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第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット
23.いつだって想定外(side シュゼット)
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「はい???」
想定外過ぎたイライアス様の言葉に、私の口から、そんな間の抜けた声が漏れました。
イライアス様……。
跪かれたのは人質となった私を助ける為、自らの負けを認めリュシアン様に謝罪をなさるのが目的とばかり思って、私がこんなにも胸がつぶれるような思いをしていたというのに。
あんなに思い切り良く、躊躇なく、あっさりと膝を折ってみせられたのは、元よりこんな言い逃れをされるおつもりだったからでしたか。
私と同じタイミングでイライアス様の機転に気づかれたクリストファー様とブライアン様が、ニヤリと実に人の悪い笑みを浮かべながら
「ご婚約、おめでとうございます」
と、酷くおざなりな拍手をされます。
まぁ、確かに私がイライアス様の求婚をお受けすれば一応ネザリアの体面は保てるので、これで一件落着……
いやいやいや??!
私がイライアス様と結婚!?
リュシアン様がお目こぼしくださるかどうか以前に、そんなの無理です!!
絶対にダメです!!!
頭ではそう弁えているハズなのですが……。
「シュゼット、お願いだ。君を一生大切にするとこの国に、そしてリュシアンに誓うから。だからどうか『はい』と言ってほしい」
イライアス様のその暖かな腕の中に抱き寄せられ、かつて少年だった時分の様に優しく、愛らしく微笑まれてしまえば、私に魅了の魔法は効かないはずなのにどうしてでしょう?!
思考とは裏腹に思わず『はい』と言葉が口をついて出そうになって、私は慌てて自らの口を手でキツク押さえました。
「どうして『はい』と言ってくれないの?」
イライアス様の、そのどこか妙に甘く楽し気な声音に、また不意に私の頬に触れたその長く綺麗な指に酷く心乱された余り
「だって、だって、私、イライアス様を嫌いでいないといけないのに……。それなのに結婚だなんて……。そんな器用な事、私に出来る筈がありません!!」
そんな、一人胸の中に秘め続けるべきだった想いを。
私は事もあろうに、イライアス様の前で全て曝け出してしまいました。
イライアス様の願いを裏切ってしまった罪悪感に堪え切れなくなって。
その暖かな腕の中から逃れようと、懸命に腕を突っ張らせた時です。
「僕を嫌いでいないといけない?? ……あぁ、君の従兄に何か言われたの? だったら心配ないよ。あんな奴、僕が何とでも……」
何を勘違いされたのでしょう?!
イライアス様がさっきまでの優し気な笑みをスッと消し、そのロイヤルブルーの瞳をご自身の影に曇らせたまま、これまで聞いた事が無かったような背筋がスッと冷えるような声を出されたので
「ち、違います! 『ずっとボクの事を嫌いなままでいてね?』って、そうおっしゃったのはイライアス様じゃないですか!!」
思わず嫌な予感がして、焦ってそんな風に声を張り上げれば。
「あぁ、そうだったね。頑張ってボクの事を嫌いでいてくれてありがとう」
私はこんなにも真剣だというのに。
イライアス様はまたそのロイヤルブルーの瞳を煌めかせると、なんだか酷く幸せそうに笑って。
「でももう大丈夫。誰もがボクを好きなこの国で。歪んだ皆を愛しているボクは、ボクだけを愛せないできたのだけれど……。でも、ボクはこの力をも愛して、もっと上手に使いこなす事に決めたから。だから、もうシュゼットが嫌ってくれなくても大丈夫」
と。
またもや私が一度だって考えてもみなかった事をおっしゃったのでした。
想定外過ぎたイライアス様の言葉に、私の口から、そんな間の抜けた声が漏れました。
イライアス様……。
跪かれたのは人質となった私を助ける為、自らの負けを認めリュシアン様に謝罪をなさるのが目的とばかり思って、私がこんなにも胸がつぶれるような思いをしていたというのに。
あんなに思い切り良く、躊躇なく、あっさりと膝を折ってみせられたのは、元よりこんな言い逃れをされるおつもりだったからでしたか。
私と同じタイミングでイライアス様の機転に気づかれたクリストファー様とブライアン様が、ニヤリと実に人の悪い笑みを浮かべながら
「ご婚約、おめでとうございます」
と、酷くおざなりな拍手をされます。
まぁ、確かに私がイライアス様の求婚をお受けすれば一応ネザリアの体面は保てるので、これで一件落着……
いやいやいや??!
私がイライアス様と結婚!?
リュシアン様がお目こぼしくださるかどうか以前に、そんなの無理です!!
絶対にダメです!!!
頭ではそう弁えているハズなのですが……。
「シュゼット、お願いだ。君を一生大切にするとこの国に、そしてリュシアンに誓うから。だからどうか『はい』と言ってほしい」
イライアス様のその暖かな腕の中に抱き寄せられ、かつて少年だった時分の様に優しく、愛らしく微笑まれてしまえば、私に魅了の魔法は効かないはずなのにどうしてでしょう?!
思考とは裏腹に思わず『はい』と言葉が口をついて出そうになって、私は慌てて自らの口を手でキツク押さえました。
「どうして『はい』と言ってくれないの?」
イライアス様の、そのどこか妙に甘く楽し気な声音に、また不意に私の頬に触れたその長く綺麗な指に酷く心乱された余り
「だって、だって、私、イライアス様を嫌いでいないといけないのに……。それなのに結婚だなんて……。そんな器用な事、私に出来る筈がありません!!」
そんな、一人胸の中に秘め続けるべきだった想いを。
私は事もあろうに、イライアス様の前で全て曝け出してしまいました。
イライアス様の願いを裏切ってしまった罪悪感に堪え切れなくなって。
その暖かな腕の中から逃れようと、懸命に腕を突っ張らせた時です。
「僕を嫌いでいないといけない?? ……あぁ、君の従兄に何か言われたの? だったら心配ないよ。あんな奴、僕が何とでも……」
何を勘違いされたのでしょう?!
イライアス様がさっきまでの優し気な笑みをスッと消し、そのロイヤルブルーの瞳をご自身の影に曇らせたまま、これまで聞いた事が無かったような背筋がスッと冷えるような声を出されたので
「ち、違います! 『ずっとボクの事を嫌いなままでいてね?』って、そうおっしゃったのはイライアス様じゃないですか!!」
思わず嫌な予感がして、焦ってそんな風に声を張り上げれば。
「あぁ、そうだったね。頑張ってボクの事を嫌いでいてくれてありがとう」
私はこんなにも真剣だというのに。
イライアス様はまたそのロイヤルブルーの瞳を煌めかせると、なんだか酷く幸せそうに笑って。
「でももう大丈夫。誰もがボクを好きなこの国で。歪んだ皆を愛しているボクは、ボクだけを愛せないできたのだけれど……。でも、ボクはこの力をも愛して、もっと上手に使いこなす事に決めたから。だから、もうシュゼットが嫌ってくれなくても大丈夫」
と。
またもや私が一度だって考えてもみなかった事をおっしゃったのでした。
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