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第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット
14.ドレスの理由(side シュゼット)
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『報復』
そんな物騒な事を言っておきながら――
リュシアン様さまが紳士らしく私をエスコートしてくださったのは、おぞましき監禁部屋でも拷問部屋でもなく。
今、王都で一番の人気を誇るブティックでした。
「素晴らしいですマダム。流石、隣国のくだらない流行なんぞに惑わされず、あの趣味の悪いジャケットを取り入れられなかっただけの事はある!」
リュシアン様が妙に力を込めておっしゃった『あの趣味の悪いジャケット』が一体どれを指すのかは、流行に疎い私には分かりませんが……。
兎に角、ポカンとする私を置き去りに、私の新たなドレス姿をご覧になったリュシアン様が非常に満足気にブティックのオーナーに向かい惜しみない拍手を送られました。
そして。
「では、参りましょう」
エスコートの為、リュシアン様が私に向け、真っ白い手袋をはめた手を伸ばされました。
「あの……、えっと……」
「どこかお気に召さないところがございましたか?」
戸惑う私に、オーナーのマダムが優しく微笑みかけながらそんな風に声をかけてくれました。
それを聞いて、リュシアン様が実に不思議そうに小首をかしげられます。
「これ以上のものは、今この国には存在しないとおもいますが。気に入りませんか?」
リュシアン様が私の為に選んでくださったそれは。
幾重にも重ねられた繊細なレースと、惜しげなくに散りばめられた銀糸の刺繍が切ないまでに美しい、デビュタント用の純白のドレスでした。
「あ、いえ。気に入らないなんて、そんな」
決してドレスが気に入らなかったわけではないのです。
そもそもこんな素敵なドレスを贈られて、喜ばない女性なんて、この国にはいないのではないでしょうか。
気に入らないどころか、むしろ……。
「私はもったいなさ過ぎます……私はもっと質素なもので」
『十分です』
そう言いかけた時でした。
「何を馬鹿な事を」
リュシアン様が大きくため息をつきながら、実に呆れたとばかりにそんなことをおっしゃいました。
「貴女は何も分かっていない。何の為に、僕がわざわざ貴女にこのようなドレスを贈るのか、ちゃんと考えて見て下さい」
リュシアン様が私にこのドレスを贈って下さった理由?
「私が、あのように酷い恰好をしていたからではないのですか?」
私がそう返せば、リュシアン様が実に呆れたとばかりに深い溜息をつかれました。
「貴女は自分が何故アレに選ばれたか、もうお忘れですか?」
リュシアン様にそれを指摘され、また胸の奥がズキンと痛みました。
私がイライアス様に選ばれた理由。
それは…………
「私が……この国では私だけが、イライアス様の魅了に逆らって、彼を『ずっと嫌いなままで』いるフリが出来るから……です」
イライアス様の残酷なまでに無邪気な微笑みを思い出し、一人また勝手に傷ついて涙ぐみかけた時でした。
「違います」
澄んだアイスブルーの瞳で私の目を真っすぐ見て。
リュシアン様が凛とした声でハッキリそうおっしゃいました。
「いいえ! そうなのです。だって……だってイライアス様がそうおっしゃったんですから!!」
思わずあふれだしそうになる希望を無理やり押し込める為、不敬にもキッとリュシアン様をぐっと見返し、叫ぶようにそう言い返せば。
「いいえ。貴女がイライアスに選ばれた本当の理由、もう忘れてしまったのですか? 貴女もとっくに、アレの思惑には気づいているはずでしょう?」
まるで、聞き分けの無い子を諭すように。
リュシアン様が、年上の紳士らしく落ち着いた低く美しい声で、私を諭すようにゆっくりそんな事をおっしゃいました。
私が忘れてしまった、イライアス様に選ばれた本当の理由。
私が……。
私がすでに気づいているイライアス様の思い?
リュシアン様の、私と揃いのアイスブルーの瞳に、まるで合わせ鏡のように見つめられた瞬間、
『歪みながら、それでも一生懸命生きているこの国の人達がボクは好きなんだ』
不意に私は、そんなイライアス様の言葉を思い出しました。
そんな物騒な事を言っておきながら――
リュシアン様さまが紳士らしく私をエスコートしてくださったのは、おぞましき監禁部屋でも拷問部屋でもなく。
今、王都で一番の人気を誇るブティックでした。
「素晴らしいですマダム。流石、隣国のくだらない流行なんぞに惑わされず、あの趣味の悪いジャケットを取り入れられなかっただけの事はある!」
リュシアン様が妙に力を込めておっしゃった『あの趣味の悪いジャケット』が一体どれを指すのかは、流行に疎い私には分かりませんが……。
兎に角、ポカンとする私を置き去りに、私の新たなドレス姿をご覧になったリュシアン様が非常に満足気にブティックのオーナーに向かい惜しみない拍手を送られました。
そして。
「では、参りましょう」
エスコートの為、リュシアン様が私に向け、真っ白い手袋をはめた手を伸ばされました。
「あの……、えっと……」
「どこかお気に召さないところがございましたか?」
戸惑う私に、オーナーのマダムが優しく微笑みかけながらそんな風に声をかけてくれました。
それを聞いて、リュシアン様が実に不思議そうに小首をかしげられます。
「これ以上のものは、今この国には存在しないとおもいますが。気に入りませんか?」
リュシアン様が私の為に選んでくださったそれは。
幾重にも重ねられた繊細なレースと、惜しげなくに散りばめられた銀糸の刺繍が切ないまでに美しい、デビュタント用の純白のドレスでした。
「あ、いえ。気に入らないなんて、そんな」
決してドレスが気に入らなかったわけではないのです。
そもそもこんな素敵なドレスを贈られて、喜ばない女性なんて、この国にはいないのではないでしょうか。
気に入らないどころか、むしろ……。
「私はもったいなさ過ぎます……私はもっと質素なもので」
『十分です』
そう言いかけた時でした。
「何を馬鹿な事を」
リュシアン様が大きくため息をつきながら、実に呆れたとばかりにそんなことをおっしゃいました。
「貴女は何も分かっていない。何の為に、僕がわざわざ貴女にこのようなドレスを贈るのか、ちゃんと考えて見て下さい」
リュシアン様が私にこのドレスを贈って下さった理由?
「私が、あのように酷い恰好をしていたからではないのですか?」
私がそう返せば、リュシアン様が実に呆れたとばかりに深い溜息をつかれました。
「貴女は自分が何故アレに選ばれたか、もうお忘れですか?」
リュシアン様にそれを指摘され、また胸の奥がズキンと痛みました。
私がイライアス様に選ばれた理由。
それは…………
「私が……この国では私だけが、イライアス様の魅了に逆らって、彼を『ずっと嫌いなままで』いるフリが出来るから……です」
イライアス様の残酷なまでに無邪気な微笑みを思い出し、一人また勝手に傷ついて涙ぐみかけた時でした。
「違います」
澄んだアイスブルーの瞳で私の目を真っすぐ見て。
リュシアン様が凛とした声でハッキリそうおっしゃいました。
「いいえ! そうなのです。だって……だってイライアス様がそうおっしゃったんですから!!」
思わずあふれだしそうになる希望を無理やり押し込める為、不敬にもキッとリュシアン様をぐっと見返し、叫ぶようにそう言い返せば。
「いいえ。貴女がイライアスに選ばれた本当の理由、もう忘れてしまったのですか? 貴女もとっくに、アレの思惑には気づいているはずでしょう?」
まるで、聞き分けの無い子を諭すように。
リュシアン様が、年上の紳士らしく落ち着いた低く美しい声で、私を諭すようにゆっくりそんな事をおっしゃいました。
私が忘れてしまった、イライアス様に選ばれた本当の理由。
私が……。
私がすでに気づいているイライアス様の思い?
リュシアン様の、私と揃いのアイスブルーの瞳に、まるで合わせ鏡のように見つめられた瞬間、
『歪みながら、それでも一生懸命生きているこの国の人達がボクは好きなんだ』
不意に私は、そんなイライアス様の言葉を思い出しました。
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