【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

tea

文字の大きさ
上 下
45 / 57
第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット

20.最高のストッパー(side シュゼット)

しおりを挟む
「シュゼット、花火はどうだった? いろんな色があって綺麗だっただろう」

その表情からはイライアス様が何を考えていらっしゃるのか全く読めず

「……はい、とっても」

短く無難そうな言葉を返せば

「喉が渇いただろう。おいで、向こうに冷たい飲み物を用意してるんだ」

イライアス様が私に向け、その綺麗な手を伸べられました。


イライアス様が私に触れようとされたその時です。

「だーかーら、僕を無視するなと言っているだろう!」

リュシアン様が伸ばされたイライアス様の手をペン! と叩き落とされました。

「あぁリュシアン、いたのか」

「そうか、お前の目は節穴なんだな! そうとも知らず、度々突如存在を知らしめ驚かせてしまって悪かったな!!」

フン! と鼻を鳴らされたリュシアンをご覧になって、イライアス様が楽しそうに声を立てて笑われます。




「……それで。自分の力の使い方は分かったか? それとも、僕の前に跪き許しを乞う事にしたのか?」

リュシアン様のそんな言葉に、イライアス様はまたニコッと綺麗に微笑んで見せると

「僕はさ。口先では『世界で一番大事にしたい』とか言っておきながら、『親友』と呼んだ男から婚約者を寝取ってやろうと心の奥底で思っていた自分の歪みに歪んだ本性を認めたくなくて、ずっと魅了の魔法がコントロール出来ないんだと必死に自分に言い聞かせて来たんだけど……」

イライアス様が先日花壇の上から助け起こして下さった時の様に青く澄んでいたロイヤルブルーの瞳の奥を、またドロッと仄暗く光らせられた、その次の瞬間。

リュシアン様の護衛騎士達が突然一斉に抜刀し、あろうことかその剣先をリュシアン様に向けました。

「でも、さっきみたいに大事に思ってた女の子を横から掻っ攫われるくらいなら……もう醜く歪み切った本性を隠すのを止め全てを傀儡にして、ボクに逆らう者は友人でも恋人でもボクの支配下に置いておいた方がずっといいって。ようやく納得する事が出来たよ」

そうおっしゃって、イライアス様が私達に向かい実にフワリと浮かべられたのは、ゾッとする程に綺麗な黒い黒い笑みでした。




ネザリアは小国です。
四方八方を強国に囲まれ、いつ新たな領土を欲する周辺諸国に攻め込まれても不思議ではないと言われ続けています。

故に、将来王となられるイライアス様がこのような禁じ手に近い力を持っていらっしゃる事はこの国に残された唯一の希望なのだと、この国の貴族である私も頭では理解出来るのですが……。

『あぁ、リュシアンと同じ位に君の事が大好きだよ、シュゼット。だから君もずっとボクの事を嫌いなままでいてね?』

強大な隣国の王配であり魅了の効かないリュシアン様を、脅威ストッパーでなくす事を自ら選ばれてしまったイライアス様は。
自分が誤った道に進もうとした時止めてくれる安堵感を、信頼を、一体誰に見出す事が出来るのでしょう。


哀しく嗤うイライアス様を酷く可哀そうに思った、その時でした。

「少しは甘ったれが治ったのはいいが……。イライアス、まさかそれで僕に勝ったつもりか?」

リュシアン様がそんな全く思いがけない事をおっしゃいました。


リュシアン様のお言葉は頼もしい限りですが、いかにリュシアン様が剣の名手だったとして、複数の護衛騎士相手では手も足も出ないのでは?!
そう、思ったのですが。

「何度も教えてやっただろう?僕は負けるような戦いはしないと! まさか力の使い方を僕に教えてもらえただけで、僕に勝てるようになったとは思っていないよな?!」

リュシアン様がそうおっしゃっるや否や、イライアス様の命令を無視して騎士達は一斉に剣を下ろすと、今度はイライアス様に向かい剣を構え直しました。


「何だ?! 勝手な事をするな!! リュシアンを包囲しろ!」

イライアス様が焦ったように護衛騎士に指示を出されましたが……。
その言葉に従う者は一人としてありませんでした。

そんな動揺を隠せないイライアス様をご覧になって、今度こそリュシアン様が酷く胸が空いたとばかりに満面の笑みを浮かべられます。


「何で……何で僕のいう事を聞かない?? ……まさか、魅了が解除されたのか?!! でもそんな事一体誰が??」

イライアス様が、心底焦ったように。
でも、それでいてどこか酷く嬉しそうに、そんな声を出されたその時でした。

「やぁ、イライアス元気だったか? なんだ、少し会わない間に、また背が伸びたんじゃないか??」

そんな事を言いながら、何も無かった空から突然、一人の男性が私たちの前に姿を現しました。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

処理中です...