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第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット
22.決着(side シュゼット)
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クリストファー様とブライアン様が参戦された事で、おそらく力の釣り合いが取れてしまったのでしょう。
徐々に高まっていく緊張感に誰もが動けなくなる中、決着の口火を切られたのはリュシアン様でした。
リュシアン様が何か小さく呟かれたと思ったその次の瞬間、私の首飾りが突然眩く光り思わず目がくらみました。
ハッと気づいた時は既に手遅れで。
私はリュシアン様の腕の中に転移してしまっていたのでした。
「やられた」
そう呟きながら、少し遠くなったイライアス様が頭を掻くのが見えました。
剣の柄から手を離されたブライアン様をご覧になりながら、ニッと口角を上げ、目を細められたリュシアン様に
「……嫌な感じがしなかったから全く気づきませんでしたが。これ、呪いの魔具だったのですね」
力を失い、崩れ去っていく首飾りを差しながら私が恨みがましくそう言えば
「心外な。呪いの魔具なんてそんな外交問題になりそうな物騒なもの、僕がこの国の高位貴族の貴女に贈るはずがないでしょう。アレは万が一の際、囚われた子女を助ける為作られた護符ですよ?」
再度大人の余裕と悪い色香を漂わせながら、リュシアン様は今度こそ実に満足そうに綺麗に微笑んで見せられました。
さて、どうしましょう……。
これ以上の争いを助長するのは決して本意ではありませんが。
私が油断したばかりにイライアス様を、そしてクリストファー様がおっしゃったように彼が愛するネザリアを、屈服させ辱めるのもまた、私の望む所ではないのです。
「…………」
悩みに悩んで。
……私は、覚悟を決めました。
「待って! 早まらないで!! 流石にそれはマズイ!」
私の動きに気づかれたイライアス様がそう叫ぶと同時に。
リュシアン様がハッと顔を青くし、まるで長い棒状の野菜に気づいた猫のごとく、私の傍からパッと飛び去られた、まさに次の瞬間。
シュン!!
さっきまでリュシアン様がいらしたその場所に風切り音を残して、私の流星突きが虚しく空を切りました。
イライアス様が声をあげられたせいで、突きは交わされてしまいましたが、それならば。
かつてのゼイムズ様の婚約者で戦乙女と称された、今は亡きリリーメイ様が考案されたと名高い勢いをつけた飛び蹴りはどうでしょう?
そう思い、私が再度グッと腰を落とし身構えた時でした。
「ス、ストップ! ストップ!!!!」
そう仰って。
止める間も無い程に実に勢いよく。
イライアス様がその場にズサァッ! と膝を突かれました。
そんなイライアス様の様子をご覧になったリュシアン様は、私とかなりの距離を取ったまま、しばらくの間その綺麗な顔を真っ青にされていましたが。
動揺を悟られまいと取り繕うように小さく咳ばらいを一つされた後。
覚悟を決めて以降、敵対しているにも関わらず何故か私に酷く好意的な眼差しを向けてくださっているようになったウィリアム様(仮)向かいに、何やら耳打ちをされました。
******
ウィリアム様(仮)が、姿を現された時と同様、何もない虚空にフッとその姿を消される様をぼんやり見送った後で。
自分がグズなばかりに、ネザリアの王太子で在らせられるイライアス様の膝を折らせてしまった事を、大変申し訳なく、そしてどうしようもないくらい辛く思って。
私の瞳からボロッと大粒の涙が零れかけた時でした。
「シュゼット」
イライアス様が、優しい声で私の名を呼ばれました。
どんな罰でも受ける覚悟で、ゆっくり顔を上げれば
「……ボクと結婚してください」
イライアス様がその良く通る綺麗な声で、そんな私が全く持って思いもしなかった事をおっしゃいました。
徐々に高まっていく緊張感に誰もが動けなくなる中、決着の口火を切られたのはリュシアン様でした。
リュシアン様が何か小さく呟かれたと思ったその次の瞬間、私の首飾りが突然眩く光り思わず目がくらみました。
ハッと気づいた時は既に手遅れで。
私はリュシアン様の腕の中に転移してしまっていたのでした。
「やられた」
そう呟きながら、少し遠くなったイライアス様が頭を掻くのが見えました。
剣の柄から手を離されたブライアン様をご覧になりながら、ニッと口角を上げ、目を細められたリュシアン様に
「……嫌な感じがしなかったから全く気づきませんでしたが。これ、呪いの魔具だったのですね」
力を失い、崩れ去っていく首飾りを差しながら私が恨みがましくそう言えば
「心外な。呪いの魔具なんてそんな外交問題になりそうな物騒なもの、僕がこの国の高位貴族の貴女に贈るはずがないでしょう。アレは万が一の際、囚われた子女を助ける為作られた護符ですよ?」
再度大人の余裕と悪い色香を漂わせながら、リュシアン様は今度こそ実に満足そうに綺麗に微笑んで見せられました。
さて、どうしましょう……。
これ以上の争いを助長するのは決して本意ではありませんが。
私が油断したばかりにイライアス様を、そしてクリストファー様がおっしゃったように彼が愛するネザリアを、屈服させ辱めるのもまた、私の望む所ではないのです。
「…………」
悩みに悩んで。
……私は、覚悟を決めました。
「待って! 早まらないで!! 流石にそれはマズイ!」
私の動きに気づかれたイライアス様がそう叫ぶと同時に。
リュシアン様がハッと顔を青くし、まるで長い棒状の野菜に気づいた猫のごとく、私の傍からパッと飛び去られた、まさに次の瞬間。
シュン!!
さっきまでリュシアン様がいらしたその場所に風切り音を残して、私の流星突きが虚しく空を切りました。
イライアス様が声をあげられたせいで、突きは交わされてしまいましたが、それならば。
かつてのゼイムズ様の婚約者で戦乙女と称された、今は亡きリリーメイ様が考案されたと名高い勢いをつけた飛び蹴りはどうでしょう?
そう思い、私が再度グッと腰を落とし身構えた時でした。
「ス、ストップ! ストップ!!!!」
そう仰って。
止める間も無い程に実に勢いよく。
イライアス様がその場にズサァッ! と膝を突かれました。
そんなイライアス様の様子をご覧になったリュシアン様は、私とかなりの距離を取ったまま、しばらくの間その綺麗な顔を真っ青にされていましたが。
動揺を悟られまいと取り繕うように小さく咳ばらいを一つされた後。
覚悟を決めて以降、敵対しているにも関わらず何故か私に酷く好意的な眼差しを向けてくださっているようになったウィリアム様(仮)向かいに、何やら耳打ちをされました。
******
ウィリアム様(仮)が、姿を現された時と同様、何もない虚空にフッとその姿を消される様をぼんやり見送った後で。
自分がグズなばかりに、ネザリアの王太子で在らせられるイライアス様の膝を折らせてしまった事を、大変申し訳なく、そしてどうしようもないくらい辛く思って。
私の瞳からボロッと大粒の涙が零れかけた時でした。
「シュゼット」
イライアス様が、優しい声で私の名を呼ばれました。
どんな罰でも受ける覚悟で、ゆっくり顔を上げれば
「……ボクと結婚してください」
イライアス様がその良く通る綺麗な声で、そんな私が全く持って思いもしなかった事をおっしゃいました。
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