56 / 57
第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット
31.三文芝居に最大限の魅了を添えて(side イライアス)
しおりを挟む
「待って! 早まらないで!! 流石にそれはマズイ!!!」
どうやらボク以上に奇想天外で突飛な行動を得意とするシュゼットは、チェスターに代わり、ボクのピンチをその武力でもって颯爽と救ってくれるつもりらしい。
ボクは果報者で、二人の友情には大変胸が熱いが、そんなことより。
荒事とは無縁そうに見えるリュシアンが、騎士として訓練を受けて来たシュゼットの渾身の突きを不意打ちで喰らったら死ぬんじゃないだろうか??
クリストファーとブライアンと三人、隣国の王配を殺してしまったかと本気で焦ったその瞬間。
リュシアンが間一髪、猫の様にぴょんと飛び上がってそれを上手い事避けてくれたから、安堵感から思わず腰が抜けかけた。
ほっとしたのも束の間。
シュゼットが今度は蹴りを放とうとしたから。
流石にこれ以上はダメだと思って、ボクは滑り込むかのようにズサッ!!! と勢い良くその場に膝を突いた。
******
叔父が姿を消し、幕引きとなった後――
さて、ここからどんな言い逃れをしようかなと思った時だ。
今更ながらシュゼットが纏うそのドレスが、ボクが送った赤いものでない事に気づいた。
おそらく、アクセサリーや靴を含め全てリュシアンが用立てたものなのだろう。
どれもこれも、大変よくシュゼットが似合っているところがまた、酷く癪に障る。
本性を隠す事を止めた今、誰かに取られるようなヘマはもうしないけれど。
やっぱり一刻も早く、皆にシュゼットはボクのものだと、皆に知らしめた方が良いな、と。
そんなリュシアンとは全然関係ない事を思った時だ。
一石二鳥の良いアイディアを思いついた。
「ボクと結婚してください」
跪いたまま、誰もが見とれた王子様の仮面をもう一度綺麗に被り、シュゼットに向かいそう言えば。
ボクの考えに気づいたクリストファーとブライアンが、慌てるシュゼットを置き去りに
「ご婚約おめでとうございます」
と、実に適当な拍手をした。
「シュゼット、お願いだ。君を一生大切にするとこの国に、そしてリュシアンに誓うから。だからどうか『はい』と言ってほしい」
シュゼットの手を一見甘く。
しかし、振り解かれる事の無いよう、彼女が先ほど痛がっていた所をそっと包み込むようにして握れば。
勝手に証人にされ実に嫌そうに顔を顰めるリュシアンに気づかず、そしてボクの腹黒さにまで気の回らないのであろうシュゼットが。
恥ずかし気に頬を真っ赤に染め、フイと目を逸らしたまま、繋いだのとは反対の手の甲で自らのその小さな口を押えた。
「どうして『はい』と言ってくれないの?」
ダメ押しとばかりに立ち上がり、その頬に触れるフリをしながらその細い身体をしっかりボクの腕の中に囲い込めば。
「だって、だってイライアス様を嫌いでいないといけないのに…‥。それなのに結婚だなんて。そんな器用な事、私に出来る筈がありません!!」
シュゼットがそんな思いも掛けなかったことを言うものだから……。
甘く甘く騙して早々にシュゼットの言質を取ってしまおうと、そう思っていたのに。
「僕を嫌いでいないといけない?? ……あぁ、君の従兄に何か言われたの? だったら心配ないよ。あんな奴、僕が何とでも……」
思わず、地を這うような低い声が出た。
「ち、違います! 『ずっとボクの事を嫌いなままでいてね』そうおっしゃったのはイライアス様じゃないですか!!」
酷く慌てながら返された、シュゼットのそんな言葉に一気に毒気を抜かれる。
ボクにも分かってしまうくらい、ボクの事を好だと思ってくれていたくせに。
ボクが好きだから、そんなただのボクの軽口を真剣に守ろうとしてくれていたのだなと思えば、突如また、嬉しさとシュゼットへの愛しさが止められなくなる。
「あぁ、そうだったね。頑張ってボクの事を嫌いでいてくれてありがとう」
改めて深く息を吸う。
そうして。
シュゼットの細い指に自らの節だった指を絡めるようにして、彼女の手をしっかり握り、決意を込めた真剣な目で
「でももう大丈夫。誰もがボクを好きなこの国で。歪んだ皆を愛しているボクは、ボクだけを愛せないできたのだけれど……。でも、ボクはこの力をも愛して、もっと上手に使いこなす事に決めたから。だから、もうシュゼットが嫌ってくれなくても大丈夫」
そう言って、口元をこれまでになく優しく優美に微笑ませれば……。
顔を真っ赤にし思わず俯いたシュゼットにバレないような位置で、クリストファーとブライアンが真摯どころか、シュゼットを上手く絡めとるための打算丸出しのボクの三文芝居を鼻で嗤うのが見えた。
どうやらボク以上に奇想天外で突飛な行動を得意とするシュゼットは、チェスターに代わり、ボクのピンチをその武力でもって颯爽と救ってくれるつもりらしい。
ボクは果報者で、二人の友情には大変胸が熱いが、そんなことより。
荒事とは無縁そうに見えるリュシアンが、騎士として訓練を受けて来たシュゼットの渾身の突きを不意打ちで喰らったら死ぬんじゃないだろうか??
クリストファーとブライアンと三人、隣国の王配を殺してしまったかと本気で焦ったその瞬間。
リュシアンが間一髪、猫の様にぴょんと飛び上がってそれを上手い事避けてくれたから、安堵感から思わず腰が抜けかけた。
ほっとしたのも束の間。
シュゼットが今度は蹴りを放とうとしたから。
流石にこれ以上はダメだと思って、ボクは滑り込むかのようにズサッ!!! と勢い良くその場に膝を突いた。
******
叔父が姿を消し、幕引きとなった後――
さて、ここからどんな言い逃れをしようかなと思った時だ。
今更ながらシュゼットが纏うそのドレスが、ボクが送った赤いものでない事に気づいた。
おそらく、アクセサリーや靴を含め全てリュシアンが用立てたものなのだろう。
どれもこれも、大変よくシュゼットが似合っているところがまた、酷く癪に障る。
本性を隠す事を止めた今、誰かに取られるようなヘマはもうしないけれど。
やっぱり一刻も早く、皆にシュゼットはボクのものだと、皆に知らしめた方が良いな、と。
そんなリュシアンとは全然関係ない事を思った時だ。
一石二鳥の良いアイディアを思いついた。
「ボクと結婚してください」
跪いたまま、誰もが見とれた王子様の仮面をもう一度綺麗に被り、シュゼットに向かいそう言えば。
ボクの考えに気づいたクリストファーとブライアンが、慌てるシュゼットを置き去りに
「ご婚約おめでとうございます」
と、実に適当な拍手をした。
「シュゼット、お願いだ。君を一生大切にするとこの国に、そしてリュシアンに誓うから。だからどうか『はい』と言ってほしい」
シュゼットの手を一見甘く。
しかし、振り解かれる事の無いよう、彼女が先ほど痛がっていた所をそっと包み込むようにして握れば。
勝手に証人にされ実に嫌そうに顔を顰めるリュシアンに気づかず、そしてボクの腹黒さにまで気の回らないのであろうシュゼットが。
恥ずかし気に頬を真っ赤に染め、フイと目を逸らしたまま、繋いだのとは反対の手の甲で自らのその小さな口を押えた。
「どうして『はい』と言ってくれないの?」
ダメ押しとばかりに立ち上がり、その頬に触れるフリをしながらその細い身体をしっかりボクの腕の中に囲い込めば。
「だって、だってイライアス様を嫌いでいないといけないのに…‥。それなのに結婚だなんて。そんな器用な事、私に出来る筈がありません!!」
シュゼットがそんな思いも掛けなかったことを言うものだから……。
甘く甘く騙して早々にシュゼットの言質を取ってしまおうと、そう思っていたのに。
「僕を嫌いでいないといけない?? ……あぁ、君の従兄に何か言われたの? だったら心配ないよ。あんな奴、僕が何とでも……」
思わず、地を這うような低い声が出た。
「ち、違います! 『ずっとボクの事を嫌いなままでいてね』そうおっしゃったのはイライアス様じゃないですか!!」
酷く慌てながら返された、シュゼットのそんな言葉に一気に毒気を抜かれる。
ボクにも分かってしまうくらい、ボクの事を好だと思ってくれていたくせに。
ボクが好きだから、そんなただのボクの軽口を真剣に守ろうとしてくれていたのだなと思えば、突如また、嬉しさとシュゼットへの愛しさが止められなくなる。
「あぁ、そうだったね。頑張ってボクの事を嫌いでいてくれてありがとう」
改めて深く息を吸う。
そうして。
シュゼットの細い指に自らの節だった指を絡めるようにして、彼女の手をしっかり握り、決意を込めた真剣な目で
「でももう大丈夫。誰もがボクを好きなこの国で。歪んだ皆を愛しているボクは、ボクだけを愛せないできたのだけれど……。でも、ボクはこの力をも愛して、もっと上手に使いこなす事に決めたから。だから、もうシュゼットが嫌ってくれなくても大丈夫」
そう言って、口元をこれまでになく優しく優美に微笑ませれば……。
顔を真っ赤にし思わず俯いたシュゼットにバレないような位置で、クリストファーとブライアンが真摯どころか、シュゼットを上手く絡めとるための打算丸出しのボクの三文芝居を鼻で嗤うのが見えた。
20
お気に入りに追加
1,116
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
踏み台令嬢はへこたれない
IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる