【完結】Z[zi:] END OF THE WORLD(エンド・オブ・ザ・ワールド)

るさんちまん

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エピローグ

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 男はもはや自分が何者かを知ることはなかった。かつての暮らしも家族も友も誰を愛したのかさえ無意味だ。今の彼を突き動かすのはただ生きた人間を襲えという本能が命じる声のみ。故に純粋だった。男は純然たる虐殺者に他ならない。そんな彼が気に留めるのは、次にどこへ向かえば獲物に出遭えるかという一点だけ。男はそれを真っ直ぐに突き進んだ先と定めた。無論、明確な基準があってそう決めたのではない。今の彼の状況からすれば単なる気紛れに過ぎなかっただろう。そもそも男に自我と呼べるものがあるのかすら曖昧だ。生きているのか死んでいるのかもはっきりしない。こうして動けているのだから何らかの生理的な現象が働いているのは間違いないだろうが、それならば機械の助けを借りて一心に心臓を動かす脳死状態の患者を生きているとするのと何ら変わりない。それでも本能の底辺にこびり付いた記憶の残滓とでも言うべきものが、男に成すべきことを告げた。即ち、導け、と。どこへともどうしてとも不明瞭だが、その声に沿って男は周囲に群がる同胞達に、彼らにしか通用しない雄叫びを上げて目指すべき方向を伝えた。そうすれば他の者が何故か自分に従うことがわかっていた。どれだけの距離をどれほどの時間をかけて歩こうが彼らは無頓着だったが、そうして辿り着いた先で漸く獲物の存在に気付く。用意周到に張り巡らされた罠が自分達の到来を予期していることなど彼らにはお構い無しだ。誰に言われるまでもなく襲いかかるが、幾重にも連なる防衛線が行く手を阻み近寄ることを許さない。一体、また一体と同胞が数を減らす中で男は獲物の中に自分と同じ匂いを持つ者がいることに気付いた。その香りはどこかで嗅いだ気はするが、何のものだったのかは思い出せない。その上、香りの持ち主を襲うことは何故か避けねばならなかった。そうは見えなくても恐らく自分達の同類なのだろう。何であれ、襲えないとわかると彼は思い出すこと自体に興味を失った。獲物は他にも大勢いる。襲えなければ別の獲物を狙えば済むことだ。その襲うのを避けた相手が車椅子に乗った男とそれを押すよく見れば身重な若い女であることも、男の方が手にした筒状の物体を自分に向けて掲げたこともどうでも良かった。行動の意味など考えても無駄である。彼が目敏く選んだ別の獲物に手を伸ばしかけた時、車椅子の男が持つ物体の細く尖った先端から炎が煌めくのが見えた。刹那の瞬きののち、男は懐かしい香りの正体がわかった気がした。そうだ、死だ。これは死の匂いだ。懐かしい死の記憶が彼に語りかけてきた。

「おかえりなさい。また会ったわね。でもこれが最後ね。今度こそおやすみなさい」

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感想 2

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みんなの感想(2件)

onihei
2024.11.24 onihei

99%の作品がエタるゾンビ物においてしっかりと完結まで書かれている事に好感が持てます。

また、銃器や自衛隊などの様子が、しっかりとリサーチされた上で描写されており、他の作品のように違和感があったりリアリティが無かったりといった事が極めて少なく、ごく当たり前の事がしっかり出来ている作品は貴重なんだと改めて感じました。

エピローグがあっさりしていたり、ゾンビ発生の謎などの伏線が全て回収されていなかったのは残念ですが、最後まで面白く一気に読めました。次回作にも期待しています。

個人的には絵里香のキャラが一番好きでした。

2024.11.24 るさんちまん

感想いただき、ありがとうございます。
最近は忙しく、なかなか書けていないのですが、こうした意見を励みに頑張っていきたいと思います。

解除
2023.05.14 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2023.05.15 るさんちまん

ありがとうございます。
完結後もこうした感想をいただけると、次作も頑張ろうという気になります。
今後もよろしくお願いします。

解除

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