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番外編 再会の予兆
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俺には、幼馴染がいた。
彼女は、日本に来た俺を初めて受け入れてくれた人だった。
俺は、彼女の前では、猫を被る。平然とした顔で嘘をつき、彼女にとって俺は、かけがえのない絆で結ばれている最良の人であると思わせたかった。
彼女の横に誰かが立つことも許したくはない。否、許さなかった。
どんな手を使ってでも、彼女に害のある人間は、排除した。
例え、それが罪であるとしても。
世間的に俺の言葉を聞けば、重い愛、だと受け取るだろう。
別に俺の愛は最初から重かったわけではない。
最初は、彼女のしっかりした性格に垣間見える危なっかしい部分を補うためだった。それが、少しずつ絶対的な使命感、やがては、彼女を支配したい欲に変わっていった。
そんな自覚の上に成り立った関係が、俺と彼女。つまりは、庵原凛太朗と水瀬天音だった。
出会ってから約6年間培ったこの関係の終わりは、あまりに儚く、残酷で、俺は、自暴自棄になった。
いつ死んでもいい、そんな思いで日々を過ごした。
「おい、新しい店立ち上げるから、補充の女探せ。」
乃木にそう命令されると、瞬時に頭に血が上る。
自分で探せ、暇じゃねぇんだぞ、こっちは。
内心、そう思うが口には出さない。が、態度には出す。
はぁ、と盛大にため息をつき、うんともすんとも言わず、事務所を出る。
こんな態度をとった当初、乃木と相当言い争いをしたが、今となっては、乃木はこれを肯定の合図ととらえ、何も言わなくなった。見ている周りは、かなり冷やりとするそうだが。
乃木は、一応は、先輩だ。荒々しい性格故にか、必然的に利益を上げてくる。態度だけが達者なわけではなく、頭も切れる。いろんな意味で。
その点のみを見て、俺は、ある程度この男に従うことを決めた。
事務所から出て、繁華街へ移動中、複数のクラブのマネージャーに連絡を入れる。めぼしい人を新店舗に移動させ、元からある店に街でスカウトした女の子を入れるためだ。
街に繰り出し、行き交う人々の中に身を潜める。
大体の場合、俺は、一人で歩ている女性に声を掛ける。断られるのを承知で、控えめにいけば、意外と話に乗ってくれることも多い。稀だが、電柱に寄りかかり、誰かを待っている風にスマートフォンに触れていれば、あちらから声を掛けてくる場合もある。
これも時と場合に寄るが、どうしても逃したくない相手がいれば、しつこいほどに声をかけ、身を売ってでも店に引き入れた。ここまですると後々、面倒になることもあるが、後の処理は、店の担当者に丸投げした。
いつも決まって女性を探す橋の上まで来ると、欄干部に腰を預ける。人通りは、そこそこだった。人間観察に没頭し始めてすぐ、スマートフォンから着信を知らせる音が鳴る。ポケットに入っているスマートフォンを取り出し、そっと画面を見ると、“昴”と表示されていた。億劫になりながらも、通話ボタンを押し、何も言わず、相手からの言葉を待つ。
『なぁ、今マネージャーから連絡あったんだけど、どういうことか説明しろよ』
どうやら乃木は、昴に説明はしていなかったらしい。どういう経緯で乃木がそんなことを言い始めたのかはわからないが、上からの命であることは明らかだ。基本的に昴は、クラブなどを総括している。俺は、その点、昴の助手程度のものだ。俺の本務は、また別なのだ。
「あぁ、乃木が新しい店立ち上げるって」
『俺、聞いてねぇけど』
「俺もさっき聞いたとこ。んで、俺に女集めろって。」
『お前が集めんのはいつものことだろ。顔が恵まれてんだ。我慢しろ』
「はぁ。まじさみぃ。12月の寒空の下なんてありえねぇ。」
『もうすぐクリスマスだろ。金欲しさに女集まるって。それかお前目当てか』
「……後者はいらねぇよ」
『いい加減……あ、今度、買い物付き合え。バッグが欲しいんだと』
「あぁ。何でそんなお前の私情に……」
『いろいろあんだよ。じゃ、よろしくな』
そう言いブツリと電話が切られる。勢いよく電話をかけてきた割には、最後、全く関係のない雑談までするあたり彼らしいと感じた。昔からそうだ。まともな怒り方しかしない。昴がなぜこんな腐った組織に身を埋めているのか。それは、俺が狂いすぎて真っ当な判断ができないのか、それとも、ごく一般的にみると、昴も同じくらい狂っているのか見当をつけることはできない。
昴が最後、誤魔化したつもりだろうが、俺にはわかる。彼は、俺に『いい加減に忘れろ』と言いたかったのだ。そんな言葉が出る昴にも同じ言葉を返してやりたい。俺が焦がれている相手のことは、仕事中は考えないようにしている。事務的に淡々と。そして、仕事を終え、帰路につく。
同じ毎日の繰り返し。否、刺激はそれなりにある。それは決して良い意味ではない。苦しくて、辛い、もがいても抜け出せない。底なし沼。もうこの世とさよならするか、そう思い始め、そして、あと一歩のところで、夢を見る。
それはとんでもなく幸せな、あまりにも短い夢だ。
玄関のドアを開けると、パタパタと早足で駆け寄る彼女がリビングから現れる。彼女は、微笑み、俺を出迎える。そして、彼女が両手を伸ばし、俺を抱きしめようとした瞬間、一気に現実に引き戻される。
目覚めたベッドの上で、夢であったと自覚する。寂しさと再会できた嬉しさに包まれる。このちぐはぐな感情は俺にとって一種の幸福であると認識している。
だから、絶ってしまう踏ん切りがつかず、ずるずると何年も生きながらえたのだ。
この夢は、俺と彼女を再会させるために仕組まれた、神の気まぐれだったと今では思う。
彼女に出会わなければ、俺は、とうの昔に死んでいた。
俺の想い人が彼女で、そして、彼女もまた俺を一縷でも想っていたからこそ、俺は、再び彼女と再会し、そして、結ばれたのだ。
メルヘンチックで馬鹿らしいが、この理由以外は考えられないのが現実だ。
彼女は、日本に来た俺を初めて受け入れてくれた人だった。
俺は、彼女の前では、猫を被る。平然とした顔で嘘をつき、彼女にとって俺は、かけがえのない絆で結ばれている最良の人であると思わせたかった。
彼女の横に誰かが立つことも許したくはない。否、許さなかった。
どんな手を使ってでも、彼女に害のある人間は、排除した。
例え、それが罪であるとしても。
世間的に俺の言葉を聞けば、重い愛、だと受け取るだろう。
別に俺の愛は最初から重かったわけではない。
最初は、彼女のしっかりした性格に垣間見える危なっかしい部分を補うためだった。それが、少しずつ絶対的な使命感、やがては、彼女を支配したい欲に変わっていった。
そんな自覚の上に成り立った関係が、俺と彼女。つまりは、庵原凛太朗と水瀬天音だった。
出会ってから約6年間培ったこの関係の終わりは、あまりに儚く、残酷で、俺は、自暴自棄になった。
いつ死んでもいい、そんな思いで日々を過ごした。
「おい、新しい店立ち上げるから、補充の女探せ。」
乃木にそう命令されると、瞬時に頭に血が上る。
自分で探せ、暇じゃねぇんだぞ、こっちは。
内心、そう思うが口には出さない。が、態度には出す。
はぁ、と盛大にため息をつき、うんともすんとも言わず、事務所を出る。
こんな態度をとった当初、乃木と相当言い争いをしたが、今となっては、乃木はこれを肯定の合図ととらえ、何も言わなくなった。見ている周りは、かなり冷やりとするそうだが。
乃木は、一応は、先輩だ。荒々しい性格故にか、必然的に利益を上げてくる。態度だけが達者なわけではなく、頭も切れる。いろんな意味で。
その点のみを見て、俺は、ある程度この男に従うことを決めた。
事務所から出て、繁華街へ移動中、複数のクラブのマネージャーに連絡を入れる。めぼしい人を新店舗に移動させ、元からある店に街でスカウトした女の子を入れるためだ。
街に繰り出し、行き交う人々の中に身を潜める。
大体の場合、俺は、一人で歩ている女性に声を掛ける。断られるのを承知で、控えめにいけば、意外と話に乗ってくれることも多い。稀だが、電柱に寄りかかり、誰かを待っている風にスマートフォンに触れていれば、あちらから声を掛けてくる場合もある。
これも時と場合に寄るが、どうしても逃したくない相手がいれば、しつこいほどに声をかけ、身を売ってでも店に引き入れた。ここまですると後々、面倒になることもあるが、後の処理は、店の担当者に丸投げした。
いつも決まって女性を探す橋の上まで来ると、欄干部に腰を預ける。人通りは、そこそこだった。人間観察に没頭し始めてすぐ、スマートフォンから着信を知らせる音が鳴る。ポケットに入っているスマートフォンを取り出し、そっと画面を見ると、“昴”と表示されていた。億劫になりながらも、通話ボタンを押し、何も言わず、相手からの言葉を待つ。
『なぁ、今マネージャーから連絡あったんだけど、どういうことか説明しろよ』
どうやら乃木は、昴に説明はしていなかったらしい。どういう経緯で乃木がそんなことを言い始めたのかはわからないが、上からの命であることは明らかだ。基本的に昴は、クラブなどを総括している。俺は、その点、昴の助手程度のものだ。俺の本務は、また別なのだ。
「あぁ、乃木が新しい店立ち上げるって」
『俺、聞いてねぇけど』
「俺もさっき聞いたとこ。んで、俺に女集めろって。」
『お前が集めんのはいつものことだろ。顔が恵まれてんだ。我慢しろ』
「はぁ。まじさみぃ。12月の寒空の下なんてありえねぇ。」
『もうすぐクリスマスだろ。金欲しさに女集まるって。それかお前目当てか』
「……後者はいらねぇよ」
『いい加減……あ、今度、買い物付き合え。バッグが欲しいんだと』
「あぁ。何でそんなお前の私情に……」
『いろいろあんだよ。じゃ、よろしくな』
そう言いブツリと電話が切られる。勢いよく電話をかけてきた割には、最後、全く関係のない雑談までするあたり彼らしいと感じた。昔からそうだ。まともな怒り方しかしない。昴がなぜこんな腐った組織に身を埋めているのか。それは、俺が狂いすぎて真っ当な判断ができないのか、それとも、ごく一般的にみると、昴も同じくらい狂っているのか見当をつけることはできない。
昴が最後、誤魔化したつもりだろうが、俺にはわかる。彼は、俺に『いい加減に忘れろ』と言いたかったのだ。そんな言葉が出る昴にも同じ言葉を返してやりたい。俺が焦がれている相手のことは、仕事中は考えないようにしている。事務的に淡々と。そして、仕事を終え、帰路につく。
同じ毎日の繰り返し。否、刺激はそれなりにある。それは決して良い意味ではない。苦しくて、辛い、もがいても抜け出せない。底なし沼。もうこの世とさよならするか、そう思い始め、そして、あと一歩のところで、夢を見る。
それはとんでもなく幸せな、あまりにも短い夢だ。
玄関のドアを開けると、パタパタと早足で駆け寄る彼女がリビングから現れる。彼女は、微笑み、俺を出迎える。そして、彼女が両手を伸ばし、俺を抱きしめようとした瞬間、一気に現実に引き戻される。
目覚めたベッドの上で、夢であったと自覚する。寂しさと再会できた嬉しさに包まれる。このちぐはぐな感情は俺にとって一種の幸福であると認識している。
だから、絶ってしまう踏ん切りがつかず、ずるずると何年も生きながらえたのだ。
この夢は、俺と彼女を再会させるために仕組まれた、神の気まぐれだったと今では思う。
彼女に出会わなければ、俺は、とうの昔に死んでいた。
俺の想い人が彼女で、そして、彼女もまた俺を一縷でも想っていたからこそ、俺は、再び彼女と再会し、そして、結ばれたのだ。
メルヘンチックで馬鹿らしいが、この理由以外は考えられないのが現実だ。
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