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第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット
9.麗しの王子様の自尊心は意外と低めのもよう(side シュゼット)
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イライアス様は不思議な方です。
傍若無人かと思えば優しかったり、そうかと思えば途端に意地悪だったり。
すぐにコロコロと見せる面を変えられます。
一見、拒絶されているようにも見えますが……。
その実、そんなダメな自分でも愛してくれるのかと、まるで試されているように感じるのは私だけでしょうか?
「おやめください」
そんな私の言葉を無視して。
口元は意地悪そうに弧を描きながら、しかしその青い瞳を寧ろこちらの胸が痛くなるくらい酷く悲しく曇らせ、イライアス様が私の首元に唇をそっと這わせました。
その艶めかし過ぎる感触に思わず小さく
「あっ!」
と声を上げれば、次の瞬間、そこにチリッとした小さな痛みが走ります。
人間とは不思議なもので、自分の評価と他者の評価が異なると、そこにひどい不快感を覚えるそうです。
そして、期待と失望に何度も晒されるくらいなら、いっそ悪い自己評価に他者の評価を合わさせ早く楽になろうとするのだとか……。
イライアス様はまさに今、葛藤の中、悲しくも最低だと認知している自己の評価に無理やり私の評価を合わさせようとされているのでしょう。
『あぁ、君は何て綺麗なんだろう』
『うん、そうだね。白や黄色のドレスも君に良く似合うだろうけど、ボクの瞳の色を纏った君は特別すごく綺麗だから、みんなに見せびらかしてやろうと思って』
自らの殻に囚われて苦しむ私を助けようと、イライアス様はそんな風に惜しみなく沢山の言葉をくださいました。
では、私は?
口の重い私が、イライアス様にして差し上げられる事とは何でしょう。
「……イライアス様……」
私は覚悟を決めると、イライアス様の右手首に自らそっと触れ、彼の右の足首に自らの左足を搦めました。
そして……。
勢い良く体を横に倒した次の瞬間、私は体の自分とイライアス様の体の位置をクルっと逆転させると、一切の躊躇いも無く、イライアス様の鳩尾に自らの拳を沈めました!!
「ぐはっ!!!」
うめき声をあげ、拳をまともに喰らったイライアス様が体をくの字に曲げたまま広いベッドの上をのたうち回られます。
私が騎士服を着ていたのは伊達ではないのはいいとして……。
「はぁ……」
いくら、イライアス様の自己評価をこれ以上下げさせない為とは言え、仮にも王太子様に手を挙げてしまいました。
さて、これから私はどうなってしまうのでしょう。
今度こそ、不敬罪で牢屋入り、下手すると処刑でしょうか。
自らの額に手を当て、私が自らの将来を儚んで、小さくため息をついた時でした。
「やっぱりシュゼットは可愛いね」
イライアス様は痛そうに体をかがめたまま、しかし何故か妙に楽し気な声でそんな事をおっしゃいました。
いやいや。
普通の令嬢なら献身的にその身を差し出すことで、愛でもって彼を救おうとしたでしょうに。
こっちは拳にものを言わせた女ですよ?
この流れで、そのセリフは流石に無理があります。
私がそう思い頬を引きつらせれば
「本当だよ!」
さっきまでの悶絶する様子は演技だったのでしょうか??
イライアス様が勢いよくガバッと体を起こし、そんな事をおっしゃいました。
「ボクが何気なく『その髪綺麗だね』って褒めたら、その髪を切り落として送り付けてくる令嬢や、自らの心を歪めて涙を零しながら自らその体を差し出してくる級友よりも。シュゼットは歪んでなくて、ずっと可愛い」
「なっ……」
こちらを試すにしたって。
ホントイライアス様は何て悪趣味な例えをするんでしょう。
そう思い、思わず後ずさった時でした。
「例えじゃなくて実話だよ。残念ながら、ね。ボクには生まれながらに魅了の呪いがかかっているんだ」
イライアス様が……。
今度はもう笑わずに、そんな事をおっしゃいました。
「強い呪いのようでね。炎に見せられた羽虫のように時に命を賭してまで、皆がボクの望む物を勝手に自ら差し出してくる。例えボクがそれでひどい自己嫌悪に陥ろうが、傷つこうが一切お構い無しにね。呪いが及ばないのは生まれつき強い魔力を有する父方の親族と母方の親族、リュシアン。そしてシュゼット、キミくらいだ」
そうして。
青ざめる私を見たイライアス様は
「あぁ、リュシアンと同じ位に君の事が大好きだよ、シュゼット。だから君もずっとボクの事を嫌いなままでいてね?」
これまでのどこか作り物めいた笑みとは違い、まるで幼い子どものように、酷く無邪気に笑われたのでした。
傍若無人かと思えば優しかったり、そうかと思えば途端に意地悪だったり。
すぐにコロコロと見せる面を変えられます。
一見、拒絶されているようにも見えますが……。
その実、そんなダメな自分でも愛してくれるのかと、まるで試されているように感じるのは私だけでしょうか?
「おやめください」
そんな私の言葉を無視して。
口元は意地悪そうに弧を描きながら、しかしその青い瞳を寧ろこちらの胸が痛くなるくらい酷く悲しく曇らせ、イライアス様が私の首元に唇をそっと這わせました。
その艶めかし過ぎる感触に思わず小さく
「あっ!」
と声を上げれば、次の瞬間、そこにチリッとした小さな痛みが走ります。
人間とは不思議なもので、自分の評価と他者の評価が異なると、そこにひどい不快感を覚えるそうです。
そして、期待と失望に何度も晒されるくらいなら、いっそ悪い自己評価に他者の評価を合わさせ早く楽になろうとするのだとか……。
イライアス様はまさに今、葛藤の中、悲しくも最低だと認知している自己の評価に無理やり私の評価を合わさせようとされているのでしょう。
『あぁ、君は何て綺麗なんだろう』
『うん、そうだね。白や黄色のドレスも君に良く似合うだろうけど、ボクの瞳の色を纏った君は特別すごく綺麗だから、みんなに見せびらかしてやろうと思って』
自らの殻に囚われて苦しむ私を助けようと、イライアス様はそんな風に惜しみなく沢山の言葉をくださいました。
では、私は?
口の重い私が、イライアス様にして差し上げられる事とは何でしょう。
「……イライアス様……」
私は覚悟を決めると、イライアス様の右手首に自らそっと触れ、彼の右の足首に自らの左足を搦めました。
そして……。
勢い良く体を横に倒した次の瞬間、私は体の自分とイライアス様の体の位置をクルっと逆転させると、一切の躊躇いも無く、イライアス様の鳩尾に自らの拳を沈めました!!
「ぐはっ!!!」
うめき声をあげ、拳をまともに喰らったイライアス様が体をくの字に曲げたまま広いベッドの上をのたうち回られます。
私が騎士服を着ていたのは伊達ではないのはいいとして……。
「はぁ……」
いくら、イライアス様の自己評価をこれ以上下げさせない為とは言え、仮にも王太子様に手を挙げてしまいました。
さて、これから私はどうなってしまうのでしょう。
今度こそ、不敬罪で牢屋入り、下手すると処刑でしょうか。
自らの額に手を当て、私が自らの将来を儚んで、小さくため息をついた時でした。
「やっぱりシュゼットは可愛いね」
イライアス様は痛そうに体をかがめたまま、しかし何故か妙に楽し気な声でそんな事をおっしゃいました。
いやいや。
普通の令嬢なら献身的にその身を差し出すことで、愛でもって彼を救おうとしたでしょうに。
こっちは拳にものを言わせた女ですよ?
この流れで、そのセリフは流石に無理があります。
私がそう思い頬を引きつらせれば
「本当だよ!」
さっきまでの悶絶する様子は演技だったのでしょうか??
イライアス様が勢いよくガバッと体を起こし、そんな事をおっしゃいました。
「ボクが何気なく『その髪綺麗だね』って褒めたら、その髪を切り落として送り付けてくる令嬢や、自らの心を歪めて涙を零しながら自らその体を差し出してくる級友よりも。シュゼットは歪んでなくて、ずっと可愛い」
「なっ……」
こちらを試すにしたって。
ホントイライアス様は何て悪趣味な例えをするんでしょう。
そう思い、思わず後ずさった時でした。
「例えじゃなくて実話だよ。残念ながら、ね。ボクには生まれながらに魅了の呪いがかかっているんだ」
イライアス様が……。
今度はもう笑わずに、そんな事をおっしゃいました。
「強い呪いのようでね。炎に見せられた羽虫のように時に命を賭してまで、皆がボクの望む物を勝手に自ら差し出してくる。例えボクがそれでひどい自己嫌悪に陥ろうが、傷つこうが一切お構い無しにね。呪いが及ばないのは生まれつき強い魔力を有する父方の親族と母方の親族、リュシアン。そしてシュゼット、キミくらいだ」
そうして。
青ざめる私を見たイライアス様は
「あぁ、リュシアンと同じ位に君の事が大好きだよ、シュゼット。だから君もずっとボクの事を嫌いなままでいてね?」
これまでのどこか作り物めいた笑みとは違い、まるで幼い子どものように、酷く無邪気に笑われたのでした。
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