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一章.雪豹の子
17.魔王と人間世界(アーク視点)
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人間世界。極めて魔力が薄く、魔族の活動に適していない。
だが、それは普通の魔族に限った話で。魔族の王であるアークにとっては、さほど問題に感じない程度の魔力だ。ずっとここで暮らせと言われたら御免だが。
「――久々ですねぇ、こうして人間世界に赴くのは」
静かに好戦的な気配を漂わせるロウエンを横目で見る。蝙蝠のような翼を羽ばたかせながら、悠々とアークに後について飛んでいた。
アークの背には竜の翼。アークは魔王であると同時に竜族の長でもあった。
眼下には寂れた里が流れる。トルエン国は評判通り貧しい国だった。魔族の領土と隣接していて、人間世界としては少し魔力濃度が高めなこともあり、農作物が上手く育たないせいだろう。魔鉄鉱などの資源は早々に取り尽くして枯渇している。
目指す先にある城は、魔王城を見慣れているアークからすれば、少し大きめの屋敷と言える程度のものだ。
「今日の動きは分かっているな?」
「ええ。人間をちょっと脅かして、盗んだものを取り返し、改めて互いの不可侵を示すのでしょう? ですが、この辺の里、滅ぼさなくていいんですか? 雪豹の里の報復には足りなくありません?」
不満を滲ませるロウエンに、アークは内心でため息をついた。
かつての戦争の中で、吸血鬼族は多くの血族を失った。ロウエンの息子もその一人だ。喪った血族の数以上の人間を葬っていても、その憎しみや怒りは薄れることはない。ロウエンは魔族世界でも一、二を争うほど人間嫌いで通っている。
「人間は同族であっても下の者の命にさほど価値を感じない。この辺で貧困に喘いでいる里をいくつか壊したところで、大した脅しにはならないだろう」
「集団主義の人間より、個人主義の魔族の方が血族の団結力が強いなんて、どういうことなんでしょうね」
「人間は弱いから群れているだけで、基本的に自分本位な生き物だからな」
「まったく醜いものです」
話しながら飛んでいたら、そろそろ王都に着くところまでやって来た。少し活気のある雰囲気が伝わってくる。それと同時に、魔族の血の匂いが漂ってくる場所にも気づいた。
「……あそこが擬似魔珠の製造所のようだな」
「では、行きますか」
血に敏感な吸血鬼族であるロウエンは既に気づいていたのか、アークの言葉を軽く受けて、瞳を好戦的に輝かせた。
擬似魔珠の製造所を破壊し、奪われた魔族の血を取り返すのは目的の一つだ。それで擬似魔珠の技術の全てを葬れる訳ではないだろうが、奪われたものをそのままにしておくことは、魔王の面子に懸けても許せない。
「――行け」
アークの合図と共に、騒ぐ人間の群れに飛び込むロウエン。数多の武器が振るわれるも、ロウエンに傷一つ残すことはない。圧倒的な実力差がそこにあった。
同時に魔珠を持ってトルエン国に潜入していたロウエンの部下も、その戦いに身を投じる。混乱に次ぐ混乱。
眼下に広がる戦況を確認して、問題がなさそうだと判断したアークは、魔法で姿を消して、雪豹族の気配を感じる場所へと静かに向かった。
だが、それは普通の魔族に限った話で。魔族の王であるアークにとっては、さほど問題に感じない程度の魔力だ。ずっとここで暮らせと言われたら御免だが。
「――久々ですねぇ、こうして人間世界に赴くのは」
静かに好戦的な気配を漂わせるロウエンを横目で見る。蝙蝠のような翼を羽ばたかせながら、悠々とアークに後について飛んでいた。
アークの背には竜の翼。アークは魔王であると同時に竜族の長でもあった。
眼下には寂れた里が流れる。トルエン国は評判通り貧しい国だった。魔族の領土と隣接していて、人間世界としては少し魔力濃度が高めなこともあり、農作物が上手く育たないせいだろう。魔鉄鉱などの資源は早々に取り尽くして枯渇している。
目指す先にある城は、魔王城を見慣れているアークからすれば、少し大きめの屋敷と言える程度のものだ。
「今日の動きは分かっているな?」
「ええ。人間をちょっと脅かして、盗んだものを取り返し、改めて互いの不可侵を示すのでしょう? ですが、この辺の里、滅ぼさなくていいんですか? 雪豹の里の報復には足りなくありません?」
不満を滲ませるロウエンに、アークは内心でため息をついた。
かつての戦争の中で、吸血鬼族は多くの血族を失った。ロウエンの息子もその一人だ。喪った血族の数以上の人間を葬っていても、その憎しみや怒りは薄れることはない。ロウエンは魔族世界でも一、二を争うほど人間嫌いで通っている。
「人間は同族であっても下の者の命にさほど価値を感じない。この辺で貧困に喘いでいる里をいくつか壊したところで、大した脅しにはならないだろう」
「集団主義の人間より、個人主義の魔族の方が血族の団結力が強いなんて、どういうことなんでしょうね」
「人間は弱いから群れているだけで、基本的に自分本位な生き物だからな」
「まったく醜いものです」
話しながら飛んでいたら、そろそろ王都に着くところまでやって来た。少し活気のある雰囲気が伝わってくる。それと同時に、魔族の血の匂いが漂ってくる場所にも気づいた。
「……あそこが擬似魔珠の製造所のようだな」
「では、行きますか」
血に敏感な吸血鬼族であるロウエンは既に気づいていたのか、アークの言葉を軽く受けて、瞳を好戦的に輝かせた。
擬似魔珠の製造所を破壊し、奪われた魔族の血を取り返すのは目的の一つだ。それで擬似魔珠の技術の全てを葬れる訳ではないだろうが、奪われたものをそのままにしておくことは、魔王の面子に懸けても許せない。
「――行け」
アークの合図と共に、騒ぐ人間の群れに飛び込むロウエン。数多の武器が振るわれるも、ロウエンに傷一つ残すことはない。圧倒的な実力差がそこにあった。
同時に魔珠を持ってトルエン国に潜入していたロウエンの部下も、その戦いに身を投じる。混乱に次ぐ混乱。
眼下に広がる戦況を確認して、問題がなさそうだと判断したアークは、魔法で姿を消して、雪豹族の気配を感じる場所へと静かに向かった。
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