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二章.雪豹の少年

26.雪豹の少年とイメージ

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「それにしても、どうしてできないんでしょうねぇ」
「むぅ……僕、がんばってるもん……」

 スノウは拗ねて呟く。ルイスが微笑ましげに見つめ、ホットミルクで汚れたスノウの口元を拭った。

「――やっぱり、上手くイメージができてないからじゃない?」
「イメージ?」

 顎に指を当てながらジャギーが呟く。

「そう。スノウ君は今身近に雪豹族がいないから。豹族と近いと言っても、雪豹族って特殊だと聞くもの」
「あぁ、獣人にしては珍しく魔力を使って戦うこととかですか」
「ええ。スノウ君はお母様と練習した時は上達してたんだし、魔力を使って人型になる方法があるのかも。私ではそれは教えられないわねぇ」

 魔力を使って人型に。
 その指摘はスノウも少し納得できるところがあった。母と練習した時は、魔力の扱いの練習も並行して行っていたから。
 でも、そうだったらどうしたらいいのだろう。スノウには、もう教えてくれるような同族はいないのに。
 そう考えるとなんだか悲しくなってきた。同族がいない心細さも、このままでは人型になれないかもしれないという不安も。小さな胸では抱えきれなくて、すぐに溢れそうになる。

(でも……がんばるって決めたんだ。泣かないもん。僕は赤ちゃんじゃないから。アークに成長を褒めてもらうんだ)

 ぎゅう、と口を引き結んで涙を堪えるスノウの心は、それを見守っていたジャギーとルイスにもしっかりと伝わっていて。二人は密かに視線を交わして困っていた。なんとかしてやりたくても、その手段が分からないのだから。

 ――トントントン。
 不意に扉が叩かれる音がして、ルイスが向かう。スノウはその動きを目で追いながら、気分が浮上してくるのを感じる。嗅覚では捉えていない香りが胸を満たした気がした。

「スノウ、調子はどうだ?」
「アーク! お帰りなさい! 今日は早いね? 一緒にお茶する?」

 数時間前に別れたばかりの姿に飛びつくと、アークが慣れた様子で抱き上げてくれた。近くなった頬に口づけ、ペロッと舐める。お返しの鼻先へのキスが擽ったくてむずむずした。

「まだ仕事が終わったわけではないんだ」
「そうなんだ……」

 アークがテーブルへと歩きながら、残念そうに呟く。スノウもしゅんと耳を垂れた。その感情表現豊かなスノウの耳を、アークがはむっと食む。

「みゃっ!?」
「……ふっ、悪い。つい美味しそうで」

 美味しそう。アークはよくスノウにそう言うが、雪豹の耳は毛もあるし、絶対美味しくないと思う。それとも、スノウからするという蜜の香りがあれば、耳でも美味しく食べられてしまうのだろうか。もぐもぐされると、よく分からない感じでゾワゾワするから、やめてほしいけれど。

「僕の耳を食べてもお腹たまらないよ……? お腹空いてるならフルーツ食べる?」
「スノウが食べさせてくれるなら」
「分かった!」

 上目遣いでおずおずと提案すると、アークが楽しそうに頷いた。「優しく食べさせてあげる!」と張り切るスノウとそれを愛おしげに見つめるアークに、ルイスがなんとも言えない眼差しを向ける。

「砂糖吐く……陛下、グレープフルーツでいいですか?」
「スノウが舐めたら良くないから、そっちの桃にしろ」
「食べさせにくいですよ、それ」
「……手が果汁まみれに……ダメだな。余計に食べたくなる。そこの苺でいい」

 呆れた表情のルイスが、苺を小皿にいれてスノウの傍に置く。ヘタが除いてあって、スノウの手でもなんとか掴めそうだ。
 両手で苺を挟んで差し出すと、蕩けるような眼差しでアークが口を開けた。

「はい、あーん」
「ん……スノウがくれたからうまい」
「ふふっ、僕も食べちゃおう」

 アークが美味しそうに食べているのを見てスノウも食べたくなった。言った瞬間、アークが苺をつまんで食べさせてくれる。お互いに食べさせ合うのが楽しい。獣型の手では食べさせにくいから、早く人型になりたいと更に強く思った。

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