたアークを見つめる。凄く寂しげな声に聞こえて、心が少しヒヤッとした。アークが沈んでいると、スノウも悲しくなる。

 二百年も生きているのなら、アークは既に番にしたいと思える人に出会っていてもおかしくないはずだ。まさかスノウに会えるのが分かっていて、待っていたわけではないだろう。どうして独りで生きるなんて思っていたのか。

「番を探したことはない。スノウに出会うまで、俺は結構無気力で生きていたんだ。魔王として、竜族の長として、務めは果たしていたがそれだけだ。それでいいと思っていた」
「……寂しくなかった?」
「そういう感情もなかった気がするが……。だから、そんなに悲しそうな顔をしないでくれ。こうしてスノウに出会えて、俺は今幸せなんだから」

 ほのかな笑みを浮かべるアークを見つめる。そこに翳りが残っていないか探して、幸せという言葉が真実だと悟って、スノウも笑みを浮かべた。
 過去のアークはちょっと寂しい人生だったみたいだけど、スノウが幸せにすればいいのだ。これからの方が、生きる時間が長いみたいだし、終わりの時に「幸せな人生だった」と言ってくれるように。

「そっか。……うん、僕も、今幸せ。アークが傍にいるから。アークのことも、もっともっと幸せにするね!」
「ははっ、そうか。ありがとう。一緒に生きてくれるだけで十分だよ」
「幸せには十分とか上限はないんだって母様が言ってたよ。毎日幸せは積み重なっていくの。八百年もあれば、アークをもっと幸せでいっぱいにできるね!」

 にこりと笑って告げると、アークの目が丸くなる。何度か瞬きを繰り返したかと思うと、くしゃりと笑った。泣いているみたいなのに、凄く幸せそうな、不思議な笑顔だった。初めて見る。

「幸せでいっぱいか……。それは、楽しみだな――」
「僕も、楽しみ!」

 ぎゅっと抱きついてアークの頭を撫でる。
 今日よりも明日。明日よりも明後日――。毎日幸せが積み重なっていきますように、と祈って。

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