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二章.雪豹の少年
38.雪豹の少年と寿命
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晩餐の時間まで、暫くアークとお喋りを楽しむ。今日はスノウの人型変化成功記念に、とっておきのメニューになるらしい。楽しみだ。
「ねぇ、アーク。お膝に乗っていい?」
「……いいぞ、おいで」
隣に座ったアークを見上げると、なんだか葛藤した表情の後、覚悟を決めたように頷く。獣型の時はよく乗っていたのだから、特別なことではないと思うけど。相変わらずアークのことがよく分からない。
とはいえ、ちゃんと許可をもらったので、いそいそと座り込む。横向きか後ろ向きか前向きか……悩んだ末に横向きに。太ももを跨ぐのは寛げない感じがするし、後ろ向きだとアークの顔が見れないのが寂しい。
ただ、横向きだと少し安定感が足りないので、アークの背に腕を回して抱きつく。肩に頭を凭れさせると、なかなか居心地がいい。獣型だったら、ぐるぐる喉が鳴っていそうだ。
「もう少ししたら、僕の背もぐんぐん伸びるだろうし、アークの膝に乗るのも大変になっちゃうかなぁ」
「スノウなら、どれだけ重くなろうと構わないが。むしろそのくらい成長してくれないと困る。なんだ、この軽さは……」
アークが体格を確かめるように、スノウの身体を撫でる。大きな手が気持ちいい。服が邪魔だけど、脱いだらまた引き離されてしまうのかな。それは悲しいから我慢する。
「まだ成長期に入ったばかりだからだよ。獣人は生まれて三年で成年になるけど、それまでずっと背が伸びるんだよ」
「三年か……。スノウは今、一歳を越えたところだったか?」
「うん、もう幼児期じゃないんだよ」
「成年まであと二年ということだな……」
スノウの背丈はアークのみぞおちに額がつくくらい。これから二年ほどは成長するはずなのだ。
獣人は生まれて一年ほどで幼児期を脱し、その後二年ほどで成人を迎えるのが一般的。成人後はあまり見た目は変わらず、寿命が近い頃に老化が見える。種族ごとに寿命の差があるらしいけど、雪豹族だと百年ほどか。
……竜族であるアークは、どれくらい生きるのだろう。というか、そもそも今いくつなんだろうか。とうに成人を過ぎていることは察していたけど。
「アークは今何歳?」
「俺か? 大体、二百歳ほどだったと思うが」
「にひゃっ――!?」
絶句だ。既に獣人の寿命を遥かに超えているとは思わなかった。
「竜族は千年ほどは生きるからな」
「せんねん……」
もう、想像さえもできない年数だ。ポカンと口を開けると、アークが楽しそうに笑った。……そういう笑顔、好き。スノウまで楽しくなってきて微笑んでしまう。
千年生きるって長いなぁ。色んなことができそうだ。世界一周とか、宝石集めとか。でも、退屈になる気もする。千年もすることあるのかな。
「――寂しくならない?」
「うぅん? あまりそういう感覚はなかったが……。今はスノウがいて楽しいし、幸せでいっぱいだからな」
一切の翳りのない笑み。それは嬉しいけど、スノウの心に不安が忍び寄ってくる。だって、スノウは獣人だ。百年しか生きられないのだ。アークを残して死んでしまう。
「アーク、僕が死んだ後も、ちゃんと幸せでいられる……?」
「死ぬっ!? そんな悲しいことを言うな。俺はスノウを死なせたりなんかしないぞ!」
目を見張ったアークが力強く抱き締めてくる。その慌てようが、アークの衝撃の強さを物語っていた。
申し訳なくなりながらも、スノウは首元に抱きついて不安を吐露する。アークがどれ程スノウを守ろうとしてくれても、寿命の違いはどうしようもないのだ。
「だって、僕、獣人だから……。寿命は百年くらいなんだよ……」
「ああ……そういうことか」
何故か安堵した声が聞こえた。不安に共感してもらえないのが不満で、思わず唇を尖らせてアークを見据える。愛しげに見つめられていた。予想外の表情に、パチリと瞬きをする。
「――大丈夫だぞ。運命の番は寿命を共にするものだからな。大体長い方に合わせることになるし、不安に思う必要はない。むしろ長い生をどう楽しんで生きるか考えた方がいいぞ」
「え……」
スノウは思考を停止させて、アークの顔を呆然と見つめた。
「ねぇ、アーク。お膝に乗っていい?」
「……いいぞ、おいで」
隣に座ったアークを見上げると、なんだか葛藤した表情の後、覚悟を決めたように頷く。獣型の時はよく乗っていたのだから、特別なことではないと思うけど。相変わらずアークのことがよく分からない。
とはいえ、ちゃんと許可をもらったので、いそいそと座り込む。横向きか後ろ向きか前向きか……悩んだ末に横向きに。太ももを跨ぐのは寛げない感じがするし、後ろ向きだとアークの顔が見れないのが寂しい。
ただ、横向きだと少し安定感が足りないので、アークの背に腕を回して抱きつく。肩に頭を凭れさせると、なかなか居心地がいい。獣型だったら、ぐるぐる喉が鳴っていそうだ。
「もう少ししたら、僕の背もぐんぐん伸びるだろうし、アークの膝に乗るのも大変になっちゃうかなぁ」
「スノウなら、どれだけ重くなろうと構わないが。むしろそのくらい成長してくれないと困る。なんだ、この軽さは……」
アークが体格を確かめるように、スノウの身体を撫でる。大きな手が気持ちいい。服が邪魔だけど、脱いだらまた引き離されてしまうのかな。それは悲しいから我慢する。
「まだ成長期に入ったばかりだからだよ。獣人は生まれて三年で成年になるけど、それまでずっと背が伸びるんだよ」
「三年か……。スノウは今、一歳を越えたところだったか?」
「うん、もう幼児期じゃないんだよ」
「成年まであと二年ということだな……」
スノウの背丈はアークのみぞおちに額がつくくらい。これから二年ほどは成長するはずなのだ。
獣人は生まれて一年ほどで幼児期を脱し、その後二年ほどで成人を迎えるのが一般的。成人後はあまり見た目は変わらず、寿命が近い頃に老化が見える。種族ごとに寿命の差があるらしいけど、雪豹族だと百年ほどか。
……竜族であるアークは、どれくらい生きるのだろう。というか、そもそも今いくつなんだろうか。とうに成人を過ぎていることは察していたけど。
「アークは今何歳?」
「俺か? 大体、二百歳ほどだったと思うが」
「にひゃっ――!?」
絶句だ。既に獣人の寿命を遥かに超えているとは思わなかった。
「竜族は千年ほどは生きるからな」
「せんねん……」
もう、想像さえもできない年数だ。ポカンと口を開けると、アークが楽しそうに笑った。……そういう笑顔、好き。スノウまで楽しくなってきて微笑んでしまう。
千年生きるって長いなぁ。色んなことができそうだ。世界一周とか、宝石集めとか。でも、退屈になる気もする。千年もすることあるのかな。
「――寂しくならない?」
「うぅん? あまりそういう感覚はなかったが……。今はスノウがいて楽しいし、幸せでいっぱいだからな」
一切の翳りのない笑み。それは嬉しいけど、スノウの心に不安が忍び寄ってくる。だって、スノウは獣人だ。百年しか生きられないのだ。アークを残して死んでしまう。
「アーク、僕が死んだ後も、ちゃんと幸せでいられる……?」
「死ぬっ!? そんな悲しいことを言うな。俺はスノウを死なせたりなんかしないぞ!」
目を見張ったアークが力強く抱き締めてくる。その慌てようが、アークの衝撃の強さを物語っていた。
申し訳なくなりながらも、スノウは首元に抱きついて不安を吐露する。アークがどれ程スノウを守ろうとしてくれても、寿命の違いはどうしようもないのだ。
「だって、僕、獣人だから……。寿命は百年くらいなんだよ……」
「ああ……そういうことか」
何故か安堵した声が聞こえた。不安に共感してもらえないのが不満で、思わず唇を尖らせてアークを見据える。愛しげに見つめられていた。予想外の表情に、パチリと瞬きをする。
「――大丈夫だぞ。運命の番は寿命を共にするものだからな。大体長い方に合わせることになるし、不安に思う必要はない。むしろ長い生をどう楽しんで生きるか考えた方がいいぞ」
「え……」
スノウは思考を停止させて、アークの顔を呆然と見つめた。
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