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白いポピーに包まれて9 sideS
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天音の通う高校は、わりと有名な進学校だった。
時折、天音は、昴や翼に留学のことを話していた。今年は何人行った、留学先の選択肢が増えたなど、彼女からは世間話程度の得られる情報しかなかったが、昴は、天音をどこかへ行かせる方法はこれしかない、と咄嗟に思った。
しかし、彼女を直接的に説得するのは至難の業だった。なぜなら、彼女には幼馴染の凛太郎がいたからだ。考えた結果、昴は天音の高校の担任教師に連絡をした。留学や転校などの話は早い方がいい、彼女の両親には先に話すべきだったかもしれが、そうすれば余計に時間がかかるし、説明も複雑になる。そう思ったからこその行動でもあった。
昴が天音の担任教師と会うことになったのは、まだ天音が授業中の昼間のことだった。事前に連絡をしていたからか、校舎の入り口付近にある事務室に声をかけると、すぐに応接室に通された。
授業の時間を考えて訪れたので、校内で生徒に会うことがなかったので、内心ほっとした。
昴は天音の友人と面識はなくとも、どこで誰が何を知っているかわからないからだ。
応接室に通されてすぐ天音の担任教師がやってきた。中年の痩せ型の男だった。
「お待たせして申し訳ありません。天音さんの担任をさせていただいています。高杉です。」
物腰の柔らかい話し方が、自然と相手を惹きつけるようだった。
「すみません、突然来て。」
「いえいえ、電話では、留学についてということでしたが、どうして急に。」
「あまり詳しいことは言えないですが、率直に言うと、天音……水瀬天音を日本からしばらく出したいんです。できればスイスがいいのですが。」
「それは、ご両親のいる、ですよね。理由は、聞けないと。水瀬さんのご両親は、それに賛成なのですか?」
「いいえ、留学については一切話していません。ただ、それも言えない理由があるんです。学校から天音に留学の話を持ちかけてもらうことはできませんか?」
「あくまで留学は個人の希望でして……」
「お願いします。俺は、天音を守れません。天音を守る方法は、ここから出す方法しかないんです。」
深く頭を下げる。昴には、天音を説得することはできない。彼女を見るときっとここに残そうと、情が湧いてしまうのがわかりきっていたからだ。何とかなる、そういう気持ちがきっと再び災いを引き寄せてしまうような気がしてならない。
「ただならぬ事情があるんですね。でも、守るとは行っても、彼女はそれで納得するのですか?あなたと一緒にいることを望まれているのでは?そして、天音さんには庵原くんという、大切な学友もいますが。」
高杉の言うことは、昴も充分に理解できる。だからこその決断だった。
「納得しないだろうし、彼女はきっと日本にいたいはずです。凛太郎とも引き離す形になります。でも、仕方ないんです。お願いします。」
「水瀬さんも辛い思いをしますが、きっと周りの人ももちろんあなたも同じような思いを抱えることになります。それでも。」
「覚悟は決めました。きっといつか後悔する時が来るかもしれません。けれど今の俺にはこれが最善の策なんです。」
昴は、この選択が不幸をもたらす可能性があることはわかってはいたが、それ以外の選択肢を与えてくれるであろう、助けになりうる人間は周りにいなかった。
こんな時に翼がいれば、昴はそんなことばかり考え、自己嫌悪に陥った。
結局、何か困ったことがあれば兄に頼ってしまうのだと、こんなにも自分は頼りない人間だったのかと途端に辛くなる。
「わかりました。少し上にかけ合ってみます。どうなるかは、わかりません。何かあれば連絡しますし、水瀬さんからあなたに伝わるかもしれません。教師である以上、生徒に辛い思いはさせたくはありません。しかし、あなたの様子を見れば、今の段階では、彼女の留学が最善なのでしょう。私からは何がいいなど、詳しく知らない限り言えません。今後、もし危機から彼女を回避させることができたのならば、その時は彼女にこのことを話してあげてください。きっとお互いにそれが今後の最善策になりうると思います、私の経験上。」
高杉は、他人の事象に干渉しすぎない大人だった。教師である仕事柄どうにか最善策を考えようと、詳細を聞き出そうとするのではないかと昴は内心ヒヤヒヤしていた。
しかし、話してみると高杉は、昴が考えていることや天音の危機については、深くは追求しようとしなかった。
ただただ昴の話を静かに聞き、ある程度は、質問をし、力になろうとしてくれた。
時折、天音は、昴や翼に留学のことを話していた。今年は何人行った、留学先の選択肢が増えたなど、彼女からは世間話程度の得られる情報しかなかったが、昴は、天音をどこかへ行かせる方法はこれしかない、と咄嗟に思った。
しかし、彼女を直接的に説得するのは至難の業だった。なぜなら、彼女には幼馴染の凛太郎がいたからだ。考えた結果、昴は天音の高校の担任教師に連絡をした。留学や転校などの話は早い方がいい、彼女の両親には先に話すべきだったかもしれが、そうすれば余計に時間がかかるし、説明も複雑になる。そう思ったからこその行動でもあった。
昴が天音の担任教師と会うことになったのは、まだ天音が授業中の昼間のことだった。事前に連絡をしていたからか、校舎の入り口付近にある事務室に声をかけると、すぐに応接室に通された。
授業の時間を考えて訪れたので、校内で生徒に会うことがなかったので、内心ほっとした。
昴は天音の友人と面識はなくとも、どこで誰が何を知っているかわからないからだ。
応接室に通されてすぐ天音の担任教師がやってきた。中年の痩せ型の男だった。
「お待たせして申し訳ありません。天音さんの担任をさせていただいています。高杉です。」
物腰の柔らかい話し方が、自然と相手を惹きつけるようだった。
「すみません、突然来て。」
「いえいえ、電話では、留学についてということでしたが、どうして急に。」
「あまり詳しいことは言えないですが、率直に言うと、天音……水瀬天音を日本からしばらく出したいんです。できればスイスがいいのですが。」
「それは、ご両親のいる、ですよね。理由は、聞けないと。水瀬さんのご両親は、それに賛成なのですか?」
「いいえ、留学については一切話していません。ただ、それも言えない理由があるんです。学校から天音に留学の話を持ちかけてもらうことはできませんか?」
「あくまで留学は個人の希望でして……」
「お願いします。俺は、天音を守れません。天音を守る方法は、ここから出す方法しかないんです。」
深く頭を下げる。昴には、天音を説得することはできない。彼女を見るときっとここに残そうと、情が湧いてしまうのがわかりきっていたからだ。何とかなる、そういう気持ちがきっと再び災いを引き寄せてしまうような気がしてならない。
「ただならぬ事情があるんですね。でも、守るとは行っても、彼女はそれで納得するのですか?あなたと一緒にいることを望まれているのでは?そして、天音さんには庵原くんという、大切な学友もいますが。」
高杉の言うことは、昴も充分に理解できる。だからこその決断だった。
「納得しないだろうし、彼女はきっと日本にいたいはずです。凛太郎とも引き離す形になります。でも、仕方ないんです。お願いします。」
「水瀬さんも辛い思いをしますが、きっと周りの人ももちろんあなたも同じような思いを抱えることになります。それでも。」
「覚悟は決めました。きっといつか後悔する時が来るかもしれません。けれど今の俺にはこれが最善の策なんです。」
昴は、この選択が不幸をもたらす可能性があることはわかってはいたが、それ以外の選択肢を与えてくれるであろう、助けになりうる人間は周りにいなかった。
こんな時に翼がいれば、昴はそんなことばかり考え、自己嫌悪に陥った。
結局、何か困ったことがあれば兄に頼ってしまうのだと、こんなにも自分は頼りない人間だったのかと途端に辛くなる。
「わかりました。少し上にかけ合ってみます。どうなるかは、わかりません。何かあれば連絡しますし、水瀬さんからあなたに伝わるかもしれません。教師である以上、生徒に辛い思いはさせたくはありません。しかし、あなたの様子を見れば、今の段階では、彼女の留学が最善なのでしょう。私からは何がいいなど、詳しく知らない限り言えません。今後、もし危機から彼女を回避させることができたのならば、その時は彼女にこのことを話してあげてください。きっとお互いにそれが今後の最善策になりうると思います、私の経験上。」
高杉は、他人の事象に干渉しすぎない大人だった。教師である仕事柄どうにか最善策を考えようと、詳細を聞き出そうとするのではないかと昴は内心ヒヤヒヤしていた。
しかし、話してみると高杉は、昴が考えていることや天音の危機については、深くは追求しようとしなかった。
ただただ昴の話を静かに聞き、ある程度は、質問をし、力になろうとしてくれた。
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