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運命の悪戯3
しおりを挟む「おかえり。住み始めて3か月経ったけど、どうだ?」
天音が翼と一緒に買い物から帰り、荷物の片付け終えてリビングに入ると、テレビを見ていた昴に声を掛けられる。
「ただいま。慣れたかな。家族とテレビ電話する余裕もあるし、学校は楽しい。そう思えば私は、すごく幸せだよ。」
彼女の言うことは、本当だった。学校には、仲の良い凛太朗がいて、家に帰れば、家族代わりの翼や昴がいる。最初こそ、緊張していたが慣れてしまえば居心地は良かった。兄が2人増えた気分だった。
「すげぇな、お前。学校が楽しいとか、幸せとか、そんなこと口に出して言ったことねぇわ。いや、思ったこともねぇかもな。流石、お花畑のお嬢様だな。出来すぎじゃねぇのか。」
嫌味を交えながら昴は言うが、天音は全く気にしない。
「私も、多少は嫌なことはあったりするけど、取るに足らないことだし。お世辞じゃなく、私は、いろんな意味で恵まれてると思ってるよ。」
「ま、そうだな。翼と上手くいった時点で満点じゃね。」
昴は、天音と翼が仲良くなったことに驚いたのは本音だ。いくら一緒に住んでいたとしても、父親と翼のように他人以上に溝が開いている場合もある。2人が仲良くなったのは、天音が素直で、翼に寄り添おうとした結果だろうと、昴は感じていた。いつかこうなれば良いと思っていたことが、わずか数か月で叶ってしまった。もしかして、翼は天音に恋心を抱いていたからではないかと疑っているほどだ。
今まで、翼には浮いた話は聞いたことがなかったので、昴としては、実のところ興味津々だった。しかし、天音には庵原凛太朗という小学生から仲が良い同級生の男がいるのを以前、ちらりと天音本人に聞いたことがあった。その存在が昴の脳内にチラつく。翼は、凛太朗の存在を知っているのだろうか。傷が深くならないよう、早速伝えようと考えた。翼が再び天音に対し、心を閉ざしてしまわないように。
さりげなくリビングから出ていき、昴は、翼の部屋を訪ねる。部屋をノックすると、すぐに返事がした。部屋を開けると翼は机に向かい、大学の課題に取り組んでいたところだった。
「何。今、忙しいんだけど。」
そう言う翼は、昴が来たと気配で察したようだった。
「さっきまで天音と出かけてくせに、随分な言い方だな。」
「昴と違ってオンとオフを分けてるんだよ。」
課題に取り組んだ姿勢のまま翼は答える。
「……なぁ、翼。天音に彼氏みたいなのいるの知ってるか。」
翼は、手を止め、回転式の椅子に座った状態で、昴の方へ向く。瞬時に昴は、翼の心を動揺させたと感じた。
「……知ってるけど。庵原凛太朗だろ。帰国子女のお坊ちゃん。彼氏じゃないけど、おそらく、両片思いの。」
昴の想像に反して、翼はその存在を知っていた。
「翼、どうしてそんなことまで知ってんだよ。」
「悪い?天音が色々話してくれんだよ。そこに度々登場するんだよ。凜ちゃん凜ちゃんって。最初、親友の女の子
かと思ったけど、どうも違うんだよな。付き合わないのかって聞いたら、そんなこと考えたことないって。罪だよな。凜ちゃんが可哀想だよ。」
「……翼、ショックじゃないのか。」
「何で?ショックと言えば、そうだよ。凜ちゃんが哀れで。……もしかして、昴、天音のこと好きだった?」
考えていたことを先に翼に言われてしまったことで、逆に翼が動揺することになる。
「え、いや、俺は、そんな天音に執着する程、女に困ってねぇよ。」
「でも、昴の周りにはいないタイプでしょ。揺れる心があるのも理解できる。でも、凜ちゃんには、太刀打ちできないよ。一緒に過ごした時間が違うからね。付き合うのも時間の問題だと思う。」
結局、つらつらと言葉を並べる翼に、「違うって。」とだけ言い、部屋を後にする。昴の行動は、兄弟の心配のし過ぎという結果に終わることとなった。
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