28 / 51
運命の悪戯12
しおりを挟む
天音は、凛太朗と公園に行った翌日、授業と授業の合間の休み時間に職員室へと足を運んだ。担任教師は、自身の机でパソコンを操作しており、天音が来たことには気付いてはいなかった。
職員室に入室する際は、必ずクラスと名前を名乗らなければならないというルールがあった。それは、職員室は個人情報やテストなどの情報に溢れているためでもあるからだ。天音は、扉を開け、担任教師に向かって、クラスと名前を名乗った。すると、担任教師は顔を上げ、天音の存在に気付くと、慌てて駆け寄ってくる。
「水瀬さん、いつかいつかと待っていたよ。ここで立ち話も何だから、進路指導室へ行きましょう。」
そう言い、職員室の隣にある進路指導室へと移動することとなった。
「どうですか。水瀬さん。」
担任は、天音の答えを知っているかの声色で聞く。
「行きます。スイス。両親も賛成でした。……ただ、不安なことがあって、庵原君のことなんですけど。」
「庵原君ですか。あなたととても仲の良い。」
「はい。私、中学生の頃、彼に志望校を聞かれて、ここにすると言ったら、彼もそうやって決めちゃったんです。なのに、私が、スイスに留学しちゃったら、すごく嫌な思いをするんじゃないのかって。」
「嫌な思い、ですか。どうでしょうか。ここに入学したきっかけがあなたであったとしても、入学はもちろん、その後の勉強もついていくのは、軽い気持ちでは到底できないでしょう。それなりの覚悟や目標も必要なはずです。庵原君は、それができている。水瀬さんのそういった心配は杞憂だと、僕自身は思います。」
「そうですよね。庵原君は、頭がいい。私がいなくても、大丈夫ですよね。出過ぎた真似、しちゃったかもしれません。」
「そんなことないですよ。人を想う気持ちは、すごく大切なことです。世の中には、そんな当たり前のことができずに、人を傷つけてしまう人もいるのですから。もうすぐ次の授業が始まってしまいますね。手続きは、しておきます。詳細が決まれば、また連絡します。留学時期は、夏休みが明けてすぐだと思っておいてください。夏休みは、日本での思い出を作っておいてくださいね。」
「ありがとうございます。」
そう言い、天音は、職員室を後にする。人生に影響をするような、大きな“決断”をしたことで、心が浮くような感覚に陥る。もし、断っていれば、こんな気持ちにならなかったのではないか、しかし、周りが行くことを薦める中で反発などできなかった。天音に残された問題は、凛太朗だ。彼には、はっきりと伝えられてはいない。誰よりも留学について伝えるのが難しい人物だった。天音のことを1番に想い、行動をしてくれる彼が、どう感じるのか。もしかすれば、1番に考えているならば、行くことを喜んでくれるのではないか、もしくは、裏切ったと非難されることとなるのか、どうなるのか今の天音には想像ができない、未知のことだった。
職員室に入室する際は、必ずクラスと名前を名乗らなければならないというルールがあった。それは、職員室は個人情報やテストなどの情報に溢れているためでもあるからだ。天音は、扉を開け、担任教師に向かって、クラスと名前を名乗った。すると、担任教師は顔を上げ、天音の存在に気付くと、慌てて駆け寄ってくる。
「水瀬さん、いつかいつかと待っていたよ。ここで立ち話も何だから、進路指導室へ行きましょう。」
そう言い、職員室の隣にある進路指導室へと移動することとなった。
「どうですか。水瀬さん。」
担任は、天音の答えを知っているかの声色で聞く。
「行きます。スイス。両親も賛成でした。……ただ、不安なことがあって、庵原君のことなんですけど。」
「庵原君ですか。あなたととても仲の良い。」
「はい。私、中学生の頃、彼に志望校を聞かれて、ここにすると言ったら、彼もそうやって決めちゃったんです。なのに、私が、スイスに留学しちゃったら、すごく嫌な思いをするんじゃないのかって。」
「嫌な思い、ですか。どうでしょうか。ここに入学したきっかけがあなたであったとしても、入学はもちろん、その後の勉強もついていくのは、軽い気持ちでは到底できないでしょう。それなりの覚悟や目標も必要なはずです。庵原君は、それができている。水瀬さんのそういった心配は杞憂だと、僕自身は思います。」
「そうですよね。庵原君は、頭がいい。私がいなくても、大丈夫ですよね。出過ぎた真似、しちゃったかもしれません。」
「そんなことないですよ。人を想う気持ちは、すごく大切なことです。世の中には、そんな当たり前のことができずに、人を傷つけてしまう人もいるのですから。もうすぐ次の授業が始まってしまいますね。手続きは、しておきます。詳細が決まれば、また連絡します。留学時期は、夏休みが明けてすぐだと思っておいてください。夏休みは、日本での思い出を作っておいてくださいね。」
「ありがとうございます。」
そう言い、天音は、職員室を後にする。人生に影響をするような、大きな“決断”をしたことで、心が浮くような感覚に陥る。もし、断っていれば、こんな気持ちにならなかったのではないか、しかし、周りが行くことを薦める中で反発などできなかった。天音に残された問題は、凛太朗だ。彼には、はっきりと伝えられてはいない。誰よりも留学について伝えるのが難しい人物だった。天音のことを1番に想い、行動をしてくれる彼が、どう感じるのか。もしかすれば、1番に考えているならば、行くことを喜んでくれるのではないか、もしくは、裏切ったと非難されることとなるのか、どうなるのか今の天音には想像ができない、未知のことだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
ユーズド・カー
ACE
恋愛
19歳の青年、海野勇太には特殊なフェチがあった。
ある日、ネット掲示板でErikaという女性と知り合い、彼女の車でドライブ旅に出かけることとなる。
刺激的な日々を過ごす一方で、一人の女性を前に様々な葛藤に溺れていく。
全てに失望していた彼が非日常を味わった先で得られたものとは…。
”普通の人生”に憧れてやまない青年と”普通の人生”に辟易する女性のひと夏の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる