16 / 51
過去への誘い3
しおりを挟む
食事をした後は、レストランのすぐ前にある砂浜を散歩した。流石に真冬に海に入ろうとは思えないが、波打ち際のすぐ近くで海をのぞき込む。
「絶対に転ぶなよ。こんな時期に濡れたら寒いぞ。」
「うん、わかってる。」
波の動きをまじまじと見つめながら、私が空返事をすると、昴は改めるかのように、咳払いをする。
「……天音、俺と凛太朗にあまり会わない方がいいと思う。」
「えっ、それってどういうこと。」
「言葉通りの意味だよ。いつか、きっとその皺寄せがくることもわかってる。俺も凛太朗も。……だから、天音、
お前は、俺らから離れた方がいい。凛太朗はどう思ってるか知らねぇが、俺は、少なくともそう思う。」
昴の突然の告白に、動揺を隠しきれなかった。彼が、言っている意味が全然分からなかったが、彼の目を見つめると、真剣で、悲しそうな表情をしていた。
「……だから、メールアドレスを変えたんだ。私、日本に帰る前に二人に連絡しようとしたの。」
「“捨てた”んだ。色んな奴に迷惑かかるしな。もし、お前と繋がってたら、連絡するかもしんねぇし。お前の生活を壊したくねぇ。」
「凛太朗も昴も、私が日本に居る時に、ちゃんとけじめ付けれなかったからこうなったんだよね。もっと私がしっかりしていたら翼も居なくならなかったのに。……私ってみんなを狂わせてばっかりだね。」
思っていることを口にすると、声が震えていくのがわかる。
「なるようになっていた、お前は関係ねぇよ。」
「わかんないじゃん。」
「ああ、わからない。お前が居れば、未来は変わっていたかもしれない。でも、もっと悪い未来が待っていたかもしれない。」
そう言う昴の言葉に返事をすることができなかった。もっと悪い未来、については考えてもいなかった。彼の告白がすでに悪い未来であると感じたからだ。それが、彼にとっては、良い未来で、私にとっては、悪い影響しか与えない悪い未来ということなのだろうか。
「再会した日、あの店で懐かしい音楽を聴いた。ノクターン。お前がずっとピアノで弾いていた曲。反射的に音がする方を見たんだよ、記憶って怖いよな。きっと他の音なら絶対に見なかったのに。そしたらさ、お前がいたんだよ。何年経っても見間違えるはずなかった。絶対に関わらないって決めたはずなのに、あの一瞬だけは、あの頃に戻っていた。話しかけてから後悔したよ。……でも、俺が動かなくても、きっと凛太朗は同じ行動をしたはずだ。」
昴は、辛そうに見えた。彼がこんなに顔を歪めているところは、彼の兄である翼が居なくなった時以来だ。
「私は、2人に会えて嬉しかった。心の準備はできてなかったけど、会ったら、嬉しさが勝って、あの頃の複雑な気持ちなんて、小さな問題だったと思えた。今の2人がどうなっていようと私は受け止めるから、もう私の前から消えないでよ。……私から離れたのに、こんな言葉、都合が良すぎるよね。」
涙が頬を伝っていた。
「俺は……お前の幸せを1番に願っている。だから、俺らに関わる―――」
「私は、2人と向き合いたい。さっき昴も言ったでしょ。なるようになってた、お前は関係ないって。私も今、そう思った。私がどうなろうと、1番の幸せに2人は関係ないって。」
彼の言葉を遮る。聞きたくはなかった。家族の絆を切られるような気分だった。
「都合の良いように捉とらえるな。危険かもしれねぇんだぞ。」
私が素直にわかったと言わないからか、彼の口調が荒くなる。
「……高校生頃も充分危険だったよ。」
「っ、それとこれは……。」
高校生の頃、彼の知人によく絡まれたものだった。もちろん良い人ばかりじゃなく、中には私を陥れようとした者もいた。そういう思い当たる節が彼にはあったようで、たじろいでいた。
「……だからさ、凛太朗に会いに行こう。」
涙を拭い、決心する。2人で話していても仕方ない。私は、今から凛太朗に会って、過去を清算すると。砂浜を歩くと、足元は重くなるはずなのに、この時はどうしてか、軽く感じた。
「絶対に転ぶなよ。こんな時期に濡れたら寒いぞ。」
「うん、わかってる。」
波の動きをまじまじと見つめながら、私が空返事をすると、昴は改めるかのように、咳払いをする。
「……天音、俺と凛太朗にあまり会わない方がいいと思う。」
「えっ、それってどういうこと。」
「言葉通りの意味だよ。いつか、きっとその皺寄せがくることもわかってる。俺も凛太朗も。……だから、天音、
お前は、俺らから離れた方がいい。凛太朗はどう思ってるか知らねぇが、俺は、少なくともそう思う。」
昴の突然の告白に、動揺を隠しきれなかった。彼が、言っている意味が全然分からなかったが、彼の目を見つめると、真剣で、悲しそうな表情をしていた。
「……だから、メールアドレスを変えたんだ。私、日本に帰る前に二人に連絡しようとしたの。」
「“捨てた”んだ。色んな奴に迷惑かかるしな。もし、お前と繋がってたら、連絡するかもしんねぇし。お前の生活を壊したくねぇ。」
「凛太朗も昴も、私が日本に居る時に、ちゃんとけじめ付けれなかったからこうなったんだよね。もっと私がしっかりしていたら翼も居なくならなかったのに。……私ってみんなを狂わせてばっかりだね。」
思っていることを口にすると、声が震えていくのがわかる。
「なるようになっていた、お前は関係ねぇよ。」
「わかんないじゃん。」
「ああ、わからない。お前が居れば、未来は変わっていたかもしれない。でも、もっと悪い未来が待っていたかもしれない。」
そう言う昴の言葉に返事をすることができなかった。もっと悪い未来、については考えてもいなかった。彼の告白がすでに悪い未来であると感じたからだ。それが、彼にとっては、良い未来で、私にとっては、悪い影響しか与えない悪い未来ということなのだろうか。
「再会した日、あの店で懐かしい音楽を聴いた。ノクターン。お前がずっとピアノで弾いていた曲。反射的に音がする方を見たんだよ、記憶って怖いよな。きっと他の音なら絶対に見なかったのに。そしたらさ、お前がいたんだよ。何年経っても見間違えるはずなかった。絶対に関わらないって決めたはずなのに、あの一瞬だけは、あの頃に戻っていた。話しかけてから後悔したよ。……でも、俺が動かなくても、きっと凛太朗は同じ行動をしたはずだ。」
昴は、辛そうに見えた。彼がこんなに顔を歪めているところは、彼の兄である翼が居なくなった時以来だ。
「私は、2人に会えて嬉しかった。心の準備はできてなかったけど、会ったら、嬉しさが勝って、あの頃の複雑な気持ちなんて、小さな問題だったと思えた。今の2人がどうなっていようと私は受け止めるから、もう私の前から消えないでよ。……私から離れたのに、こんな言葉、都合が良すぎるよね。」
涙が頬を伝っていた。
「俺は……お前の幸せを1番に願っている。だから、俺らに関わる―――」
「私は、2人と向き合いたい。さっき昴も言ったでしょ。なるようになってた、お前は関係ないって。私も今、そう思った。私がどうなろうと、1番の幸せに2人は関係ないって。」
彼の言葉を遮る。聞きたくはなかった。家族の絆を切られるような気分だった。
「都合の良いように捉とらえるな。危険かもしれねぇんだぞ。」
私が素直にわかったと言わないからか、彼の口調が荒くなる。
「……高校生頃も充分危険だったよ。」
「っ、それとこれは……。」
高校生の頃、彼の知人によく絡まれたものだった。もちろん良い人ばかりじゃなく、中には私を陥れようとした者もいた。そういう思い当たる節が彼にはあったようで、たじろいでいた。
「……だからさ、凛太朗に会いに行こう。」
涙を拭い、決心する。2人で話していても仕方ない。私は、今から凛太朗に会って、過去を清算すると。砂浜を歩くと、足元は重くなるはずなのに、この時はどうしてか、軽く感じた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。
恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。
副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。
なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。
しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!?
それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。
果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!?
*この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
*不定期更新になることがあります。

ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした
瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。
家も取り押さえられ、帰る場所もない。
まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。
…そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。
ヤクザの若頭でした。
*この話はフィクションです
現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます
ツッコミたくてイラつく人はお帰りください
またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*

女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる