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第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット
13.報復にお迎え(side シュゼット)
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イライアス様との約束の日の夕方――
「ダメだ!! 行かせない!」
イライアス様から贈られた、あの日、私が落としてしまった真っ赤な薔薇のようなドレスを纏い出かける支度を整えた私の手をまたきつく掴んで、ジェレミーが叫ぶように言いました。
「離して。また跡が着いちゃう!」
イライアス様に心配をかけるのが忍びなくて、そう言いながら手を振り解こうともがけば、
「っ!!」
骨が折れてしまうのではないかと思う程強く、ジェレミーが益々その手に力を込めました。
「どうして? ……どうしていつもそうやって意地悪ばかりするの?!」
まるで、イライアス様に拒絶された事への八つ当たりのように。
今までずっとこらえていた思いをジェレミーに思わず真正面からぶつければ
「意地悪なんて。……オレはただ……」
ジェレミーが酷く驚いたように、その目を見開きました。
ジェレミーが動揺した隙をついて。
その手を振り解いて屋敷を飛び出そうとした時でした。
「行くな!!」
王太子殿下より直々に送られたドレスです。
流石にジェレミーだって故意に破るつもりはなかったのでしょうが……。
ビリッツ!!
ジェレミーが咄嗟に私の袖を強く掴んだせいで、しまったと思った時には繊細なレースと刺繍が施されていたドレスの袖は音を立てて裂けてしまいました。
こんな無残な姿をした私をご覧になったら、イライアス様はどう思われるでしょう。
「……すまない。そんなつもりじゃなかったんだ」
そう言って。
こうするのは一体何年ぶりでしょう。
ジェレミが子供の時とは異なり広く逞しくなったその腕の中に私を閉じ込めました。
「…………」
またこうやって。
イライアス様に思いを拒絶された悲しさを、私は全てジェレミーの強引さのせいにして、一見気まぐれな彼の優しさに溶かすのかと、心底自分を情けなく思った時でした。
「失礼ですがお約束は??? あの?!! 少々、少々お待ちください!!!」
玄関の方からそんな家令の慌てた声が聞こえてきました。
まさか、私を心配してイライアス様が迎えにいらしたのでしょうか?!
ダメです!
こんな無様な姿をイライアス様にお見せする訳にはいかないと、私はジェレミーの腕を振り解こうと酷く焦るのですが。
ジェレミーは私を抱く腕に力を籠めるばかりで離してくれません。
あぁ、どうしたらいいのでしょう??!
気持ちばかり急いたまま、私よりも強い騎士であるジェレミーに強く抱きすくめられ、なすすべなく顔を青くしたまま立ち尽くした、その時です。
「シュゼット嬢」
あまり馴染みのない、低く落ち着いた綺麗な声が降ってきました。
それに驚いてハッと顔を上げれば、そこに立っていらしたのはイライアス様ではなく……。
なんと先日の夜会でお会いしたリュシアン様でした。
******
『シュゼット嬢に、大事なお話がありますので』
そう仰って。
激高するジェレミーを率いてきた兵達の武力に物を言わせ、酷く簡単にあしらって。
リュシアン様は私を半ば攫うようにしてご自身の馬車に乗せられました。
「あの、大事なお話って??」
あんな風に突然乗り込んでいらっしゃるくらいです。
一体どんな緊急事態があったというのでしょう?
もしかして、イライアス様に何かあったのでしょうか?!
そう思い、私がますます顔を青くした時です。
「花火はお嫌いですか?」
突然、リュシアン様にそんな事を尋ねられられました。
「えっ? 花火?? いえ、別に嫌いでは……」
動揺しながらそう答えれば
「それはよかった。最近色々と煩わしい事が多そうだったので、気晴らしにお連れしたいと思いまして」
リュシアン様は何の感慨も籠らないような声で、しかし立ち居振る舞いは実に紳士らしく、そんな事をおっしゃいます。
「え??! …………。あの……花火でしたら、実は私イライアス様との先約が……」
不敬にならないかと怯えつつ、おどおど私が口を開けば
「……と、いうのは建前で。以前花火の日にイライアスに妻を掻っ攫われた事がありまして。やられっぱなしは悔しいので、報復に貴女を攫わせていただきました」
リュシアン様はそんなことをおっしゃっると、フッと酷薄そうに、しかし同時に実に蠱惑的に。
その美しいアイスブルーの瞳を美しい笑みの形に細めてみせられたのでした。
「ダメだ!! 行かせない!」
イライアス様から贈られた、あの日、私が落としてしまった真っ赤な薔薇のようなドレスを纏い出かける支度を整えた私の手をまたきつく掴んで、ジェレミーが叫ぶように言いました。
「離して。また跡が着いちゃう!」
イライアス様に心配をかけるのが忍びなくて、そう言いながら手を振り解こうともがけば、
「っ!!」
骨が折れてしまうのではないかと思う程強く、ジェレミーが益々その手に力を込めました。
「どうして? ……どうしていつもそうやって意地悪ばかりするの?!」
まるで、イライアス様に拒絶された事への八つ当たりのように。
今までずっとこらえていた思いをジェレミーに思わず真正面からぶつければ
「意地悪なんて。……オレはただ……」
ジェレミーが酷く驚いたように、その目を見開きました。
ジェレミーが動揺した隙をついて。
その手を振り解いて屋敷を飛び出そうとした時でした。
「行くな!!」
王太子殿下より直々に送られたドレスです。
流石にジェレミーだって故意に破るつもりはなかったのでしょうが……。
ビリッツ!!
ジェレミーが咄嗟に私の袖を強く掴んだせいで、しまったと思った時には繊細なレースと刺繍が施されていたドレスの袖は音を立てて裂けてしまいました。
こんな無残な姿をした私をご覧になったら、イライアス様はどう思われるでしょう。
「……すまない。そんなつもりじゃなかったんだ」
そう言って。
こうするのは一体何年ぶりでしょう。
ジェレミが子供の時とは異なり広く逞しくなったその腕の中に私を閉じ込めました。
「…………」
またこうやって。
イライアス様に思いを拒絶された悲しさを、私は全てジェレミーの強引さのせいにして、一見気まぐれな彼の優しさに溶かすのかと、心底自分を情けなく思った時でした。
「失礼ですがお約束は??? あの?!! 少々、少々お待ちください!!!」
玄関の方からそんな家令の慌てた声が聞こえてきました。
まさか、私を心配してイライアス様が迎えにいらしたのでしょうか?!
ダメです!
こんな無様な姿をイライアス様にお見せする訳にはいかないと、私はジェレミーの腕を振り解こうと酷く焦るのですが。
ジェレミーは私を抱く腕に力を籠めるばかりで離してくれません。
あぁ、どうしたらいいのでしょう??!
気持ちばかり急いたまま、私よりも強い騎士であるジェレミーに強く抱きすくめられ、なすすべなく顔を青くしたまま立ち尽くした、その時です。
「シュゼット嬢」
あまり馴染みのない、低く落ち着いた綺麗な声が降ってきました。
それに驚いてハッと顔を上げれば、そこに立っていらしたのはイライアス様ではなく……。
なんと先日の夜会でお会いしたリュシアン様でした。
******
『シュゼット嬢に、大事なお話がありますので』
そう仰って。
激高するジェレミーを率いてきた兵達の武力に物を言わせ、酷く簡単にあしらって。
リュシアン様は私を半ば攫うようにしてご自身の馬車に乗せられました。
「あの、大事なお話って??」
あんな風に突然乗り込んでいらっしゃるくらいです。
一体どんな緊急事態があったというのでしょう?
もしかして、イライアス様に何かあったのでしょうか?!
そう思い、私がますます顔を青くした時です。
「花火はお嫌いですか?」
突然、リュシアン様にそんな事を尋ねられられました。
「えっ? 花火?? いえ、別に嫌いでは……」
動揺しながらそう答えれば
「それはよかった。最近色々と煩わしい事が多そうだったので、気晴らしにお連れしたいと思いまして」
リュシアン様は何の感慨も籠らないような声で、しかし立ち居振る舞いは実に紳士らしく、そんな事をおっしゃいます。
「え??! …………。あの……花火でしたら、実は私イライアス様との先約が……」
不敬にならないかと怯えつつ、おどおど私が口を開けば
「……と、いうのは建前で。以前花火の日にイライアスに妻を掻っ攫われた事がありまして。やられっぱなしは悔しいので、報復に貴女を攫わせていただきました」
リュシアン様はそんなことをおっしゃっると、フッと酷薄そうに、しかし同時に実に蠱惑的に。
その美しいアイスブルーの瞳を美しい笑みの形に細めてみせられたのでした。
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