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第三部 避難篇
7 サイトカインストーム
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「今度は氷点下まで室温を下げるからな。しっかりと厚着をしておけよ」
翌日、午前中に隊員達の協力で食糧や機材を冷凍車に積み終えると、彼らには隠れて建物の裏手にひっそりと作った優馬の墓を参った後、午後一番で智哉は余ったスペースに絵梨香らを載せてスーパーを後にした。荷室内の酸素濃度は以前に消防署を探索した折、手に入れていた酸素モニタがあったので、それを取り付けることで事故防止としてある。通常、大気中の酸素濃度は約二十一パーセントで、これが十八パーセントを下回ると危険水域とされ、そうならないよう自分達で小まめにチェックするのだ。ちなみに人間が肺胞でガス交換して吐く息は個人差はあるものの概ね十六パーセント前後とされ、酸素は濃度勾配で濃い方から薄い方へと流れていくので、もし呼気より低い環境に晒されれば息を吸うほど体内の酸素は外へと引きずり出されることになる。しかも血中酸素濃度が低くなると人は中枢神経の働きにより反射的に呼吸を行い、さらに酸素を失うという悪循環に陥りやすい。その上、息苦しさは血中の二酸化炭素濃度によって生じるため、酸素不足では自覚症状に乏しく、運動機能の低下などもあって気付いた時には動けなくなっているといったことから労働現場では死亡事故に結び付きやすくなっている。こうした知識は智哉がゾンビに対抗する糸口を探る上で知り得たものだ。呼吸の阻害がゾンビ相手に有効な手立てになりはしないかと調べたのだが、結論を言うと無駄であった。そもそもゾンビは呼吸を必要としていなかったのだ。
当然、絵梨香らにそれを真似しろと言うわけにもいかなかったので、途中幾度か安全そうな場所で換気と休憩を挟みながら、日が暮れた頃になって漸く一行は避難所である休暇村に辿り着いた。智哉は絵梨香達の扱いが運営組織と自衛隊との合議になるだろうと予想したのだが、戻ってみるとやや様子が違っていた。とりあえず感染していないことの証として野営テントで一夜を明かすことになった一行の下に、野戦服姿で襟許に尉官の略章を付けた男がやって来る。智哉とはここで知り合い旧知の仲となった警備部隊の指揮官で、この場に居残った唯一の幹部自衛官でもある植松という三等陸尉だ。所謂現場叩き上げの部内幹部というやつで智哉とは年齢も近く、気さくな人柄だったため話もよく合った。故に軽く目線を交わしただけで智哉は挨拶代わりとしたのだが、さすがに他の四人はそうはいかなかったようだ。直ちに立ち上がって直立不動の姿勢を取ると、ヘルメットを被っている者は挙手の敬礼を、既に脱いでしまっていた者は十度の敬礼と言われる会釈を行った。だが、それを見ても植松三尉は返礼をするでもなく、苦笑いを浮かべ、敬礼はよしてくれ、と言ったのだ。
「俺は……俺達はもう自衛官じゃない」
「はっ?」
それはどういう意味、と問いかけた絵梨香を軽く片手を挙げることで制しておき、植松は事情を説明し始めた。
「既にわかっていると思うが、司令部はもはや存在しない。最後に無線交信を行ったのは一昨日のことで、それ以降は一切呼びかけに応じなくなっている。前後の状況からして壊滅したと考えて間違いないだろう。従って我々に指示を出す者はいなくなったということだ。つまり、この先は自分達で判断して行動していかなければならない。それを踏まえて残った隊員達で話し合い、部隊の解散を決めたんだよ。自衛官としての役目はもう充分に果たしただろうということでな。その上で改めてそれぞれが一個人として運営組織に属することになった。今は他の避難者達と同等というわけだ。もっとも武器の扱いに慣れているということで、引き続き警備を任されてはいるがね。とはいえ、我々だけではどうにも人手が足りないので、近々志願者に対する銃器の訓練も行う予定だ。まあ、貴重な弾薬を消費するわけにはいかないから自衛隊式の口鉄砲になると思うが、それでも自衛官という立場であれば到底できなかったことだろう。はっきりした法規違反だからな。そういうわけで私はもう君らの上官でもなければ同僚でもないんだよ。この避難所のルールには従って貰うが、命令を下す立場にはないので気楽にしてくれ。君達もこれから先どうするのか身の振り方を考えた方がいい。もちろん、あくまで自衛官としての職務を貫き通すつもりなら止めはしないがね」
それだけ話すと、今日はそのことを告げに来ただけだ、と言い残して天幕を去って行った。残された絵梨香達は複雑そうな面持ちで互いの顔を見合わせた。
「……今の話、どう受け止めましたか?」
まずは木村がそう口火を切って、絵梨香に意見を求めた。絵梨香は少しの間思案してから口を開いた。
「私は三尉……いえ、元三尉……植松さん達の選択は間違っていないと思う。正直に言うわ。こうなってしまったからには自衛官という束縛は必要ないと考えている。規律や上下関係に意味があったのは、集団としての役割分担にそれなりの信頼があったから。でも、それはもう望めない。生き延びるために何が正しい選択かなんて誰にもわからないわ。もちろん、私にも。これまでもそうだったけど今後はさらに迷いが生じてくるでしょうし、自分のことだけで精一杯で他人を気にかける余裕はなくなるに違いない。命令するのもされるのも止めるのにいい潮時じゃないかしら。この先は誰かに決められるのではなく、各々が自分にとって最良と思える行動で生き残っていくしかないのよ」
絵梨香は淡々とした口調で語っている。ある程度は全員が覚悟していたことなのだろう。絵梨香の言葉に長野は頷き、井上は顔を伏せており、木村はポーカーフェイスを保ったままだった。この場で唯一の部外者である智哉は自分が口を出すべきことではないと決めていたので、少し離れた位置からそれとなく四人のやり取りを見守っていた。暫くして、俺もその方がいいと思う、と長野が応じた。
「ここで俺達だけが自衛隊だの何だのと気負ってみても孤立するだけだと思う。たった四人じゃ銃を持っていたって大したことはできない。その銃だって殆ど弾薬は残っていないんだ。ここに留まるつもりなら仲間に入れて貰うしかないわけで、それには階級は不要なんじゃないか」
じゃあ、もし武装解除しろと言われたらそれに従うんですか、と今度は井上が声を上げた。そうするしかないだろう、と長野は答えた。
「丸腰になるってことですよ。僕は嫌ですね。今までこれがあったおかげで生き残ってこられたんだ」
そう言いながら八九式小銃を愛おしそうに撫でた。
「それに折角、この四人で助かったんじゃないですか。この先も武井班でやっていけますって。何ならここの人達と交渉しましょうよ。武器を扱える人間は貴重なはずです。例えば警備を請け負う代わりに食糧と住む場所を提供して貰うなんてどうですか? 今更、別々に行動するなんて言わないでください」
さっきも言っただろ、弾もないのにどうやって警備を請け負うんだよ、と長野が言い、それは岩永さんから分けて貰うとか、と井上が自信なさげに口にした。
「そうだ、いっそのこと、岩永さんにも仲間になって貰いましょうよ。みんなも知っていますよね、あの武器の量」
現在、智哉の手許にはゾンビ化した自衛隊員達から集めた小火器や携帯型の火砲、それらの予備弾薬に加え、弾帯や弾納、ボティアーマーといった装備品などが少なからずあった。化学防護服のおかげで回収できたと絵梨香達には説明してある。避難所で供出させられることを見越し一部はこっそりとスーパーに残して来たが、それでも相当な量であることは間違いない。無論、智哉一人で抱え込むには過剰だし、余計な波風も立てたくないので供出には素直に応じるつもりだ。どうやら井上はそれを勘違いしているらしい。名前が出たことで、皆の視線が傍観していた智哉に集中する。それで仕方がなく会話に加わることになった。何か誤解をしているようだ、と開口一番に智哉は言った。
「俺に集めた武器や弾薬をどうこうする権限なんてないよ。ここに持ち込んだ時点で水や食糧と同様にそれらも運営組織に委ねられることになっている。一個人が自由にするには大き過ぎる裁量だからな。独裁者にでもなるつもりなら別だが、そんな面倒な真似はしたくない。それともお前達で避難所を制圧でもしてみるか? それなら思い通りにできるだろう。避難所の連中だって黙って見てはいないだろうがね。どちらにしても俺を当てにするのは止めてくれ。たまたま化学防護服の効果に気付いて外に出られるようになっただけの、自分じゃ凡庸な人間だと自覚している。態度が大きいのは認めるが、それだって別に自信があってのことじゃない。どちらかと言えば投げ遣りな姿勢だと思ってくれていい。そんなわけで現実問題として武器弾薬の管理は専門家に──さっき訪ねて来た植松元三尉ら警備を担当している連中に任せるのが妥当だろう」
武器の専門家というなら僕達だって同じはず、と尚も喰い下がる井上に、もう止めろ、と木村が語気を強めて言った。
「銃を手放したくないならここの警備に加わればいい。人手は足りてないと三……植松さんだって言っていたじゃないか。俺達、自衛官なら諸手を挙げて歓迎されるだろうよ。実際、俺はそうするつもりだ。だが、誰かを誘うことはしない。そうするもそうしないも自分で決めろ。これ以上、班長に責任を負わすな」
結局、その木村の言葉が決め手となったらしく最後は井上も渋々と認め、四人はこの場で隊の解散を決めた。木村と長野と井上はこのまま警備班に加わる気のようだ。絵梨香だけが何故か態度を保留にした。その理由を偶然二人きりになった折に智哉が訊ねると、何となく、とだけ彼女は答えた。
「……以上が衛生班からの報告になります」
そう締め括った衛生班班長の前橋が着席した。いつもの定例会議の場だ。今や智哉もこの会議のすっかり常連となってしまっていた。
「続いて医療班からは何かありますか?」
「はい」
議長役である友里恵からそう指名を受け立ち上がったのは、普段の武藤医官ではなく、ナース服姿の荻野由加里だった。久しぶりに見た彼女は以前に比べてやややつれた印象を受けはしたが、落ち着き払った態度はまったく変わっていない。明確な話しぶりもそのままだった。
「医療班の荻野です。本日は武藤が急用のため、代理として出席しました。まずは先週に亡くなった方ですが──」
形式的な報告がひと通り済んだところで、由加里は、実は深刻な問題がある、と本題を切り出した。
「恐れていた通り、やはり今年もインフルエンザ流行の兆しが見られます。既に二十人ほどがその初期段階と見られる症状を示したため隔離しました。幸いにも今は高病原性にはなっていませんが、このまま感染が拡大すれば変異してそうならないとも限りません」
ここでの治療は可能なの? と友里恵が訊いた。大抵のインフルエンザは人が本来持つ自己治癒力で治すことは可能だと由加里は答えた。ただし──。
「適切な療法……主に充分な休息と水分補給、栄養補給をしっかりとしていればという注釈が付きます。残念ながらそのどれも満足に行えていないのが現状です。このままでいくと特に体力のない子供や老人は症状が長引いて重篤化する危険があると言わざるを得ません。最悪の場合はサイトカインストームが発生する恐れもあります」
「サイトカインストーム? それは何か?」
総務班班長の三上が眼鏡に手をやり、神経質そうにそう質した。智哉の外での活躍によりその後押しをした友里恵の評価が高まっていることから最近は目立つ動きを控えているようだが、追い落としを諦めたわけではあるまい。今も油断なく──というより、誤りは一つも見逃さないといった目付きで会議に臨んでいた。その三上の質問に答える形で由加里が話を進めた。
「専門的なことは省きますが、免疫系の過剰な防御反応によって引き起こされる多臓器不全の一種と捉えてください」
「つまり、ウイルスから自分を護ろうとして却って自分を傷つけるわけか」
「その通りです」
「そのサイトカインストームというのはどれくらい深刻な症状なの?」
友里恵が訊き、智哉を含む全員が由加里の説明を一言も聞き逃すまいと耳をそば立てた。
「一九〇〇年代初頭に発生したインフルエンザの世界的大流行、所謂スペイン風邪では全世界で五千万人から一億人が亡くなったと推計されています。確かにこれ自体大変な死者数ですが、それを聞いただけでは本当の深刻さは伝わらないと思います。当時の世界人口が約十八億人ほどだったと知ればどうでしょうか? この時に特徴的だったのは通常なら先程話したように犠牲者に占める割合は子供や老人が多くなるところを免疫活性が高い若者の死亡率が顕著だったことが挙げられます。このことからサイトカインストームが発生したのではないかというのが今日の定説です。また二〇〇〇年代の初めに起きたSARSの流行でもほぼ同様のことが確認されました」
「では、もしサイトカインストームが起これば子供や老人に限らず誰でも死ぬ可能性があるということね?」
「はい。むしろ、十代から三十代の若年成人層が危ない」
「防ぐ手立ては?」
「サイトカインストームが起こる原因はまだはっきりしません。いずれにしても隔離措置を徹底するなどして感染拡大をできるだけ防止するくらいしか方法はありません」
「そういえばタミ何とかって特効薬があったんじゃないか? ちょっと前に随分取り上げられていただろ?」
そう口を挟んだのは、食糧自給班班長の高瀬だ。それについては次のように由加里は説明した。
「タミフルのことですね。確かに一時期よく話題になったタミフルやリレンザ等の抗インフルエンザ薬は予防には最適ですが、ここでは数が圧倒的に足りていない上、そもそも重篤化した患者には効果がありません。あくまで初期段階においてウイルスの増殖を抑えるための薬で、服用も発症後四十八時間以内でないと効き目は薄いとされています。わかりやすく言うとサイトカインストーム発生後では意味がない。その場合、治療はステロイドパルス療法とγグロブリン大量療法が有効とされていますが、どちらも高度な医療でここで行うには無理があるとお考えください」
「つまりは一旦、起こってしまえば手の打ちようがないわけね」
そう友里恵が呟き、由加里がはっきり頷くと、会議室は重苦しい沈黙に包まれた。
とにかく今後もインフルエンザの症状が現れた者への隔離措置を継続して行っていくことと、水は貴重なので今あるアルコール消毒液などによる可能な限りの衛生管理の徹底、より細かな感染症サーベイランス(調査・監視)の実施などが確認された。さすがに智哉もこの問題は他人事と悠長に構えていられなかった。病気の感染リスクに限っては他の者と変わりないからだ。会議終了後、自分にできることは何か考えながら部屋に戻りかけたその背中越しに声をかけられた。
「久しぶりね」
振り返って目にしたのは、先程まで会議の席で発言していた由加里だった。今回のために用意したと思われる紙の資料の束を小脇に抱えている。
「会うのは半月ぶりくらいか。医療班の班長代理を任されるなんて僅かな期間で随分と信頼されるようになったじゃないか」
立ち止まって智哉もそう返す。
「人手不足なだけよ。そっちこそ、凄い活躍をしているそうじゃないの。噂は聞き及んでいるわよ」
「噂? そりゃどんなものなのか参考までに伺いたいね」
智哉が言うと、由加里は歩きながら話すつもりなのかスタスタと追い越して前を行き始める。慌てて智哉も横に並んで歩き出した。
「今やこの避難所を陰で実質的に支配しているのはあなたじゃないかってもっぱらの評判よ」
初めて聞く話だ。もし本当にそんな噂が立っているなら、智哉にとって不都合極まりない。
「……随分と大袈裟な中身だな。根拠のない話を言い触らされるのはこっちが迷惑なんだが」
「そう? でも私が聞いたところによると、あながち大袈裟とも思えないんだけど」
友里恵には智哉の活動はできるだけ公にしないよう釘を刺していたはずだ。ゾンビに襲われない特異体質がバレないためというのもさることながら、現時点で避難所に影響が及ぶのを極力避けたかったからでもある。絵梨香達にもチラッと言ったが、これだけの集団を本気で支配しようとすれば相当な労力を費やさざるを得まい。現段階でそうするだけのメリットが感じられなかったし、下手に智哉を利用しようとする輩が現れても面倒なことになる。よって今は運営は友里恵達に任せ、自分はなるべく目立たず、行動の自由だけが増していくのが望ましい。そうは言っても狭い避難所内のことだ。おいそれと隠し果せるものではないということだろう。
「あの研修医はどうしている?」
話を逸らそうと、智哉はそう訊ねた。由加里は別段、その流れを不自然だとは思わなかったようで、やけに張り切っているわよ、と苦笑いしながら続けた。
「あの一件以来、妙に職業意識に目覚めたみたいで、一緒に来た患者さんは自分が面倒を看るんだとか言い出して。まあ、武藤先生がいてくれるおかげでこっちも安心して見ていられるようにはなったんだけど」
そうだったのか、と智哉はやや意外な感想を込めて呟いた。あの逃げ腰な態度からは想像も付かないが、それならそれで良かったのだろうと思うことにした。
「それはそうと、ここで遭えてちょうど良かったわ。少し相談したいことがあるんだけど、あとで時間を取れない?」
今から会議の報告に戻らなければならないという由加里に対して、智哉はいつが良いのかと訊ねた。今日は早めに上がれそうだから夕食時間の少し前はどうかと由加里が提案したのを智哉が了承して、自身の部屋の前で落ち合うことになった。
「へえ、個室なのね。隔離病室以外で目にするのは初めてだわ」
約束の時間に少々遅れて現れた由加里は、遅くなってごめん、帰りしなに厄介な患者に掴まっちゃって、と大して悪びれた様子もなく語った。その服装は見慣れたナース姿ではなく、やや淡いグリーン色のセーターにコーデュロイのパンツというさっぱりとした私服だった。考えてみれば仕事着以外の彼女を見るのはこれが初めてだ。どう反応して良いのかわからなかったので、とりあえずよく似合うとだけ言っておいた。
「別に着替える必要はないんだけどね。どうせお洒落したって誰にも見向きされないんだし。大体からして私服がこれ一着しかないのが問題よね。コーディネイトも何もあったもんじゃないわ。他の看護師達も皆、似たり寄ったりだから文句も言えないしね。もう面倒だからって四六時中ナース服で通す人もいるくらいよ。あの日奈子にしてもそう。以前は仕事そっちのけで洋服命って感じの娘だったのに、人って変われば変わるものだわ」
ただ幾ら物資に乏しいからといって同じ服をずっと着っぱなしというわけにもいかないから、どうせ洗濯するならたまには気分転換で私服にしようと思った、と由加里は話した。
「だって息抜きは必要でしょ?」
少しくらい仕事を忘れて羽目を外したっていいじゃない、と言う由加里に、そんなに溜まっているのか? と智哉が訊ねると、まあね、ここのところ行き詰ることが多かったから、との返事が返ってきた。どうやら快活そうに見えたのは上辺のみで、内面はかなり疲れ気味の様子だ。訊けば以前の病院の時を含めもう二ヶ月以上、まともな休みを取れたことがないのだという。
「それでも私達、看護師は交代で休息できる分まだマシな方よ。武藤先生なんて割り当てられた自分の寝所に帰るところを一度も見たことがない。ずっと仮眠室に泊まり続けているわ。このままじゃ倒れるのも時間の問題ね」
「そうなのか」
医師や看護師不足なのはそれとなく感じていたが、自分が一度も医療班の世話になっていないこともあり、そこまで深刻だとは気付かなかった。もしかすると今日の会議に武藤が欠席したのも手が離せないというのは口実で、少しでも休ませようと由加里達が配慮したからかも知れない。
「武藤医師に倒れられては困るな。何しろ正規の医者は彼一人だ」
それは紛れもない智哉の本心だった。美鈴と別れた後も自由を損なってまで避難所に留まり続けているのは自分にはないスキルの持ち主がいるからという側面が大きい。中でももしここを逃げ出すことになって限られた相手しか連れ出せないとなれば、真っ先に武藤医師を候補に挙げるだろう。そしてそれは由加里に対しても言えることだった。ただ、この件で智哉が力になれることは今のところ見当たらなさそうだ。由加里もそれは承知しているからなのか何も言って来ない。そこで、だったら今だけでも羽目を外すか、と智哉は言ってみた。
「羽目を外す? 一体どうやって?」
智哉は由加里の目の前でパイプベッドの下に押し込んであったスーツケースを引っ張り出すと、蓋を開け、中から缶ビールを二本取り出した。
「さすがに冷えちゃいないが、そこまで贅沢は言えないだろう?」
「……呆れたわね。ここでの飲酒は全面的に禁止されてるはずでしょ?」
それは主に風紀を保つというより、摂取したアルコールを分解するのに水が欲しくなるのを避けるための措置である。
「喉の渇きが心配なら、ほら水もある」
そう言いつつ、さらにミネラルウォーター入りのペットボトルもプラスチック製のサイドテーブルに並べる。当然ながら配給とは別に智哉が隠して持ち込んだものだ。
「他の奴に気兼ねして飲まないって言うなら別に構わないけどな」
言って智哉は片方の缶ビールを開けると、早速口を付けた。由加里はどうするかと横目で眺めていたら、五秒ほど躊躇った挙句、遂にはもう一方の缶ビールに手を伸ばし、プルトップを開けて豪快に喉へと流し込んだ。
「これで同罪だな。他の奴には黙っておけよ」
プハァ、と満足そうに息を継いだ由加里は、言えるわけないでしょ、あっさりと誘惑に負けただなんて、と答えた。
ちょうど夕食時だったということもあり、二人で配給を受け取りに行って再び智哉の部屋に戻ると、出された僅かな食事を肴に残りのビールは時間をかけて名残惜しむように飲んだ。
「ところで、帰りが随分と遅いのね」
由加里にそう言われても智哉には即座にピンと来るものがなかった。
「一緒に住んでいるんでしょ? あの姉妹と」
それで漸く美鈴達のことだと思い当たり、ここには戻って来ないと智哉は告げた。
「今は別々に暮らしている。この部屋を使っているのは俺一人だよ」
「……そうだったの。意外ね。てっきりずっと一緒に居るものとばかりに思っていたんだけど」
事情を知らない由加里からすれば、智哉が姉妹を命懸けで庇っているように見えたのだろう。話してもすぐには納得し難いようだった。本来なら立ち入るべきではないだろうが、差し支えなければ事情を教えて欲しい、とまで言われた。別に隠すようなことではないので、智哉は説明し始めた。
「この前やって来た連中の中に、あいつらが昔から知り合いという人間がいたんだ。家族同然の付き合いだったらしい。それでそっちと一緒に暮らすことになったというだけだよ。元々俺とあいつらとはたまたま一緒に避難していただけの赤の他人だからな。身内がいるならそうするのが当然だろう」
「あの子……確か美鈴さんと言ったわね、彼女はそれで納得したの?」
「納得も何もあいつが決めたことだ」
それを聞いて由加里は押し黙った。尚も承服とは至らなそうだったが、これ以上は自分が踏み込むべきではないと悟ったのか、結局何も言わなかった。代わりに、それで一人でこの部屋を使っているのか、と羨望とも非難とも付かないことを口にした。それだけのことをしているからな、と智哉は事もなげに言ってのけた。
「凄い自信ね。やっぱり噂は本当なんじゃない。ビールも水も同じ理屈で持ち込んでいるんでしょ? 手を付けた私が言えた義理じゃないけど、そのうちあなた、みんなに恨まれるわよ。折角、大勢の人が感謝し始めているのに」
「そいつらは俺を聖人か何かと勘違いしているんじゃないか。ボランティアでやっていると思っているならめでたい連中だよ」
「只ではするな、だっけ? 何かをして貰うには見返りが必要というのがあなたのポリシーだったわよね」
「そんな大逸れたもんじゃないと言わなかったか? お人好しじゃこの先、生き残っていけないってだけさ。それより誰も来ないってわかったんだ。男と部屋に二人きりなんだぜ。自分の身を案じた方がいいんじゃないか?」
あら、私を襲うつもりなの? と由加里は悪戯っぽい目付きで言い返した。本気にはしていないようだ。あるいは仮に襲われたとしても大声を張り上げれば廊下に筒抜けだと考えているのかも知れない。確かに幾ら個室とはいえ、さほど防音性が高い造りとは思えず、本気で抵抗されれば外部に隠し通すのは困難だろう。もし本気でどうにかしようと思うなら相応の準備が必要だ。由加里は智哉がそこまでするとは露ほども疑っていない模様だ。やれやれ、と智哉は内心で軽く溜め息を吐いた。
(すっかり善人ぶりが板に付いたみたいじゃないか)
智哉が美鈴にしたことを知ったら、由加里はどんな顔をするだろうと考える。それに過去の例だけではない。折角、一人に戻ったのだから、もう一度当初の計画に立ち返って欲望に忠実になろう、と智哉は密かに目論んでいた。そうでなければこれまで何のために苦労してきたのかわからなくなる。その手初めてとしてまずは目の前の相手、由加里を従わせてみるのも悪くない。無論、性的な意味において。
そんな不穏当な思い付きを表情には一切現さず、そういえば相談があるんじゃなかったのか、とすっかり忘れていたここに来ることになった目的を思い出した。
「そのことだけど、昼に会議で私がした話は憶えている?」
「インフルエンザが流行しかかっているってことだろ。それなら俺の方も訊きたいことがあったんだ」
幾らゾンビには無敵でいられる智哉でも怪我と病気には無防備だ。しかも社会全体が荒廃した今、満足な治療を受けられないという点では他者と同等のリスクを抱える。他人に対して自分が絶対的な優位を保つ上でも病に臥せるような弱味を見せるわけにはいかなかった。そのためには一時的に避難所を離れることも検討しているが、別に何か解決策があるなら考慮に入れたい。由加里に訊きたかったのはそのことだ。
「言わなくても大方の見当は付くわよ。感染予防についてでしょ? 私が相談したかったのもまさにそのことなのよ」
実は手に入れて来て欲しい物がある、と由加里は尻のポケットから四つ折りにした紙片を取り出した。手渡されたその紙を拡げると、何かのリストのようだった。見慣れない言葉の下に、「緑と白のパッケージ」とか「大きめの目薬のような容器」とか「点滴パックになっている」とか書かれている。その中の一つにタミフルの文字を見つけて、これが薬のリストだとわかった。タミフルは商品名で成分としてはオセルタミビルリン酸塩と言う舌を噛みそうな名称が正式らしい。リレンザやイナビル、ラピアクタなどの坑インフルエンザ薬と思われる物以外にも全身麻酔薬であるプロポフォールやケタミン、局所麻酔薬のリドカイン、昇圧剤のエフェドリンといった名前が並んでいる。また裏面には病院や薬局の地図らしきもの、内部の見取り図などが描いてあった。訊くまでもないことだったが一応、これは? と智哉は訊ねた。
「薬剤のリストよ。他の看護師達にも聞いて回って元々の勤務先や近所の薬局などで薬が手に入りそうな場所は概ね記してあるわ。恐らくそこに行けば全部は無理でも幾らかは見つけられるはず。特に坑インフルエンザ薬は種類は問わないからできるだけ大量に、あればあるだけ集めて貰いたいの。他はもし見つけられたらでいいから」
「抗インフルエンザ薬は役に立たないんじゃなかったのか?」
「サイトカインストームが発生した場合にはね。でもタミフルなどの抗インフルエンザ薬には治療だけでなく予防投与に効果を発揮するものもあるの。感染が拡がりきる前の今ならある程度の抑制が期待できるわ。そうなればサイトカインストームが起こる可能性も減らせる。もっとも副作用のリスクが少なくないわけじゃないから普通だったら無闇に使うわけにはいかないけど、現状ではそんな悠長なことも言っていられないものね」
なるほどな、と智哉は胸の裡で独り言ちた。それなら自分にとっても打って付けの対策ではあるが、二つ返事で引き受けるには少々難易度が高く無理がある。さてどうしたものか、と智哉が迷っているうちに、由加里が先を続けた。
「勝手な頼みだってことは充分に承知しているわ。どれほど危険なことかも理解しているつもりよ。でも、あなたは実際にうちの病院までやって来られた。そのことがあったからこうしてお願いできるのよ。そうじゃなきゃ、私だってこんな無茶な頼み事はしない。もちろん、無理強いする権利なんてないけど、あなたを置いて他に頼れる人はいないの」
それでも智哉が逡巡するふりをしてわざと返答を遅らせていると、それを額面通りに受け取ったらしい由加里が断られると思ったのか、がっくりと肩を落とした。薬の使い方には特別な知識がいるのか、と智哉は訊いてみた。
「? いいえ。タミフルはカプセル剤と小児向けの散剤、リレンザは吸入器を使うだけだから容量に注意さえすれば服用するのは簡単よ。他の抗インフルエンザ薬──イナビルとラピアクタはそもそも予防投与はできないし」
「だったら自分の分だけ用意できればいいわけだ。わざわざ何ヶ所も回るような危険を冒してまで人の分を確保するメリットは俺にはないってことだろ」
「みんなのために……っていうのは、きっとあなたの動機にはならないわね。だとしたら、ええ、その通りよ。あなたにとっては単純にリスクしかない行為だわ」
「参考までに訊くんだが、ひと処では人数分を揃えられないのか。それなら自分の分を手に入れるついでとして余分な入手も考えなくはない」
「恐らく消費と備蓄のバランスからいって、それは無理ね。一ヶ所を回るだけじゃ、とても全員分の確保には数が足りない。病院というのは不良在庫を嫌うものなのよ。だから意外と薬の備蓄量は少ないの。必要なら取り寄せれば済む話だし。一応、国内には何千万人分か抗インフルエンザ薬の流通備蓄があると言われているけど、それがどこにあるのかは私達医療従事者も把握していない。たぶん製薬会社の薬品倉庫にでも眠っているんでしょうけど、残念ながらその場所を知る人は見つからなかったわ。だから必要な量を集めるにはどうしても複数ヶ所を回る必要があるというわけ。その分、危険度が高くなるのは承知の上でね」
そこまでわかっていて俺に頼むということは当然、見返りは考えてあるんだろうな? と智哉は言ってみた。まあね、あなたがお気に召すかはわからないけど、と由加里は答えた。
「個人的なお礼をするわ。物には釣られないでしょうから別の形で。そう言ったら何のことか凡その察しは付くでしょ? あの娘と暮らしていたんじゃ通用しないと諦めていたけど、そういう事情なら付け入る隙はありそうじゃない? これでも言い寄る男もいたのよ。さすがにいきなり最後までというのは私も抵抗があるから、できれば手か口で満足して貰えると有り難いけど、どうしてもと言うなら覚悟を決めるしかないわね」
「……どうしてそこまでするんだ? 誰かに弱味でも握られているのか?」
あまりに美味い話に智哉は却って警戒心を強くした。美人局ではあるまいが、裏で糸を引く奴がいるのではないか。だとすれば簡単に乗るわけにはいかない。だが、由加里は否定の意味で首を振った。
「私の一存で考えたことよ。このことは誰も──武藤先生も知らないわ。どうしてと言われると返事に困るんだけど、敢えて言うなら見捨てた人への贖罪かしら? 自分にできることがあって、それをしないで誰かが死ぬのは私が嫌なのよ。だから、これは他の人のためではなく、私自身のためね。それに相手があなただからというのもなくはない。別の人だったらもっと躊躇していたでしょうね。女の私にこんなこと言わせないでよ。もう一つ付け加えるなら、こういう取引は今回が初めてというわけでもないのよ」
「どういう意味だ?」
智哉がそう訊くと、別に隠すようなことじゃないと言わんばかりに、研修医のあいつにもしていたことだ、と語った。
「前の病院じゃ、あいつをやる気にさせるために時々手で抜いてやっていたのよ。日奈子と交代でね。といってもラテックスの手袋越しだから、障碍者への射精介助みたいなものだったけど。それでもあいつは満足していたみたいね。もちろん、あなたにはちゃんとするわよ。こっちが無理を押して頼むからにはね。でも、あまり過度な期待はしないでよ。あれをして誉められたことなんて一度もないんだから」
あの研修医と同じ扱いになることに抵抗を覚えないわけではなかったが、それよりも由加里への興味の方が勝った。拒否しないのを合意と受け取ったようで、今からする? それとも帰ってからでいいのかな? と訊く由加里に、先払いで今から一回、戻ってからもう一回、と智哉は言った。
「それに加えて、手に入れた薬は俺自身とあの姉妹にまずは投与して貰う。次に医療班のお前達が優先的に使うこと。これは親切で言っているわけじゃないぞ。感染リスクが高いのはお前達だし、人材の貴重さから言っても他の避難者に勝る。これが引き受ける上での条件だ」
「……いいわ。武藤先生にはそう伝える。それで他になければあまり時間もないことだし、早速始めたいんだけど構わない?」
智哉が頷くと、じっとしていて頂戴、と由加里に言われ、ベッドに腰掛けた状態でいきなりその唇が塞がれた。挿し込まれた舌先が口腔を貪る感触だけで智哉は思わず勃起した。
(それほど溜まっていた感覚はなかったんだがな)
最後に女の肌に触れたのは病院で美鈴を抱いて以来だから凡そ二週間ぶりになる。由加里は智哉のシャツを捲り上げ、慣れた仕草で乳首に口を付けた。さすがに美鈴とは違って、それなりに男性経験がある者の戯れ方だ。甘噛みしたり口の中で転がしたりする様子にたどたどしさは見られなかった。左右平等に舌を這わせた後はズボンの膨らみに手を置いて、形を確かめるように擦った。
「俺も触っていいか?」
このままだと碌に堪えられずに終わってしまいそうだと直感した智哉は、少しでも長引かせようとそう訊いた。暫し迷った末に、上だけなら、と由加里は了承した。
「下は生理が来ている最中なのよ。そうでなくてもずっとシャワーも浴びれてないからきっと凄いことになっているでしょうし、とても今は見せられないわ」
そういえば美鈴に初めて奉仕させた時も生理だったと思い出し、妙にメンス付いているなと考えながら、セーター越しに由加里の胸に触れた。軽く持ち上げてみると思いの外、ボリューム感があるのがわかる。見た目ではそうは思えなかったので、着痩せするタイプなのだろう。そのままセーターの裾から手を入れて、ブラジャーのホックを外し、直の感触を愉しんだ。
「触られているとやり辛いわよ」
そう言いながら由加里が智哉のズボンのベルトを外しにかかる。ジッパーも下ろされて、トランクスが露わになると、左右の裾から鼠径部へ両手を滑り込ませてきた。暫く掌で包み込むようにして睾丸やその周囲を弄り回していたが、一旦手を引くと、ズボンとトランクスを一気に足許まで引き下げた。窮屈さから解き放たれたペニスを前に、由加里が息を呑む気配が伝わってくる。智哉も由加里のセーターとインナーを脱がし、肩からブラジャーも外して、その優美な膨らみと先端の薄紅色の突起を露出させた。
「男の人に胸を見られるなんていつぶりかしら? すっかり忘れていたけど、思った以上に恥ずかしかったのね」
そんな軽口を叩きつつ、ペニスを口に含んで舌を這わせてくる。誉められたことがないというのは謙遜だろうと即座に悟った。
「どう? がっかりさせてない?」
時折顔を上げて、上目遣いでそのように訊ねてくる。そのたびに智哉は、上手いものだ、とか、問題ないよ、とか口にした。
そのうち、智哉は思いがけず由加里が熱心なのに呆れて、
「お前、何か自分の方が愉しんでないか?」
と訊ねてみた。すると、
「嫌々されるよりはいいでしょ」
という返事があっさり返ってきた。
その言葉通り、充分に自分が愉しんだと思われる末にやっとのことで智哉は射精に導かれた。口の中に放たれた精液を抵抗なく呑み込む由加里を見て、この取引で得したのは果たしてどちらだったのか、とふと智哉は疑問に思った。
翌日、午前中に隊員達の協力で食糧や機材を冷凍車に積み終えると、彼らには隠れて建物の裏手にひっそりと作った優馬の墓を参った後、午後一番で智哉は余ったスペースに絵梨香らを載せてスーパーを後にした。荷室内の酸素濃度は以前に消防署を探索した折、手に入れていた酸素モニタがあったので、それを取り付けることで事故防止としてある。通常、大気中の酸素濃度は約二十一パーセントで、これが十八パーセントを下回ると危険水域とされ、そうならないよう自分達で小まめにチェックするのだ。ちなみに人間が肺胞でガス交換して吐く息は個人差はあるものの概ね十六パーセント前後とされ、酸素は濃度勾配で濃い方から薄い方へと流れていくので、もし呼気より低い環境に晒されれば息を吸うほど体内の酸素は外へと引きずり出されることになる。しかも血中酸素濃度が低くなると人は中枢神経の働きにより反射的に呼吸を行い、さらに酸素を失うという悪循環に陥りやすい。その上、息苦しさは血中の二酸化炭素濃度によって生じるため、酸素不足では自覚症状に乏しく、運動機能の低下などもあって気付いた時には動けなくなっているといったことから労働現場では死亡事故に結び付きやすくなっている。こうした知識は智哉がゾンビに対抗する糸口を探る上で知り得たものだ。呼吸の阻害がゾンビ相手に有効な手立てになりはしないかと調べたのだが、結論を言うと無駄であった。そもそもゾンビは呼吸を必要としていなかったのだ。
当然、絵梨香らにそれを真似しろと言うわけにもいかなかったので、途中幾度か安全そうな場所で換気と休憩を挟みながら、日が暮れた頃になって漸く一行は避難所である休暇村に辿り着いた。智哉は絵梨香達の扱いが運営組織と自衛隊との合議になるだろうと予想したのだが、戻ってみるとやや様子が違っていた。とりあえず感染していないことの証として野営テントで一夜を明かすことになった一行の下に、野戦服姿で襟許に尉官の略章を付けた男がやって来る。智哉とはここで知り合い旧知の仲となった警備部隊の指揮官で、この場に居残った唯一の幹部自衛官でもある植松という三等陸尉だ。所謂現場叩き上げの部内幹部というやつで智哉とは年齢も近く、気さくな人柄だったため話もよく合った。故に軽く目線を交わしただけで智哉は挨拶代わりとしたのだが、さすがに他の四人はそうはいかなかったようだ。直ちに立ち上がって直立不動の姿勢を取ると、ヘルメットを被っている者は挙手の敬礼を、既に脱いでしまっていた者は十度の敬礼と言われる会釈を行った。だが、それを見ても植松三尉は返礼をするでもなく、苦笑いを浮かべ、敬礼はよしてくれ、と言ったのだ。
「俺は……俺達はもう自衛官じゃない」
「はっ?」
それはどういう意味、と問いかけた絵梨香を軽く片手を挙げることで制しておき、植松は事情を説明し始めた。
「既にわかっていると思うが、司令部はもはや存在しない。最後に無線交信を行ったのは一昨日のことで、それ以降は一切呼びかけに応じなくなっている。前後の状況からして壊滅したと考えて間違いないだろう。従って我々に指示を出す者はいなくなったということだ。つまり、この先は自分達で判断して行動していかなければならない。それを踏まえて残った隊員達で話し合い、部隊の解散を決めたんだよ。自衛官としての役目はもう充分に果たしただろうということでな。その上で改めてそれぞれが一個人として運営組織に属することになった。今は他の避難者達と同等というわけだ。もっとも武器の扱いに慣れているということで、引き続き警備を任されてはいるがね。とはいえ、我々だけではどうにも人手が足りないので、近々志願者に対する銃器の訓練も行う予定だ。まあ、貴重な弾薬を消費するわけにはいかないから自衛隊式の口鉄砲になると思うが、それでも自衛官という立場であれば到底できなかったことだろう。はっきりした法規違反だからな。そういうわけで私はもう君らの上官でもなければ同僚でもないんだよ。この避難所のルールには従って貰うが、命令を下す立場にはないので気楽にしてくれ。君達もこれから先どうするのか身の振り方を考えた方がいい。もちろん、あくまで自衛官としての職務を貫き通すつもりなら止めはしないがね」
それだけ話すと、今日はそのことを告げに来ただけだ、と言い残して天幕を去って行った。残された絵梨香達は複雑そうな面持ちで互いの顔を見合わせた。
「……今の話、どう受け止めましたか?」
まずは木村がそう口火を切って、絵梨香に意見を求めた。絵梨香は少しの間思案してから口を開いた。
「私は三尉……いえ、元三尉……植松さん達の選択は間違っていないと思う。正直に言うわ。こうなってしまったからには自衛官という束縛は必要ないと考えている。規律や上下関係に意味があったのは、集団としての役割分担にそれなりの信頼があったから。でも、それはもう望めない。生き延びるために何が正しい選択かなんて誰にもわからないわ。もちろん、私にも。これまでもそうだったけど今後はさらに迷いが生じてくるでしょうし、自分のことだけで精一杯で他人を気にかける余裕はなくなるに違いない。命令するのもされるのも止めるのにいい潮時じゃないかしら。この先は誰かに決められるのではなく、各々が自分にとって最良と思える行動で生き残っていくしかないのよ」
絵梨香は淡々とした口調で語っている。ある程度は全員が覚悟していたことなのだろう。絵梨香の言葉に長野は頷き、井上は顔を伏せており、木村はポーカーフェイスを保ったままだった。この場で唯一の部外者である智哉は自分が口を出すべきことではないと決めていたので、少し離れた位置からそれとなく四人のやり取りを見守っていた。暫くして、俺もその方がいいと思う、と長野が応じた。
「ここで俺達だけが自衛隊だの何だのと気負ってみても孤立するだけだと思う。たった四人じゃ銃を持っていたって大したことはできない。その銃だって殆ど弾薬は残っていないんだ。ここに留まるつもりなら仲間に入れて貰うしかないわけで、それには階級は不要なんじゃないか」
じゃあ、もし武装解除しろと言われたらそれに従うんですか、と今度は井上が声を上げた。そうするしかないだろう、と長野は答えた。
「丸腰になるってことですよ。僕は嫌ですね。今までこれがあったおかげで生き残ってこられたんだ」
そう言いながら八九式小銃を愛おしそうに撫でた。
「それに折角、この四人で助かったんじゃないですか。この先も武井班でやっていけますって。何ならここの人達と交渉しましょうよ。武器を扱える人間は貴重なはずです。例えば警備を請け負う代わりに食糧と住む場所を提供して貰うなんてどうですか? 今更、別々に行動するなんて言わないでください」
さっきも言っただろ、弾もないのにどうやって警備を請け負うんだよ、と長野が言い、それは岩永さんから分けて貰うとか、と井上が自信なさげに口にした。
「そうだ、いっそのこと、岩永さんにも仲間になって貰いましょうよ。みんなも知っていますよね、あの武器の量」
現在、智哉の手許にはゾンビ化した自衛隊員達から集めた小火器や携帯型の火砲、それらの予備弾薬に加え、弾帯や弾納、ボティアーマーといった装備品などが少なからずあった。化学防護服のおかげで回収できたと絵梨香達には説明してある。避難所で供出させられることを見越し一部はこっそりとスーパーに残して来たが、それでも相当な量であることは間違いない。無論、智哉一人で抱え込むには過剰だし、余計な波風も立てたくないので供出には素直に応じるつもりだ。どうやら井上はそれを勘違いしているらしい。名前が出たことで、皆の視線が傍観していた智哉に集中する。それで仕方がなく会話に加わることになった。何か誤解をしているようだ、と開口一番に智哉は言った。
「俺に集めた武器や弾薬をどうこうする権限なんてないよ。ここに持ち込んだ時点で水や食糧と同様にそれらも運営組織に委ねられることになっている。一個人が自由にするには大き過ぎる裁量だからな。独裁者にでもなるつもりなら別だが、そんな面倒な真似はしたくない。それともお前達で避難所を制圧でもしてみるか? それなら思い通りにできるだろう。避難所の連中だって黙って見てはいないだろうがね。どちらにしても俺を当てにするのは止めてくれ。たまたま化学防護服の効果に気付いて外に出られるようになっただけの、自分じゃ凡庸な人間だと自覚している。態度が大きいのは認めるが、それだって別に自信があってのことじゃない。どちらかと言えば投げ遣りな姿勢だと思ってくれていい。そんなわけで現実問題として武器弾薬の管理は専門家に──さっき訪ねて来た植松元三尉ら警備を担当している連中に任せるのが妥当だろう」
武器の専門家というなら僕達だって同じはず、と尚も喰い下がる井上に、もう止めろ、と木村が語気を強めて言った。
「銃を手放したくないならここの警備に加わればいい。人手は足りてないと三……植松さんだって言っていたじゃないか。俺達、自衛官なら諸手を挙げて歓迎されるだろうよ。実際、俺はそうするつもりだ。だが、誰かを誘うことはしない。そうするもそうしないも自分で決めろ。これ以上、班長に責任を負わすな」
結局、その木村の言葉が決め手となったらしく最後は井上も渋々と認め、四人はこの場で隊の解散を決めた。木村と長野と井上はこのまま警備班に加わる気のようだ。絵梨香だけが何故か態度を保留にした。その理由を偶然二人きりになった折に智哉が訊ねると、何となく、とだけ彼女は答えた。
「……以上が衛生班からの報告になります」
そう締め括った衛生班班長の前橋が着席した。いつもの定例会議の場だ。今や智哉もこの会議のすっかり常連となってしまっていた。
「続いて医療班からは何かありますか?」
「はい」
議長役である友里恵からそう指名を受け立ち上がったのは、普段の武藤医官ではなく、ナース服姿の荻野由加里だった。久しぶりに見た彼女は以前に比べてやややつれた印象を受けはしたが、落ち着き払った態度はまったく変わっていない。明確な話しぶりもそのままだった。
「医療班の荻野です。本日は武藤が急用のため、代理として出席しました。まずは先週に亡くなった方ですが──」
形式的な報告がひと通り済んだところで、由加里は、実は深刻な問題がある、と本題を切り出した。
「恐れていた通り、やはり今年もインフルエンザ流行の兆しが見られます。既に二十人ほどがその初期段階と見られる症状を示したため隔離しました。幸いにも今は高病原性にはなっていませんが、このまま感染が拡大すれば変異してそうならないとも限りません」
ここでの治療は可能なの? と友里恵が訊いた。大抵のインフルエンザは人が本来持つ自己治癒力で治すことは可能だと由加里は答えた。ただし──。
「適切な療法……主に充分な休息と水分補給、栄養補給をしっかりとしていればという注釈が付きます。残念ながらそのどれも満足に行えていないのが現状です。このままでいくと特に体力のない子供や老人は症状が長引いて重篤化する危険があると言わざるを得ません。最悪の場合はサイトカインストームが発生する恐れもあります」
「サイトカインストーム? それは何か?」
総務班班長の三上が眼鏡に手をやり、神経質そうにそう質した。智哉の外での活躍によりその後押しをした友里恵の評価が高まっていることから最近は目立つ動きを控えているようだが、追い落としを諦めたわけではあるまい。今も油断なく──というより、誤りは一つも見逃さないといった目付きで会議に臨んでいた。その三上の質問に答える形で由加里が話を進めた。
「専門的なことは省きますが、免疫系の過剰な防御反応によって引き起こされる多臓器不全の一種と捉えてください」
「つまり、ウイルスから自分を護ろうとして却って自分を傷つけるわけか」
「その通りです」
「そのサイトカインストームというのはどれくらい深刻な症状なの?」
友里恵が訊き、智哉を含む全員が由加里の説明を一言も聞き逃すまいと耳をそば立てた。
「一九〇〇年代初頭に発生したインフルエンザの世界的大流行、所謂スペイン風邪では全世界で五千万人から一億人が亡くなったと推計されています。確かにこれ自体大変な死者数ですが、それを聞いただけでは本当の深刻さは伝わらないと思います。当時の世界人口が約十八億人ほどだったと知ればどうでしょうか? この時に特徴的だったのは通常なら先程話したように犠牲者に占める割合は子供や老人が多くなるところを免疫活性が高い若者の死亡率が顕著だったことが挙げられます。このことからサイトカインストームが発生したのではないかというのが今日の定説です。また二〇〇〇年代の初めに起きたSARSの流行でもほぼ同様のことが確認されました」
「では、もしサイトカインストームが起これば子供や老人に限らず誰でも死ぬ可能性があるということね?」
「はい。むしろ、十代から三十代の若年成人層が危ない」
「防ぐ手立ては?」
「サイトカインストームが起こる原因はまだはっきりしません。いずれにしても隔離措置を徹底するなどして感染拡大をできるだけ防止するくらいしか方法はありません」
「そういえばタミ何とかって特効薬があったんじゃないか? ちょっと前に随分取り上げられていただろ?」
そう口を挟んだのは、食糧自給班班長の高瀬だ。それについては次のように由加里は説明した。
「タミフルのことですね。確かに一時期よく話題になったタミフルやリレンザ等の抗インフルエンザ薬は予防には最適ですが、ここでは数が圧倒的に足りていない上、そもそも重篤化した患者には効果がありません。あくまで初期段階においてウイルスの増殖を抑えるための薬で、服用も発症後四十八時間以内でないと効き目は薄いとされています。わかりやすく言うとサイトカインストーム発生後では意味がない。その場合、治療はステロイドパルス療法とγグロブリン大量療法が有効とされていますが、どちらも高度な医療でここで行うには無理があるとお考えください」
「つまりは一旦、起こってしまえば手の打ちようがないわけね」
そう友里恵が呟き、由加里がはっきり頷くと、会議室は重苦しい沈黙に包まれた。
とにかく今後もインフルエンザの症状が現れた者への隔離措置を継続して行っていくことと、水は貴重なので今あるアルコール消毒液などによる可能な限りの衛生管理の徹底、より細かな感染症サーベイランス(調査・監視)の実施などが確認された。さすがに智哉もこの問題は他人事と悠長に構えていられなかった。病気の感染リスクに限っては他の者と変わりないからだ。会議終了後、自分にできることは何か考えながら部屋に戻りかけたその背中越しに声をかけられた。
「久しぶりね」
振り返って目にしたのは、先程まで会議の席で発言していた由加里だった。今回のために用意したと思われる紙の資料の束を小脇に抱えている。
「会うのは半月ぶりくらいか。医療班の班長代理を任されるなんて僅かな期間で随分と信頼されるようになったじゃないか」
立ち止まって智哉もそう返す。
「人手不足なだけよ。そっちこそ、凄い活躍をしているそうじゃないの。噂は聞き及んでいるわよ」
「噂? そりゃどんなものなのか参考までに伺いたいね」
智哉が言うと、由加里は歩きながら話すつもりなのかスタスタと追い越して前を行き始める。慌てて智哉も横に並んで歩き出した。
「今やこの避難所を陰で実質的に支配しているのはあなたじゃないかってもっぱらの評判よ」
初めて聞く話だ。もし本当にそんな噂が立っているなら、智哉にとって不都合極まりない。
「……随分と大袈裟な中身だな。根拠のない話を言い触らされるのはこっちが迷惑なんだが」
「そう? でも私が聞いたところによると、あながち大袈裟とも思えないんだけど」
友里恵には智哉の活動はできるだけ公にしないよう釘を刺していたはずだ。ゾンビに襲われない特異体質がバレないためというのもさることながら、現時点で避難所に影響が及ぶのを極力避けたかったからでもある。絵梨香達にもチラッと言ったが、これだけの集団を本気で支配しようとすれば相当な労力を費やさざるを得まい。現段階でそうするだけのメリットが感じられなかったし、下手に智哉を利用しようとする輩が現れても面倒なことになる。よって今は運営は友里恵達に任せ、自分はなるべく目立たず、行動の自由だけが増していくのが望ましい。そうは言っても狭い避難所内のことだ。おいそれと隠し果せるものではないということだろう。
「あの研修医はどうしている?」
話を逸らそうと、智哉はそう訊ねた。由加里は別段、その流れを不自然だとは思わなかったようで、やけに張り切っているわよ、と苦笑いしながら続けた。
「あの一件以来、妙に職業意識に目覚めたみたいで、一緒に来た患者さんは自分が面倒を看るんだとか言い出して。まあ、武藤先生がいてくれるおかげでこっちも安心して見ていられるようにはなったんだけど」
そうだったのか、と智哉はやや意外な感想を込めて呟いた。あの逃げ腰な態度からは想像も付かないが、それならそれで良かったのだろうと思うことにした。
「それはそうと、ここで遭えてちょうど良かったわ。少し相談したいことがあるんだけど、あとで時間を取れない?」
今から会議の報告に戻らなければならないという由加里に対して、智哉はいつが良いのかと訊ねた。今日は早めに上がれそうだから夕食時間の少し前はどうかと由加里が提案したのを智哉が了承して、自身の部屋の前で落ち合うことになった。
「へえ、個室なのね。隔離病室以外で目にするのは初めてだわ」
約束の時間に少々遅れて現れた由加里は、遅くなってごめん、帰りしなに厄介な患者に掴まっちゃって、と大して悪びれた様子もなく語った。その服装は見慣れたナース姿ではなく、やや淡いグリーン色のセーターにコーデュロイのパンツというさっぱりとした私服だった。考えてみれば仕事着以外の彼女を見るのはこれが初めてだ。どう反応して良いのかわからなかったので、とりあえずよく似合うとだけ言っておいた。
「別に着替える必要はないんだけどね。どうせお洒落したって誰にも見向きされないんだし。大体からして私服がこれ一着しかないのが問題よね。コーディネイトも何もあったもんじゃないわ。他の看護師達も皆、似たり寄ったりだから文句も言えないしね。もう面倒だからって四六時中ナース服で通す人もいるくらいよ。あの日奈子にしてもそう。以前は仕事そっちのけで洋服命って感じの娘だったのに、人って変われば変わるものだわ」
ただ幾ら物資に乏しいからといって同じ服をずっと着っぱなしというわけにもいかないから、どうせ洗濯するならたまには気分転換で私服にしようと思った、と由加里は話した。
「だって息抜きは必要でしょ?」
少しくらい仕事を忘れて羽目を外したっていいじゃない、と言う由加里に、そんなに溜まっているのか? と智哉が訊ねると、まあね、ここのところ行き詰ることが多かったから、との返事が返ってきた。どうやら快活そうに見えたのは上辺のみで、内面はかなり疲れ気味の様子だ。訊けば以前の病院の時を含めもう二ヶ月以上、まともな休みを取れたことがないのだという。
「それでも私達、看護師は交代で休息できる分まだマシな方よ。武藤先生なんて割り当てられた自分の寝所に帰るところを一度も見たことがない。ずっと仮眠室に泊まり続けているわ。このままじゃ倒れるのも時間の問題ね」
「そうなのか」
医師や看護師不足なのはそれとなく感じていたが、自分が一度も医療班の世話になっていないこともあり、そこまで深刻だとは気付かなかった。もしかすると今日の会議に武藤が欠席したのも手が離せないというのは口実で、少しでも休ませようと由加里達が配慮したからかも知れない。
「武藤医師に倒れられては困るな。何しろ正規の医者は彼一人だ」
それは紛れもない智哉の本心だった。美鈴と別れた後も自由を損なってまで避難所に留まり続けているのは自分にはないスキルの持ち主がいるからという側面が大きい。中でももしここを逃げ出すことになって限られた相手しか連れ出せないとなれば、真っ先に武藤医師を候補に挙げるだろう。そしてそれは由加里に対しても言えることだった。ただ、この件で智哉が力になれることは今のところ見当たらなさそうだ。由加里もそれは承知しているからなのか何も言って来ない。そこで、だったら今だけでも羽目を外すか、と智哉は言ってみた。
「羽目を外す? 一体どうやって?」
智哉は由加里の目の前でパイプベッドの下に押し込んであったスーツケースを引っ張り出すと、蓋を開け、中から缶ビールを二本取り出した。
「さすがに冷えちゃいないが、そこまで贅沢は言えないだろう?」
「……呆れたわね。ここでの飲酒は全面的に禁止されてるはずでしょ?」
それは主に風紀を保つというより、摂取したアルコールを分解するのに水が欲しくなるのを避けるための措置である。
「喉の渇きが心配なら、ほら水もある」
そう言いつつ、さらにミネラルウォーター入りのペットボトルもプラスチック製のサイドテーブルに並べる。当然ながら配給とは別に智哉が隠して持ち込んだものだ。
「他の奴に気兼ねして飲まないって言うなら別に構わないけどな」
言って智哉は片方の缶ビールを開けると、早速口を付けた。由加里はどうするかと横目で眺めていたら、五秒ほど躊躇った挙句、遂にはもう一方の缶ビールに手を伸ばし、プルトップを開けて豪快に喉へと流し込んだ。
「これで同罪だな。他の奴には黙っておけよ」
プハァ、と満足そうに息を継いだ由加里は、言えるわけないでしょ、あっさりと誘惑に負けただなんて、と答えた。
ちょうど夕食時だったということもあり、二人で配給を受け取りに行って再び智哉の部屋に戻ると、出された僅かな食事を肴に残りのビールは時間をかけて名残惜しむように飲んだ。
「ところで、帰りが随分と遅いのね」
由加里にそう言われても智哉には即座にピンと来るものがなかった。
「一緒に住んでいるんでしょ? あの姉妹と」
それで漸く美鈴達のことだと思い当たり、ここには戻って来ないと智哉は告げた。
「今は別々に暮らしている。この部屋を使っているのは俺一人だよ」
「……そうだったの。意外ね。てっきりずっと一緒に居るものとばかりに思っていたんだけど」
事情を知らない由加里からすれば、智哉が姉妹を命懸けで庇っているように見えたのだろう。話してもすぐには納得し難いようだった。本来なら立ち入るべきではないだろうが、差し支えなければ事情を教えて欲しい、とまで言われた。別に隠すようなことではないので、智哉は説明し始めた。
「この前やって来た連中の中に、あいつらが昔から知り合いという人間がいたんだ。家族同然の付き合いだったらしい。それでそっちと一緒に暮らすことになったというだけだよ。元々俺とあいつらとはたまたま一緒に避難していただけの赤の他人だからな。身内がいるならそうするのが当然だろう」
「あの子……確か美鈴さんと言ったわね、彼女はそれで納得したの?」
「納得も何もあいつが決めたことだ」
それを聞いて由加里は押し黙った。尚も承服とは至らなそうだったが、これ以上は自分が踏み込むべきではないと悟ったのか、結局何も言わなかった。代わりに、それで一人でこの部屋を使っているのか、と羨望とも非難とも付かないことを口にした。それだけのことをしているからな、と智哉は事もなげに言ってのけた。
「凄い自信ね。やっぱり噂は本当なんじゃない。ビールも水も同じ理屈で持ち込んでいるんでしょ? 手を付けた私が言えた義理じゃないけど、そのうちあなた、みんなに恨まれるわよ。折角、大勢の人が感謝し始めているのに」
「そいつらは俺を聖人か何かと勘違いしているんじゃないか。ボランティアでやっていると思っているならめでたい連中だよ」
「只ではするな、だっけ? 何かをして貰うには見返りが必要というのがあなたのポリシーだったわよね」
「そんな大逸れたもんじゃないと言わなかったか? お人好しじゃこの先、生き残っていけないってだけさ。それより誰も来ないってわかったんだ。男と部屋に二人きりなんだぜ。自分の身を案じた方がいいんじゃないか?」
あら、私を襲うつもりなの? と由加里は悪戯っぽい目付きで言い返した。本気にはしていないようだ。あるいは仮に襲われたとしても大声を張り上げれば廊下に筒抜けだと考えているのかも知れない。確かに幾ら個室とはいえ、さほど防音性が高い造りとは思えず、本気で抵抗されれば外部に隠し通すのは困難だろう。もし本気でどうにかしようと思うなら相応の準備が必要だ。由加里は智哉がそこまでするとは露ほども疑っていない模様だ。やれやれ、と智哉は内心で軽く溜め息を吐いた。
(すっかり善人ぶりが板に付いたみたいじゃないか)
智哉が美鈴にしたことを知ったら、由加里はどんな顔をするだろうと考える。それに過去の例だけではない。折角、一人に戻ったのだから、もう一度当初の計画に立ち返って欲望に忠実になろう、と智哉は密かに目論んでいた。そうでなければこれまで何のために苦労してきたのかわからなくなる。その手初めてとしてまずは目の前の相手、由加里を従わせてみるのも悪くない。無論、性的な意味において。
そんな不穏当な思い付きを表情には一切現さず、そういえば相談があるんじゃなかったのか、とすっかり忘れていたここに来ることになった目的を思い出した。
「そのことだけど、昼に会議で私がした話は憶えている?」
「インフルエンザが流行しかかっているってことだろ。それなら俺の方も訊きたいことがあったんだ」
幾らゾンビには無敵でいられる智哉でも怪我と病気には無防備だ。しかも社会全体が荒廃した今、満足な治療を受けられないという点では他者と同等のリスクを抱える。他人に対して自分が絶対的な優位を保つ上でも病に臥せるような弱味を見せるわけにはいかなかった。そのためには一時的に避難所を離れることも検討しているが、別に何か解決策があるなら考慮に入れたい。由加里に訊きたかったのはそのことだ。
「言わなくても大方の見当は付くわよ。感染予防についてでしょ? 私が相談したかったのもまさにそのことなのよ」
実は手に入れて来て欲しい物がある、と由加里は尻のポケットから四つ折りにした紙片を取り出した。手渡されたその紙を拡げると、何かのリストのようだった。見慣れない言葉の下に、「緑と白のパッケージ」とか「大きめの目薬のような容器」とか「点滴パックになっている」とか書かれている。その中の一つにタミフルの文字を見つけて、これが薬のリストだとわかった。タミフルは商品名で成分としてはオセルタミビルリン酸塩と言う舌を噛みそうな名称が正式らしい。リレンザやイナビル、ラピアクタなどの坑インフルエンザ薬と思われる物以外にも全身麻酔薬であるプロポフォールやケタミン、局所麻酔薬のリドカイン、昇圧剤のエフェドリンといった名前が並んでいる。また裏面には病院や薬局の地図らしきもの、内部の見取り図などが描いてあった。訊くまでもないことだったが一応、これは? と智哉は訊ねた。
「薬剤のリストよ。他の看護師達にも聞いて回って元々の勤務先や近所の薬局などで薬が手に入りそうな場所は概ね記してあるわ。恐らくそこに行けば全部は無理でも幾らかは見つけられるはず。特に坑インフルエンザ薬は種類は問わないからできるだけ大量に、あればあるだけ集めて貰いたいの。他はもし見つけられたらでいいから」
「抗インフルエンザ薬は役に立たないんじゃなかったのか?」
「サイトカインストームが発生した場合にはね。でもタミフルなどの抗インフルエンザ薬には治療だけでなく予防投与に効果を発揮するものもあるの。感染が拡がりきる前の今ならある程度の抑制が期待できるわ。そうなればサイトカインストームが起こる可能性も減らせる。もっとも副作用のリスクが少なくないわけじゃないから普通だったら無闇に使うわけにはいかないけど、現状ではそんな悠長なことも言っていられないものね」
なるほどな、と智哉は胸の裡で独り言ちた。それなら自分にとっても打って付けの対策ではあるが、二つ返事で引き受けるには少々難易度が高く無理がある。さてどうしたものか、と智哉が迷っているうちに、由加里が先を続けた。
「勝手な頼みだってことは充分に承知しているわ。どれほど危険なことかも理解しているつもりよ。でも、あなたは実際にうちの病院までやって来られた。そのことがあったからこうしてお願いできるのよ。そうじゃなきゃ、私だってこんな無茶な頼み事はしない。もちろん、無理強いする権利なんてないけど、あなたを置いて他に頼れる人はいないの」
それでも智哉が逡巡するふりをしてわざと返答を遅らせていると、それを額面通りに受け取ったらしい由加里が断られると思ったのか、がっくりと肩を落とした。薬の使い方には特別な知識がいるのか、と智哉は訊いてみた。
「? いいえ。タミフルはカプセル剤と小児向けの散剤、リレンザは吸入器を使うだけだから容量に注意さえすれば服用するのは簡単よ。他の抗インフルエンザ薬──イナビルとラピアクタはそもそも予防投与はできないし」
「だったら自分の分だけ用意できればいいわけだ。わざわざ何ヶ所も回るような危険を冒してまで人の分を確保するメリットは俺にはないってことだろ」
「みんなのために……っていうのは、きっとあなたの動機にはならないわね。だとしたら、ええ、その通りよ。あなたにとっては単純にリスクしかない行為だわ」
「参考までに訊くんだが、ひと処では人数分を揃えられないのか。それなら自分の分を手に入れるついでとして余分な入手も考えなくはない」
「恐らく消費と備蓄のバランスからいって、それは無理ね。一ヶ所を回るだけじゃ、とても全員分の確保には数が足りない。病院というのは不良在庫を嫌うものなのよ。だから意外と薬の備蓄量は少ないの。必要なら取り寄せれば済む話だし。一応、国内には何千万人分か抗インフルエンザ薬の流通備蓄があると言われているけど、それがどこにあるのかは私達医療従事者も把握していない。たぶん製薬会社の薬品倉庫にでも眠っているんでしょうけど、残念ながらその場所を知る人は見つからなかったわ。だから必要な量を集めるにはどうしても複数ヶ所を回る必要があるというわけ。その分、危険度が高くなるのは承知の上でね」
そこまでわかっていて俺に頼むということは当然、見返りは考えてあるんだろうな? と智哉は言ってみた。まあね、あなたがお気に召すかはわからないけど、と由加里は答えた。
「個人的なお礼をするわ。物には釣られないでしょうから別の形で。そう言ったら何のことか凡その察しは付くでしょ? あの娘と暮らしていたんじゃ通用しないと諦めていたけど、そういう事情なら付け入る隙はありそうじゃない? これでも言い寄る男もいたのよ。さすがにいきなり最後までというのは私も抵抗があるから、できれば手か口で満足して貰えると有り難いけど、どうしてもと言うなら覚悟を決めるしかないわね」
「……どうしてそこまでするんだ? 誰かに弱味でも握られているのか?」
あまりに美味い話に智哉は却って警戒心を強くした。美人局ではあるまいが、裏で糸を引く奴がいるのではないか。だとすれば簡単に乗るわけにはいかない。だが、由加里は否定の意味で首を振った。
「私の一存で考えたことよ。このことは誰も──武藤先生も知らないわ。どうしてと言われると返事に困るんだけど、敢えて言うなら見捨てた人への贖罪かしら? 自分にできることがあって、それをしないで誰かが死ぬのは私が嫌なのよ。だから、これは他の人のためではなく、私自身のためね。それに相手があなただからというのもなくはない。別の人だったらもっと躊躇していたでしょうね。女の私にこんなこと言わせないでよ。もう一つ付け加えるなら、こういう取引は今回が初めてというわけでもないのよ」
「どういう意味だ?」
智哉がそう訊くと、別に隠すようなことじゃないと言わんばかりに、研修医のあいつにもしていたことだ、と語った。
「前の病院じゃ、あいつをやる気にさせるために時々手で抜いてやっていたのよ。日奈子と交代でね。といってもラテックスの手袋越しだから、障碍者への射精介助みたいなものだったけど。それでもあいつは満足していたみたいね。もちろん、あなたにはちゃんとするわよ。こっちが無理を押して頼むからにはね。でも、あまり過度な期待はしないでよ。あれをして誉められたことなんて一度もないんだから」
あの研修医と同じ扱いになることに抵抗を覚えないわけではなかったが、それよりも由加里への興味の方が勝った。拒否しないのを合意と受け取ったようで、今からする? それとも帰ってからでいいのかな? と訊く由加里に、先払いで今から一回、戻ってからもう一回、と智哉は言った。
「それに加えて、手に入れた薬は俺自身とあの姉妹にまずは投与して貰う。次に医療班のお前達が優先的に使うこと。これは親切で言っているわけじゃないぞ。感染リスクが高いのはお前達だし、人材の貴重さから言っても他の避難者に勝る。これが引き受ける上での条件だ」
「……いいわ。武藤先生にはそう伝える。それで他になければあまり時間もないことだし、早速始めたいんだけど構わない?」
智哉が頷くと、じっとしていて頂戴、と由加里に言われ、ベッドに腰掛けた状態でいきなりその唇が塞がれた。挿し込まれた舌先が口腔を貪る感触だけで智哉は思わず勃起した。
(それほど溜まっていた感覚はなかったんだがな)
最後に女の肌に触れたのは病院で美鈴を抱いて以来だから凡そ二週間ぶりになる。由加里は智哉のシャツを捲り上げ、慣れた仕草で乳首に口を付けた。さすがに美鈴とは違って、それなりに男性経験がある者の戯れ方だ。甘噛みしたり口の中で転がしたりする様子にたどたどしさは見られなかった。左右平等に舌を這わせた後はズボンの膨らみに手を置いて、形を確かめるように擦った。
「俺も触っていいか?」
このままだと碌に堪えられずに終わってしまいそうだと直感した智哉は、少しでも長引かせようとそう訊いた。暫し迷った末に、上だけなら、と由加里は了承した。
「下は生理が来ている最中なのよ。そうでなくてもずっとシャワーも浴びれてないからきっと凄いことになっているでしょうし、とても今は見せられないわ」
そういえば美鈴に初めて奉仕させた時も生理だったと思い出し、妙にメンス付いているなと考えながら、セーター越しに由加里の胸に触れた。軽く持ち上げてみると思いの外、ボリューム感があるのがわかる。見た目ではそうは思えなかったので、着痩せするタイプなのだろう。そのままセーターの裾から手を入れて、ブラジャーのホックを外し、直の感触を愉しんだ。
「触られているとやり辛いわよ」
そう言いながら由加里が智哉のズボンのベルトを外しにかかる。ジッパーも下ろされて、トランクスが露わになると、左右の裾から鼠径部へ両手を滑り込ませてきた。暫く掌で包み込むようにして睾丸やその周囲を弄り回していたが、一旦手を引くと、ズボンとトランクスを一気に足許まで引き下げた。窮屈さから解き放たれたペニスを前に、由加里が息を呑む気配が伝わってくる。智哉も由加里のセーターとインナーを脱がし、肩からブラジャーも外して、その優美な膨らみと先端の薄紅色の突起を露出させた。
「男の人に胸を見られるなんていつぶりかしら? すっかり忘れていたけど、思った以上に恥ずかしかったのね」
そんな軽口を叩きつつ、ペニスを口に含んで舌を這わせてくる。誉められたことがないというのは謙遜だろうと即座に悟った。
「どう? がっかりさせてない?」
時折顔を上げて、上目遣いでそのように訊ねてくる。そのたびに智哉は、上手いものだ、とか、問題ないよ、とか口にした。
そのうち、智哉は思いがけず由加里が熱心なのに呆れて、
「お前、何か自分の方が愉しんでないか?」
と訊ねてみた。すると、
「嫌々されるよりはいいでしょ」
という返事があっさり返ってきた。
その言葉通り、充分に自分が愉しんだと思われる末にやっとのことで智哉は射精に導かれた。口の中に放たれた精液を抵抗なく呑み込む由加里を見て、この取引で得したのは果たしてどちらだったのか、とふと智哉は疑問に思った。
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