53 / 57
第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット
28.初心(side イライアス)
しおりを挟む
「シュゼット、一緒に博物館に行こう!」
ノックもせず、身支度の済んでいないシュゼットの部屋のドアをバァアン! と大きく開け放ち、そう言えば。
シュゼットが実に呆れた様な目でボクを見た後で、ハァと実に面倒くさそうに溜息をついた。
「でも、今日はリュシアン様と狩りに行かれる予定だとおっしゃっていたでしょう? 博物館は逃げませんから、それはまたの機会に」
シュゼットの言う通り、博物館は逃げないけれど。
シュゼットはきっとボクがリュシアンと狩りに行っている間に逃げるだろう?
だから、わざわざ捕まえに来たのだけれど……。
自らそんなネタばらしをしてみすみす逃がす気は無かったから、黙って
『分かってないなぁ』
と首を横に振り。
逃がさない様、侍女に彼女の身支度の手伝いを頼み、衝立の後ろ、ドアの前で支度が整うのを待った。
******
久しぶりに蝶のコレクションを見た後――
シュゼットを母が大事にしている百合が咲き乱れる庭園に案内しようと、彼女に向け手を伸べた時だった。
酷く初心な少女の様そのものと言った様子で、シュゼットがボクの手を取る事を恥ずかしがったから。
そんな初心な様がどうしようもなく可愛く思えて、そんな彼女を甘やかしたくなったボクは、自ら走って百合の咲く花壇へ向かった。
花を無造作に手折っただけの花束を、彼女の目の前にパッと差し出し
「シュゼットにだけ、特別。とってもよく似合っているし、綺麗だよ」
考えなしに、そんな事を言った。
彼女の事を初心だなんて思いながら、幼い子供の頃と変わらない言い回しとプレゼントだなんて。
言ってしまったその後で、ボクもつくづく芸がないなと自分の言動を酷く恥ずかしく思った時だった。
「覚えていらしたんですか?」
不器用過ぎるボクのそんな態度に、失望するような様子も見せず。
またあの時と同じ様に、シュゼットが花が綻ぶように綺麗に笑ってくれたから。
ボクは先程のシュゼットの事を笑えないくらい、途端にこれまでスラスラ出ていた軽薄な言葉が、何一つ出て来なくなってしまって
「ボクがあの時、シュゼットは綺麗だってちゃんとみんなの前で言えばよかったんだ。……本当にごめん」
そんな。
学園に通うにはまだ早い、小さな子供の様な事を言うのがようやくになってしまった。
あぁ、どうしたらシュゼットとずっといられるだろう。
そう思ったときだ。
『だったら……だったら “夜に住んでる” 私の事も好きになってくれる??』
泣き出しそうな顔をしてボクに懸命に縋ろうとした幼かったシュゼットと、あの日ボクが言った
『キミが夜に住んでいるというなら、今度はボクが夜に会いに行く』
そんな約束を思い出した。
「そうだ! 明日一緒に花火を見に行こうよ!! 約束通り、ボクが夜に会いに行くよ」
あぁ、それがいいと笑うボクの言葉に、
「……はい」
喜んでくれると思ったのに、何故だろう。
シュゼットは微笑んで小さく頷いた後、何故か一瞬泣きそうな顔をした気がした。
******
あの日、彼女が落としていってしまった薔薇の代わりのつもりで、真っ赤なドレスを贈り約束の時間に彼女を迎えに行くも、もうそこに彼女の姿は無かった。
一瞬、彼女に懸想する彼女の従兄が彼女をどこかに隠してしまったのかと、酷く焦ったが。
聞けば彼女を一足先に連れ出したのはリュシアンらしい。
自他共に認める愛妻家であるリュシアンが、シュゼットに粉をかけるとも思えず。
『花火会場で待つ』
そう綺麗な字で書かれたリュシアンからのカードに、僕は首を捻った。
ノックもせず、身支度の済んでいないシュゼットの部屋のドアをバァアン! と大きく開け放ち、そう言えば。
シュゼットが実に呆れた様な目でボクを見た後で、ハァと実に面倒くさそうに溜息をついた。
「でも、今日はリュシアン様と狩りに行かれる予定だとおっしゃっていたでしょう? 博物館は逃げませんから、それはまたの機会に」
シュゼットの言う通り、博物館は逃げないけれど。
シュゼットはきっとボクがリュシアンと狩りに行っている間に逃げるだろう?
だから、わざわざ捕まえに来たのだけれど……。
自らそんなネタばらしをしてみすみす逃がす気は無かったから、黙って
『分かってないなぁ』
と首を横に振り。
逃がさない様、侍女に彼女の身支度の手伝いを頼み、衝立の後ろ、ドアの前で支度が整うのを待った。
******
久しぶりに蝶のコレクションを見た後――
シュゼットを母が大事にしている百合が咲き乱れる庭園に案内しようと、彼女に向け手を伸べた時だった。
酷く初心な少女の様そのものと言った様子で、シュゼットがボクの手を取る事を恥ずかしがったから。
そんな初心な様がどうしようもなく可愛く思えて、そんな彼女を甘やかしたくなったボクは、自ら走って百合の咲く花壇へ向かった。
花を無造作に手折っただけの花束を、彼女の目の前にパッと差し出し
「シュゼットにだけ、特別。とってもよく似合っているし、綺麗だよ」
考えなしに、そんな事を言った。
彼女の事を初心だなんて思いながら、幼い子供の頃と変わらない言い回しとプレゼントだなんて。
言ってしまったその後で、ボクもつくづく芸がないなと自分の言動を酷く恥ずかしく思った時だった。
「覚えていらしたんですか?」
不器用過ぎるボクのそんな態度に、失望するような様子も見せず。
またあの時と同じ様に、シュゼットが花が綻ぶように綺麗に笑ってくれたから。
ボクは先程のシュゼットの事を笑えないくらい、途端にこれまでスラスラ出ていた軽薄な言葉が、何一つ出て来なくなってしまって
「ボクがあの時、シュゼットは綺麗だってちゃんとみんなの前で言えばよかったんだ。……本当にごめん」
そんな。
学園に通うにはまだ早い、小さな子供の様な事を言うのがようやくになってしまった。
あぁ、どうしたらシュゼットとずっといられるだろう。
そう思ったときだ。
『だったら……だったら “夜に住んでる” 私の事も好きになってくれる??』
泣き出しそうな顔をしてボクに懸命に縋ろうとした幼かったシュゼットと、あの日ボクが言った
『キミが夜に住んでいるというなら、今度はボクが夜に会いに行く』
そんな約束を思い出した。
「そうだ! 明日一緒に花火を見に行こうよ!! 約束通り、ボクが夜に会いに行くよ」
あぁ、それがいいと笑うボクの言葉に、
「……はい」
喜んでくれると思ったのに、何故だろう。
シュゼットは微笑んで小さく頷いた後、何故か一瞬泣きそうな顔をした気がした。
******
あの日、彼女が落としていってしまった薔薇の代わりのつもりで、真っ赤なドレスを贈り約束の時間に彼女を迎えに行くも、もうそこに彼女の姿は無かった。
一瞬、彼女に懸想する彼女の従兄が彼女をどこかに隠してしまったのかと、酷く焦ったが。
聞けば彼女を一足先に連れ出したのはリュシアンらしい。
自他共に認める愛妻家であるリュシアンが、シュゼットに粉をかけるとも思えず。
『花火会場で待つ』
そう綺麗な字で書かれたリュシアンからのカードに、僕は首を捻った。
17
お気に入りに追加
1,116
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
踏み台令嬢はへこたれない
IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる